〈Legend of first snow〉


私が今日、職場で聞いた話は、なかなか素敵なお話だった。

龍神の神子だったあかねと京で情を交わした私は、
あかねと共にあかねの世界にやってきて早3年・・
こちらの生活にもずいぶんと慣れてきた。

私は龍神の計らいで、今はあかねの町の
図書館司書として働いている。
そこに今日一人のお年寄りの男性が、ある本を探しにやってきた。

『「初雪の精霊」という本を探してるんじゃが・・』

聞いたことのないタイトルだった。

『あの、どういった種類の本でしょうか?』

『童話じゃよ。小学生くらいの子が読むような本じゃ』

『児童書ですね。少々お待ち下さい。』

私は児童書の書架へ直接探しに行ったが、
見当たらない。ひょっとしたら閉架図書なのだろうか・・・。
私は受付カウンターのパソコンに向かい検索してみる。
が・・なかなか見つからない。

『お探しの本が見当たらないのですが、
出版社とかわかりますか?』

『そこまでは知らんのだよ。だが若い頃、
この図書館にあったのだよ。今からもう30年も
前になるがのぉ・・・。』

30年も前であれば、本が廃棄になってしまっている
可能性もあるが・・・。

『あの本はもう売ってないんじゃ。昨日本屋さんで
そう・・言われてな・・。それでここにあったことを
思い出して、探しに来たんじゃよ・・。
あの本がどうしても必要なんじゃ・・・。』

困り果てるご老人に、私は探しているのには
何かわけがあるのだと気が付いた。

『あの、もしよろしければ、お探しになっているわけを
お聞かせ願いませんか?本を探すきっかけになるかも
知れませんし。』

『かまわんよ。あの本はわしとばぁさんの宝物なんじゃ・・・。』


−−−−その本は初雪の精霊が、待ち合わせの神様となった
伝説が記された児童書。このご老人も最初は、子供の話だと
思われていた。

ところがある年のクリスマスの日。
このご老人は今の奥さんとのクリスマスデートに、
電車の事故ですっかり遅れてしまったのだ言う。

慌てて約束した場所へ向かったが、奥さんはいない。
約束の時間を過ぎても待っていてくれるような優しい人なのに、
約束の場所にはいなかった。

帰ってしまったのか・・それとも何か事故にでも・・。

心配になったご老人は奥さんの実家へ電話したが、
奥さんは帰っていなかった。

ますます心配になり、あたりを必死に探すが、
やっぱり見当たらない。

そのとき思い出したのが、「初雪の精霊」の本のこと。
彼女が好きだといったその童話によれば、
初雪は待ち合わせの神様だと言う。

その日の天気予報では、今年一番の寒さで、
各地で初雪になるといっていた・・・。

ご老人は、わらにもすがる思いで、
空に願ったのだと言う。

「彼女に会わせてください!!初雪の精霊よ!」

手を組み、ひざを道端につき必死に空に願った。

すると・・ふわっと暖かいものに包まれた。
それは待ち合わせ場所に遅れてきた奥さんの
コートだった。

ご老人が顔を上げると、奥さんは

「電車が遅れてしまったの。ごめんなさい。
でも会えてよかったわ。初雪の精霊さんのおかげね。」

そういった。空を見上げると先ほどまでは降っていなかった
雪が降り始めていたという。

つまり二人は同じ理由で待ち合わせ場所にこれず、
同じことを同じように願っていたのだ。−−−−−

『わしらは今年で結婚して30年の節目の年での。
結婚して、この町に来たとき、図書館であの
「初雪の精霊」の童話を見つけたのじゃよ。
今年は記念の年だから、その本をもう一度見ようと
ばぁさんと話していたんじゃ。大事な本じゃから、
購入しようとしたんじゃが、絶版になっておっての、
手に入らなかったんじゃ。だからこうしてここへ
探しに来たんじゃよ。』

