南蛮の氷


「あ〜つ〜い〜・・・。」

久しぶりに船上から戻ってみれば、
俺の姫君は暑さにぐったりとなって・・床に突っ伏していた。

「床すら暑いよぉ〜〜。」

今にも泣き出しそうな・・そんな表情で暑さを訴える。
確かに今年の夏はとてつもなく暑い。
だから俺だってこいつを手に入れようって考えたんだ。

、久しぶりに帰ってきた旦那より床のほうが好きなのかい?」

「あ・・ヒノエくん。・・お帰りぃ〜。だって・・この暑さは異常だよぉ〜。
あ〜〜ク〜ラ〜が懐かしい・・・。」

「なんだい?く〜ら〜ってのは。」

「お部屋全体を涼しくする機械だよ。
私たちの世界には、どこの建物にもたいていあったんだ。」

「へぇ。便利だね、の居た世界は。・・帰りたいかい?」

もし本当に帰れたとしても、帰すつもりなんて
さらさらないのに・・俺はわざとそう聞いてやる。

「・・ヒノエくん。それ、本気で言ってるなら怒るよ?
どんな覚悟でここにいるか、わかってるでしょ?」

「もちろん。だからそんな姫君に一つお土産持ってきたよ。」

俺は先ほど手に入れた貴重なお土産を
手下の一人に言いつけて、ここまで運ばせた。
両手にやっとおさまるくらいの大きさの
木箱に入ったそれを・・俺は先ほど少し砕いておいた。

「お土産?」

「そう。とっても貴重なお土産。、目を閉じて。」

「目を閉じるの??」

「そう、目を閉じて。」

が目を閉じたのを見て、俺は木箱をそっと開ける。
中に入っている小さめの透明なかけらを口に含んで、
の頤に手を添えて・・そっと口をあける。

「・・ん!?」

突然の口付けに驚いたが思わず目を開ける。

そして・・・

「つめふぁい(冷たい)ふぁに?ほれ(なに?これ)」

「南蛮の山奥に夏でも雪が溶けない場所があるらしいんだ。
熊野は外とも交易があるからね。特別に譲ってもらったんだ。
どう?涼しくなっただろ?」

「ひょっとして、氷?」

口の中の氷が溶けたのか、ははっきりした口調でそう聞いてきた。

「そう。しかも山奥から削りだしてきた貴重な氷。」

「・・そうだよね、この世界じゃ夏に氷は貴重だよね。
そんな貴重なもの・・食べちゃってもよかったの?」

「連日暑さにうなされている、可愛い俺の姫君に
食べられるんなら、氷も本望だろ?」

「もう・・ヒノエくんったら・・。」

「どう?少しは涼しくなった?」

「うん、ありがとう。ヒノエくん。」

「じゃぁ改めて、俺に『お帰り』って言ってよ。」

そういって俺は両手を広げて見せた。

「え・・言うだけ・・じゃないの?」

「貴重な氷をお土産にしてきた旦那に
わずかばかりの功労賞があってもいいんじゃない?」

そういうとはあきらめたようで・・

「・・・そだね。」

そういって・・・ゆっくり立ち上がると俺にしっかりと抱きついてきて・・

「お帰り、ヒノエくん。」

そういって恥ずかしそうに、頬に一つ『お帰り』の口付けをくれた。

(野々宮の『後書きと書いて言い訳と読む』)

この創作は、旧サイトでWeb拍手の際『ヒノエくんからのお礼』
という形で掲載していたものです。
この時期のWeb拍手のお礼は『氷』のテーマで統一されています。