「手をあぁわせてください、いぃたぁだきます」
「いぃたぁだきますっ」
愁チャンの掛け声に二人声を合わせる‥
と、
「バリバリバリバリッ」
「ギャァァァッ」
少し離れた所に雷が落ち、
愁チャン又々ショートしちゃいそな程の金切り声を上げ、
ボクはドッチに驚くべきか迷ってしまう。
けれど柑チャンは既にばぁチャン特製“油炒め高菜チャーハン”を頬張り中。
それにしても愁チャンの弁当はスゴい。
コレ又ばぁチャン特製三段の重箱。
気分は一瞬にして運動会。
フタを開いた愁チャンも只今までの騒ぎはコロッと忘れ、
中のタルタル・ソースの掛かったエビフライやらケチャップの乗ったミニ・ハンバーグやらに心奪われて居る。
ボクの弁当はノリを巻いたおにぎり三つで、
それぞれの中には幸せにしてくれる何かがギュッと詰まって居る筈。
それから三人仲好く愁チャンの重箱を分かち合い、
ボク達の空間だけは雨上りの様な虹色に成り…
ドレ位だろう、とにかくかなりの長い時間をソノ中で過ごした。
何をしたと言う訳ではナイけれど、何やらミンナ笑って居た。
何も無くても遊べて、脇に逸れても楽しめるノが、ボク達の専売特許。
そして気が付けば外の雨も上がって居て、
更にも一つ気付けば愁チャンの後ろの壁に一見蛾の様な“コウモリ”が留まって居た為、
コンナ反響し易いトコでコウモリも真青なコブタネズミのアノ絶叫を聞かされるノはもぅゴメンなボクは、
二人にソレ内証にし、そろそろ先へ進む事を提案する。
「それじゃ雨も上がったし行こっか」
「あぃ」
「あぃあぃサー」
愁チャンの心もスッカリ晴れ模様。
サッキまでの雨に因り山の斜面や道の傍らからは所々水が流れ出て居て、
サワガニやアオガエルがノコノコと顔を出す。
ボク達はドンドン‥と言うよりユタユタと登って行った。
変わった草が在れば手に取り、綺麗な石が在れば拾い上げ、面白い虫が居れば追い掛けて…。
そしてソロソロ歩くノにも飽きがきて、
ホントに古墳に辿り着けるのか帰り着けるのか疲労感と共に不安感も過り出し、
何時の間にかの下り道を歩き、サラサラと木洩れ日が見え始めた時、
何かが目に付き、愁チャンが叫んだ。
「ぁあっ、シュウのアミっ」
「ウソん‥」
ボクは驚くノと同時にナンかホッとした。
成果はどうあれ、どうやら“宝探し”は終点を迎えた。
「ハハハハ、何コレ…オレ達何しよん?」
柑チャンも解き放たれた様な笑顔を見せる。
「帰ろっか」
大事な虫取り網を引き抜き早速辺りのバッタ追う愁チャンが散らすキラキラの雨粒を眺めながらボクがそう呟くと、
ミンナ納得した。
帰り道、広がる田んぼの横、又愁チャン真中に歩く三人。
落ちる寸前の線香花火の様に蕩ける夕日が山の向うからボク達をホカリと包み、焦げ付いた様なカラスが三羽鳴きながらどこかへ帰る。
「カぁラぁスぅなぜ鳴くのぉ‥」
口遊む柑チャン、そしてその後ろをカラランコロロン自慢げに下駄鳴らし続いて居た愁チャンが、
「あぁしたテンキになぁぁあれっ」
右のソレを飛ばす‥
と、
「ガツッ」
「イテッ」
「ギャッ」
美事柑チャンの後ろ頭に命中。
「バカっ‥愁何しよんっ」
「にぃチャンごめぇん」
キツネコの真骨頂だと言わんばかりに目尻ツリ上げる柑チャンに縮こまる愁チャン。
それでこの日最後の兄弟ゲンカに又ボクが割って入る。
「まぁまぁ許してやったら?だってまだ愁チャン‥
“カぁワイイなぁなぁつぅのコであるかぁらぁよぉ”‥ふふ」
「ハハハ哲チャン、ウマいっ」
「てっチャンうまぃうまぃ」
辺りを見回すと無数のアカトンボがボク達を取り巻き、
三つの影は遠くから漂ってくる優しい夕飯の匂に向かって長く伸びて居た。
夏休み終了五日前、
今日も三人、学校のプールへ行った帰り、先生達の駐車場を横切って居ると、
久し振りのマドンナ先生。
夏休みだと何故か先生も穏やかに映る。
「アラこんにちは、ミンナ日焼けしたわねぇ」
「こんにちはぁ、ボク達先生の言ってた古墳に行ってきたよ、宝探し」
「アラそぅ、で、どぅだった?何か見付ける事出来た?」
「‥ぅうんそれが、ねぇ柑チャン?」
「何も見付けられんかった」
「ホントに?」
「うん…だよね?哲チャン」
「キラキラしたモノ、何も無かった?」
すると突然、
「あった、シュウみつけたっ」
愁チャンが口を開いた。
「えっ?」
「ナンだよ、愁何を見付けたん?」
ボクと柑チャンは驚いて愁チャンを見詰めた。
「何かはよくわかんないけど‥
ナンかキラキラしてた、宝探ししてる時、ずっと」
それでボクのアタマの中は一気にアノ日、アノ朝、
柑チャン達がボクを呼びに来たアノ瞬間まで巻き戻された…。
そう言えばナンか‥
日差の所為トカじゃなく、眩しい一日だった。
いや、ソノ前の日の夜からもうキラキラしたモノに包まれて居た気がする‥
ウチへと帰る夕焼けの中、そして帰った後の御風呂の中、布団の中までも…。
「そぅ、ウマく見付けられたみたいね、見えない輝く宝モノを」
「ん?哲チャンも見付けたん?ぇえっ‥何、何?」
「フフ、柑チャンは大人に成った頃に見付けられるかもネ」
「ぇぇえっ」
「フフフ、それじゃもぅ一つ聞くけど‥、三人の中で一番楽しかったノは誰?」
「ぇえっ」
柑チャン、サッキから“ぇえぇえ”ウルサイ。
ナンにしろ先生のソノ言葉に又想いを巡らす‥‥
と、
「はぁぃ、シュウっ」
又も愁チャンが逸速く手を上げ答えた。
「ええっナンで愁だよ」
一つも答見付けられない柑チャンは、もう全てに納得がいかない様子。
すると先生もアッサリ答えた。
「そぅ、じゃ愁チャンが正解ネ」
コレにはボクもアンマ納得いかなかった。
愁チャン、アンナに柑チャンに怒られたり驚き泣き叫んだりで‥
ホントに楽しめたんだろうか。
それで又も顔に出てしまったのか、ボクをチラリ見て先生が続ける。
「誰が一番楽しいか辛いか幸せか‥
の心は他人でなく自分が決めるものよ。
自分が一番だと思えばソノ人が一番なの。縦え周りにそぅは映らなくても」
「やったぁぁ、シュウがいちばんっ」
確かにソンナ愁チャンを見て居るとコッチまで笑顔に成ってしまう。
そしてふと秋の匂がボク達の間を擦り抜け、
最後に先生が一言。
「でもアソコにはもぅ行っちゃダメよ、ホントは“立入禁止”なんだから。
立て札在ったでしょ?フフフ」
「ウソんっ」
笑い合い見上げた空には、
まだ新品のビニール・シートと絞り立てのソフト・クリーム‥‥‥‥‥。
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