うわぁ・・なんかドナドナの曲でも聞こえてきそうな感じ・・
真っ暗だし・・私、一体どうなっちゃうの・・。
もう・・ヒノエくんに頼むんじゃなかったよぉ。
誕生日の祝い方(後編)
「・・・心配ですね。」
僕はさんが治療の合間に家を出たことにやっと気が付いた。
今朝のあの言い方からして、朔殿と温泉というのは口実だろう。
だとしたら一体さんはなぜ出かけたのか・・。
・・そしてどこに出かけたのか・・。
僕にはわからないことだらけだった。
・・ただ・・今思うのはさんの心配だけ。
応龍が戻った平和な世界とはいえ・・
この世界には未だ彼女は不慣れだ。
それに戦は終わっても・・まだまだ物騒な世の中だ。
女の子一人では何があるかわからない。
「こうしていても仕方がありませんね。
とりあえず京邸へ行ってみましょう。」
本当に朔殿と出かけたのかは邸へ行けばわかるだろう。
もし本当に朔殿が居なかったとしても、
主がどこへ出かけたかくらい邸のものならわかる。
さんを疑いたくはないが、あの言い方ではどうしても気になる。
僕は真相を確かめに京邸へと出向いた。
「これは弁慶殿。お久しぶりです。」
僕が京邸を訪ねると以前こちらで
お世話になっていた頃から使えていた邸の者がいた。
「お元気そうでなによりです。
すみませんが朔殿はおられますか?」
「いいえ。弁慶殿はお聞きにならなかったのですか?
朔さまはさまと龍神温泉へ行かれるとか・・。
そう伺っておりますが。」
「さんからはそう聞いたのですが、
言葉に含みがあったので、少し心配になりまして。」
「そうでしたか。お二方とも今朝早く
熊野の方に向かわれましたよ。
お帰りは明日以降になるかと。」
「そうですか。わかりました。
ありがとうございました。」
・・この者が嘘をついている・・とは思えなかった。
ということは、本当に朔殿と温泉へ行ったのだろう。
僕はさんを疑ったことを・・少し反省していた。
でも・・やっぱり僕の感に間違いはなかった。
昔から感は良かった。
・・まして大切なさんのことだ。
間違えるはずないと思っていた。
翌日・・朝早くから訪ねてきた者が居た。
「よう!弁慶。久しぶりだな。」
「ヒノエ。珍しいですね。」
昨晩、さんが戻らなかった不機嫌を
彼にぶつけてもしょうがない・・と思いながらも
僕の顔は不機嫌極まりなかったらしい。
「・・黒い笑みを俺に向けるなよ。
せっかくいいもん持ってきてやったんだからさ。」
「いいもの?」
「おまえ、今日誕生日だってから聞いたんだ。」
「さんにお会いしたのですか!?」
昨日聞いたとおりなら、さんは熊野の『龍神温泉』に
居るはず・・だとしたら、熊野を本拠地に持つ
ヒノエに会うのは、何も不自然じゃない。
不自然じゃないけど・・・こう胸がむかつきますね。
「それでこいつを頼まれたんだ。わざわざ運んでやったんだぜ。
おい、それをここへ入れてやってくれ!」
「お任せください!棟梁。」
そういって家に運ばれてきたのは大きな黒い箱。
漆塗り・・だろうか。随分と豪勢な綴り箱だ。
しかもとても大きい。
その箱には大きな布が結わえられている。
これは・・贈り物なのだろうか・・。
「これをヒノエが?」
「勘違いすんなよ。これはからの贈り物だ。
おまえの誕生日・・えっと・・なんていってたかな・・
ああ、そうだ『誕生日ぷれぜんと』って言ってたぜ。
の世界では誕生日にする贈り物のことを
そういうらしいんだ。」
「誕生日の贈り物・・ですか。」
言われて初めて気が付いた。
そうだ。今日は僕の生まれた日。
でも・・おかしいですね、自分でも忘れていたのに
どうしてさんが僕の生まれた日を
ご存知だったのか・・・。
さんは一体、何を下さったのでしょうか・・。
僕はまかれている布に手を掛けて、
早速その荷物を解こうとした。
「お・・おい弁慶、せっかちだな。
そいつを開けるのは俺たちが帰ってからにしてくれよ。
・・からもそういわれてんだ。」
そういうとヒノエはにやっと笑う。
・・嫌ですね、その笑い。
でもさんからの約束を破るわけにはいきませんね。
「わかりました。確かに受け取りましたよ。」
「俺の用事はこれだけだ。じゃぁな弁慶。
・・にもよろしくな。」
そういうと、また先ほどと同じように
にやっとヒノエは笑って・・家を出て行った。
「・・まったく、嫌な感じですね、あの笑い。
さて、ヒノエも帰ったことですし、せっかくですから
開けてみましょう。・・さんは何を送ってきたのでしょうね。」
僕はヒノエの持ってきた大きな漆塗りの箱に目を向けた。
箱に掛けられているのは紫色の布。
まるで帯でも結ぶかのようにしてある。
僕はとりあえずこの紫色の布を引っ張って、
大きな箱の蓋を開けた。
「べ・・弁慶さぁ〜ん・・・。」
