和歌がくくりつけられたその枝の先には
真っ白い綺麗な花が咲いていた。
私の世界でも見たことがある・・確か桃の花。
でも桃の花って・・・ピンク色・・じゃなかったっけ?
白桃花〜3月5日の誕生日に〜
「、弁慶殿からこれが届いたんだけど。」
清盛との戦いを終えて・・私はこの世界に残った。
それは、戦いの中で大切な人になった
弁慶さんの側にいるため・・弁慶さんと共に生きていくため。
でもすぐに世の中落ち着くわけではなくて・・
弁慶さんは源氏の軍師として、まだやることがあるらしく、
今は鎌倉に出向いている。
『すべて片付いたら京へ戻ってきますから。』
こうして私はしばらく朔の家にお世話になることになった。
・・そう弁慶さんが迎えにくるまで・・という約束で・・・。
『朔殿、さんのこと頼みましたよ。すぐに戻りますから。』
そういい残して弁慶さんが京を経ってから、
冬が過ぎ・・だんだんと暖かくなってきて・・
京は漸く春が来る・・届け物はそんな季節にやってきた。
「あれ・・手紙・・かな?なんか付いてる。」
白い綺麗な花の枝には、綺麗な紫苑の紙がくくられていた。
「大切な用事かもしれないから、すぐに読んでみたら?。」
朔に促されて、私はその紫苑の紙を枝から解いた。
そこには、弁慶さんの流麗な字で・・なにやら
和歌・・のようなものが書かれていた。
春きぬと 人は言へども うぐひすの
鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ
お誕生日おめでとうございます、さん。譲くんから、さんたちの世界では、生まれたその日に誕生の祝いをすることを以前聞きました。この手紙がさんの生まれ日弥生の5日目に届くと良いのですが・・・。もうすぐ事後処理も終わりそうです。戻りましたら
和歌のお返事を聞かせてくださいね
弁慶
・・残念ながらさっぱりと読めなかった。
この時代の人はどうしてこうも読めない字を書くのだろう・・。
「どうしたの?。何か悪いことでも書いてあったの?」
弁慶さんの流麗な字が読めず、落胆していた私に
内容が悪かったのかと勘違いした朔が、私に聞いてきた。
「違うの朔、さっぱり読めないのよぉ・・。
弁慶さんの字綺麗過ぎて私には読めないの。
私たちの世界の字とちょっと違うしねぇ・・。」
「私でよかったら代読するけど?」
「ごめん、お願いしてもいいかな?」
私は朔の言葉に甘えさえてもらうことにした。
急ぎの用事だと、困るしね・・。
「まぁ・・、これ私が読んでしまって
本当によかったのかしら・・。」
「良くも悪くも・・どうせ私読めないし。」
「そ・・そうね。
の世界では、お誕生日をお祝いする習慣があるの?」
「うん。誕生日の日は、ケーキを食べたり
プレゼントを貰ったりするんだよ。」
「けーき??ぷれぜんと??」
「ケーキは甘いお菓子で、プレゼントは・・
・・贈り物って言えばわかる?要は皆でお祝いするんだよ。」
「で・・って弥生生まれだったの?」
「え・・うん。よくわかったね。」
「弁慶殿、どうやら譲くんに聞いたみたいね。
手紙に『お誕生日おめでとうございます。』って書いてあるのよ。」
「あ・・そうか!私の誕生日、今日だ。」
「それで弁慶殿はわざわざこの手紙をよこしたのね。」
「ねぇ朔、それならその手紙、別に朔が読んでも
全然問題ないよ?なんで読むのをためらったの?」
「・・ここに書いてあるのはそれだけじゃないのよ。
、ここ見て。」
そういって朔がさしたのは、手紙の序文だった。
これが・・なんなんだろう??
「これがどうかしたの?」
「これ、和歌なのよ。」
「和歌?」
「そう。弁慶殿、近いうちにこちらに戻るみたいなんだけど、
この和歌の返事が欲しいって言ってるのよ。」
「和歌の返事?・・う〜ん、それどういう和歌なの?
朔、読んでくれる?」
「はるきぬと ひとはいえども うぐいすの
なかぬかぎりは あらじとぞおもう」
「ごめん・・さっぱり意味わかんないんだけど・・。」
「表向きには、
『春が来たと人は言うけど、鶯の声を聞くまでは
僕は春がきたとは信じられません』って意味なんだけど・・」
「表向きってことは・・裏があるってこと?」
「そう。弁慶殿が頑張っているのは、
ひとえに『鶯の声』が聞きたいからなのよ。
弁慶殿にとって春って何かしらね?。」
「・・あのぉ・・やっぱり意味わからないんだけど。」
「もう・・の世界にだって、物のたとえってあるでしょ?
