<The Voice of Angel>


 聖なる この日に
 空から 天使 降り来て
 我らに 幸いを 告げん
 


「ん〜〜!」
 アンジェリークは、そう言って伸びをするとやけに肌寒い事に気付き、
小さく身震いした。まだ目覚めの時間には程遠い。
どうやら寒さで目を覚ましてしまったようだ。
 何気なく窓辺に目をやって…驚きにその綺羅やかな翠の瞳を丸くする。

「うわぁ、雪……!」

 アンジェリークは寒さも忘れて窓を開ける、するとすぅっと冷たい空気と
共に一片の雪が舞い降りた。

「ホワイトクリスマスだわ!」

 アンジェリークは嬉しさの余り手を外に差し出して、はしゃぐ。
と、その時ふっと窓の下に人影を見つけ、アンジェリークは
そちらを見遣った。
 そして、次の瞬間恥ずかしさの余り、思わず身を竦ませてしまう。

「おはようございます、アンジェリーク。」

 そう、そこにいたのは地の守護聖、ルヴァだったのだ。
 彼はいつもの服装とはやや違った出で立ちで彼女を見上げている。

「ど、どうしたんですか、ルヴァ様!」
 アンジェリークは恥ずかしさで頬を真紅に染めながら、
それでもどうにか彼に問い掛けた。

「朝早くにすみません。その…どうしても
貴方にお会いしたかったものです から。」

「ちょ…ちょっと待って下さい!今行きますから!!」

 アンジェリークはそう言い放つと、慌てて扉を閉めた。
 『ゆっくりでいいですよ〜』という彼の呼び掛けは、
今の彼女には当然聞こえる筈もなかった。

 ルヴァを待たせてはいけない…そう思った
アンジェリークは超特急で支度を済ませ、学生寮の外に出る。

「朝早くから本当にすみませんねえ。」

 ルヴァは、やはり正装ではなかった。
銀色の縁取りのある白い絹のターバンを銀細工で止め、
白いゆったりしたコートに身を包んでいる。
 それは、あたかも司祭のような清廉さで、
アンジェリークは一瞬声を失ってしまう。
(ルヴァ様、とっても素敵。何だかいつもと違うみたい。
私は…可笑しく見えないかな?ちゃんと可愛い女の子に
ルヴァ様の瞳には写ってるかな。)
 アンジェリークは、お気に入りのサーモンピンクのワンピースで、
上に白いコートを羽織っている。
コートを結わえるリボンのボンボンが彼女の胸元辺りで揺れていた。

「あ〜その……可愛らしいですね。」

 ルヴァはそう言ってほんわかと微笑う。
飛空都市にやって来て何もかも知らない事だらけの
アンジェリークを支えてくれたのは偏にこの笑顔だった。
 全てを包み込み、許してくれるような笑顔。
 豊かな知恵に裏打ちされた思いやりある言動。
 少しゆったりしたそのペースも、彼の深慮故なのだという事に
気付いたその時にはもう既に彼に惹かれていた。

「……行きましょう。」
 
 ルヴァはそう言うと、そっとアンジェリークに手を差し伸べる。

「…あ、危ないですから、ね?」

 はにかみながらも自分を労わってくれるその優しさが嬉しい。
 アンジェリークはその白い手をそっと彼に差し出した。
(温かい手…。)
 しっかりと包み込んでくれるその手は少し骨ばっていて、
でもとても頼もしくて。
 二人は、微笑み合いながら歩き出した。

 そのまま二人はただ微笑み合いながら歩き続けた。
 沈黙も、優しく…ちっとも気まずさを感じない。
 本当は、突然の訪問の理由を聞きたかったけれど。
 『行ってみてのお楽しみですよ〜。』と言う彼の一言に、
結局何も尋ねる事は出来なかった。
 
 そうして辿り着いた先は広い草原。但し草原は雪に覆われて、
一面の雪野原になっていた。地平線が見える程の広大さ。
白い雪が光を弾いてそこはまるで光の原のようで。
 アンジェリークは飛空都市にこんな場所がある事を知らなかった。

「うわあ…素敵…広いですね、ルヴァ様!」

 その余りの雄大さに驚いた後、アンジェリークはそう言って
ルヴァに微笑みかける。

「……ええ、本当に。」

 『でもね、見て頂きたいものはこれではないんですよ。』
ルヴァは人差し指を立ててそう告げた。

「じゃあ、何なんですか?ルヴァ様、教えてください!」

 アンジェリークが頭上で微笑うルヴァに爪先立ちで詰め寄ると
ルヴァは少し瞳を丸くして…それから彼女を促す。

「ほ、ほらアンジェリーク…じっとそちらを見ていてくださいね。」

 アンジェリークには見えていなかったがルヴァの頬は
寒さのせいではなく赤くなっていて…
…それを隠すために彼女の視線を反らしたのだ。
 アンジェリークは頷くと言われた通りに視線を景色に移した。
 ヒュウウウゥゥゥ…………。
 一陣の風が二人を通り過ぎて行って…二人が自然と身を寄せた瞬間、
それは起こった。
 サラサラ……キラキラキラ……。
 砂が風に攫われるような音がしたかと思った次の瞬間、
空を光の結晶が舞い散った。

「綺麗……!」

 アンジェリークの横顔に一瞬視線を滑らせると、ルヴァはそっと告げた。

「…これはですね……ダイヤモンドダスト……と言うんですよ。
ダイヤモン ドダストはどうやって出来るかと言いますとね…
…って、私ってばまた余計な事を…。
こんな美しい景色の前に説明なんて要りませんよね。
ええっと…とにかくですねえ…貴方と今日この景色を見たかったんです。」

