〜12 jewelry tales(12の宝石物語)〜

第一章 ファスタの守り神:アスカ・サーノ(後編)


私たちはアスカさんと一緒に軍に向かって歩いていた。
アスカさんについて歩き始めて少し・・
私は先ほど疑問に思ったことをミアに聞いてみた。

「ねぇミア。このダイナストティアラって
フリーパスだって言わなかった?
これがラレオ王族の紋章だからって・・。」

そうだからこそ先ほどアスカさんも
私にひざまづいたりしたんだ。
私が王族の人間だと思ったから・・・。

「そうよ。だってふわわを売ってたおばあさんも
アスカもみんなそのダイナストティアラを見て
神姫のこと王族だって言ったでしょ?」

「ええ。じゃぁなんでフリーパスのはずの
この紋章を持ってても「軍」に入れないの?」

「それは軍がどこにも所属さない独立した
自治に管理されているからですよ。
ラレオにありながらラレオでない場所。
そうご説明すれば伝わりますか?マリア。」

「ラレオでありがならラレオでない場所??」

「王族に守られているラレオでは、
争いが起きることはあまりありません。
とても平和な世界です。」

「え・・じゃぁなんで軍があるの?」

「予期せぬ出来事に対応するためですよ。」

「予期せぬ出来事?」

「例えば天災とか・・こればかりは、例え王であっても
防ぐことはできません。予測が出来ませんからね。」

「それと軍に入れない事とどう関係あるの?」

「ラレオでは各都市に領主がいます。
普段、天界にいるラレオ王族に変わり
実際に街を動かしているのは、この領主です。」

「え・・ラレオ王族って天界にいるの?」

「そうよ神姫。普段、王族の人間がラレオに
降りてくることはないのよ。」

「じゃぁどうしてラレオ王がこの世界を守っていることが
みんなにわかるの?アスカさんがひざまづいちゃうほど、
権力あるんでしょ?」

「ふふっひざまづくのはアスカくらいよ、神姫。
姿は見えなくてもラレオ王を感じることはできるのよ。
王がいなくなってはこの世界自体がなくなるし。」

「よく・・わかんないんだけど・・。」

「ラレオ王はその特別な力で、このラレオ全体を
支えていると言われています。ラレオ全体の空間そのものをね。
ですからラレオ王がたとえ身近に見えなくても
ラレオ王を感じることはできます。
だからこの世界がラレオ王によって守られていることは、
ラレオに暮らすものは誰でも知っているのですよ。
しかしラレオ王が実際どんな力を使って
この世界を支えているのかは誰も知りません。
それはその力に近しきもの12 jewelry talesの「ラシル」
にしかわからないとされています。
だからラレオ王は特別で、ラレオ王の選出が
特殊なものであるのは納得いきます。
ただ、12 jewelry talesを身を持って知るのは
伝説から推察するに「ラシル」に選ばれたものか、
もしくはファスタ・ラミエル殿のような
伝説に深くかかわるものぐらいです。
だから12 jewelry talesは伝説だと思っているものが多いのです。
私もそうでした。実際マリアに会うまでは。」

「そっか。ラレオ王がすごいのはわかってても
実際には目にしないから・・力はわからないのか・・。
でもよくそんなんで争いが起きたりしないわね。」

「それは先ほども言ったとおり。
領主がきちんと民衆を治めているからです。
その領主というのは、元「ラシル」だった方々の末裔なんです。」

「え!領主が元「ラシル」!?」

「そうです。
領主は民衆でありながらラレオ王族でもあるんです。」

「「ラシル」だった人たちの末裔がラレオ王族!?ねぇミア。
だんだん話しについていけなくなったんだけど・・・。」

「簡単よ、神姫。ファスタのじっちゃんに言われたでしょ?
『12人の宝石を持ちし「ラシル」を探せ』って。
つまりラレオ王になる候補者は12人いるのよ。
でもそこからラレオ王になるのはたった一人。
それを決めるのがダイナスト:神姫の仕事なんだけど、
王になれなかったからといって「ラシル」に力が無いわけじゃ
ないのよ。だから王に一番近い人として元「ラシル」だった
者は、ラレオに残って民衆をまとめる役を担うのよ。」

「でもほとんどの人は12 jewelry talesは伝説だと
思っているんでしょ?その伝説に関わった・・なんて人
簡単に信じるの?」

「信じざるを得ないんですよ、マリア。
「ラシル」である彼らはみな相当の言の葉使い。
普通の民衆では唱えることの出来ない言の葉をいとも簡単に使う。
その人物の末裔ですから、領主一族も言の葉使いなのですよ。
・・・12 jewelry talesは身近でなくても
領主は実際に目にする力ある者です。
12 jewelry talesを伝説と思いながらも、
領主をラシルの末裔と認めることは簡単なのですよ。」

