初めて教室に百人一首を持ち込んだのは,今からもう10年位前の1990年頃でした。その時教えた子どもたちは,中学に行って,(小さい地域の学校ですので,小学校のクラスがそのまま中学校でも全く同じメンバーで1クラスになります。)1年生の時から3年間ずっと百人一首大会では優勝したそうです。 その頃私は5,6年の持ち上がりを4回(8年間)繰り返していましたから,最初に送り出した6年生が中3になった時,次に送り出した中1と,百人一首大会では熾烈な戦いをしていたようです。 その3年間優勝したクラスでは,百首の勝負が5分で終わっていました。つまり,一首が3秒で終わる計算です。 朝,職員朝会が終わって,教室に行って,1時間目が始まるまでの間に何試合かできていました。 また,教師がいなくても,ある試合の時に,3,4回分テープに録っておき,(一種類では,次に読まれる札を子どもが覚えてしまうので)それを使って,子どもたちだけで何度も試合をしていました。 5分で百首全部が終わるようになるまでの経過と方法を紹介していきます。 |
1,「取る」より,「聞く」という事 4月,初めて百人一首をする時から,百枚全部を使います。 私としては,この「第1回目の百人一首」が一番好きです。 この時以上遅くなることはないのです。 これから先は,取る速さがどんどん速くなっていくばかりなのです。 一番最初,ゆっくり読みながら,「ああ,これから始まるんだなあ。」という感慨にふけります。 そして,「この子たちにとって,生まれて初めての百人一首との出合いの瞬間に自分が立ち合わせてもらっているんだ。」という喜びを感じています。 ある年に,第1回目の百人一首にかかる時間を計ったことがありましたが,その時は,23分でした。 よく学校でやられているのは,一度に100枚ではなく,20枚ずつぐらいでの勝負だと思います。 確かに,これだと1回の勝負が5分程度で終わり,子どももすぐに覚えていく優れた方法だと思います。 しかし,ものぐさな私としては,これがまどろっこしいのです。 5回に分けて,時期をみながら新しい札と替えていくということがなかなかできないのです。 そして,一度に100枚全部で試合をする一番大きな理由は,
いつもいつも100首聞いている方が長い間には,自然に頭に入っていくのではないでしょうか。 2,一人当たり少ない枚数で 100枚がいいと言っても,普通にやっていては,時間がかかってしまいます。 100枚は読むが,早く終わる方法をとります。 そのために,
100枚を5つに分け,20枚だけで行う場合でも,1対1ですれば,一人の机の上には,10枚札が並んでいるわけですから,この「4人で50枚」方式でいけば,一度に100首を読んで勝負をしても,「探して取る」ことに関する時間では,大して20枚だけでの百人一首と変わらなくなるのです。 4人にとっては,100枚のうち半分の50枚が机の上にありますから,読まれる札のうち2回に1回は取り札がある確率になります。 3,オートマチックで総当たりに 試合のルールとしては,
チームの作り方は,最初は,各班で2人組を作らせたり,出席順で分けたり,色々あると思います。 チームができると,チームの名前を決めます。 私は,単純にアルファベットにしていました。 チームで対戦をしていくとき,私は,2通りの方法をとっていました。 その1つが総当たり戦です。 これは,1枚表を教室に貼っておくだけで,オートマチックで次々と子どもたちは対戦相手を見つけて,自然と総当たりになります。 その表とは,次のようなものです。
これは,12人で6チームの対戦表を表しています。 6チームですから,AチームからFチームまでになります。 そして,1回戦では,AはBと,CはDと,EはFと試合をすることになります。 2回戦では,AはCと,BはEと・・・というようになります。 子どもたちにこの表の見方を最初に一度説明しておき,教室に貼ります。 「百人一首をします。」 と教師が言うと,子どもは,机を4人ずつ合わせます。 「第1回戦を行います。」 で,子どもたちは,チームごとに表を見に行って,1回戦の相手のチーム名を呼び合います。 そして,相手が分かったら,どこでもいいからチームで向かい合って座ります。 もし,ここで座る場所のことで,いざこざが起きるようでしたら, 「はい,今日はこれで百人一首を終わります。算数の用意をして下さい。」 等,にこやかに言って, 「えー!」 などの声を無視して,すぐに問題を始めます。 途中で一言, 「お互いの幸せのために,時間の無駄になるようなことは,やめましょう。席がどこであろうが,相手を見つけたら,空いている所を見つけて,今度からは早く座って下さい。今日は,残念でした。」 ぐらい言うこともあります。 次からは,とにかく早く座るようになります。 札は,置き場所を作っておいて,そこに50枚ずつ輪ゴムでくくって置いておきます。 2組以上の札を使う場合は,色分けしておくと,混ざった時,分別しやすいと思います。 