読書指導

 新年度,各学級で図書の購入をします。今までは,図書目録等で選んでいましたが,今年は大きな書店に行って,学級用の図書の選定をしました。目録では分からない実物と内容をチェックします。視点は,学級の中で読書を苦手にしている子の実態です。
「あの子ならどんな本を読むだろうか」
と,一人ひとりの子の実態に合わせて具体的に考えます。
 子どもに目録等から選ばせるのは効果的なようで,案外その読書の幅は広がりにくいものになります。
 また,教室中に多くの本を置くだけでは,読まない子はいつまでも読まないままです。
 
 ある朝,学級に新しい本を一気に持って行き,本棚に「新刊コーナー」を設けます。やはり新しいものはそれだけでも興味を引きます。
 まず,それぞれの本の内容を簡単に紹介し,最初だけはジャンケン等で順番を決めて,1冊ずつ借りる本を選ばせていきます。
 どれにしようか迷っている子には,さりげなく「この本はどうかな」と勧めてみます。
 
 読書への取り組みは,この後からが本番になります。
 
 まず読書記録カードとして,「読書貯金通帳」を一人ひとりに作り,およそ次のような項目を入れます。

読書貯金通帳
返却日 本 の 題 名 ページ数 合計 感想
 ◎とてもおもしろい  ○まあまあおもしろい

 「返却日」・・・本を読み終わって学級図書や図書室に返した日付を書きます。ここは,(読み終わった日)(返した日)としてもいいのですが,少々難しくても,字を習っていなくても,こういう熟語に小さいうちからどんどんふれさせていきたいと思います。

 「ページ数」・・・その本のページ数を書きます。

 「合計」・・・それまで読んだ本のページ数の合計を書いていきます。これが「貯金」ということになります。

 「感想」・・・「◎」(とてもおもしろい)か「○」(まあまあおもしろい)の記号のどちらかを書きます。(あまりおもしろくない)という印は入れません。なぜかと言うと,読んでいておもしろくなければ,途中でも別の本に変えることになっているからです。また,通帳には最後まで読み終わった本だけ書くことにしています。

 これを一人ずつに何枚か印刷して冊子にして綴じます。表紙はレザックやコットンのような紙に,カットや文字もカラー印刷し,背表紙を付け丁寧に製本し,それなりの雰囲気を出します。

 この貯金の合計数を,全員の前で紹介するようなことはしないようにします。それは,周りの子の目を意識したり,競争意識になって,本は読まずに,この数を増やすことだけに執着してしまうことも考えられるからです。またそういう疑いをお互いに持つようになっては,逆効果になるからです。教師だけが時々チェックし,個人的にその増え方を評価し励ましていきますが,基本的には「おもしろくて読んでいたらいつの間にかたくさん読んでいた」という状況をつくりだしていきたいものです。
 そこで,できるだけ普段の休憩時間や朝の会で次のような雑談を通して「本」への関心を深めていきます。最近の会話で覚えているのは,

「今,何読んでる?」
「おもしろい?」
「あまりおもしろくなかったら,これにしたら。」
「え!?昨日100ページも読んだ?」
「これ全部読んだらすごいね。」
「○○君,グランドのタイヤの上でも本読んでたね。」
「○○君はお母さんに目が悪くなるって注意されたらしいね。」
「今,何巻を読んでる?えっ,もう8巻!?」
「次はこれどう?」
「デルトラの1巻は今4年生が借りてるらしいね。」
「えっ,勇者の剣も4年生が借りてるの?」
「○○さんが紹介してあげたんだね。」
「あんな厚い本を読めるのかな?」
・・・
などなどです。

 本をほとんど読んでいなかった子が,今,母親に目が悪くなると注意されるほどに熱中して読んでいます。
 高学年のそういう姿や話を聞いて,他の学年の子も「本」に興味をもつようになります。無言の「読書への誘い」ですが,これは大人や教師が勧めるようなものよりはるかに強力です。

 一度でも「活字の世界に心がまるごと入り込む」経験をすると,次からは図書館に行っても,その「もう一つの世界の味わい」を探す目で本を眺めるようになるはずです。
 そういう意味からも,最初は「読ませたい本」より「その子に合う本」をいかに見つけるかが重要な作業になります。
 そして,1冊を選んだら,その後のさりげない様々な面からの読み続けさせるためのフォローと,逆に様子によっては無理をさせず,違う本の紹介をすることも必要です。本質的に本の内容がその子の好奇心に合っていれば,最初の助走さえつけられたら後は自然に読んでいくものだと,最近改めて感じているところです。