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 いつもおもうことだが,「文学賞受賞作」というものは,どうしてこんなに面白くないのだろうか?
 職業評論家や選考委員の大家が,もってまわった言いまわしで絶賛していても,読む側には少しも訴えてこない。人間の心理や行動をまるで顕微鏡で見るようにこちゃこちゃ描写ばかりしていて,全然ストーリーの発展がない。
 小説のおもしろさというものには,各人各様の好みがあることはわかっているが,一般読者は,そんな難しいものを求めているわけではないだろう。小説というものは,読む習慣を身につけている者なら,だれにもわかるものでなければならないと,彼女はおもっている。
 ストーリーのまったくない,なにやら「意味深」な深刻ぶった文章だけを連ねている小説に,どんな意義があるのだろう?
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                     森村誠一「砂の碑銘」より