『とても思い出の深い、本なのですね。』

私がご老人の話にそう相槌を打つと、
私たちの話を聞いていたのか、年配の司書の方が、

『その本なら、多分3階の閉架図書にあるはずよ。
とても古い本だから、パソコンのリストに載ってない
けど、私見たことあるから、多分あるはずよ。』

と教えてくれた。

本は司書の方の言った通り、閉架図書の中に
まぎれていた。薄い小さめな本だったが、
なんだか暖かい感じのする本に見えた。

本を手渡すと、ご老人はとても喜び、
何度もお辞儀をしながら帰られた。


この話を、今日電話してきたあかねに、
聞かせてあげたのだ。

「素敵なお話だね。ねぇ、鷹通さん。
その童話、その方から返ってきたら、
私読んでみたいんだけど、借りられるかなぁ。」

「大丈夫だと思いますよ。ではあの方から
返ってきたら、私が借りておきますよ。」

「ありがとう!」

でもこのとき私たち2人もこの伝説と
あいまみえることとなるとはこのとき
想像もつかなかった。


この初雪のお話があった日から、
週数間後、私とあかねはクリスマスを一緒に
すごすべく、とある駅前の大きなツリーの前で
待ち合わせをしていた。

クリスマスだからだろうか。人通りも多く、
電車の中もかなり込んでいた。

その中で、私は始発から乗っていたからか、
電車の中で座っている。とても暖かく、
最近忙しかったせいか、急に眠気が襲ってきた。
約束の駅まではまだ少し・・・。

そう思ってしまった私はうっかり眠ってしまった。


『ここは・・・』

気が付いたときには、約束の10分前。
私はまだ・・電車の中にいた。
降りる駅はとっくに過ぎていた。

気が付いた次の駅で慌てており、
逆の電車が来るのを待つ。

どう考えても間に合いそうにない。
私は普段はめったに使うことのない携帯電話を
とりだし、ツリーの前で待っているであろう
あかねに電話した。

呼び出し音が鳴りつづけるが
一向に出ない。聞こえてないのだろうか・・。

その間に電車が着いたので、慌てて乗り込み、
約束の駅へと引き返した。


駅に着くと、たくさんの人でごった返していた。
人を掻き分けるようにして、ツリーのあるところへ私は走った。
約束の時間はすでに20分近く過ぎてしまっている。

空からは白い小さなものが降り注いでいた。
今年初めての、小さな精霊だ。

きっと寒い思いをしているに違いない。
私はこの寒い中まっているであろうあかねを思って、
できる限りのスピードで走りつづけた。


「いない・・。」

ツリーの前に着いた私はあたりを見回したが、
どこにもあかねの姿はなかった。
約束した時間からは30分が過ぎている。

あかねは優しいから、少しくらいは遅刻しても
待っていてくれるとは思うが・・・
さすがに遅すぎたのだろうか・・・。
やはり怒って帰ってしまったのだろうか・・・。

私はまた携帯電話を取り出し、あかねに電話をかけた。

しかしやっぱりつながらない。

「・・怒っていらっしゃるのでしょうか・・。」

そんな心の狭い人ではないと信じていながらも、
遅れたのは自分の不注意からだった私は、
かなり後悔していた。

この寒空では帰ってしまっても無理はない。

私は空を見上げ、降りてくる精霊たちを受け止めながら
そう思っていた。

そのとき不意にあのときのご老人の声が頭の中で
よみがえった。

『「彼女に会わせてください!!初雪の精霊よ!」
わしはそう・・必死に願ったのじゃよ。
あきらめずにいて・・よかったよ・・・』

あのご老人は事故で遅れた。いわば不慮の事故。
でも私の場合は・・・。

『・・初雪の精霊はの、優しいのじゃよ。
誰の願いでもかなえてくれる。
信じることが大事なんじゃよ。』


私も信じてもいいのだろうか、初雪の優しさに
甘えても・・・いいのだろうか。

でもあきらめたくはない。あかねは私にとって
唯一無二の存在。そんな彼女を・・放したくはない・・。

「・・勝手なお願いを許してくれますか?
初雪の精霊。もし聞こえているのでしたら、
私をあかねに会わせてくださいませんか・・・。」

私はクリスマスツリーの前でひざをつき、
まるで神に何かを願うように・・・そう願った。

冷たい小さな精霊が私にたくさん降り積もってゆく・・。

それが急にふと少なくなった。
それと同時に何か暖かいものが私に巻かれる。

「・・鷹通さん、風邪・・ひいちゃいますよ。」

優しい声に慌てて顔を上げると、そこには
あかねが優しく微笑みながら、私に傘をさしかけていた。
そして先ほど私に巻かれた暖かいものは・・
あかねが持ってきていたマフラーだった。

