【遊戯王　遊星+ジャック】





工場から24時間立ち上るスモッグの垂れ込めた空は、いつ見上げてもどんよりと鉛色の絵の具を溶かしたように濁っていた。
塒としている廃ビルへの帰り道ふいに目に入った灰色の天井は、まるでこのサテライトが世界から切り取られた狭く囲われた箱庭ではないかと思える程、窮屈なものに思えてしまう。
それほど、ここの天井は低かった。
ひと月に数えるほど、サテライトの上空に停滞していた暗雲が晴れる日が訪れる。
滅多に見られぬ青い空、それ以上にジャックの視線を捉えて離さなかったのは、遠く彼方に聳えるもう一つの世界。
こことは違う満たされた世界、青空に浮かび上がるネオドミノシティの摩天楼である。

「ジャック」
聞き慣れた声にジャックは今更振り返ることすら必要としない。
遊星もわかっているのか、何も言わずジャックの隣で灰色に濁った空を見上げた。
「遊星……オレはいつか、必ずここを抜け出してみせる」
「キングになるためか？」
「あぁ……そうだな」
その時のジャックの表情を遊星は今でもしっかりと覚えている。

ジャックがサテライトからいなくなって数年、ディスプレイ越しに目にする彼の瞳にはどんな景色が映っているのだろうか。
キングを照らしだすフラッシュの瞬き。
暗闇に浮かび上がらせるライトの眩しさ。
空をも霞ませてしまうほどの人工的な明かりの中で、ジャックは気づいているのだろうか。
サテライトが箱庭であるのと同じように、シティもまた、作られた箱庭でしかないのだということに。








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シティに恋焦がれるジャックを描写するのが好きです。
その先に待ち受ける虚像を知らない無垢なジャック、知ってて敢て道化になる追い詰められたジャック。いろんな解釈がありそう。