対戦相手が分かった組からその札を取りに来て,輪ゴムは,そこに置いて(輪ゴムごと持って帰ると,ゲーム中に落としたりして,返す時探したりすることで時間を取るのです)札だけ持って帰り,片方25枚ずつ並べます。 並べる時,話していたり,得意札を選んでいたりして,時間がかかることがあります。 そういう組は,全部並べるのを待たずに,ゆっくり初めの一首を読み始めます。 普通は,これくらいで,早く並べるようになります。 こうして,1試合が終わると,教師は, 「第2回戦を行います。」 と言うだけで,子どもたちは,表を見に行って,新しい相手を見つけて,同じように用意します。 4,飽きないように 私が,病休で3ヶ月ほど休んで復帰した時,百人一首をしようかと言うと,子どもたちは, 「もういい。飽きた。」 と言ったことがありました。 3ヶ月の間,代理の先生が百人一首も時々して下さっていたようでした。 ただの遊びですから,まあ,飽きたらしなくてもいいとは思いながら,まあちょっとやってみよう,とやってみると,本気で取るのです。 どうも,読む速さ,進める速さに問題があるようだと思いました。 代理の先生は,本物のテープを使われていたようでした。 これは,もう,すごーく遅いのです。 しかも,下の句を全部2回ずつ言うのです。 これでは,間があいて,次を待つ間が退屈になってしまうのでしょう。 私は,上の句を読んでいて,全員が取ってしまうと,すぐやめて,次の札を読んでいきます。 とにかく100首ですから,できるだけ時間を節約していきます。 そして,毎日やっていれば,当然飽きてくるはずと思って,ゲームの途中で必ず,短いコメントを入れるようにしています。 例えば, 「○○さんの取り方を真似してみます。」・・・・・「バチーン!!」 と,一人ひとりの様子を見ていて,特徴のある所を大げさに真似してみたり,読み札を読む口調と同じ抑揚で, 「○○君,お手つきしても,知らん顔。」 等,笑える場を作っていきます。 また, 「○○さん,連続で取りまくっています。すごいです。」 等の盛り上げもしていきます。 朝の最初で,教師も調子の出ていない時間帯ではありますが,そこを無理矢理,まず,こちらが「High」な状態になって雰囲気を作り出していきます。 5,毎日一首ずつ 子どもの中には,百人一首に強い興味を持つ子もいますので,百人一首の読み方もつけてある分かりやすい百首の一覧表を冊子にして全員に一応配ります。 ただ配って終わりですが,好きな子は,それでどんどん覚えていきます。 また,毎日1首ずつ覚えていくこともします。
子どもが家に帰ってきて,何やら難しそうな短歌を唱えていれば,家の人も喜ばれます。 朝の百人一首では,その日覚えた百人一首をまず一番最初に読むこともします。 それも,最初の5文字だけで止めます。 子どもたちは,頭の中で続きを唱える体験を自然に,必然的にしていきます。 そのうち,上の句の5文字の次に下の句の最初の言葉が結びついていくようになります。 1日1首覚える取り組みを始めたら,毎日必ず続けていきます。 最初のうちは,なかなか覚えられないものですが,リズム感がそのうち身についてきて,一ヶ月もたてば,加速度的に覚える早さが速くなってくるものです。 6,時間を計りながら 授業を「授ける」側になっている時は,1分の延長は,何ともないものです。 しかし,授業を「受ける」側になってみればよく分かるのですが,「1分の延長」は,辛いものがあります。 百人一首も,実際にゲームに参加してみれば,分かってくることがあります。 ある1首でどちらかが取れば,もう気持ちは,次の1首の読み始めを待つばかりです。 そんな時に,最後までゆっくり二度読まれたり,その短歌の説明なんかされたりしていると,燃えかけた闘志がブツブツと切断されてしまいます。 取る方にとっては,どんどん次を読んでもらうだけでいいのです。 また,教師の方も,1時間目の授業に食い込むようなことはしたくないので,早く済ませたいと思います。 100首全部読む時は,ちょっと気をゆるめていると,1分や2分はすぐ違ってきます。 そこで,ストップウォッチを用意し,時間を計りながら読んでみます。 すると,何分で終わるか教師自身気にするようになります。 昨日は,何分かかったが,今日は,何分でできた。 と,記録更新をついねらってしまうものです。 すると,いらないことはせず,どんどん読むようになります。 結果,子どもも,教師も助かる,ということになります。 ただ,途中の様子を見ていて,退屈そうにしていたり,大差で負けているチームがある場合は,それなりの対処をしていくこともあります。(笑いの場の設定や,そこから逆転できたら名人賞!とか・・・) 7,もう一つの対戦方法 二人チームでのゲームにしたのは,100枚を短時間で終わらせるための手段ではありますが,もう1つは,ゲームに負けた場合のショックの大きさを和らげる効果もあります。 勝った時の喜びは,一人の方が大きいかもしれませんが,それより,負けたとき,それもずっと一人では負け続けてしまうような子がいる場合は,チームにすると,相方のおかげで勝てることもあったり,負けても責任が半分で済みます。 