病院・施設での疥癬対策に関する よくある質問

文責:福島県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座 牧上久仁子
2006/04/04更新
ご意見やここに掲載されていない点についてのご質問をメールで受け付けております。

  1. まず最初に普通の疥癬と角化型疥癬の違いについて確認してください
  1. 文献によって書いてあることが違うのはなぜか?
  1. 隔離が必要という意見と必要ないという意見があるがどうか?
  1. 疥癬が強く疑われる患者さんを検査してもヒゼンダニが検出できない。検査のコツを教えて欲しい
  1. 診断が難しいので疑いのある患者さんは治療することにしているが、どうか?
  1. 診断がついてから治療しろと言われても、診断に時間がかかってその間に感染が広がらないか不安である
  1. アンケートに「入院時の皮膚チェック」という選択肢があったが、それだけでは潜伏期間の患者を発見できないのではないか
  1. 隔離の解除の判断はどのように行えばよいか?
  1. 衣類・リネン類等や環境の消毒(殺虫)は必要ないのか?
  1. 隔離に際しての困難:本人・家族の同意が得られない、隔離中にADLが低下する
  1. 疥癬はどのように治癒判定したらよいのか?
  1. 一度治癒しても再発を繰り返すので、病棟から完全に駆逐できず困っている
  1. 入院時に予防的治療を行っているが、効果はあるのか?

 疥癬には大きく分けて角化型(ノルウェー)疥癬と普通の疥癬(厳密な医学用語ではないが、以下便宜上角化型以外の疥癬をこう呼ぶ)の二つの病型に分かれます。両者は同じヒゼンダニが原因で起こりますが、患者さんにとりついているダニの数が桁違いであることで、感染力が大きく異なり、必要な感染予防措置も異なります。隔離やリネン類の殺虫が必要なのは角化型疥癬の場合だけです。

普通の疥癬と角化型疥癬の違い
「疥癬はこわくない」(医学書院:2002年・p17)より1)

普通の疥癬 角化型疥癬
寄生数 1000以下 100万以上
宿主の免疫力 強い 弱い
感染力 弱い 強い
主な症状 丘疹・結節 角質増殖
かゆみ 強い 不定
場所 頭部を除く全身 全身
 表中には普通の疥癬はダニの寄生数が「1000以下」とありますが、ダニが千匹というのは普通の疥癬としてはきわめて多い場合と考えてください。疥癬トンネル(後述)を作って卵を産んでいるメス(診断および治療上重要)に限って言えば、5割の患者さんで5匹以下です2)。 角化型疥癬はその名の通り、過角化を呈するのが特徴で「汚い牡蠣(かき)殻様」とも表現される分厚い角質が皮膚に付着します。過角化部位をこするとフケのような落屑がポロポロ落ちますが、落屑の中にはあたかも朝のラッシュ時の列車内のようにダニやその卵がひしめいています。ヒトの体を離れるとすぐ死んでしまうヒゼンダニも、角化型疥癬の場合「下手な鉄砲数打ちゃあたる」方式で感染力が強くなる、と言うわけです。なお角化型疥癬患者から感染しても、通常の免疫機能の持ち主であればかかるのは普通の疥癬です。
 実は疥癬に関しては、意外とわかっていなかったり、研究者間で意見が分かれていたりすることが多いのです。たとえば「消毒用アルコールは疥癬予防に有用かどうか」はまだ結論が出ていません。ヒトヒゼンダニは宿主特異性が強く、ヒトの体表でしか繁殖できないため、動物実験ができないなど、疥癬の研究にはハードルがあることが一つの原因でしょう。以下でご説明する内容のかなりの部分が、20世紀半ばにMellanby2)という人が行ったボランティアに対する感染実験と、疥癬を多く診療している医師達の経験に基づています。二重盲検などEBMで信頼性が高いとされる研究デザインから導き出されたデータは少ないのです。現在も疥癬に関する情報が錯綜しているのはこんな事情があるのです。
 当研究班では疥癬で隔離やガウンテクニックが必要なのは、寄生するヒゼンダニの数がきわめて多い角化型疥癬患者だけであると考えています。理由は角化型以外の普通の疥癬ではダニの数は少数であり、感染力が強くないからです。角化型疥癬はダニの数が桁違いに多く、多数の虫体を含む落屑が飛び散ることで、広範囲に感染が拡がることがあるので隔離を行うことをお勧めしています。言うまでもないことですが、患者さんやその家族に隔離の意義・期間についてご説明してから隔離を行ってください。隔離の期間ですが、疥癬の治療が始まれば虫体はすみやかに死滅するので、治療開始後約1週間、長くても2週間程度で十分と考えています。

