甘い、あまい。



「ジャック、今日は何日だ」
「?…2月14日…バレンタインだな」
「そうだ。バレンタインだ」
「なるほど、わかったぞ遊星。チョコが欲しいんだな…まったく、仕方のないやつだなぁお前は」



「さあ!好きなのを選べ。オレのおごりだ」



俺を引き連れてどこに行くのかと思えば、向かった先は近所のコンビニだった。
バレンタインの特設コーナーの前に立ち、さっきの言葉である。

「ジャック、違う。そうじゃない」
「なんだと!チョコが食いたいと言ったではないか」
「そうだが、違う。俺はジャックから貰いたいんだ」
「だから買ってやると言っている」

…ああ、お前のそういう頭の弱いところも俺は愛しているんだが、今日くらいは察して欲しかった。
甘党なお前の言う『チョコが欲しい』と、俺の言ってる『チョコが欲しい』を一緒にするな。
よく思い出してみろ。俺はチョコを奢ってくれなんて言った覚えはないぞ。
しかもお前バレンタインだって知ってて言っただろう。わざとか、焦らしプレイか。
ただ買って欲しいんじゃなくて、ジャックからのチョコが欲しいんだ、それが例え本番夕方で用済みになって価格の下がったチョコでもいいと言っているんだぞ。
百歩譲ってお前が選んでくれても良い。この際目を瞑ってやる。
でも本当なら手作りチョコが欲しいだとか、贅沢言ってもバチはあたらないはずだよな。
日頃お前のわがままにつきあっている俺がたった1日でも良いから彼氏らしい扱いを受けてもなんら不当な要求ではないと思うんだ。
思わず無言でジャックを見上げた。
俺より頭一つ分違うジャックを見上げるしかない身長差にいつもなら少しだけ劣等感を感じるところだが、真下から無言で見つめる俺の迫力は自分でもわかっているつもりだ。

「…な、なんだ遊星。不満か?」

案の定ジャックは狼狽えている。
いつもは他人のことなど気にもとめないジャックが俺の顔色をうかがうのは可愛い。
ヤバい勃つ。

「ジャック。もうチョコはいらない」
「は…?オイ、どういう…」

ジャックの腕を掴み店から出た俺は、後ろからなんでだ!お前が言ったんだろ!説明しろ馬鹿者!などの罵倒を聞き流して無言のままアパートまでジャックを引っ張った。
ジャックを部屋に押し込み、後ろ手に鍵をかける。
ガチャリという金属質な音にジャックの肩が震えたのを見逃すはずもない。

「よく考えたら、もっと食べたいものを思い出した」

じりじりと部屋の奥へ追いつめてくる遊星の据わった視線に身の危険を感じたものの、ジャックは問わずにはいられなかった。

「……な、なんだ…?」

遊星から目を離せず後ずさっていると、部屋の奥にあったはずのベッドがジャックの足に当たった。

「うわっ!」

当然のようにバランスを崩したジャックをベッドに縫い付けて、遊星は組み敷いたジャックの驚愕に満ちた表情を見下ろす。

「なんだ、お前もそのつもりだったんじゃないか」

そこに僅かな期待を見つけて、遊星は遠慮なくジャックの唇にキスをした。




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蟹『チョコレートプレイは来年の楽しみにとっておくことにする』
農『貴様そんなことを考えていたのか!』