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  おじさんソング

 私にとっての演歌は,私の中にあるセンチメンタルな部分のカタルシスを果たしてくれるもので,今も嫌いではない。高校時代には,自身でも,他人に聞かせるまでには至らないが,つれづれに作詞・作曲して,独り感傷に浸っていた。

  1. じっとり霧に濡れた肩/すぼめて歩く夜の街/赤いネオンも潤んで遠く/

    せめて飲もうか/ああ,屋台の酒を

  1. さよならさえも言わないで/遠くに往ったあの人の/清い瞳の面影恋し/

    今も残るよ/ああ,瞼の底に

  1. こわれて消えた広告塔/怪しく黒い街の角/霧に星さえ見えない夜を/

    独りさまよう/ああ,男の涙

 「赤いネオン」も「屋台の酒」もまだ知らないころに,そのうらぶれた雰囲気をイメージとして憧れた。春日八郎や三船浩,あるいは,三浦恍一の歌の世界である。そして,背景には失われた恋を配していた。

  1. 風の便りに聞いたこと/あの娘はこの春,嫁に行った/

    幼なじみのあのおさげ髪/淡い想いの初恋心/

    なぜか今さら胸にしみじみ浮かぶよ

  1. 梅の花散る川の土手/白い花びら流れてた/

    瞳そらして交わした写真/涙ぐんでた別れのあの日/

    今も瞼の底に哀しく残るよ

  1. 指折り数えりゃ五年前/あの娘も今年でもう二十歳/

    ぐるり廻った峠の道を/越えて行ったろ花嫁衣裳/

    瞼を閉じれば/あの日のままの幼顔

 これは,青木光一か,三橋美智也か。

 感傷的な空想の世界の中の主人公は,いつか中年になり,自分の未来の姿であるようにも思えた。

  1. 夢も希みもはかなく消えて/落ちていく身のポンポン蒸気/

    男一人の運命の果てが/胸に切ない島灯り

  1. 暗い小さな室内燈の/灯り一つの三等船室(キャビン)/

    窓にもたれて淋しく独り/ふかす煙草も目にしみる

  1. 母の優しい面影哀し/妻のほのかな微笑み愛し/

    今は返らぬ昔の夢も/哭いているよな波しぶき

 高校を出てからは,聞いたり歌ったりすることはあっても,さすがにセンチメンタルな歌は自分では作らなくなった。(1999.2.14)

 最近になって,小沢昭一随筆随談選集『小沢昭一百景』全6巻(晶文社・2003/11〜2004/4刊)の中で小沢昭一が書いているのを読んだ。(第二巻『せまい路地裏も淡き夢の町』「自家製(ホームメイド)お父さんソング──小沢昭一作詞作曲」)

 「歌っていうのは、どうして若い人向けにばかり作り出されるんでしょうね。中年だって、老年だって、いま現在の心境で共感出来る歌をうたいたい。でも自分たち用の新しい歌がないから、むかし愛唱した歌をうたうしかないんです。」 そこで「中年用の“おじさんソング”をいくつか作ってみたんです。」

 これに触発されて,私も,久しぶりに,「老年用の“おじさんソング”」を作ってみようという気持ちが動いた。老人力を描いて今話題の映画『死に花』(犬童一心監督)にちなんで,「死に花ブルース」と題した。(2004.6.20)

 以下,出来た作品を順次紹介することにする。

 「死に花ブルース」(2004.6.20)  「夢の中」(2005.12.11)  「温泉に行こう」(2006.8.5)  「夏の夜の思い出」(2006.11.18)  「忘れたっていいの」(2007.4.25)  「なつかしの島」(2007.10.12)  「うらおもて」(2009.3.10)  「お念仏だよ人生は」(2009.10.1)