しょうがないわね、『春』は弁慶殿が希望していること。
『鶯の声』はの気持ちのことを指しているのよ。
どう?これで意味がわかるかしら。」
弁慶さんにとってうれしいことが『春』で
『鶯の声』が私の気持ち・・・えっと
和歌の意味は・・・
『春が来たと人は言うけど、鶯の声を聞くまでは
僕は春がきたとは信じられません』
えっと・・鶯の声を聞くまでは・・ってことは
私の気持ちを聞くまでは・・ってことで・・
弁慶さんの希望していることが・・『春』って
ことは・・私の気持ちを聞くまで、弁慶さんの
希望は適わないってことで・・それって・・それって・・
「まさか・・『結婚したい』ってことぉ〜!?」
「けっこん??」
「あ・・えっと私たちの世界で夫婦になるってこと。」
「ふふ、じゃぁそれ正解ね。
弁慶殿はきっと、にこの世界に残って欲しいって
お願いしたときから、『祝言』って言の葉が
頭の中にあったのでしょうね。」
「え・・えっと・・朔、どうしよう。」
「どうしようって、?まさかお断りするなんて・・」
「いや、あの・・嬉しいんだけど・・
これ、和歌でしょ?・・どう返事していいのか・・。」
「『はい』と一言お返事を頂ければそれで良いですよ。
そう、春になったら鳴く素直な鶯のように・・ね。」
「「弁慶さん(殿)!?」」
・・その声は本当に突然聞こえてきた。
今居るはずのない・・私の大好きな声が・・・。
「い・・いつ戻ったんですかぁ!?」
「たった今ですよ。贈り物と同時になってしまいましたね。」
「弁慶殿も人が悪い・・聞いていたなら
声を掛けてくれてもよかったのに。」
「『鶯の声』はさすがに僕でもわかりませんからね。」
そういって弁慶さんは、にっこりと笑ってみせる。
「わ・・私、お茶でも入れてくるわ、。」
気を利かせてくれた朔があわてて部屋を出て行く。
「譲くんに伺った話に、もう一つ面白いものがありましてね。」
朔が部屋を出ると弁慶さんは急にそう切り出した。
そして先ほどの手紙が付いていた、白い花の付いた枝を手に取る。
「これ、桃の花なんですよ。」
「え?桃の花?これが??」
私の世界でも見たことがある桃の花。
でも桃の花ってピンク色じゃなかったっけ?
「桃の花って確かピンク色・・だよね?」
「ぴんくいろ?」
「あ・・えっと、桃色って言ったらわかる?」
「ええ。さんの世界ではそう表現するんですね。
そうです、一般的に咲いているのは桃色ですよね。
これは『白桃花(はくとうか)』といって、白く咲いた
珍しい桃の花なんです。たまたまこの白桃花が咲く場所を
知っていたのですが、白桃花はさんの『誕生花』
なのだそうですよ。これを譲くんに教えて頂きました。」
「私の誕生花なんだ・・この桃の花。」
「なんでも花言葉という花にちなんだ言葉があるようで、
白桃花は『純真』なのだそうです。
僕の気持ちを伝えるには、良い花言葉だと思いまして。」
「弁慶さん・・・。」
「『鶯の声』聞かせてください。」
そういうと弁慶さんは、桃の花を床に置き、
私の手をすっと取って・・・
「僕のところに来て下さいませんか?さん。」
あんまり優しい笑顔で、そういう言うので・・
「はい。」
・・と私も素直に返事を返した。
・・・このとき、部屋の入り口でお茶を持った朔が、
いつまでも部屋に入れなかったことは、後日知ることになる・・。
FIN
<後書きと書いて言い訳と読む>
読んで下さった皆様ありがとうございます。
こちらの創作は、更新が滞る前に
『元白昼夢只今桜屋』管理人:野沢 梓ちゃんのお誕生日を
お祝いする創作としてプレゼント用に作成していた物です。
すっかり遅くなってしまって、とても季節外れなのですが・・
(梓ちゃん本当にごめんねぇ・・。)
主人公のお誕生日が固定なのはそのためです。
なんだか材料を詰め込みすぎて・・弁慶さんの出番が
少なすぎ(><)な感じですが・・一生懸命作ったつもりです・・。
ちなみにここでいう『白桃花』は私の造語です(^^;
こういう呼び方はしないと思います。
3月5日の誕生花は普通に「白い桃の花」です。
花言葉は「純真」の他に「人柄の良さ」というのもあります。
優しい、素直な梓ちゃんにはぴったりの花だと思いました。
この創作は野沢 梓ちゃんのみお持ち帰り可です。
相変わらずの不作ですが(TT)貰ってやってくださいませ。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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