「・・あかね・・。」

「ごめんなさい。すっかり遅くなっちゃって。」

「いいえ。遅れたのは私のほうですよ・・。
電車ですっかり眠ってしまって・・・。」

「・・え!?鷹通さん、寝過ごしちゃったの?」

「はい。申し訳ありませんでした。」

「ううん。いいよ、私も今来たところだったから、
こっちこそごめんね。連絡できなくて。
でも・・鷹通さんが寝過ごすなんて、めずらしいね。」

「すみません。」

「いいよ、いいよ。気にしてないから。
それに遅れたのはお互い様だし。」

「そういえば、携帯に電話したのですが、
なかなかつながらなかったので、
私はてっきり怒ってしまわれたかと思っていたのですが・・。」

「うわぁ、ごめん!!じゃぁさっき電話してくれたの
やっぱり鷹通さんだったんだね。あの時出れなかったの・・。
私今日うっかり電車乗り遅れちゃって、あの時まだ
電車の中だったんだけど、すっごい人で、出るに出られなかったの。」

「そうだったのですか。」

「そう、だからさ、ひょっとしたら今日はあえなくなっちゃうかも〜って
思ってたんだけど・・・ほら、さっきから雪降り始めたじゃない。」

「ええ。」

「ちょっと前にさ、鷹通さんから初雪の精霊のお話
教えてもらったから、電車の中から空にお願いしてたの。
「鷹通さんに会わせて!」って。今日初雪だったから、
お願い聞いてもらえそうな気がして・・
遅れたのは・・自分のせいなのにね・・・。」

「・・あかねも同じことを思っていたのですか・・。」

「ってことは・・鷹通さんも!?じゃぁさっき
祈るような格好をしてたのは・・・。」

「私も空に願っていたのですよ。『あかねに会わせてほしい』と・・
遅れたのは自分のせいなのに・・わがままと思いつつ
願ってしまったのです。今日ここで会えなかったら・・・
なんだかずっと会えなくなってしまうのではないか・・
そんな感じがしたのですよ。だから会えて本当に良かった。」

「初雪って優しいんだね。
私、雪降ると寒いからいやぁ〜って思ってたけど・・
今日・・大好きになっちゃったよ。私も今日鷹通さんに会えてよかった!」

そういったあかねは、傘を持ったまま私に抱きついてきた。

待ち合わせの神様『初雪の精霊』は、どうやら
本当にお見えになるようだ。そしてとても慈悲深い方で・・。

『ありがとう。心から感謝します。』

抱きついてきたあかねを抱きしめながら
私は空にいる優しい精霊に心の中でお礼を伝えていた。

ホワイトクリスマスの奇跡。
あのご老人が忘れられなかったように、
また私たちもこのことを忘れられないだろう。

「初雪の精霊」の伝説を・・・・。

fin


<Back Menu


<あとがきと書いて言い訳と読む>
この創作は2002年クリスマス企画部屋のクリスマス創作第2弾として
クリスマス企画部屋に置いていたものです。
読んで頂いてありがとうございます。

鷹通さんの創作はこれが初めてです(^^;;やっと書けました。

この創作に出てきている[初雪の精霊]は、私のオリジナル童話です。
Novelのオリジナルコンテンツ内に置いてありますので、そちらも読んで頂けると
とてもうれしいですし、お話もよりわかりやすくなると思います。

実はこの童話は、童話のあとがきにも書きましたが、数年前に
とあるゲームのSSを投稿させて頂いた時に思い浮かんだネタです。
そのときの頂いたテーマが「雪」でした。それでこんな話を思いついたのです・・・。

今回は「初雪が待ち合わせの精霊だ」というネタだけを生かして、
童話として再構成しました。(当時はジンクスと言う形でただのおまじないでした。)
その童話にまつわるお話としてできた創作がこの創作です。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
感想を頂けると泣いて喜びます(*^^*)