<遠い日の約束>


きょうはね、『さんたさん』がくるの。おうちに、ぷれぜんとかかえて。
 『さんたさん』なんて、ほんとにいるの?
 いるよ。だって、わたしのすきなもの、いつもくれるもの。
 じゃあ、いつかぼくも『さんたさん』になって、すきなものあげるね。
 え……?
 ぼく、りえちゃんにすきなもの、あげるよ。



 それは遠い日の約束である。
 私ばかりが覚えている、遠い日の約束。
 もう、彼は忘れてしまっただろう。
 きっと……。
 きっと。



「梨絵ぇ、明日は予定ある?」
 終業式を終えて、通知表をその手に持った友人の一人が私に声をかけてきた。
「え? 明日?」
「そう、クリスマスでしょ? みんなで集まらないかって思って」
「あ、そうか……クリスマスか」
「なにあんた、忘れてたの?」
「うん。ちょっぴり」
 あははと、笑ってごまかす。
 本当は忘れるはずなんてない。
 大切な約束をした、この「クリスマス」という日を。
 いつまでも、この胸に残っている。
 だから毎年待ちわびて、待ちわびて、でも――何もなくて。
「あんたねぇ」
 あきれた友人が軽く私の肩をたたき、ため息混じりに言った。
「本多くんも誘ってあるけど?」
「え……? どうしてそこで、本多くん?」
「あんたと本多くんが付き合ってるって、噂で聞いてるんだけど?」
「ええ!? そんなことないよ!」
 目を丸くした友人の顔が、私に急接近する。
「ホント?」
「ほ、ほんと……」
「なんだ、やっぱり噂は噂ね。おかしいと思ったんだぁ、暁くん一筋のあんたが」
「どうしてそこで、暁の名前が……?」
「だってそうじゃない」
「うっ……」
 思わず言葉を詰まらせて、顔を赤く染めてしまった。
 ――不覚。
 これでまた、私はからかわれる題材を自分から作ってしまった……。
「あ、そうだ。暁くんには断られちゃったのよねぇ。
 なんか忙しいからって言って。今年は大事な用があるっていってたような……」
「――今年は?」
「うん、だって去年は一緒にクリスマス会やったもの。
 でもどうしても今年はだめだって言ってたわよ。
 もしかすると、勉強とか忙しいのかもね」
 言われれば、今年は受験生。
 忙しくて、クリスマス会どころではないのかもしれない。
 「大事な用」と聞いて、少しだけ期待してしまった自分がいた。
 でも……それはきっと違う。
「私も、パス」
「なによぉ、実は暁くんとデートとか?」
「――だと、いいけど」
 はにかんでみせる。
 しかし、友人はそれ以上のことを言ってこなかった。
 もしかするとひどい顔をしていたのかもしれない。



「はぁ。期待しちゃうじゃないの」
 でも、それはしちゃいけない。
 わかってること。
 だからもう――期待しない。
 家に帰って、ご飯食べて、寝て、明日になって、それで……それで。



 きょうはね、『さんたさん』がくるの。おうちに、ぷれぜんとかかえて。
 『さんたさん』なんて、ほんとにいるの?
 いるよ。だって、わたしのすきなもの、いつもくれるもの。
 じゃあ、いつかぼくも『さんたさん』になって、すきなものあげるね。
 え……?
 ぼく、りえちゃんにすきなもの、あげるよ。



「……今の私の好きなものって……なんだろう」
 ふと浮かぶ疑問。
 小さいときは、おもちゃとか、お菓子とか、いろいろと好きなものがあったけど。
 今は――
 今は……

「――暁だよ……」


 約束の幼馴染、そのもの。
 彼がほしいとまでは言わない。
 ただ、私の好きなものといわれたら、それしか思いつかない。
 暁だけが、私の好きなもの。
 きっとあの時から――あの約束の日から、それだけは変わらない。


「……もう、寝よう……」
 家に帰って、本当に思っていたとおり、ご飯を食べて、お風呂に入って。
 今私は自分の部屋の布団に転がっている。
 寝ようと思って、目を閉じた、そのときだった。

 コンコン

「――?」
 窓の何かが当たった音がして、私は布団から起き上がった。
 そして、窓の外を見る。
「――暁!?」
 思わず、声が上がった。
 そこには、確かに暁の姿があったのだ。
 「窓開けて」といわんばかりのしぐさを見せている。
「どうしたの!? こんな時間に!」
「梨絵に会いたくて」
「え? 聞こえない!」
「これから外に出れる!?」
「ちょっと待ってて!」
 私は急いで窓を閉め、コートを一枚羽織ると、そっと玄関から出た。
 すぐそこに、暁がいる。
「ごめん、寒いのにこんな時間に呼んだりして」
「どうしたの?」
「あ、あの……クリスマスでしょ? だから、会いにきた」
「え……?」

 少し照れくさそうに、彼は言う。

「覚えてないかな? やっぱり。
 ほら、約束――すっごいちっちゃいときのだけど……」
「……覚えてるよ」
「ほんと? 僕だけじゃなかったのか。
 あ、でもね、どうしてもわからないんだ。梨絵の好きなもの」

 刹那。
 私は暁に飛びついた。
 それを、慌てて受け止めてくれる暁。

「わわわ…り、梨絵?」
「暁だよ」
「へ?」
「私の好きなものは――暁しかいないよ」

 ぎゅっと、私を受け止めた手に力が入る。
 こんな時間に寒いはずなのに、寒さはどこにも感じなかった。

「僕でいいの? サンタさんが持ってくるクリスマスプレゼントは?」
「暁がいいの」
「そっか……じゃあ、僕ってことで」


 一度私を引き離すと、そっと額に唇と落とす。


「――好きだよ、梨絵」



 きょうはね、『さんたさん』がくるの。おうちに、ぷれぜんとかかえて。
 『さんたさん』なんて、ほんとにいるの?
 いるよ。だって、わたしのすきなもの、いつもくれるもの。
 じゃあ、いつかぼくも『さんたさん』になって、すきなものあげるね。
 え……?
 ぼく、りえちゃんにすきなもの、あげるよ。



 それは遠い日の約束である。
 その約束は、十年後の同じ日に、果たされた。

fin


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<管理人より>
こちらの創作は、私の大好きな創作サイトLoose(管理人:あすな さま)の
クリスマス企画で、オーダーメイドで作っていただいたオリジナル創作です!
転載許可を頂き、こちらに掲載させて頂きました。

古都が出したオーダーは、「サンタクロース」をネタに、中学生くらいの子の
ほのぼのなお話をオリジナルで・・さらに小さい頃の約束を入れてください。
というものでした。こんなわがままに答えてくださった上に、
変なオーダーなのに、こんなに素敵な創作になってプレゼントされるなんて(*><*)
とっても感激しました。とても暖かい素敵な創作です〜〜。
私には同じお題を出されてもこんなに素敵なお話は書けません(TT)

あすなさま、オーダーメイドお疲れ様でした。
また掲載許可を頂けて、とってもしあわせです(^^)
本当に有難うございました!!