いつも文字に接している私たち教師にとっても,もし毎日ノート1ページに文章を書いてくるように言われたら,すごい負担になるはずです。その上,文章の内容や字,漢字の量にまで注文がつき始めたら,嫌いな作文がよけい嫌いになるものです。
日記を書かせるときは,まず「いや〜な作文を子どもたちは苦労して書いているんだ」ということを前提にすることが必要だと思います。そういう目で日記を見ると,どんな文に出合っても,励ましていくこともできます。
そういう前提で基本的には励ましていくにしても,いつも「いいよ,いいよ。」や,「交換日記的な返事」では文は変わりにくいので,いくらか書き方の練習もしていきます。
2学期に一度次のような練習をしました。よくある練習です。
「教師の動きを見て文を書く」
作文用紙を1枚子どもに渡し,
「これから先生の動きを見て文を書きましょう。」
と指示し,その後,教師はほんの少しの行動をします。例えば,
- 戸を開けて入ってきてため息をついていすに座る。
- いすから立ち上がって,花のにおいをかいで帰ってくる。
- 子どもの所に行き,一人の子の頭をなでて帰ってくる。
等々,簡単な動きです。
これを子どもたちに文にさせ,発表させると,ほとんどは簡単な「何々して,何々した。」調の文になります。そこで,みんなの日記はこのように,「ああしてこうしてこうなった。おもしろかった。」というような文になっていることがあるという指摘をします。そして,今の先生の行動について詳しく書こうと思ったらこれくらい詳しく書けるのだという見本を示します。例えば,
- 「戸を開けて入ってきた。」ではなくて,「右手で戸をゆっくりと開け,何だか元気のない足取りで入って来られた。これは先生の身の上に何かあったのだという予感がした。」
- 「ため息をついてすわった。」ではなくて,「ふぅー,と大きなため息をついてくずれるようにいすに座られた。ははーん,これはきっと昨日飲み過ぎて二日酔いになっているのだと思われる。こんな大人にだけはなりたくないものだ。でも,心配しているふりして,一声かけてあげようかな。」
等々,できるだけ多くの「たとえ」や「自分の考え」を入れ,細かく,詳しく,おもしろく書いていくんだというイメージを与えます。
ここがうまくいくと,子どもたちの目が生き生きしてきて,「よし,今度は」という雰囲気になります。
そこで,もう一度新しい作文用紙を渡し,何か簡単な動きをして,「詳しく,おもしろく,考えを入れて」書くよう伝えます。
きっと,ずいぶん前とは違った文体になるはずです。 |
この練習を1回するだけでも,日記に変化が見られるようになることもありますが,そのままだとまた元に戻ってしまいます。そこで,週に何回か日記の「ヒット作」を紹介していきます。私はこれを1年中続けていきます。子どもたちも楽しみにしています。例えば次のような日記です。
「くも」
「うん,うん,早く食べたいんだね。」
ぼくは,学校のある1ぴきのくもにペットのようにえさをやっている。えさにはわるいけど,くもがえさを糸でぐるぐるまきにするのは,もう,美しくて,すばらしくて,だいたんで,すごくて,かっこいい。一度それを見てからあのくもをかいたくなった。名前は,グウだ。なぜなら,いつもえさをやるとすぐとびかかって,おなかがすいていそうだからだ。 |
「焼きいも」
「あぁはやく焼けろ。」
バチバチ夕やけの空のように赤くそまった火の中に,ぼくらが苦労してほったさつまいもをおいた。ぼくは一言,
「おいしくやけろよ。」
それから30分。
「おあっちい。」
「お,うめぇ。」
と言う声で耳がつまりそうだ。なぜならみんなのいもが焼けたのだ。
「ううん,おいしいなぁ。」
でも,帰ってから,ブスー。 |
「HP作り」
「なあ○○ちゃん,ここどうするん。」
