Round−4



中学生最後の夏休みもいよいよ来週で終わる。

何だかマンションと会社の往復だけで、あんまり遊べなかった。

高校受験も控えていて、マンションでも会社でもずっと勉強ばっかりしていたように思う。

そんな中で、杉野さんのマンションに泊まった三日間はホント楽しかった!!






・・・・・・つまんねぇ。アッという間に終わっちゃったよ。

杉野さん家(ち)楽しかったなぁ・・・。

「明良君、ボサッとしていないでフォークとスプーンを並べて」

・・・言い方がいちいちイヤミなんだよ。

「もう少し静かに置けないの?必要以上に音を立てるのは、食べてる時と同じだね」

帰って来たそうそうケンカ売ってんのか!?いつにも増してムカつく!!

和也さんは昨日の夜遅く帰って来て、今日からまた普通に出勤。

オレは杉野さんと一緒に出勤して、会社で合流。

その時杉野さんにオレのことで世話をかけたねって礼を言ってたようだけど、和也さんに礼を言って貰う筋合いはねぇや。



「そうじゃないでしょう。フォークが左側、スプーンは右側でしょう」

痛っ!手を叩(はた)かれた。

いっつもいきなり叩きやがって・・・しかも叩きに来ただけかよ。

すぐ戻るんならわざわざキッチンから出て来んな!

くっそぉぉっ・・・・・前方に和也の尻発見!!

回し蹴りをお見舞いしてやる!!

「それがどうだってんだよ!オレは箸で食うんだー!!」

ドカッ!! おっ!? 手応え・・・いや足応えあり? 蹴りが入った!?

入った!! やったー!! はじめて当たったぁ!!!

「・・・・・・何の真似?」

和也さんが腰を抑えながら振り返った。

腰か・・・尻を狙ったのにな。でもまぁいいか、ザマァミロ、あの悔しそうな顔!

「ボサッとしてるから、蹴り入れられんだぜ。へへっ・・・」

逃げようとしたところにぐっと手が伸びてきて、Tシャツの裾を掴まれてしまった。

そのまま力任せに引っ張り倒され・・・Tシャツが!今、ビリッて音がした!

「少しは乱暴なところが直ったかと思っていたのに、まだまだだね」

どっちが!!と、声に出る前に、またシャツを掴まれて引っ張り上げられる。

ちくしょう!こうなったらとことんやってやる!!

両腕を振り回して掴まれているシャツから手を振り解き、体勢を立て直して突撃―――!!


「痛っ!あいたたたっ・・・お・・折れる!腕が!やめ・・・、和・・いたたた・・・!」

殴りかかった腕をあっけなく取られ、背中にねじ上げられてダイニングテーブルに組み伏せられた。

拍子に、せっかく並べたフォークやスプーンが弾け飛んで、大きな音を立てて床に落ちた。

ダンッ!!ガチャガチャガチャーンッ―――!!・・・パァン!!バシッ!!

ついでオレの尻にも大きな音がして・・・って、痛ぃぃぃ!!!

Gパンじゃなくて、トランクスだからモロに痛さが響く。

「いきなり、それも足で蹴るなんて」

「何でぇ、いきなりはそっちの専売特許だろ!今のだっていつもは避(よ)けんのに、避けきれなかっただけじゃん!
悔しいからって人の尻叩くな!!そういうのって確か、腹いせって言うんだったよな!!」

「・・・・・・屁理屈だけは一人前だね。人を足で蹴るような乱暴者の言うことなんか聴きません」

パーン!!ビシャッ!ビシャーン!!

はぅぅぅっ!!痛ってえぇ!!さらに強烈な一打が・・・・・・やっぱ腹いせじゃんかー!!

けど、この状況じゃ何言ってもオレの不利だよな。 

バシーン!ビシッ! ひっ・・・ひたぃぃ・・・・・・何とかこの体勢を・・・。

「ちょっと!・・・えっと・・・鍋が!鍋が吹いてるぜ!!」

「あっ・・・」

鍋の一声で、あまりにもあっさり和也さんはオレから手を離してキッチンに戻って行った。

親父が呼んでるって言っても尻叩くの止めないくせに、鍋だとすぐ止めるんだな。

変なヤツ・・・ってか、親父より鍋って、それって問題じゃん?




和也さんがキッチンで鍋をかき回している間に、オレはテーブルセッティングのし直し。

もちろん床に落ちたフォークとスプーンは洗わずに和也さんの方に置く。

キッチンからいい匂いがして来たら、そろそろ出来上がりのサイン。

和也さんが腰を、オレは尻を擦りながら席に着いた。

今晩のメニューはクリームシチュー!カリカリに炒めたバターライス。

サラダはトマトとわかめの香味野菜サラダ!

「いただきます!!」

和也さんの作るクリームシチューは、コロコロ(面取り)しているじゃがいもと人参、ブロッコリーにマッシュルーム、それに赤ウインナーが入っている。

しかも赤ウインナーは定番のタコ形(けい)。

そういやおふくろも赤ウインナー=タコ形なんだけど、作る時は必ず足何本って聞いてたよな。


―明良ちゃーん、タコさんの足何本だったかしらぁ?8本?10本?―


イカの足と区別がついていない。おふくろも相当なバカだな。


「どうしたの?明良君、ウインナーじっと見て。タコの足は8本だよ」


聞いてねぇよ!!