「私と…ですか?」

 不思議そうにアンジェリークが問うと、ルヴァはクスッと微笑って
彼女のおでこを軽く指で弾いた。

「…今日はクリスマス・イブ。そして、貴方が天から遣わされた日
…でしょう?金色の髪の愛らしい天使が、
この世にいらっしゃった日です。あ〜〜 その…………私の…天使がね。」

「ルヴァ様!?」

 ルヴァの突然の……告白にも似た言葉に、
アンジェリークは思わず手を口に押し当てた。
一方のルヴァはこんなにも寒いと言うのに汗をかいている。

「……私は、ね、正直守護聖になった事を…
…辛いと感じた事もあったんです。今までだって自分の運命だから
敢えて受け入れた……そんな面もあっ たんです。
家族も知っている人も……きっともういないのだと言う事実に
酷く孤独を感じた夜もあります……。
でも、今はこれで良かったのだと胸を張って言えますよ。」

 ルヴァはそうきっぱり言い切ると彼女へと向き直る。そうして、
彼女の白い頬を両手で包み込み…
…それから金色の彼女の髪に優しく手を差し入れて梳かす。
 アンジェリークには考えられない事だった。
膨大な時間が知らぬ内に通り過ぎて行き…
…自分だけが置いていかれる果てしなく遠く重い孤独。
何でもない事のようにルヴァは語るけれども、
きっとそこには想像も出来ないような苦悩があったのだろう。
それを思う時、アンジェリークの胸には激しい痛みが訪れる。

「……ああ、そんな顔をしないで下さい。言ったでしょう?
これで良かった のだと。」

「……どう……してですか……?だって…そんなの…。」

 哀し過ぎる…そう続けようとした彼女の唇を
人差し指でそっと塞ぎ、ルヴァは言った。
彼女を両腕に包み込み乍ら。

「…貴方に会えたから。全てを賭けて愛していける女性を
私は見つけられた からです。だれもがそんな相手に
巡り会える訳ではない…そう考えた時に本当は生まれた時代も場所も
まるで違う貴方とこうして巡り会えた奇跡に
私は……感謝せずにはいられないんです。」

 ルヴァは彼女を抱き締める腕に力を込めた。

「……貴方が産まれて来てくれた事に、ね。」

「……ルヴァ様…私もです。私も…ルヴァ様に会えて良かった!
…私、ずっ とルヴァ様のお側にいますから!
ルヴァ様を一人にはさせませんから!」

 アンジェリークが必死にそう告げると…ルヴァは嬉しそうに微笑んで。

「…今日はクリスマス・イブ…そして、貴方のお誕生日だと言うのに
私の方 がプレゼントを貰ってしまったみたいですねぇ。
貴方のその声はダイヤモンド・ダストの歌声…
…いえ、天使の歌声のように……私に幸せを与えて くれます。」

 ルヴァはそう言って彼女の唇にそっと接吻を落とす。
まるで天使の羽のような接吻を。
アンジェリークは身体の中が温かいルヴァの心で満たされていくのを感じた。

「……私は、もう頂きましたから!最高のプレゼントを…。」

 ――――ルヴァ様の真心を頂きましたから。

「…それでも、ルヴァ様が何か下さるんでしたら、
私に今日のルヴァ様のお時間を下さい!」

「ええ、いいですとも。来年も再来年もずっと
…貴方の誕生日を祝わせて下さい。」

 ルヴァはそう言い乍ら彼女の髪に銀の髪飾りを付けてやる。
 雪の結晶のような、美しさで。
 ルヴァはほうっと溜め息を付くと、もう一度自然に彼女を抱き寄せた。
 ――――ダイヤモンド・ダストの歌声を聴きながら…一緒にいましょう。

 …そうして降りしきるダイヤモンドの輝きの中、恋人達の語らいは続く。
 今日はクリスマス・イブ。
(ソウデスネ)
 そして貴方の誕生日。
(オボエテイテクレテ、ウレシイデス)
 私は女性を喜ばせるなんて得意じゃないですが……。
(ソンナコトナイデス。)
 これからもずっと沢山の景色を貴方に捧げましょう。
(ウレシイデス。)
 そして…そうして積み重なった幸せな時間を貴方だけに捧げましょう。
(ズットソバニイテクダサイ。) 
 これが私が貴方に贈る…クリスマスプレゼントです。
(アリガトウゴザイマス。)
 一生賭けて、貴方への贈り物を作り出しますから。
(イッショウワタシダケノソバニ。)
 

 貴方は 私だけの 天使
 天から 遣わされて
 私だけに 幸いを告げる 天使
 聖なる この日に
 貴方が生まれた軌跡を 感謝します

 Happy Birthday Dear Shoka.


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<管理人より>
この創作はSiesta in Green管理人:谷岡 圭さまより頂いた
古都のお誕生お祝い創作です!!谷岡さまvvありがとうございます。

私が谷岡さまに出したリクエストは「アンジェリーク」『ルヴァ×リモージュ』で
『リモージュ』の誕生日が12月24日のお話を・・・でした。
ちなみに理由は古都の誕生日が12月24日だからです。
とても情景描写が細かくて、ロマンチックな話になっていたので、
とてもうれしかったです。この日を誕生日に持ってしまった私は、
こう言う設定ではまず幸せなお話がかけそうにないんですよ(^^;;
それでわがままを聞いていただきました。

私の誕生日を覚えていてくださった上に、こんな素敵な創作を下さった
谷岡 圭 さまに心よりお礼を申し上げます!!
本当にありがとうございました。m(_ _)m

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