この創作は野沢 梓 嬢とコラボレーションしています。
梓ちゃんの描かれた素敵なイラストはこちら
(サイト内 Gallery の該当ページへ飛びます。)


黒地に書かれたその不思議な模様は、

紫色で描かれていて・・文字・・にも見えた。

どうしてここに描かれているんだろう・・って

実はずっと思っていた。

・・・それにその模様が不思議と私には

とても神々しく・・綺麗に見えたんだ。





外套 〜梵字の意味〜





「・・綺麗だよね、その模様。」

陣の中で火に当たりながら、
私は目の前にいる弁慶さんにそう話しかけた。

「模様?・・あぁ、この外套の文字のことですか?」

「え?それって文字なんですか?」

「ええ。梵字と言いまして、御仏を表す文字ですよ。」

「御仏・・じゃぁそれって神様ってこと?」

「そうです。」

「そっかぁ。だからかなぁ・・・。」

私は立ち上がって弁慶さんの背後に回る。

さん?」

「弁慶さんの後ろから、この模様を見たとき
すごく綺麗だと思ったの。・・神々しいっていうか、
光り輝いているように見えたの。神様・・だったんだね。」

私が綺麗だと思ったこの模様は、弁慶さんの頭の部分に描かれている。
いつも私を守ってくれるこの背中は、私にとってとても大切で・・
だから光り輝いているのかなぁ・・とも思っていたんだけど・・

私はそっと弁慶さんの頭に・・その模様に触れる。

「神子の手に触れられるとは・・不動明王も嬉しいでしょうね。」

「不動明王??」

「ええ、その梵字は不動明王を表しています。
少し前に僕たち朱雀のお札をさんは
見つけて下さいましたよね?」

「軍茶利明王のお札のことですか?」

「ええ。不動明王は軍茶利明王を含めた
4つの神を従えた大日如来の使いなのです。」

「だいにちにょらい??」

「とても重要な神様なんですよ。」

「じゃぁ・・弁慶さんのここに書かれた
不動明王さんはとても偉い神様ってことですね。」

「ふふ、さんらしい解釈ですね。
不動明王にさん付けとは・・ふふ、あなたはやはり
普通のお嬢さんではありませんね。」

「え〜不動明王さんって呼んだらおかしいの?」

「いいえ、別に良いと思いますよ。
ただ不動明王はとても荒い神なんです。
だから不似合いだな・・とちょっと思いまして。」

「荒い神?」

「すべての障害を打ち砕き、仏門に従わない者を
力ずくでも従わせ、救おうとする・・
・・そういう神なんですよ、不動明王という神は。」

「え・・だったら私が気安く呼んだりしたら、
怒られちゃうんじゃ・・・。」

「大丈夫ですよ。
さんは四神を従わせる龍神の神子。
不動明王に従っている4つの神

東方の降三世明王・西方の大威徳明王
南方の軍茶利明王・北方の金剛夜叉明王

これらはすべてその方角の四神に従う明王です。
四神を従える龍神の神子であるさんは、
これらをすべて統率する神の使いなのですよ。
不動明王から見ても、さんは尊き方なのです。
そのさんに親近感を持ってもらえるなら、明王として本望でしょう。」

「わ・・私、そんなすごい人じゃ・・。」

さんは龍神の神子として、よくがんばっていますよ。」

そういって弁慶さんは、後ろにいた私を振り返って
穏やかな笑顔を私に向けた。

「あ・・ありがとうございます。」

いつも弁慶さんはこうやって私の欲しい言葉を・・
・・きちんと伝えてくれる。・・とても、優しい人。

でも・・どうして優しい弁慶さんが、
いくら偉い神様・・とはいえ、こんな荒い神の梵字を
自分の外套に描こうと思ったんだろう・・。

「・・弁慶さん、どうしてここに不動明王さんの
梵字を描こうって思ったんですか?」

私は、やっぱり弁慶さんの外套に描かれた
梵字に触れながら・・どうしても疑問に思ったことを
素直に聞いてみた。・・すると弁慶さんは・・
外套で少し顔を隠して・・

「僕の罪を・・償うためです。
不動明王は『戦勝』の神でもあります。
僕の罪を償うためには・・源氏には勝って頂く
必要があるでしょう・・。この梵字は、
僕の・・決意を忘れないために・・
自分を戒めるため・・なのですよ。」

