おまえが俺にうそなんて言わないのは良く知っている。

それでもその話は信じられなかったんだ。

俺の常識・・いや、譲だって知らないと言ったんだ。

だから俺が疑ったこと、悪く思わないでくれよ。




御衣黄桜(ぎょういこうざくら)




「そんなのあるわけないだろ?。」

「あるもん!!私、見たことあるもん!!」

「うそだろ?いくら俺がこの世界に慣れていないって
言ったって、そのくらいの常識は知ってるぜ。」

「本当にあるんだもん!!ねぇ譲くんからも言ってよ。」

「・・・俺もそんな話は聞いたことないですね。」

「え〜〜〜〜〜〜。」


「ほら、園芸に詳しい譲だってそう言ってるんだ。
おまえの見間違いだろ?」

「ぜ〜〜ったい、見間違いじゃないもん!!」

「でもおまえが見たのって・・。」

「確かにその桜を見たことあるのって小学生の頃だけどさ・・。」

「先輩はその桜をどこで見たんですか?」

「修学旅行の京都。」

「京都・・と一口に言っても桜の名所は沢山ありますが・・・。」

「なんとか神社ってとこ。」

「おいおい、
こっちの京には沢山、寺院があるんじゃなかったか?」

「名前まではさすがに覚えてないよぉ・・
・・・確か鳥居の沢山ある神社だったと思うけど。」

「鳥居が沢山・・というと、伏見稲荷のことですか?
・・確かに伏見近辺も桜の名所ではありますが・・・。」

「俺たちのいた京でも『緑色に咲く桜』なんてなかったぜ。」

「あるもん!!ぜ〜ったいある!もう、なんで信じてくれないの?」

「いや、おまえのことを信じてないわけじゃないけどな・・。」

「わかった!!調べに行きましょ!今度の日曜日。
九郎さん、お仕事お休みでしょ?」

「え?い・・いや・・今度の日曜は・・・」

「日曜日は定休日のはずでしょ?」

「いや・・そりゃ、そうなんだが・・。」

「定休日にはお仕事はお休みでしょ?」

「ああ・・確かに休みなんだが・・。」

「じゃぁ決定です!絶対その日は空けておいてくださいね!」

・・・。」

「だって全然信じてくれないんだもん。
あ!そうだ。九郎さん、もし本当に『緑色に咲く桜』があったら、
私の言うこと、何でも一つ聞いてくださいね!」

「え?お・・おい、なんでそうなるんだ?」

「だって、信じてくれないんでしょ?」

「・・いや、まぁ聞いたことないしな。」

「ならいいじゃない。賭けは成立するでしょ?」

「でもそれじゃ得するのはおまえだけだろ?」

「じゃぁもし私の言っていたいことが間違ってたら、
九郎さんのして欲しいこと何でも一つ叶えるよ。」

「わかった。そこまで言うなら来週京都に行こう。」

「俺も、もし本当にあるなら見てみたいですね。
もしあったら写真取って来てくださいね、先輩。」


『じゃぁ、日曜日ね。』


そう言っては自分の家に帰っていった。

「いつになく、強引でしたね先輩。」

の意思の強さは今に始まったことじゃないが・・。」

俺はそっとため息をつく。
そして居候させてもらっている譲には、苦笑で返事を返した。
は確かに俺にうそを言ったりはしない。
の強い意思によって助けられたことも・・・俺は忘れていない。
でもこんな些細なことでこんなに意地を張るのを見るのは初めてで・・
デートの行き先も、自分であまり決めたりしないのに・・。
俺は『緑色に咲く桜』を信じる信じないより、
のいつにない強引さに、今回は頭をひねるばかりだった。



「ほら〜!やっぱりあるじゃない!!見間違えじゃないでしょ?」

・・驚いた。の言っていた桜は本当にあった。

俺とは、この間の真相を確かめるべく京都へと足を運んだ。
俺たちの世界と違って、鎌倉から京都まで3時間足らずで行ける。
そういう意味では何があってもおかしくない世界だが・・。

「しかも・・人工・・とかじゃないんだな。
ちゃんと名前が書いてある。『御衣黄桜』というのか。」

「突然変異で出来た桜だって。ここに書いてあるよ。」

「かなり昔からある桜のようだな。」


その桜は、花びらが薄い緑色をしていて
俺たちの普段よく知っているソメイヨシノとは全然違う。
でもこれはこれで綺麗な花だ。


「やった!これで賭けは私の勝ちだね!」

「ああ。約束したことは守る。おまえの希望はなんだ?」


そう聞くと・・俺のすぐ後ろにいた
突然、俺の背中に『ドン』という音が
聞こえそうな勢いで飛びついてきた。


!?」

「私の欲しいことはすでに叶えられてます。」

「ん?どういうことだ?」

「九郎さん、私たち遠出したの何日ぶりですか?」

「え?」

「九郎さんが頑張っているのはよく知ってます。
でも・・たまにはお休みしてください。」

・・。」


どうしてここまで強引にことを進めたかったのか・・
俺はの本当に望んでいたことがやっとわかった。
確かに最近の俺は、休みを返上して仕事をしていることが多かった。

いつまでも譲の家に居候している訳にもいかないし・・
何より・・をそばにおいて置きたくて・・。


「九郎さんがどうして頑張っているのかも知ってます。
でもだからこそ、無理は・・しないで。」


そう・・京にいるときからはそうだった。
いつも俺を心配して・・突っ走っていく俺を
幾度となく止めてきた。
がいたからこそ・・俺は今、ここにいる。

俺は、一番大事なことをどこかへ置いてきていたのかもしれない。


「わかったよ、。」


俺はの手をゆっくり離し、に向き直り
そのままを自分の腕に閉じ込めた。


「一番大事なのは・・おまえだからな。」


FIN
(後書きと書いて言い訳と読む)

この小説はOffの親友 佐治田 りぃす(Wear Jewelry)の
サイト開設お祝いに書いたものです。
九郎さんを書いたのは初めてなので・・苦労しました(^^;
全然浮かばない・・ってわけじゃないんですけど、
今まで書いたことがなかったので、口調とかを忘れかけていて(^^;
ちょっと手間取りました。たいしたものじゃなくてごめんよ(TT)

読んで頂いてお気づきになったかと思いますが、
これは遥か3ED後のお話です。
まだ十六夜記で九郎さんをクリアしていないので、前のEDを参考にしました。
(ちなみに現在はネオアンジェリークをプレイ中の為、遥かプレイをお休みしています(^^;)
この小説は佐治田 りぃす さまのみお持ち帰り可です!

最後まで読んで頂きありがとうございます。
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