ファーストキスは・・・


普段はあまりしないんだけど。
 たまぁーに、お前が薄い化粧をしてくるときがある。
 何かある日かな?
 そう思ったときは大体、一緒に帰れる日で。

 そんな細かいお前の変化が、俺にとってはすごく嬉しくて。

 結構病気だなと、自嘲がもれる。


 そんな小さなお前の仕草とか、変化とかを探すのが、
何より俺の楽しみなんだ。



「わぁ……今日もすごい……」
「やりだすとつい、手が込んじまうんだよな」
 週に何日かずつ、曜日を決めてお互いに弁当を作るようになって
――結構経った。
 料理は結構好きで、やりだすと止まらなくなってしまうのが彼の性格だ。
 彼女が作ってくる、まるで幼稚園生の遠足のお弁当ではないかと思うほど
かわいらしい弁当とは違って、手の込んだ
本格的なおかずばかり詰まっている土浦の弁当。
 開くたびにいつも彼女は、そんな声を漏らしていた。
「これとか、どうやって作るの?」
「ん? これか? これはまずジャガイモ揚げて……」
 などと、昼食を取りながら二人でおかず話に
花を咲かせることも、よくある。
 不器用とも、器用ともいえない彼女の弁当は、
決してまずくないが、土浦の弁当に比べれば味は落ちる。
 それでも土浦にとっては、彼女の弁当の方が食べたいのだが
――最近特に、彼女が土浦の弁当がいいと言って聞かない。
 いっそのこと、お互いにお互いの弁当を作れば問題ないのではないか、
とはたから見ている者たちは思うだろう。
 それでは意味がないらしい。
 やはり、同じものを食べたいということだろう。
「毎朝、これ作るのに何時に起きてるの?」
「そんなに早くねぇよ。前の日に仕込んだりしちまうから」
「えっ! 前の日に仕込み?」
「ああ。手のかかるものはな」
「……きっと、お弁当屋さんとかになったら、儲かると思うよ」
「そうかぁ?」
 多分、儲からないと思う。
 この弁当は、彼女に食べてもらいたいから作っているのであって。
 それだけ手もかけるし、朝も早く起きる。
 彼女のためじゃなければ、味はこれの半分以下になってしまうだろう。
 さすがにそれは恥ずかしくて言わなかったが、
それだけおいしいと言ってくれる彼女に一つ、礼は言う。
「ありがとな」
「私こそ、いつもおいしいもの食べさせてもらって」
 そういいながら、彼女がふと何かを手に持っていることに気がついた。
「なんだよ、それ?」
 箸でもないし、何か弁当からでたゴミでもない。
どちらかと言うと――ノリみたいな形をしている。
「リップ。食べた後ってどうしても落ちちゃうから、ちゃんとつけておかないと」

 あ、そうか。
 女子たちがこの季節になるとみんな持って歩いてるもんな。
 そう言えば。

 彼女が唇にリップを指につけて滑らせる仕草をじっと眺めていると、
「見てても面白くないでしょう?」
 と彼女は言う。
 いや、結構面白い。
 電車の中とかで化粧とかしてる奴を見てしまうのと、同じ心境なのかもしれない。
 色も何もついてないリップだけど、それをつけただけで印象が結構変わる。


「なあ――香穂。ちょっとこっち向けよ」
「ん? 何?」


 言われるままに彼女が土浦を見ると。

「――っん!」
 手に持っているリップを取り、土浦は彼女に口付けた。
 まるでせっかくつけたリップを取ってしまうように、唇に舌を伝わせる。
「……お前これ、レモン味……?」
 唇を離して、突然何を言うかと思えばそんなこと。
「そうだよっ!」
「……奇妙なもんつけてるな……」
「そんなことないよ。今は匂いとかついてるのが普通」
 少し怒りながら、答えると

「ま……ファーストキスはなんとかって言うから、ちょうどいいか……?」

 少し自分から目線を反らして、頬を軽く染めた土浦はそう言った。

「え……?」
「ほら、リップ取れただろう? つけてやるよ」
「それがやりたかったの? まさか」
「まあ、そんなところ」
「言ってくれれば……」

 しゃべるのをやめて、唇を閉じると、
土浦が指に少しずつリップを取って唇に辿らせる。


「せっかく、おいしい思いできるのに、
素直にやらせろって言ったら、面白くないだろう?」


 確かに、よく考えれば初めてだった。
 彼の隣に自分がいるようになってから、
抱きしめられたりしたことはあったけど、キスはしたことなくて――
 そう考えると――どんどん頬が赤くなって行く。


「香穂?」
「……ファーストキスは、レモン味……だね」
「……そーだな」




 そんな彼女の言葉に触発されて、せっかくリップを塗り終えたのに
また――土浦は彼女に口付けた。


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この素敵な創作は『Loose』管理人:あすな さま のサイト1周年記念で
フリーになっていたものを許可を頂き掲載させていただきました!
あすな さま ありがとうございますm(_ _)m

「金色のコルダ」土浦くん×日野ちゃんですvvv
こんなに早くコルダの創作が読めるなんて思っても見ませんでしたv
しかもあすなさまの創作ですよぉ。私この方の文章がとても好きです。
洗練されていて無駄が無いんですよ。
それでいてきちんと伝えたいことを文章に盛り込まれていて、
どきどきさせられっぱなしです。

 あすなさまv素敵な創作をありがとうございましたvv