HERO

 卒業式の日の朝,学級朝会で最後に話した内容です。

(まず黒板に次のように書きました。)

HERO

HEROINE
 
 これ,ヒーローとヒロインと読みます。どちらも英語で「主人公」という意味です。男の場合はヒーローと言い,女の場合はヒロインと言います。
 
 今日の卒業式では卒業生が主人公になります。6年生の一人ひとりがみんな主人公となるのです。この卒業式はその6年生のためにみんなが準備してきました。この前誰かさんは,
「卒業証書だけもらえたら,後はなくてもいいのに。」
なんて言っていましたが,今日まで準備してきて下さった人たちの気持ちに応えるためにも,しっかりした態度をとってほしいと思います。

 「しっかりした態度」とは,例えば入場,退場で歩く時の姿勢のことです。今まで練習してきたように,背筋を伸ばして,しっかり前を見てゆっくり歩いていきます。みんなの中には,こういう歩き方が何だかカッコをつけているみたいでいやだなァと思っている人もいるかもしれませんね。
 でも,例えばみんなの好きなマンガの「最遊記」(私は見たことはないのですが,子どもたちの話によると,「西遊記」を基にした全く現代的なニヒルなマンガのようです。)に出てくる主人公たちがしっかりした歩き方をしていて,もし人に「カッコつけてるなぁ。」とか言われたとしたら,何と答えると思いますか?
 先生が想像するに,きっとマンガのヒーローたちなら,
「オレは自分のために歩いているのさ。」
と答えるのではないかと思います。

 みんな,自分の人生では,自分がそれぞれ主人公なのです。(昔,こんな歌がありましたね。)みんなには,自分の人生は自分が主人公として,しっかりした歩み方をしていってほしいと思います。今日の卒業式で入場するときは,カッコをつけるためではなく,自分のためにしっかり歩いていくんだという気持ちを表してみて下さい。

 あの,ちょっと念のために言っておきますが,「自分のために歩く」と言っても,例えば自分が急いでいる時,近くで人が困っていても「私は自分のために歩くんだ!」と言ってそのまま行ってしまうという意味ではないんですよ。自分は急いでいても人が困っていたら,自分は損をしても人のために役に立つことをする。そういう美しい生き方をしようとすることが,本当の「自分のためになるんだ」という考え方です。損をしているようで,本当はそれで人間として得をしているんですよね。

 ヒーローだったらどうするかという話をもう少しします。
 中学にいくと宿題も多くなります。例えば英語の先生が「単語の意味調べを5ページしてくること」という宿題を出したとします。普通の人なら,ここで「エ〜ッ!!」とか「多すぎる!」とか文句を言って,2ページしかしなかったり,いい加減にしたり,やらずに来たりすることもあります。
 しかし,ヒーロー,ヒロインの場合は違います。5ページと言われたら,6ページやって提出します。そして,それを見た先生が「アレッ,6ページもやったのか?」と言ったときに,
「先生,5ページはちょっと多いんじゃないですか。」
と言って去って行く・・・。
 こんな感じです。(実際には,6年生の一人ひとりについて,その子の癖を真似して,その言い方と仕草で全員分パターンを変えてこのセリフを言ってみせました。これは相当受けます。)

 ヒーローは,ちょっとしんどい要求などに対して,当たり前のレベルの低い,普通の答えを出さないのです。その問題を飛び越えるような価値の高い行動でお返しをしていきます。中学になると反抗期にもなり,いちいち先生の言うことに対して文句をつけるようになる人もいますが,そういう人は絶対ヒーローにはなれませんね。しんどいなと思ってもそれを上回るような行動をすることで要求もしていく。これがヒーローです。
 みんなには,いちいち目の前の小さなことばかりに気をとられない大きな人間になってもらいたいと思います。ヒーローは,目の前のものを見ているようで,実はずっと先の大きな自分の夢を見ているのです。だから小さなことは気にかけず乗り越えていきます。
 
 今日の卒業式はそういう自分になる第一歩です。入場するときの一歩一歩は自分が自分の人生のヒーローになるための一歩だと思って歩いて下さい。こそこそせず,いばりもせず,すっきりしたきれいな歩き方をしてみて下さい。
 そして,旅立ちの言葉を言うときは,きっぱりはっきりと大きな声で,しっかり前を見て,目は反対側の壁を見ているようで,実はずっと先の大きな大きな自分の夢を見ている目をして,力強く語って下さい。
 今日の卒業式が,小学校最後の授業となります。