割合を使って
(5年生)

 「割合」を使う問題はワリアイ難しい・・・と,今年も言ってますか?

 割合を扱う問題に取り組む時は,まずこちらがしっかりとした覚悟を持っていなければなりません。それは「子どもの苦労をゆったり受け取ろう」という覚悟です。
 
 今年も覚悟が役に立ちました。その授業記録風展開例を紹介します。

 啓林館の教科書に次のような問題があります。

 5年生全体は140人で,むし歯にかかった人は50%います。
 そのうちの80%の人は,ちりょうが終わっています。
 ちりょうが終わっている人は何人でしょう。

 すぐに教科書を見てしまってはヒントがありすぎます。
 そこで,教科書は綴じさせて黒板に問題の一部を書いてノートに視写させます。(休憩時間に黒板に書いておきました。)

 5年生全体は140人で,むし歯にかかった人は50%います。
 そのうちの80%の人は,ちりょうが終わっています。
 

 指示1「このままでは問題になりません。これに後1文を付け加えて問題にして下さい。

 普通は全部写させて,隣同士で問題の意味を説明したりするのですが,このように最後の部分を予想させることもあります。これは,「何を求めるものにするかを考える」ことで自然に文意全体をつかむことになるだろうと思ってのことです。

 次に問題の中にある要素をききます。

 発問1「ここにはどんな量が出てきますか。」

 「量」の意味が分からない子がいるときは,
「例えば 5年生全体の人数 とか。」
と補充します。

 問題の最初の方から順に言ってね,ということで,次の3つを板書します。そして一言「なぜこの順で書くかは後で分かってきます。」と伏線?を敷いておきます。

 全体     むし歯     ちりょうずみ

 発問2「この中で一番人数の多いのはどれでしょう。」

 子どもたちは素直にまず「全体!」と言いました。そして次に多いのが「ちりょうずみ」で最後が「むし歯」となることがあります。このように違っている場合でも言った通りに人数関係を表す図を描いていきます。

全体     むし歯     ちりょうずみ


 むし歯にかかった人が50%で,ちりょうが終わった人が80%とあるので,こういう数量関係だと思ってしまう子が必ずいるはずです。
 ここで,誰かがこの図の間違いに気づいてくれたら訂正していけますが,誰も気づいてくれない場合は教師の方から疑問を出します。

 疑問1「へー!?(黒板の図の「むし歯」を指して。)ここはむし歯にかかった人でしょ。(次に「むし歯」以外の「ちりょう」の部分を指して。)で,ここはむし歯にはかかっていないけど治療をした人なんですね?う〜ん・・・むし歯でもないのに・・・治療をした・・・か。よっぽど歯医者さんが好きなんだねぇ〜。」(覚悟があるからゆとりを持てます。)

 などと不思議がりながら,どうにかして子どもたちから「むし歯にかかった人のうちの80%が治療をしているということ」「だからむし歯にかかった人の方が治療をした人より多い」等の説明を出させたいところです。(割合がワリアイ難しいところその1です。)

 線分図で人数関係を確認した後,これを関係図で表すよう指示します。実態によっては教師が子どもたちといっしょに問題文を読みながら,黒板に書いていきます。

0.5倍 0.8倍
全体
むし歯
ちりょうずみ
140人 □人

 ここから自力解決をさせるのも1つの方法ですが,そうすると時には数字どうしを何となく計算して偶然答えを出している「答えは合っているけど説明ができない」子も現れます。そこで,この関係図から,どういう考え方で答えを求めていくかという見通しを言葉で説明するよう求めます。ここが「論理的な思考力」を育てるところだと思っています。

 発問3「ちりょうした人数を求めるにはどういう考え方をしていけばよいでしょう。例えば,全体の人数からむし歯にかかった人数を引けば,むし歯にかかっていない人数が分かるから・・・というような言い方で説明して下さい。(クラスの実態によっては,全員起立させて,思いついた子から座らせて,ノートにその考えを書かせていきます。どうしても思いつかない子もいるので,ある程度の時間が経ったら座らせます。)」

 実際にやってみると,2通りの方法が出されました。
 まず最初に出されたのは,

全体の人数を0.5倍して0.8倍するとちりょうした人になるでしょう。0.5と0.8で1.3だから140人を1.3倍すればいいと思います。

 この次に出されたのが,

全体の人数を0.5倍してむし歯の人の人数を出して,それを0.8倍すればいいと思います。

という考えでした。
 そこで,それぞれの考えを全員で確認しながら,黒板に式にしていきます。

(ア) 0.5+0.8=1.3
    140×1.3=182 
                   182人
 
 

(イ) 140×0.5=70
    70×0.8=56

                     56人 

 ここで,「アレッ?」とようやくおかしいことに気がついてきました。
 もし違うとしたらどちらだろう?ときくと,(ア)の方が140人より多くなっているからおかしいと言います。しかしなぜおかしいのかは分からないようでした。(割合がワリアイ難しいところその2です。)

 もし説明できる子がいれば,なぜ違うのか説明させていきます。しかし,行き詰まってしまうこともあります。そこで,「例えば,2倍して3倍すると何倍になるの?」ときくと5倍と答えるはずです。これだからなぜおかしいのかが分かりません。

 これは根本的な部分です。2倍の3倍は6倍になるというのは3年生で学習します。しかし,いくら以前に学習していようと,つい5倍と考えてしまう子が必ずどこにもいるはずです。
 実態が3年生段階ならば,そこからまた始めていきます。
 そこで,「10円の小遣いを2倍してもらって・・・」と3年生に説明する図を描いて説明します。ここも覚悟のいるところです。
 もし説明できる子がいればその子にやってもらいます。


 これでようやく2倍の3倍は2×3で6倍となることを納得します。
 ここまでが納得できて,計算をやり直してこの問題は終わります。後は同じような問題を(ア)(イ)2種類の方法で解いていかせます。
 
 量の関係を読み取り,関係図を作るまでに苦労があり,次に関係図から解き方を考える苦労があります。この中に様々な分かれ道があり,ゴールまで全員でたどり着くのは容易ではありません。時々予想外の様々な思考の迷いが見られることもあります。こういう時「えっ?」ではなく「そうきたか」と受け入れていける覚悟を持ちたいものだと思っています。