水泳

 ある日,保護者の方から,「今年の夏休みに子どもがとてもきれいに泳いでいるのを見てびっくりしました。」という話を聞かせてもらったことがあります。

 水泳指導ではある年から,練習のステップを今まで以上に細かく分けて指導していくようにしました。そして,その年は全員が25メートルをクロールで泳げるようになったのです。後にスイミングクラブでもよく似た方法で練習していることを知り,安心した覚えがあります。

 また,平泳ぎをさせると,ほとんどの子が足の甲で水をけっているのが気になっていましたが,なかなか改善できずにいました。これもこの何年間はどうにか直せるようになってきました。

 それぞれの方法をできるだけ細かく紹介します。
 一つ一つのステップを確実にできるまで何度も行います。最初の段階を丁寧に行うことで,最後のクロールの形もゆったりとしたきれいなものになります。


クロール
[水に慣れる]
1,顔を水につける。
2,頭全部を水に沈める。(水から頭を上げた時,手で顔をふかないようにさせます。グループで手をつないで行う方法が有効ですね。)
3,頭を水に沈めて,口から息をはく。(慣れてくると鼻から出しますが,慣れていない子は鼻を使うと,鼻に水が入ることがあるのです。)
4,頭を水から上げる時,できるだけゆ〜っくり上げ,顔をふかない。(以後,いつでも水から顔を上げた時顔をふかないことにします。)
[浮く]
5,ふし浮きをする。難しい子にはビート板を持たせる。
6,ふし浮きをできるだけ長く続ける。(口から息をはきながら。)
7,プールの端からけのびをする。
8,けのびでできるだけ遠くまで行く。(バタ足をしない。)
[バタ足]
9,けのびをし,バタ足をつけて遠くまで行く。(手は伸ばしたまま。)
10,プールの横(短い方)を顔を水につけたままバタ足だけで進む。苦しくなったら途中で立ち,そこからまた進む。
11,できるだけ立つ回数を少なくしていく。
12,水に体を浮かすことに慣れてきたら,ビート板を持って(板の前に手をかけ顔を上げたまま)バタ足で縦(長い方)を往復する。途中で足をつかないようになるまで何回も行う。(足の甲で水を後ろに押すこと,膝は柔らかく使うことなどを一応は説明しますが,何度も何度も往復させているうちに段々とコツをつかんでくるものです。この時,決して顔を水につけて適当な息継ぎをするようなことはさせません。特に顔を前に向けての息継ぎはこの後のクロールの息継ぎの形を悪くするので禁止します。)
[手のかき](ビート板を使って)
13,水の中に立った状態で,ビート板の後ろを両手で持って腕を伸ばし,片方ずつクロールの手の動きの練習をする。
14,13の方法で,水をかきながら歩いてプールを往復する。(手を大きく回し水から上にしっかり出すことに注意させます。)
15,ビート板を持ち,バタ足をつけて13の方法で片方ずつ手を動かしながら泳ぐ。顔は水につけて,苦しくなったら立ち,またそこから泳ぐ。息継ぎは決してさせない。(この時も一番注意するのは,水から上に手を出す時にしっかり出して大きく回すということです。もし,手が水からはっきり出ない子がいたら,片手はビート板を持たせ,片手は真っ直ぐ水から上に出させたままバタ足で泳がせ,「手が水から出ている状態」の感覚を覚えさせます。)
16,プールの横(短い方)を,できるだけ立つ回数を少なくする目標を持って泳がせる。もし一度で泳ぎ切ることができる子がいたら,長い縦の方に挑戦させる。
[手のかき](ビート板なし)
17,プールの外で,両手を伸ばして頭の上で手を重ね合わせ,片方の手は伸ばしたままにしておき,片方が回転してきて手に当たってから反対の手を回すというリズム(このリズムを身につけることが,きれいな泳ぎの基本になります。)を練習し,その方法でビート板なしの面かぶりクロールで横を泳ぐ。横を一度も立たずに行けた子は縦に挑戦させる。
[息継ぎ]
18,水の中に立ち,顔を水につけ,水から顔を上げた時「パッ」と声を出してすぐに息を口からはく練習をする。
19,あわてずゆっくりした息継ぎができるようになるために,プールサイドを持ち,腰を曲げて顔をつける方法ではなく,膝を曲げて真っ直ぐ下に体全体を沈めていく方法で頭を全部水に沈めて,ゆっくりゆ〜っくり(「海坊主のように」と私は言います。)頭を上げていき,口が出ると,「パーッ」と息をはく練習(教師が実際にゆっくりやってみせます。)を繰り返す。
[片手を腰に]
20,プールサイドかビート板を持ち,顔を横に向けて息継ぎをする練習をする。この時次のことに注意する。

