1999年8月15日 尾瀬小屋から燧裏林道・三条ノ滝
5時頃起床。昨夜も前日同様夜中に何回か目が覚めたが、常に雨の音がしていた。
6時に朝食。塩シャケ、生卵、海苔など正統的日本の和朝食で、ご飯をおかわりする。
食後、出発準備だ。雨対策のため、湿ったアンダーウェアを替えて、新しい乾いたものにする。
登山靴が完全には乾いてないので、靴下だけでも新しいものに履き替える。
短パンの上にレインウェアのパンツをはいて、レインの上着はザックにはさんでおく。
念のため、スパッツを着用。
山小屋情報によると、もう大雨の心配はなくなったという。山に降った雨も昨夜のうちに
流れ落ちて、これから増水してくる恐れはないらしい。今日歩く燧裏林道では、「渋沢」の
土石流を心配していたがどうやら大丈夫そうで安心した。でも、一部の沢の徒渉では
くるぶし位の水深があるかもしれないとのこと。
ちなみに小屋の人の話では、尾瀬ヶ原では大雨そのものは心配ではないけれど、雨後の
増水で木道が流失し、孤島化するのが一番恐ろしいといっていた。
8時20分、出発。空を見上げると、所々雲の切れ間から青空がのぞく。でも急にザーと雨が
落ちてきたりして油断ならない。見晴らし十字路を北へ。木道を少し歩いた先が至仏と尾瀬ヶ原
の格好のフォトポイントだ。
今日は湿原の花を見る余裕も出てきた。ミズギク・チョウジギクが多い。ウメバチソウの小さな
白い花も見つけた。サワギキョウの紫色が目に鮮やかだ。コオニユリと至仏のツーショット写真
は、今回の山行のベストショットかもしれない。
![]()
温泉小屋の前で休む。トイレ・売店あり。右手は燧の山裾で、ブナやトチの木の森。「ああ〜、
燧にのぼりたかった」と思わずため息。でも泣く子とお天気には逆らえません。これより少し行った先で段吉新道を分岐し、左へ下る道をとる。始めは木道が敷かれているが、
それがなくなると樋状にえぐれた道となる。昨夜の雨で路面のぬかるみが流されてしまったのか
滑ることはない。でも木の根と水溜りには注意。
クロベ?だろうか針葉樹の大木の先が崖になっていて、クサリの付いた梯子で下る。木の根と
大岩がゴロゴロして歩きづらい。平滑ノ滝に着く。崖のかなり下の方をなめるように流れ落ちている。今日は水量が多いので、
白い波しぶきがいたるところで上がっている。
![]()
ここから更に下っていく。妻と義父はすごい速さで飛んでいく。晴れて暑くなってきたので
私はレインウェアの上着を脱ぎ、ゆっくりとマイペースで下る。ぬかるみや水溜りが多い。
一人取り残されたのを心配して時々義母が立ち止まって待っていてくれたのに感謝。
大橇沢を木橋で渡り、すぐに分岐。ここにザックをデポし、空身になって更に下る。ブナと黒木の
混生林の中、クサリ付きの階段(梯子に近い急降下)を下ると三条ノ滝展望テラスだ。尾瀬の水すべてがここに集まり、流れ落ちているという三条ノ滝。昨夜までの大雨で増水して
いるので、ナイアガラもビックリの大瀑布と化している。茶色に濁った水と白い飛沫で迫力が
三割増になっている。穏やかな湿原と沼の風景の裏側にこのような壮絶な滝が隠されていた
とは・・・。尾瀬にきた人は湿原だけでなく是非この滝を見るといいと思う。
![]()
さて、先ほどザックをデポした分岐まで戻る。通りがかった人の話では、昨夜は見晴の尾瀬小屋
に泊まったが、キャンセルが多くて客は六人だけだったそうな。ここから兎田代まではかなりの急坂だ。悪いことに再び雨が降り出し、次第に強まってきた。
仕方なくレインの上着を着るが、フードを被ると暑くてたまらない。蒸れてメガネが曇る。
さっきまでの晴天で気温が上昇していたのだろう。義父の膝の調子が悪化し、急坂に力が
入らないとのことで、我々夫婦は先に行って段吉新道との合流地点で待っていることにする。これより燧裏林道に入る。傾斜も緩くなって義父も歩きやすいはず。ブナの巨木、トチノキ、
ホオノキやクロベなどの美しい混生林。幹がN字に変形した木や、見上げるほど高い位置に
標された赤ペンキなどで冬の積雪の多さが実感できる。
道はぬかるんだところもあるが、一枚板の木道が敷かれていて、その上を緩やかにアップダウン
して進んでいく。階段状の木道も多い。何本もの沢を渡る。一ヶ所、沢の中を歩くような場所も
あるが、それほど水深は深くなかった。12時30分。一番大きな沢である「渋沢」で休憩・昼食。新しい吊橋が架けられていた。以前
来た時に渡った古い橋が上流の方に今も残っていた。新しい橋に比べると如何にも心細く見える。
橋を渡った所で、先頭を行く義母が何か小動物を発見。オコジョか?リスか?ネズミ位の大きさで
黒っぽい色をしていたという。更に緩やかにアップダウンを繰り返しながら進んでいく。途中で
木道が壊れてシーソーのようになっていたり、グラグラしているところがあり、注意を要す。いきなり、唐突に小湿原(西田代か?)に出る。森を出たので、晴れて陽射しを浴びると暑いが、
静かで心地よい場所だ。時折吹き抜ける風が涼しくて、とても心地よい。池塘にはモウセンゴケ
もあった。
そこから先は森と小湿原が交互に現れる。見晴がきく場所では北から西にかけて会越国境の
山並みが望める。スラブの跡がえぐられて赤い地肌がむきだしになっているのがわかる。
上田代のベンチで休む。ここはキンコウカの大群生地だ。つぼみ状の花と満開の花とがある。
緩やかに傾斜した湿原の先には登れなかった燧岳があるはずだが、ずうっとガスの中。
すぐ近くに見えるのが大杉岳だろうが、そこから会津駒へ続く稜線もやはり雲に隠されている。
標高が低くなっているからか、蒸し暑さを感じてきた。標識にはあと30分とあるので、残った
水を全部飲み干した。もうそろそろ今年の夏の山行も終わりに近づいたのだ・・・。御池から来る人と盛んにすれ違うようになる。ここからはずっと森の中を下っていく。下るにつれ
更に暑くなる。車の音が聞こえてくるといよいよラストだ。幅の広い木道の階段状の下り道では
さすがに疲労がたまってきたのか、足の裏にビリビリと響くような痛みが出てきてペースが落ちる。
まあここまで来て急ぐことはないのだ。14時00分頃、御池に到着。14時30分のバスで檜枝岐へ。今日は「ますや旅館」さんに泊まる。
檜枝岐でも歴史の古い旅館だという。尾瀬小屋のご主人の弟さんが経営しているという。
温泉にゆっくりつかり、山行の疲れを癒す。