ダイエットは女の子の永遠のテーマ・・
なんて雑誌とかではよく見たけれど・・
まさかこの世界で必要に迫られてダイエットするなんて・・・
ういきょう 〜薬湯の効果〜
「・・痛い。」
最初に気が付いたのは、井戸から水を運ぼうとしているとき。
足首に急に鈍い痛みが走って・・私は思わず
水の入った桶をその場に置いて・・痛み出した足首をさすった。
戦いを終えて、私の選んだ道は・・
大好きな弁慶さんの側にいること・・つまりこの京に
そのまま残って・・共に生きていくこと・・だった。
でもこの世界は、私のいた便利な世界と違う。
水一つ手に入れるのも、とても大変な場所だ。
慣れない水汲みに足でも痛めたのか・・
そう思って・・ここは薬師である弁慶さんに
相談するのが一番だろう、とそう思った。
「弁慶さん、少しいいですか?」
「どうしたんですか? さん。」
「水を運んでいるうちになんだか足が痛くなっちゃって・・。」
「それはいけませんね、見せてください。」
弁慶さんの前に腰を下ろして・・痛くなってしまった左足を
弁慶さんに見せる。弁慶さんは、私の左足を取ると
足の甲を上に向けたり・・下に向けたりして・・
「これは?痛みますか?」
「・・・どっちを向けても痛いです・・。」
「反対の足は?」
そういって痛みのない右足にも手を掛けて、
左足と同じことを繰り返す。
「あれ・・右は全然痛くないです。」
「そうですか・・。ん? そういえば・・。」
そういうと弁慶さんは、急に私の頬に優しく触れる。
「べ・・弁慶さん?」
「いえ・・落ち着いたせいだと思うのですが。」
そう言ったかと思うと、急にすっと・・
私のひざ裏と・・背中に腕を差し入れて・・・
「うわぁ! ちょ・・ちょっと! 弁慶さん! 突然何するんですかぁ〜。」
私をいわゆる 『お姫様抱っこ』 で抱き上げた・・。
「さん、少し前よりふくよかになりましたよね?」
・・・それって・・それって・・・
「私、太ったってことぉ〜。」
・・そ・・それはショックだよ。
こんな不便な場所に生きていて太っちゃうだなんて・・。
・・でもまったく心当たりがないわけじゃない。
実は弁慶さんと暮らし始めてから、私は料理だけは、
一切手助けさえてもらえない。理由は・・・
『譲くんに、さんの世界の料理を教えて頂いたんです。
せっかく教えて頂いたので、いろいろ作ってみたいんです。』
・・いつのまにそんなことになっていたんだろう。
でも器用な弁慶さんの料理は、本当においしかった。
しかも・・譲くんに教わったというだけあって、
私の世界の食べ物にとても近い物が食卓に上る。
でも、水汲みや洗濯・・部屋の掃除に、
弁慶さんの薬師としてのお仕事のお手伝い・・
元の世界の頃よりよっぽど動いていると思うんだけど・・
「僕としては、少しふくよかな方が好みなのですが、
身体に負担が出るとなると・・ちょっと良くないですね。」
抱きかかえていた私をゆっくり下へ降ろすと
そういって台所の方へと足を向けた。
「・・・ショックだよぉ・・。」
私はため息をついて・・増えてしまった体重を思う・・。
この世界に 『体重計』 なんて便利な物はない。
・・だから弁慶さんは私をお姫様抱っこする・・なんてことをして
・・私の体重を測ったのだ。
・・一体私は何キロ太ってしまったのだろう・・。
いや・・それよりも、太ったことを
大好きな弁慶さんに真っ先に気づかれてしまうなんて・・・。
「そんなに落ち込まないで下さい、さん。
祝言の後にはよくあることなんですよ。
いわゆる 『幸せ太り』 というものです。」
弁慶さんは、台所からなぜか急須と湯飲みと・・
・・お茶だろうか・・見たことのない乾燥された
お茶のような植物をお盆に載せて戻ってきた。
「元々、さんは足首が身体の割りに細いですからね。