・息継ぎで顔を横に向けるのに,右か左か自分の向きやすい方だけを重点的に練習する。(両方やらせてみて,やりやすい方を決めさせます。)

・顔を右に向けて息継ぎする場合は,右腕を下げて自分の腰にあてる。左腕だけを前に伸ばし,プールサイドかビート板を持つ。

(この
「息継ぎする側の腕は腰にあてる」というところが一番重要なポイントです。実際の息継ぎの場面で,顔を上げるのは,そちら側の腕が水をかいて後ろに伸びているときなのです。練習の時,両腕を伸ばしていると腕がじゃまになって,息継ぎをするのに横を向きにくく,つい顔を前に上げてしまいます。顔を前に上げて息継ぎをしようとすると,頭全部を水から上げるようになり,体が沈んでしまうのです。)

 指示としては,
「後ろが見えるように息継ぎをしなさい。」
「空を見るように息継ぎをしなさい。」
「肩を噛むように息継ぎをしなさい。」
「頭の後ろを水につけたまま息継ぎをしなさい。」
「(横を向いたとき下になる方の)耳が水から上がらないように息継ぎをしなさい。」
「(伸ばした方の)腕に頭を乗せるようにして息継ぎをしなさい。」
等で,子どもに伝わりやすい言い方を選ぶ。
 顔を上げるときは横が向けても,
つけるときに前を向いてしまう子(これが多い)がいるので,そのくせがなくなるまで繰り返し練習させる。(前を向くと体が沈む理由,横を向けば頭をつけたまま息継ぎができ,体が浮いて楽に泳げるという説明もして,この練習をする意味を納得させます。)

・水に顔をつけているとき,「ブー」と口から息をはかせる。

・顔を上げるときは「パッ」とはくので,「ブーッ,パ」(吸って)「ブーッ,パ」の繰り返しをできるだけゆっくりと行う。

・リズムとしては間に一拍おくようにして,「ブーッ,パ」(一拍)「ブーッ,パ」(「1,2ッ3」「4」「1,2ッ3」)を繰り返し行う。
[歩いて]
21,ビート板の後ろを片手で持ち,息継ぎをする側の手は腰につけたまま20の形で息継ぎをしながらプールを歩いて往復する。このときも必ず後ろを見るように顔を上げること,「片方の耳」または「後ろ頭」を水につけたままの息継ぎをすること,ゆっくり落ち着いて顔を上げること,顔をつけるとき前を向かないことなどに注意する。
 一往復したら,息継ぎで向く方向を反対にしてやらせてみる。両方やってみて自分はどちらが実際やりやすいか決めさせ,もう一度やりやすい側を向いて往復させる。この時,頭を上げすぎないように個別に注意をする。チェックポイントは息継ぎをするとき,下になる方の耳が水から出ていないかどうか。顔をつけるとき,前を向いていないかどうか。(頭があまり上がっていない子の様子を見させたり,ペアになって,お互い息継ぎのとき頭が上がりすぎていないかチェックしあったりもさせます。)
[片手を腰につけて泳ぐ]
22,片手はビート板を持ち,息継ぎで向く側の手は腰につけるか,後ろに回し腰の上に乗せたままで,息継ぎをしながらバタ足で泳ぐ。息継ぎは片方だけを向く。腰につけた手は決して回さないように注意する。(難しいようですが,案外この方が簡単なのです。「手のかき」と「息継ぎ」の両方を一度にする方が難しくなります。息継ぎで顔を上げる側の手は腰につけたままにしているので,腕が邪魔にならず顔を上げやすくなります。これが,両手でビート板を持って前に頭を上げて息継ぎをする泳ぎをさせておくと,実際のクロールをする時も頭を前に上げてしまい,体が大きく浮き沈みする疲れやすい泳ぎになってしまいます。)
 この時も頭が上がりすぎないよう,前を見て息継ぎしないよう注意しながら,何度も往復させます。
[手を動かす]
23,プールサイドを持って,水の中に立ち,今まで腰につけていた手を息継ぎと連動させて動かす練習をする。手で水をかき,手が水から上がると同時にパッと言って顔を上げ,手が水に入ると同時に顔も水につけるタイミングの練習をしっかり行う。
24,手の動きと息継ぎのタイミングが合うようになったら,息継ぎをしない側の手でビート板を持ち,手と息継ぎの動きを合わせながら歩いてプールを往復する。
25,ビート板を持ち,片手だけを回し息継ぎしながらプールを横(短い方)に泳いでみる。
26,短い方がバランス良く泳げるようになったら,縦の長い方に25の方法で挑戦させる。
 注意するのは,
・息継ぎの頭の向きと動き。

