誰に遠慮しているんですか?

時には甘えることも必要です。

出来ればその役目は僕にさせて頂けませんか?

あなたより少しだけ長く生きた男の・・

たわごとを一緒に聞いて頂きたいのです。



  Healing of the moon
〜月の話を聞きましょう〜





僕がにあったのは偶然だった。
荼枳尼天を倒すために何も考えず
望美さんたちの世界へやってきた僕達は、
相変わらず帰るすべを見つけることも出来ず、
とても便利なこの世界にお世話になっていた。

あの世界のことが心配だったけど・・
今はこの世界の知識を得ることにしていた。
・・いつか役に立てるために。

僕はこの夏、使えるともっとより知識を高められると思い、
『パソコン』というものに向き合うことにした。
大学と呼ばれるこの世界の学び舎が、
誰でも自由に学べる場を提供してくれるそうで・・
望美さんがこういっていた。

「公開講座って言うんだよ。興味あるなら行ってみたら?」

そこにいたのがだった。
はその公開講座の教授の元で普段勉学に励んでいるようで・・

『え・・だってこの授業受けないと単位くれないから。』

ここにきた理由をそう言っていた。
だから本当に偶然だった。
は普段、鎌倉からはかなり離れた土地に暮らす
この世界の普通の大学生。
こんな偶然でもなければ、知り合うはずはなかった。

なのに・・不思議だった。
初めて会った気がしなかった。
それにもなぜか僕達のことを良く知っていた。

『信じられないけど・・見たことあるから。』

そういっていた。
どこで僕達を見たのかは教えてくれなかったが・・
僕達の身に起きたことも、かなり知っているようだった。


公開講座は一週間にわたって開催された。
はパソコンにはやはり詳しいようで、色々教えてくれた。

と話しているとまるで以前からの知り合いのように思えた。
僕はといるのが楽しかった。

でも・・・・・

『弁慶さんには望美ちゃんがいるでしょ?』

講座の帰りに寄った喫茶店でそう言われた。
僕はこれが彼女の本心とは思えなかった。
目が・・そういっている。
以前、望美さんの目の中にも、これと同じものを見た。

本心を隠して、他人の幸せを守る。

それは美徳だけれど・・・
僕はこの世界に来て、これが必ずしも幸せでないことを
すでに学んでいる。

とても放って置けなかった。

はこの講座が終われば、もとの土地へ帰ってゆく。
迷っている時間はなかった。


さん、この後しばらく僕に付き合って頂きますよ。」


僕はの返事を待たずに、強引に手を引き店を出る。

向かったのは・・『江ノ島』

誰にも邪魔されずに彼女の本音が聞きたかった。
この時間の展望台は人が少ない。
譲くんに以前そう聞いていた。


「べ・・弁慶さん、どうしてこんな・・ところへ・・。」

「あなたの本当の気持ちが聞きたかったからです。」

「本当の気持ちって?」

「あなたが先ほど嘘をついたこと。
僕が見抜けないとでもお思いですか?」

「え・・・。」

「望美さんがいるとおっしゃいましたが、
僕達の事情を知っているのなら、
僕と望美さんの関係もご存知でしょう。
確かに彼女は特別な人でしたが、
さんが思っている『特別』とはきっと違いますよ。」

「・・・でも、弁慶さんは望美ちゃんがいなければ・・。」

「ええ。この世界には恐らく来ていないでしょう。」

「じゃぁ・・。」

「でも、それと僕の気持ちとは違います。」

「・・・・・・・・・」

「人には制御出来る物と出来ないものがあります。
望美さんへの気持ちが制御できるものだとしたら、
あなたへのこの気持ちは制御できません。」

「・・制御出来ない気持ち?」

「ええ。嘘をつきながら口では平気だと言い、
その目は『私を捨てないで』と訴える。
迷いの無い目をしている望美さんには、
実のところ女性としては魅力を感じないんですよ。」

「嘘。それは嘘だよ。
望美ちゃんを女として見ていないだなんて。」

「ほら、またそうやって嘘を付く。
望美さんに遠慮しているんですか?
時には甘えることも必要です。
出来ればその役目は僕にさせて頂けませんか?
あなたより少しだけ長く生きた男の
たわごとを一緒に聞いて頂きたいのです。」

「・・たわごと?」

「ええ。聞いて頂けますか?」

「・・はい。」

「先ほども言ったように、僕は迷いの目のない
女性には本当に魅力を感じないんです。
それは僕の職業のせいでしょう。」

「軍師だからってことですか?」

「ええ、そうです。
こちらに考慮の余地の無い女性・・
つまり付け入る隙の無い女性は男から見て可愛くないんですよ。
僕は考えることが職業柄、得意と言えるでしょう。
だからこそ、憂いを帯びない女性は面白くないんです。」

「面白くないって・・私は玩具ですか・・。」

「ええ。僕にとっては都合の良い女性と言えるでしょう。
こう言えばあなたは満足なのではありませんか?」

「え?」

「僕からあえて厳しい言葉を掛けられた方が、
安心するのではありませんか?」

「・・・・・・・・・。」

「こういったことを考えられるというのは、実に楽しいですね。
攻略の甲斐があると言えばいいでしょうか?
攻め難い相手ほど楽しくなるのが軍師です。」

「だから私が気になったって言いたいんですか?」

「そうです。だから誰にも遠慮はいりません。
僕自身が選んだことです。どうです?
少し僕の遊びに付き合いませんか?」

「でも・・。」

「・・そうですか。まぁ簡単にはいかないと思っていましたが。
これで如何です?」

僕はそう言って事前にが席を外した時に
その手提げ袋から掠めていた『鍵』を見せる。

「え・・ええ!?それ・・それ私の!?」

「これは確か『車』という物の鍵ですね?
さんはこれがないと帰宅出来ないはずです。
ついでにこれもね。」

鍵と一緒に掠めていたもの。
それは宿のカードキーとのキャッシュカード。
これがなければ電車で帰宅することもままならないはず。

「・・それは犯罪なのでは?」

「でもは僕を訴えたりしない。そうですね?」

「う・・。」

「これでお分かりになりましたか?
僕の遊びにお付き合い頂けますね?」

「・・・はい。」

半ば強引ではあるけれど、時間も差し迫った僕には、
を引き止めるすべはこれしか思いつかなかった。
使える手はすべて使う。

そう、すべてはここで引き止めてから。
ここから結末を探す。

なかなか楽しいゲームになりそうです。
まぁ結末はすでに用意してあるようなものですけどね。

fin

<後書きと書いて言い訳と読む>

この創作は、弁慶さんに恋して傷心している
お友達へ差し上げたものです(^^;
なので、ちょっと替わった設定になっていますが、
私は何でもありでは・・なんて思っています。
キャラレス掲示板の方では、かなり前からNot神子設定の
お客様が何人も見えたので、あんまり違和感はありませんでした。

Not神子に興味をお持ちの方は、キャラレスで遊んでみてくださいね(^^)

ご意見・ご感想を頂けるとうれしいです。