以前から気になってはいたんですよ。
随分細い足をされているな・・大丈夫なのかな・・って。
だからさんが気にするほど太ってはないはずです。
ですから太るのを気にして食事を取らない、
・・というのだけはどうか考えないで下さいね。」
「で・・でもこんなに動いているのに太ったなんて・・。」
「過度の運動も足の関節には大敵なんですよ。
先ほど触診して気が付いたのですが、
さんは元々足の関節が弱いように思います。
だから太っただけが原因ではないと思うんです。」
「・・・でもやっぱり太ったなんてショック過ぎて・・。」
「しょっく?」
「ああ・・えっと 『衝撃的』 って意味です。」
「・・以前、譲くんに聞きましたよ。さんの世界では
痩せている方が魅力的とされているようですね。
だとするとさんがそう思うのは普通でしょう。
・・だからこれを持ってきたんです。」
そういって持ってきた植物を急須の中に入れて、囲炉裏に掛かっていた
やかんからお湯を入れて・・それを湯飲みに注いだ。
湯飲みに注がれたのは、緑掛かった透明の液体。これは一体・・・。
「なに?これ。」
「 『ういきょう』 という植物を煎じた薬湯です。」
「や・・薬湯・・。」
薬湯といえば 『苦い』。
前にちょっと風邪を引いてしまったとき
無理やり飲まされたあの苦い薬湯を思い出して・・
私は思わず苦笑いする。
「ふふ、大丈夫ですよ。この薬はほんのり甘くて
とてもおいしいお茶のような物なんです。」
「それがどうしてダイエットと関係あるの?」
「だいえっと?」
「えっと・・私の世界で減量することをそう言うんです。」
「そうなんですか。だとしたらこれは
『だいえっと茶』という言い方が良いでしょう。」
「ダイエット茶?」
「そうです。この薬湯は、薬というよりお茶に近いんです。
だから普通に食事の時に飲まれる方もみえるのですよ。
『ういきょう』 の薬湯には、整腸・利尿といった作用があります。
つまり、飲むだけで余分な水分などを身体の外に出してくれるので、
何もせずに痩せる事が出来るんですよ。」
「へぇ、そんな便利なお茶があるんだ。
・・でも、本当においしいの? これ。」
「嘘は言いませんよ。
騙されたと思って飲んでみてください。」
いや・・あの・・弁慶さんにはいろいろと
騙されてきてるんですが・・・私・・。
そういう目で弁慶さんを見たら・・
『黙って飲みなさい。』
というような目を一瞬して、すぐに笑顔になる。
・・どうやら拒否権はなかったらしい。
私はとにかくそのお茶を飲んでみることにした。
「あれ・・これちょっと甘い。おいしいかも。」
ほんのり甘味を感じるそのお茶は、
現代風で言うなら 『ハーブティ』 といった感じ。
とても爽やかで飲みやすいお茶だった。
「よかった。飲めそうですね。」
「うん、これなら飲めるよ!」
「ではこの 『ういきょう』 の薬湯を
しばらく夕食後に飲んでくださいね。
それと・・・しばらくは、重い水汲みもやめましょう。
水汲みには僕が行きます。
体重が少し軽くなって、足を酷使するのをやめれば・・
足はすぐに良くなると思いますよ。」
「ありがとう! 弁慶さん。」
こうして私は、この 『ういきょうの薬湯』 を利用した
お手軽なダイエットに励むことになった。
――― そして数週間後・・・
「すごい! 弁慶さん、これ私の世界で売り出したら
きっとすごく売れちゃいますよ!」
水汲みを変わってもらったのも、もちろんあるとは思うが・・
この数週間で私は自分でもわかるほど、身体が軽くなったのだ。
もう足首も痛まない。私はこの薬湯の威力にとても驚いた。
こんなに簡単に痩せられるなんて、私の世界なら絶対売れる!
「どうしたんですか? 急に・・。」
「これ 『ういきょうの薬湯』 すごい効果だよ!