・手を水から真っ直ぐ上に出して回していること。(最初は大げさなくらい伸ばさせます。)

・リズムよく息継ぎをしていること。
[両手を動かす]
27,プールサイドを持って,水の中に立ち,クロールの両手の動きに息継ぎを合わせる練習をする。この時も,リズムよく息継ぎできること,手を水の上にしっかり出すこと,前を見ないことを注意する。
28,ビート板の上に手を置き,交互に水をかきながら息継ぎを入れ,歩いてプールを往復する。(最終段階を急がず,しっかりイメージトレーニングさせていきます。また,まだまだ息継ぎで頭を上げすぎる子,前を向いてしまう子がいるものです。)
29,28と同じ形で,ビート板の上に手を置いてクロールで泳ぐ。(頭を水につけたまま後方を向いて息継ぎをするようになった子は楽に泳いでいるはずです。)
30,ビート板を使ってゆっくりとしたリズムで大きく左右の手を回してクロールができるようになった子だけに,最後の段階のビート板なしのクロールをさせる。(息継ぎで頭を水から上げていないこと,腕がしっかり水の上に出ていることがチェックポイントです。これができていない子に,ビート板なしのクロールをさせると,ただ沈まないための泳ぎになってしまいがちで,リズムまで考えて楽できれいに泳げるようになる練習になりません。)
平泳ぎ
[足の裏でける]
 平泳ぎを教えていて,一番難しいのは,手と足の動きの調和と,足の裏で水をける感覚を身につけさせることです。

 手と足の動きについては,とにかく
「足で水をけった時には,腕もまっずぐ伸ばしなさい。」
「足を曲げる時には,腕も曲げて水をかきなさい。」
と指導しますが,これがうまくいかないと,一体どちらに進もうとしているのか分からない泳ぎになりますね。

 しかし,それよりもっと難しいのが,「足の裏で水をけらせる」ということです。
 ほとんどの子が足の甲で水を内から外に向かってけります。
 そこで,平泳ぎの練習を始めるときは,まず足だけの練習をしっかり行います。
 プールサイドを持たせて,後ろから足を持って「この裏でけるように!」と何度も練習させるのですが,実際に泳がせると全然違う使い方になってしまいます。そこで,次のようないろいろな手を使って指導していきます。
指導1,「親指の裏で水をけりなさい。」(これは「足の裏」よりもっと細かくはっきりと一部分を気にさせることで効果があるのではないかと考えて。)
指導2,「壁をけりながら進みなさい。」(壁をけろうとすれば,足の裏を使うことになる。)
指導3,「足を見ながら泳ぎなさい。」(これが今までで一番(大人にも)効果がありました。プールサイドを持たせて,片方の足は底につけたまま,もう片方だけを見ながら足の裏で水をけるように動かします。これを左右両方行います。そして,次にビート板を持って後ろを向いて自分の片方の足の動きを見ながら練習していきます。どうも前を向いて足を動かしていると,自分の足がどのように水をけっているのか分からなくなるようなのです。後ろを向くと体の安定を保つのが難しいので,ビート板を教師が持って引いていきます。