見せつけたいほどに
「っは…ぁ、かざ…っは…!」
「く…、ジャック…ッ」
ぎしぎしとベッドのスプリングが鈍く鳴き声を上げ続けていた。
くぐもった呻きにも似たそれは、頭を柔らかく包みこむ糊の効いた枕から直に伝わってくる。
揺れる視界、肌のぶつかり合う音。
じっとりと汗ばんだそれらはより粘質な水音を立ててベッドの上で交わる二人の耳を嬲った。
しかし聞こえてくる音に羞恥を感じる理性などは、とうの昔に衣服と共に投げ捨てている。
ただ獣が交わるように……いや、生産性のある行為なだけ獣のほうが遥かに理性的だとさえ思えてジャックは自嘲気味に笑みを浮かべた。
そんな事を考えたのも刹那のことで、思考が飛んでしまう程の強い衝撃を受け、ジャックは身体を強ばらせた。
「ッあ…!」
「ジャック、こっち…見て」
息を乱した風馬の手がそっと頬に添えられ、そのままキスをされた。
呼吸さえままならぬまま舌を絡めあう。
「は…ジャック……好きだ、ジャック…!」
「…オレも…、ん!ぃく…っ!かざ…、…あぁあ!」
「……クっ!」
きつく締め付けるジャックの中に吐き出して、風馬は無意識下で押さえつけていたジャックの白い手にそっと指を絡めた。
「ぁあ……はぁ…」
熱い精液を注がれ過敏になった体がびくんと跳ねる。
くたりとベッドに体を預けたところで風馬からキスが落とされた。
乱れた息遣いにも構わず互いに絡ませた舌を吸い合ったり、かと思えば子供のように唇を触れるだけの初々しいキスをした。
痛い位強く舌を吸われるのがどうしようもなく気持ちがいい。
このまま唾液だけでなく触れあった唇から融け合って一つになってしまうかもしれない。
風馬とならそうなっても良いと思った。
ズン、と未だジャックの中にいた風馬のものが大きくなる。
一度達したくらいでは勢いを失わないそれに風馬が恥ずかしそうに苦笑した。
ズルリと出ていこうとするそれにはっとして、中のそれを一層強く銜え込んでいた。
「…ッ、…ジ、ジャック…?」
「ァ…!?ち、違…っ」
抜こうとするのを引き留めた状態に、ジャックは羞恥心にかられ顔を真っ赤に染めていた。
これではまるで続きを催促しているみたいではないか。
「ち、違うんだ!今のはつい…っ」
言い訳をしようと焦って墓穴を掘ったことに気づいた時には既に遅く。
涙目になりながら真っ赤になったジャックに風馬はもう一度深い口づけを落とす。
「ジャック…可愛い」
「ばっ!馬鹿者…!男に可愛いなどと言うやつがあるか!」
「抜いて欲しく無かったならそうと言ってくれれば良かったのに」
「な……っ!ち、違う、オレはそんな…っあ!」
ひくん、とジャックの声が上擦る。
膝裏を抱えられたかと思うと風馬はゆるりと腰をグラインドさせてジャックを突き上げてきた。
「あぅ…っ!…ひ、っも、むり、ぃ…!」
足の付け根をぐっと引き寄せて密着したままさらに腰を振ると、組み敷いたジャックの体が大きく反る。
せつなげに眉を寄せて喘ぐ姿を目の当たりにするともっと酷くしてやりたいとさえ思えた。
風馬と同じように、先ほど達したばかりのジャック自身も興奮に先走りを溢れさせて震えていた。
ぐりっと先端を握りこんでやる。
ぐっと苦しさに呻いたジャックに微笑みかけたまま、風馬はゆっくりとぬるついたその先端に爪を立てた。
「ひ、ぁアッ!」
突然の刺激にジャックの身体が跳ねる。
痛みを与えない程度にぐりぐりと爪を押し付けると、快感を逃がすためか子供のようにいやいやと頭を振るジャックが愛おしい。
「ふぁ、らめぇ、イ…っいく、も…ひァ!」
「駄目だよジャック」
「っ!」
そそり立ったジャックの中心がビクビク痙攣するのを認め、次に訪れるであろう射精の予兆を逃さぬよう強く握りこんだ。
押さえつけた亀頭と親指の隙間を縫って白い液体が飛ぶ。
「ふァ、ぅ゛…な、で…!」
「ジャック、待って…俺も気持ち良くしてよ」
ズルッと抜けないギリギリのところまで腰を引いて、勢い良く打ち付ける。
もちろん解放の瞬間を先伸ばしにされたジャック自身を締め付けたままだ。
さっき中に出した精子がぱちゅんと高い音を立て泡立つ。
ぐちゃぐちゃと精液をかき混ぜるように腰を回すと押し上げられる圧迫感に苦しげに歪んでいたジャックの顔が次第に快楽のそれに染まり始めた。
「ふっ、は…!ぅあ、や…!狂う、おかし…な、うァ!」
与え続けられる快感が苦しいのかジャックの潤んだ瞳からぱたぱたと涙が散った。
ただひたすらに快感だけを訴える姿に愛しさが込み上げる。
気持ちよすぎて狂ったジャックはとても美しいに違いない。
与えられる快感だけに酔って縋り付くジャックの目にはきっと風馬以外の他の誰の姿も入っていないだろう。
こうしてジャックと繋がっている瞬間だけは、ジャックはただ俺だけを見てくれるのだ。
「かざま、…ッぁ…!」
「ジャック…、愛してる…」
ぎしぎしとスプリングが悲鳴を上げている。
律動を加速させながらイけるようにジャックの自身を扱いてやると、直ぐにジャックの痙攣が伝わってきた。
「…ッ…、出る……ク…!」
「ぁ、あアぁぁあ!」
ビュクビュクとジャックの放ったものが互いの腹に散った。
風馬はジャックの中に全部吐き出すと、ぐちょぐちょに泡立った半透明の精液に塗れた自身を引き抜いた。
その先端からつぅっと白い糸が引く。
ぐぷんと空気を孕ませながら、風馬を飲み込んでいた虚が口を開けていた。
ひくひくと収縮を繰り返す度に中から白濁の液が尻を伝ってシーツを汚している。
「ダメだよジャック。
ここ、ちゃんと全部飲み込まないと」
つぷりと指を差し入れ、押し下げる動きに従いどろりとはしたなく精液が流れる光景は卑猥だ。
その僅かな刺激にさえジャックは感じ入り喉を鳴らせた。
放心状態なジャックの前髪を漉き、唇にキスを降らす。
疲れてそのまま寝入ってしまったジャックの背中や胸元には風馬が散らした鬱血の跡が存在を主張していた。
見える位置にはするなと散々ジャックに釘を刺されている。
ジャックのご機嫌を損ねないのはもちろんだが、誰彼構わず見せつけるような真似は風馬も好きではない。
特定の人物の目にだけ触れれば十分なのだ。
ぎりぎり露出しない胸元や首筋、背中と言った家の中でつい見えてしまう箇所に所有の証を刻み付けるだけで良い。
これを目にした不動遊星は一体どんな顔でジャックを見つめるのだろうか。
何より、昔から好意を抱いていた幼馴染を他の男に取られるのはどんなに悔しいことだろう。
風馬はバスタブに熱い湯を張りながら、最大の恋敵にジャックが誰のものかを見せつける瞬間を想像して、クスリと底知れぬ笑みを浮かべた。