もう足も痛くないし、なんだか身体軽くなった気がするんだ♪」
「それはよかったです。・・・でも、本当に痩せたかどうかは
測ってみないとわからないですよね? さん。」
そういって 『にこぉ〜』 っと弁慶さんは微笑む。
・・あの・・その笑顔になぜか危険信号が点っているような
気がするんですが・・・
「はい、そこに座ってくださいね。」
有無を言わさないその笑顔で、弁慶さんは私の肩を押し、
その場に座るように言う。しかたないので・・そのまま
その場に腰を降ろす。
そしてまた・・・私のひざ裏と・・背中に腕を差し入れて・・・
「べ・・弁慶さん!」
・・・前に私の体重を測ったように 『お姫様抱っこ』 で
私のことをすっかり持ち上げてしまった。
「そうですね、確かに足を痛めたときより、
軽くなられたようですね。」
そういってにこにこ笑っているが・・・
笑っているだけで、一向に私を降ろしてくれる気配がない。
「あの・・弁慶さん?・・もう・・降ろしてくれませんか?」
「さん、僕は薬師ですよ?」
「え・・・と、それが何か・・・。」
「さんは大切な妻ですからね。
お金を・・なんてことは言いません。
でも、足を治した薬師にわずかばかりの
ご褒美があっても良いとは思いませんか?」
・・あ、なんか嫌な予感。
「えっと・・・ご褒美・・って。」
「さんから・・・。」
そういって弁慶さんは人差し指で私の唇をなぞる。
「・・・して欲しいですね。」
・・・つまり弁慶さんは私からの口付けが欲しいと・・
確かにまだ一度も自分からはしたことないような気もするけど・・
「・・しなきゃ・・駄目?」
「いつまでもこのままで良いのですか?」
「うう・・・。」
やっぱり拒否権・・なし。
・・きっと弁慶さんは私が口付けしない限り・・
本当に私をここから下ろす気はないだろう・・。
火照る頬を・・どうにか我慢しながら・・
私はゆっくりと弁慶さんの顔に近づき・・
そっと頬に口付けた。
「・・本当は別の場所にして頂きたかったのですが、
まぁ・・今日はこれで我慢しておきましょう。」
そういうと私をゆっくりと降ろして・・
「次のご褒美は、ここに下さいね。」
そういって弁慶さんは自分の唇に人差し指を当てて
・・妖艶に微笑んでいる。
『この人には私、一生かなわないかも・・・。』
私はそう心の中で呟いていた。
Fin
〜参考〜
『ういきょう』 ・・アマウイキョウ・・
『フェンネル』 というセリ科の多年草植物の和名です。
黄色い綺麗な花を咲かせる 『ハーブ』 です。
この植物の種子がハーブティとして使用されています。
作品中に使用している効果は、実際に紹介されている効果です。
利尿作用・整腸作用に優れていてダイエット効果が
あるとされています。
(野々宮の『後書きと書いて言い訳と読む』(今回はちょっとまじめ))
この創作はいろいろな事情により、とうとう日の目を見ることがかなわないだろう・・と
判断された、私にとって忘れられない作品です。
ちょうど去年の今頃に『同人誌』に載せるという名目で、その代表者へ送付し・・
期限を守って提出したにもかかわらず、その後、未だ音信不通です。
何度もこちらから連絡を入れたのですが、とうとうメールすらたどり着かなくなりました。
作品を持ち逃げされたようで、とても悔しい思いをした作品です。
あれから一年以上たちました。私は十分待ったと思います。
なので『新作』であることが投稿の条件でしたが、かわいそうなこの作品を公開に踏み切りました。
もし、遥か3関連の同人誌で、これとまったく同じ内容の作品をお見かけになった方は、
野々宮までご一報ください。
多分、旧ハンドルネームで掲載されている可能性がありますが・・
作者の感知せぬところでの掲載となりますので(TT)
この作品は、初めてOFFの同人誌へ投稿・・ということで、
とても時間をかけて心を込めて作成した、本当に可愛い愛娘のような作品です。
悲しいかな・・内容は、実は半分実話です(笑)
結婚前、本当に太ったことが原因で彰香は足を痛めました。
・・ですが、私自身はういきょうに頼らず・・壮絶な(笑)ダイエットにて、この状況を乗り切りました。
(ちゃんとお医者様の指導の下、健康的なダイエットでしたのでご安心を(^^;)
おかげで体重は結婚後も維持できているんですよ♪
参考に書かせて頂いたとおり、ういきょう(フェンネル)の効果は、本物です。
ハーブティなどがお好きな方は、ぜひ試してみてくださいね(^^)