『僕の罪』・・私は急に・・あの時のことを思い出す。
・・たった一人で清盛に立ち向かい・・
消えていってしまった・・あの弁慶さんを・・

・・させない。あんなことは絶対に・・
そのために私はこうして戻ってきたんだもの。

私は外套を撫でるのをやめて・・
そのまま思いっきり弁慶さんに抱きついた。

・・さん!?」

「弁慶さんの・・馬鹿。
一人で出来ることなんて・・限界があるんです。
もっと・・もっと私に頼ってください。
『僕の罪』なんて・・言わないで・・。
私は弁慶さんと一緒にいたい・・一緒に生きて行きたいんだよ。」

さん・・ありがとうございます。
でも・・『僕の罪』は消えてはくれません・・だから・・。」

「一人になんてさせないから!
弁慶さんを一人にするなんて・・絶対しない。
罪は一緒に償えばいい・・私がここにいる意味を・・
お願い・・なかったことにしないで下さい、弁慶さん。」

さん・・あなたは何を知っているのですか?」

私はさっきよりも強く、外套の上から弁慶さんを抱きしめる。

「・・今はまだ言えません。
でも・・私がここにいるのは、弁慶さんを助けたいからです。
・・弁慶さんの側にいたい・・それだけでは駄目ですか?」

「・・・あなたはいけない人ですね。
僕の心の枷を・・簡単にはずしてしまう。
罪人の僕が望んではいけないことを・・つい望んでしまう。」

そういうと弁慶さんは、前に回っていた私の腕を引っ張り・・
私を弁慶さんの腕の中に閉じ込めてしまう。
さらに外套を翻して、私のことを包み込んでしまった・・。

「弁慶さん・・・。」

「しばらく・・このままでいて貰えますか?
・・もう少しだけ、不動明王にあやかって・・・
さんを独り占め・・しておきたいと・・。」

「はい。」

私も弁慶さんの背中に腕を回して・・
弁慶さんの暖かさを身体に取り込む。

ほんのつかの間の幸せを・・・
今度は自分の手で・・永遠にしてみせる。
・・そのために私は時空を超えて・・戻ってきた。

弁慶さんを救うために・・・側にいるために・・

誰よりも大切な人・・まだ、どうなるのか・・
本当に運命を上書きできるのかどうか・・わからないけど・・
いつか弁慶さんと・・幸せに暮らせたら・・・

私は弁慶さんの腕の中で、まだ見えない未来を思っていた・・。


FIN
<後書きと書いて言い訳と読む>

読んで下さった皆様ありがとうございます。
この創作は『元白昼夢只今桜屋』管理人:野沢 梓 嬢と
OFF Lineにて『コラボレーションしましょ』という
お話から出来上がってきた創作です。

梓ちゃんには・・ちらっと言っておりましたが
やっぱりお題は『外套(がいとう)』になりました。

私が先に創作したものに後からイラストを・・というお話になり
イラストを書かれるにあたり・・艶物はまずいだろう・・・と
一生懸命、艶のかからないように・・と書いたらこうなりました(^^;;
時間軸が不明極まりなくてごめんなさいね・・・。
一応弁慶さんの終章を1度見た後・・時空を超えてきた・・
そんな感じの時間軸です。・・・いつでもよかったんですが、
梵字の意味を考えたとき、やっぱり清盛さんのあれを見てないと・・
と思い・・なんだかとてもシリアスなお話になってしまいましたが・・
本来の私は、こんな物書きだったんじゃないかなぁ・・なんて思っております。

誤字脱字を含めたご意見・ご感想を寄せていただけるとありがたいです。
読んだよ〜やこんなのにして〜なんてのも結構です!
ぜひお声を聞かせてくださいませね!!

最後まで読んできただき本当にありがとうございました。