【コール】※みちる視点


明日ははるかと待ち合わせ、水族館に行く事になっていた。
戦士として共に戦う私達だったが、
はるかは時折、私を誘って出かけてくれる。
まるでデートみたいね。

はるかと私は恋人同士では無い。
勘違いされる事は多いが、キスをした事無ければ、触れる事もしていない。

本当は私、はるかに友達以上の感情を持っている。
でもそれは内緒・・・。

私とはるかの関係は微妙なバランスをとりながら均衡を保っていた。
だから私は自分の想いをひたすら隠す。
私の想いが強すぎる事で、今の関係を壊したくなかったから。

はるかの隣にずっといたい・・・。
あなたの側から離れる事になるくらいなら私、自分の心を押し殺しても構わない。
そう、思えるから・・。

だから今日もね、待ち合わせの時間を決める時、あなたに電話をするのをためらったの。
なぜって?
それはね、どこかで待ち合わせる時前日に待ち合わせ時間を決めるでしょ?
その時いつも私から先に連絡している気がするから。

はるかの声が早く聞きたくて、いつもいつも私から連絡をしてしまう。

私、今日こそ自分からは連絡しないわ。
だって毎回私ばかり先に連絡していたら悔しいじゃない。
今日こそ、しびれを切らしたあなたから連絡が来るのを待ってやるの。
そう決めたんだから。

けれど・・・。
夜の9時を過ぎてもはるかから連絡は無い。
私はなんだか落ち着かず、無駄にストラドの手入れをしたり、詩集をめくってみたりして
気を紛らわそうとしたけど、何も頭に入ってこない。

はるかは明日の約束忘れちゃっているのかしら?
それとも本当は乗り気じゃないから連絡してくれないのかしら?
もしかして他のフリークの子達と遊び回って私の事なんて忘れちゃったのかしら?

そんな事を考えながら、私ははるかからの連絡を待ち続けた。
連絡がない事でヤキモキし、心の中ははるかでいっぱいになっている自分に
少し失望しながらも私は待ち続けた。

そんな事をしているうちに、あと10分で当日になってしまうという所までくると、
流石に我慢できなくなり、私は受話器に手を伸ばす。

結局我慢できなくて、連絡をするのは私の方なのね・・・。
あきらめて短縮ダイヤルからはるかの連絡先を選ぼうとした瞬間、唐突に持っていた受話器が鳴り出した。

ビックリした私は思わず通話ボタンを押す。
呼び出し音が鳴った瞬間、1秒と経たない勢いで・・・。

「みちる?」

受話器の向こうからは大好きなはるかの声。
ずっと我慢していた分嬉しくなってしまい、私は喜びを抑えながら平静を装って応えた。

「あら、はるか  こんばんは。あなたから連絡してくるなんて珍しいのね?」
「明日、どうする?」とはるか。
「そうね。11時にいつもの場所でいかが?」

そんな何ともない会話を終え、おやすみなさいと電話を切ろうとした時、
はるかは言った。

「もしかしてみちる、僕の電話ずっと待っていた?」
はるかの言葉に内心ドキッとしたが、悟られないように私は言う。
「・・・なんでそう思ったのかしら?自惚れやさん?」
「だってワンコールもしないうちに君は電話に出たんだぜ?受話器の前で待っていたとしか思えない。
案外君にも可愛らしいところがあるんだな」

電話の向こうの彼女は楽しそうに言う。
全く持って悔しい事だがその通りだった。
でも私は精一杯の虚勢を張りながら言う。
「さぁ、どうかしらね?偶然かもしれなくてよ?まぁ、ご想像にお任せするわ」

「・・・可愛くないな」
電話越しのはるかは不満げに言った。

「でも、明日のデートは楽しみにしているわ。しっかり私をエスコートして下さるんでしょ?」
「もちろんそのつもりさ、君が僕のエスコートに満足しないはずはないよ」
「うふふ、期待してるわ」

そうやりとりをし、私達は電話を切る。

お互いどこまで本気で、どこまで見透かしているのかわからない。
それでも私ははるかの声が聴けただけで満足していた。
ずっと憧れていたはるかと一緒にいられる事が、何より嬉しかった。



                                  END