白いクリームスープにじゃがいもの黄色、人参のオレンジ、緑のブロッコリー、茶色のマッシュルーム、それから赤色のタコウインナー。

カラフルに彩られた具材がスープ皿に浮かぶ。

夏でもやたら煮込み系が多いのは、クーラーで体が冷えているからだってさ。

それって和也さんだけじゃねぇの。

オレはバリバリ汗掻いてるけど、ビーフシチューもクリームシチューも大好きだから、夏も冬も関係ない!


「お代わり!」


スープ皿を差し出すと、嬉しそうに和也さんがお代わりを注(つ)いでくれる。

バターライスはメチャ香ばしくて、トマトとワカメのサラダには玉ねぎドレッシングをかける。

このドレッシングは玉ねぎの甘い味がして、トマトの酸味やワカメの磯の香にとっても合っていて美味い!





「そろそろデザートのスイカ食べる?」

「食べる!」

腹いっぱいになっても、デザートは別腹なんだよな。

デザートのスイカはオレが杉野さんから貰ったやつ。

杉野さんの田舎から送って来た物で、一人だから食べずに置きっ放しにしていたらしい。

けど表面のどこも傷んでもなくて、二つにパカッて切ると赤い果肉がキラキラと光っていた。

良いスイカほど十分に水分が含まれているんだってさ。

杉野さんの言う通り、スイカはとてもみずみずしくて甘かった。

1玉の半分は昨日三人で食べて、残りの半分は一人じゃ食べきれないっていうからオレが貰うことにした。

杉野さんは、ただでさえ時期遅れの上に残り物をお土産になんてダメです!とか言ってたけど。

オレが食うんだからいいじゃんって粘って、最終的に姉ちゃんが綺麗に包装して持たせてくれた。


その大事なオレのスイカを、また勝手に和也さんにコマ切れにされるところだった。

「杉野さんの田舎で採れたの?そう、とても良いスイカだね。それじゃあ、デザートはスイカだね。
一口大にカットして、ミントの葉を付け合せて・・・」

「一口大になんて、そんなみみっちいカットなんかすんなよ!
ザクザクザクッと四等分にして、もちろん皮付きだぜ!」

和也さんは物足りなさそうな顔をしたけど、オレの言う通りに四等分に切ってくれた。

「盛り付けようがないな・・・」

ぼそっと声が聞こえたけど、当たり前じゃん。皿に乗せるだけで十分だろ。

杉野さんとこじゃ、テーブルにそのまま置いたぜ。





「はい、スイカ」

白地に薄い緑の縞模様の深皿に、金色のスプーン。

盛り付けようのないものでも、器を選ぶことでちゃんとしたデザートに見える。


「ああそうだ、明良君。来週タキシードの採寸に行って来て」

「タキシードの。何かあんの?」

「再来週、ホテル森之宮で新店舗のオープン記念に、君も出席するから」

「ふ〜ん・・・出るのはいいけど、採寸が面倒くせぇな。去年のがあるじゃん」

去年‘soleil’(ソレイユ)のレセプションに出るために、和也さんと一緒に作ったタキシードがあるはずだけど。

結局出そびれて、一回も着ていない。

「サイズが合わなくなってるよ。去年の下着やカッターシャツがみんな小さくなってるからね」

「えっ!やっぱりオレ、背伸びてんだ!!どうりで、し・・・」

「・・・・・・どうりで、何?」

「何でもねぇ」

どうりで、尻狙ったのに腰に当たったわけだ。

160cmになってるかな!明日会社の医務室で測って貰おうっと!


「ところで明良君、スプーン使わないの?口の周りがベタベタだよ。
これからはいろいろな席に出ることが多くなるから、食事マナーがとても大事になって・・・・・・・・」


プッ!


スイカはスプーンなんかでちまちま食うもんじゃねぇよ!

こうしてシャクシャクッ!と、かぶりついて、種は・・・


プッ!プッ! 


また命中!! 和也さんのほっぺたに命中!三連発!!


「昨日これで杉野さんと姉ちゃんと、三人ですげぇ盛り上がったんだぜ!杉野さんの田舎じゃ・・・」

あれ?和也さんがナフキンで顔を拭きながら席を立ち上がった。

「懲りないね、君も・・・」

何で種飛ばしたくらいで、目くじら立てんだよ!!冗談の通じねぇヤツだな!!

「てか、こっち来んな・・・うわぁっ!!」

椅子から引き上げられて、さっきと同じ恰好でダイニングテーブルに押さえ付けられる。

ガチャガチャッ!ガチャ―――ンッ!パリ――ン!!ベシャッ・・・

今度は食べかけのスイカに、オレを押さえ付ける和也さんの腕が当たって床に落ちた。

オレのスイカが!!・・・いやスイカもだけど、オレの尻も非常にやばい!!

再びこの窮地を何とか・・・!


「手を離せぇー!!だいたい・・・食事中に席を立つなよ!!行儀悪いだろ!!」


そう言った途端和也さんの手が離れて!・・・・・・オレのトランクスに掛かった!!


何で―――!?







※コメント

「A&K 19」を先行して、明良と和也それぞれの休暇が終わり、再びいつもの生活に戻る夕飯時の二人の様子です。

明良、はじめて和也に1勝!^^ 引き換えに尻は大変なことになってますが(笑)

今回の食事のメインは、スイカとタコさんウインナーでした。



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