「一人で勝つ」喜びより,「負けても二人」の方が,特に百人一首を始めた初期には,効果が大きいと思います。 負け続けることで,一人でも,「ああ,また百人一首か・・・」のような思いはさせたくないと思いました。 「総当たり」にしたのも,勝ち負けが次の試合相手や,形式に全く関係ないという形にしたかったからです。 しかし,「遊び」には,勝つ喜びを味わう,ということも大いに大事にするべきだと思いますので,各自の県内一周,日本一周や,世界一周表を作り,勝ち星だけ国や都市をシールを貼って進んでいけるようにしたこともあります。 今は,ポケモンゲット方法等をしています。 総当たりが全部済んだら,組替えを行います。 長い間同じチームというのは,二人の相性もあるので,避けるようにしています。 組替えの方法は,勝ち星の数の順に一列に並ばせて,一番後ろの子と一番前の子でチームを組むようにしていきました。 新しいチームをつくった時は,向かい合わせて,ペアの子と握手をさせ,その場でA,B,Cのチーム名をはっきりさせていきます。 総当たりの表は,チームの数によって,試行錯誤しながら試合が重ならないように作っていきます。 しばらく,この方法で続け,子どもたちが慣れてくると,もう1つの対戦方法をとります。 いわゆる,勝ち抜き戦です。 これは,前の過保護的な方法より,迫力が出てきます。 例えば,24人の学級では,4つの机を合わせた対戦場所が6場所できます。 チーム対抗で試合をし,勝ったチームは,1つ隣の場所に移動し,負けたチームは反対の方向に移動します。 一番端の場所で対戦して勝ったチームは,その場所にずっといられることになります。 負けると,どんどん場所をその反対の方向に動いて行くことになります。 そして,一番端の場所に移動して,そこで負けてもずっとその場所で対戦するということになります。 そして,しばらくその対戦を続け,ある時,その動きを反対にします。 つまり,一番負けていたチームが一番勝っているという場所にいることになります。(これは,向山氏の方法を参考にさせていただきました。) 8,読み方のバリエーション 朝,職員朝会の後,お茶を飲んで話をしている時間があれば,その間に,教室に行って,百人一首の1〜2試合はできます。 ほんの少しの隙間時間で,毎日やっていきます。 すると,段々取る速さも速くなり,得意札もできてきます。 朝,1首を覚える時には,簡単にその意味の説明もして,イメージをわかせると,より覚えやすいようです。 このようにして,2,3ヶ月続けてくると,時には,上の句を読む代わりに,その句の意味だけを言ったり,その作者名だけを言うことで下の句を取ったりしていきます。 それまでに,時々は,まず作者を言ってから上の句を読んでいくこともしています。 最近では,今,社会の歴史学習で,平安文化を学習した後ですので,紫式部や清少納言で取るということもよくしています。 大化の改新の前後は,「天智天皇」で取ります。 または,「大化の改新」と言うこともあります。 当然,「む,す,め,ふ,さ,ほ,せ」は,1字だけで済むようになっていきます。 また, 「かささぎ」は「白い」 「かぜそよぐ」は,「みそ」のニオイが・・・で「みそぎぞ」!? 「淡路島」には「行くよー」 「あいみて」はもうこれは,乙女心をくすぐる説明で「昔は・・・」 等々,上の句の最初と下の句の最初を関連づけていくと,速く取れるようになっていきます。 そして,上の句を読む時は,最初の5文字で少し間を入れるようにしています。 下の句が読まれるまで待っていては,先に取られてしまうという状況が出始めると,自然に上の句5文字で,もう下の句を探す習慣に全体がなっていきます。 9,おわりに 以上のような経過で,3学期には,5分台で100首が終わるようになっていくはずです。 もう,教師は,読みっぱなしです。 ここまでくると,百人一首も,立派な,反射神経を必要とするスポーツとなっています。 参観日などにすると,家の方もびっくりされます。 しかし,これは,あくまで「遊び」なんだというぐらいの気持ちで,いやがる子がいたら,いつでも止めていいと思ってきました。 実際,一時期,そういうことがあって,止めていた時もありました。 また,ゲームの中では,様々な事件も起きてきますが,これは,お互いの本性を出し合い,また,それを道徳的に考え合っていけるチャンスととらえ,その場その場で解決したり,評価したりしていきます。 そして,負けても,悔しがるだけでなく,相手を称えたり,自分を笑える経験もさせていけることができると思います。 九九を教えてもらった先生は忘れても,百人一首をさせてもらった先生は,子どもたちは覚えているようです。 百人一首をした事自体より,その中で笑い合った思い出が後に残っているのではないかと思います。 あまり,百人一首そのものに本気にならず,ゲーム中の様子のおかしさに目を向けていくことが長続きするコツのように思いますし,短歌の意味なんか分からなくったって,そんなもの高校の先生が教えてくれる,ぐらいで気軽にやっていけばいいのではないでしょうか。 |