「さん!?」
なんと中から出てきたのはさん本人。
しかも・・・
「これはまた・・随分と飾り付けられましたね・・。」
十二単に身を包み・・豪華な髪飾りに・・
頭を布で巻かれて・・上で蝶結び・・・。
「・・これは一体どういうことですか?さん。
あなたは朔殿と『龍神温泉』へ出かけたはずでは?」
「・・・・・えっと・・これには深い訳が・・。」
「・・・どういう訳でしょう。
ゆっくり聞かせて頂く必要がありそうですね。」
「ご・・ごめんなさい。
私はただ・・弁慶さんに喜んで欲しくて・・。」
そういってさんは、これまでの経過をあわてて話し始めた。
3日前に患者さんから僕の誕生日聞いて、
日が無いのであわてて相談に行った朔殿のところに
たまたまヒノエが居たこと。
朔殿が留守だったので、そのままヒノエに相談したこと。
熊野に行った理由と・・言い訳のこと。
そして・・
「こんなこと予想してなかったのぉ。
ヒノエくんったら・・まさか私を
プレゼントにしちゃうなんて・・。」
ヒノエの元で綺麗に飾られたさんは
こうして贈り物として僕の元に送られることに
なってしまったのだということだ。
・・・さん、頼る相手を間違えましたね・・。
朔殿・・留守にしてたこと、恨みますよ。
でもまぁ・・せっかくのご好意ですから、
頂かない訳にはいきませんよね。
「・・そうですか。僕は果報者なのでしょうね。
では早速、贈り物を頂かねばなりませんね、さん。」
そう伝えて、僕は箱に入ったさんを
着物ごと抱き上げた。とてもかわいらしい。
先に見たのがヒノエというのが気に入らないが、
こんな姿はなかなか見られない。
「え・・きゃ!べ・・弁慶さん!?」
「大人しくしていてくださいね、さん。
あなたは贈り物なのですから。」
「え・・あの・・贈り物って・・。」
「さんは『僕の誕生日の贈り物』ですからね。
せっかくですから、おいしく頂かないと。」
「お・・おいしく・・。」
「ヒノエに頼めば、まぁこうなるのはわかることでしたね。
それがわからないさんは・・どうしましょうか?」
「え・・っと・・。」
答えに困っているさんを抱えたまま、
僕は奥の部屋の扉を開ける。
そして部屋の真ん中でさんを降ろすと、
静かにその部屋の扉を閉めた。
ちなみにこの部屋はちゃんと内側から鍵が掛かる。
「・・今・・カチって音が聞こえたような・・。」
「ええ、誰にも邪魔されずに贈り物を楽しみたいですから。」
僕はそのままさんに近づき、
さんの頭を飾っていた蝶結びの紐を解く。
結わえられていたさんの長い髪が
ふわりと肩まで落ちる。
おや・・香まで焚き染めているようですね。
まったく油断も隙も無い。
でも・・
「・・経過はどうであれ・・お気持ちはうれしいですよ。
ありがとうございます、さん。」
言の葉を言い終わるのと同時に・・
僕はさんの綺麗な桜色のそこへ深く口付けた。
「・・今日は一日離しませんからね。
覚悟しておいて下さい、さん。」
「え・・でも・・診療所・・。」
「先程この部屋に入る直前に札を掛けておきました。
僕のお誕生日は今日一日。時間はまだまだありますからね。」
そう、本当に贈り物を僕が楽しむのはこれから。
こんな機会を僕は絶対逃したりしません。
・・・さん、ずっと僕の側にいて下さいね。
他の人を頼るなんて・・もう絶対駄目ですからね。
独占欲を思い切りこめた・・先ほどよりも
さらに深い口付けを落としつつ・・
僕は・・何者にも変えられない・・
『お誕生日の贈り物』を紐解いていった。
Fin
<後書きと書いて言い訳と読む>
読んでくださった皆様ありがとうございます。
脳内弁慶祭りが終わらない・・駄目駄目な管理人です(^^;
弁慶さんのお誕生日を2月11日に控えて・・・・
フライングのお誕生日創作です。
実は先に書いていた作品がありまして・・・
そちらは投稿という形で貢ぐことになりそうなので、
前編後編に分かれてしまったこちらの作品をサイトに残しました。
もう一つの方は投稿後タイトルだけはUPしました。
昨日UPした前編に続く・・後編でしたが如何でしたでしょうか?
弁慶さん視点になるので、前後編に分けました。
相変わらず落ちはフルキスと変わらないような気もしますが(^^;
ひとまず・・フルキスと同じ現象がやっぱり起きているので、
この後は・・同盟とバレンタインの方を優先しようと思っております。
ご意見・ご感想を聞かせて頂けるとありがたいです。
それが何より次の創作の活力になります!
また誤字脱字や変換ミスがありましたら、ぜひご連絡下さい。
このキャラのこんな話が読みたい!などありましたら
ぜひお寄せください!!期間中はお答えします(^^)
☆ブラウザを閉じてお戻りくださいませ☆