「そうなんだ・・。
ねぇ領主がみんなに認められているのはわかったけど、
それが軍とどういう関係があるの?」

「領主が「ラシル」とはいえ12 jewelry talesがあるのは
60年に一度です。ですから、現在の当主はあくまで
「ラシル」本人ではなく末裔なのです。
人間そんなに寿命は長くないですからね。
次の12 jewelry talesまでは領主は世襲制ですから、
当然その子供が領主につくことになります。」

「それで?」

「必ずしも良い心がけのものばかりが領主になるとは限りません。
街の領主にとって自分の街の不利益になることは、
やりたくないものです。ですから、各街に軍をおき、
そこだけ独立した自治を保つようにして、
災害などが起きた際に不平等にならないようにしているのですよ。
だから王族であっても軍には不可侵なのです。」

「そうなんだ・・。じゃぁ軍は私たちの世界で言うなら
レスキュー隊にあたるのかな・・。
だとすると『軍』って言われるのがなんだかピンとこない。」

「神姫、『れすきゅーたい』ってなに?」

「私たちの世界で『災害救助』をする人たちを
『レスキュー隊』っていうのよ。
私たちの世界では『軍』といったら、他国が攻めてきた時に
自国を守ったりする組織を指すわ。
武力行使に出られたときに戦うのが『軍』なのよ。」

「へぇ〜。」

「でもラレオの軍がそういった役割なら
アスカさんのような人がいても全然不思議じゃないね。」

私は2人の話から、うすうす疑問に思っていたことが解決したのだ。

そう・・こんな穏やかなアスカさんが『軍』に身を置く理由。
アスカさんを追いかけたのは、これが聞きたかったからだ。

「僕が軍に所属しているのが不思議だと思われたのですか?」

「私たちの世界の『軍』からするとアスカさんのような
優しい人が街のお医者さんじゃなくて、軍に身を置いているのが
あんまり似合わないなぁって思ったんです。」

「マリアの世界の『軍』ならまず籍を置かないでしょうね。
争いごとはあまり好きではありませんから・・・。
でもこの世界にもいさかいごとがまったくないわけでも
ないんです。」

「え?でもさっきラレオ王に守られてるから
争いごとが起きることはないって・・。」

「そうです。ですから他の世界から攻め入られることはありません。
ですが・・世襲制であるがために、先ほども言ったとおり
必ずしも良い心がけのものばかりが領主になるとは限りません。
最悪領主間でいさかいが起きる場合があります。
領主間のいさかいは、街同士のいさかいにつながったりします。
軍はそういったいさかいの仲介役も担っているのですよ。
だから一概にマリアの世界で言う『救援隊』というわけでも
ないんです。・・争いがひどくなれば、望まずとも武力行使
しなくてはならないときもあるのですよ。」

「じゃぁ・・どうしてアスカさん『軍』に
籍を置いているんですか?争いごとが嫌いなら・・・
もっと他の仕事だってあったでしょ?
ほら・・同じお医者さんでも、民衆のためのお医者さんとか・・。」

「僕も思ってますよ。軍に身を置くのは似合わない・・とね。
ただ・・軍医じゃないとできないこと・・・
・・そういう医療があるんです。
助けたい命があっても民間の医者だと助けることが
できない・・・そんなこともあるのです。
それに軍医は誰にでもなれる職業じゃないのですよ、マリア。」

「誰にでもなれない?」

「神姫、軍は王族であっても不可侵なのよ。
特殊な場所だからいろいろと機密も多いの。
だから軍医も領主と同じように世襲制なの。
ただ、同じ世襲制でも軍医はそれなりの力を得ないと
継ぐことはできなんだ。だからアスカはすごいんだよ。」

「別にすごくはないですけどね。」

そうか・・軍にはそんな事情があったのかぁ。
私は私の世界で社会人だった。だから当然仕事もする。
確かに仕事は楽しいものじゃない。
いろいろなものを背負って仕事をする。
でも・・この世界ではもっと仕事というものに重みがある
そんな気がした。

「ああ、見えてきました。あそこですよ。
あのテントがたくさん張ってあるところが
ファスタ軍駐留地です。」

「たくさんお話できてよかったです。
この世界のことも少し理解できたし。
ありがとうございました、アスカさん。」

「いえいえ、こちらこそ。
本来なら会えるはずもないダイナストにお会いできて
とてもうれしかったです。私はたいてい軍内に
いますから、呼んでいただければお会いすることはできますよ。
機会があればまたこちらに寄ってくださいね、マリア。」

「またね、アスカ!」

「ミアもお気をつけて。」

そういうと軽く手を振りながら、アスカさんは
ファスタ軍駐留地に戻っていった。

「じゃぁ一度街へ帰ろうか、ミア。」

「そうだね。あんまり遅いとファスタのじっちゃんも
心配するしね!」

そう言って私たちは元来た道をファスタ市街地に向かって
歩き始めた。・・・今背を向けたファスタ軍に・・・
そして・・・アスカさんの元に・・・
もう一度来る運命になることも知らずに・・

つづく・・・・・

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