ぼくは,HP作りの下書きに大苦戦。友だちは,いる。でも先生がいない。でも友だちに聞けばダイジョーV。心の中でシャベルなペチッ。ぼくは,心の中のぼくをたたいた。そしてわかったからさあたいへん時間がない。でも3行ぐらい書けた。これを次は画用紙にはるだけと言っても1分くらいしかない。ペタペタペタベチョペタペタベチョペタペタベチョ
キーンコーンカーコーン
はった所でチャイムが鳴ったのでギリギリのこぎり。 |
「なぜ」
なんでみんなパンダうさぎだっこせんのんかなー。これは,いっちょもってみるか。
「べつにふつうだけど。」
ぼくは,パンダうさぎを白いさくの入れ物に入れた。そしてきょうふのいっしゅん。手をにおってみた。
「うっうっう〜うんこのにおい。」
たとえると,下がみえなくて鉄板の上を歩いて,つめたいと信じてたけど,とおりきったときには,足がこげてたというかんじだった。そして,みんながさわりたがらない意味をしった。 |
「ホットケーキ」
パカ,パカ。
「ニー。」
2つの玉子がつやつやの目をこっちにむけた。このままでもおいしいのに,これを真ん丸ボールにぽとりと入れて,ついでに小麦粉,牛にゅう入れて,ガガガガガガガガガガガガガガガガガ,とかきまぜる。
そしてジューーーーーとホットプレートでやく。
「うめぇ。」
と食った。
ホットケーキはホットケーキャーええ。
「なんちって。」 |
「ゲーム」
「借りるで。」
そう言って姉は,ぼくのゲームをさらっていった。
「この,クソ野郎。」
と本心はそうだったが,
「いいよ,かりてき。」(青すじマーク)
とその時は,ゆるした。が,あとで考えるとぼくのお金でかった物だ。
と,その時,頭の中で,天使と悪まがけんかを始めた。なんかけんかと言っても,口げんかのようだ。
(てんし)「ま,30分位まちなよ。」
(あくま)「まつじかんが長いのはいやじゃ,はようとりかえせ。」
・・・ぼくの答えは,まつ。
しかし,いかにも長い。それで見ると,姉はもうやめて,歌をきいていた。
「もうかすもんか。」 |
「すごい○○さん」(給食の集いで,調理員さんへ)
○○さんはすごい。なぜかというと,ぼくはしっている。ぼくらが遊んでいるときもつめた〜〜〜い皿をつめた〜〜〜い水であらっている。それにごはんもメチャうま。やっぱし○○さんは,すごい。その中でも肉じゃががおいしい。ホックリホクホクジャガイモににんじんとかいれてあるのだ。
みんなはしらないとおもうけど,まだまだ○○さんには,すごいとこがあるのだ。それは,ごはんがないとき半分ぐらい○○さんはあげている。ぼくだったらガル〜ガルルルル〜〜〜。 |
「先生動き」
「おはようございます。」
「おはよう。」
と思うと,先生は何かに気付いた。だけど日直が先生からといったので,しぶしぶ話し始めている。先生を見ると,ぼくの頭をさわりたくてたまらないらしい。なのでぼくも先生に,
「ぼくかみの毛切った。」
「うんうん。」
ジョリジョリ。やっぱりさわりたかったんだ。ついでに先生は,3回さわった。 |
私は小学生の頃,作文の時間に3行も書けば結論が出てしまって,とても苦労した覚えがあります。隣ですらすらいっぱい書いていく女の子(ちなみにその人は今付属小学校の教諭をしています)を見てはうらやましく思っていました。だから,書けない子の気持ちはよく分かるつもりです。
「何でもいいから書きなさい。」
ではなく,
「こんな風に書いてごらん。」
という例をいっぱい目の前に示していくことが,その子を救うことになると思います。
そして,ほんの少しの変化でも,またはなくても,無理矢理にでも教師が善意に誤解してでも「いいところ」を見つけ出して,ほめて紹介し,自信をつけさせていくことで少しずつの変化が生まれてくるのではないでしょうか。 |