普通の(角化型以外の)疥癬でヒゼンダニを検出するのは難しいものです

 普通の疥癬では、ヒゼンダニを検出することは、実は熟練した皮膚科医でも難しい場合が多いのです。これは普通の疥癬では、患者さんに寄生しているヒゼンダニの数が少ないためです。Mellanby2)は、「疥癬患者の半数は寄生している雌成虫の数が5匹以下であった」と報告しています。ヒゼンダニの大きさは一番大きいメス成虫でも0.4mm(10円硬貨に刻印されている平等院の屋根の鳳凰と同じくらいの大きさ)しかありませんから、広大な患者さんの体表から見つけ出すのはテクニックを要することがおわかりいただけると思います。
一方、集団感染の感染源として問題になる角化型疥癬の場合は、寄生しているヒゼンダニ数が極端に多く、患者の皮膚から落屑を採取し鏡検すれば容易に虫体を発見できます。
 つまり「ヒゼンダニは検出しにくいものであり、容易に見つかるようなら角化型疥癬を疑わなくてはならない」ということです。ダニがなかなか見つからないということは患者さんに寄生しているダニの数がかなり少ないということであり、感染力がきわめて低いということを意味しています。つまりその人からは容易に感染が拡がることはないのです。ただしそのような患者さんでも、一緒に寝る、長時間手を握りあっている、など長時間親密な接触をすると感染する可能性がありますので注意してください。

現実的対応

 疥癬の皮疹を診るには、慣れが必要であり、疥癬の診療経験のある皮膚科医に受診するのが確実でしょう。しかし、皮膚科医に入院患者さんを診てもらうのが困難な施設の方も多いと思います。現実的な対応としては、とくに強く疥癬が疑われる患者さんに絞って皮膚科医に診察してもらい、あとの患者さんは皮疹やそう痒などの症状と、疫学的な状況証拠(すでに診断を受けている疥癬患者さんとの接触歴など)などから診断するしかないでしょう。

検査の実際

上記のようなことを書いてきましたが、どうしても院内で疥癬検査を実施さざるを得ない場合もあると推察します。ご質問は「検査のコツ」ということですので、ご参考までに筆者(牧上)の私見も交えて書かせて頂きます。

検体採取部位

 ヒゼンダニの検出率は検体を採取する部位で大きく異なります。疥癬の皮疹は大きく分けて、@丘疹(小さくて赤い)、A疥癬結節(小豆大の赤褐色のしこり)、B疥癬トンネル、の3種類あります。このうちヒゼンダニの検出される確率が高いのはBの疥癬トンネルです。これら3種の皮疹は見かけも、好発部位も異なります。疥癬の主たる皮膚症状をなすのは@の丘疹ですが、丘疹からダニが見つかる可能性は低いのです。

疥癬トンネルの探し方

「疥癬トンネルが見つけられない」というご相談もよくお受けします。ヒゼンダニのメス成虫がヒトの角質内に潜り込んで、卵を産んでいる場所が「疥癬トンネル」です。メスは疥癬トンネルの先端の小さな直径1ミリ以下の水疱に潜んでいて、約1ヶ月間角質内を掘り進みながら卵を生みつけてゆく過程で曲がりくねった線状の皮疹になるのです。そんなわけで、疥癬「トンネル」という名はあるものの、必ずしも「線状」を呈しているとは限りません(メスが「トンネル」に潜り込んだばかりなら小さな水疱だけみられます)。疥癬トンネルは患者さんが掻き壊したり、湿疹化したりして、赤みを帯びることもありますし、トンネルの末端の方には鱗屑がついて白っぽく見えることがあります。
 Mellanbyは「疥癬患者さんの半数以上では、寄生しているメス成虫の数が5匹以下しかいなかった」と報告しています。疥癬トンネルはメス成虫のいる場所ですから「患者さんの全身に数個しかトンネルがないことがある」という解釈もできます。疥癬トンネルは上記のように小さい上に数も少ないのです。
 患者さんの皮膚の上の直径1ミリ以下の小水疱を見つけるのは難しそうに聞こえますが、私たちにとって幸いなことに疥癬トンネルには好発部位があります。手指(とくに指の水かきの部分)、手のひら、手首の屈側、肘頭、足の裏(とくに土踏まずの部分)などです。Mellanbyは疥癬トンネルの6割以上は手首から先にあったと報告しています。疥癬をうたがったらまず、患者さんの手を診ましょう。
 疥癬トンネルの写真はこちら
 疥癬だと確定診断がつくまでは治療をしないようにしてください。疥癬に似た痒みを呈する病気はいろいろあります。治療を開始する前に皮膚科医に診てもらってください。中途半端な治療をしてしまうと、ますます診断がつきにくくなってしまいます。上記の検査の項で述べたように、ただでさえ普通の疥癬ではひとりの患者さんに寄生しているダニの数が少なく、ダニの検出が難しい場合があるのに、疥癬治療薬を使用することでさらにダニが減ってますます検出が難しくなってしまいます。
 皮膚科医のコンサルトが受けられず、やむを得ず治療を開始する必要のある場合は発疹だけでなく、首から下の全身にくまなく塗るようにしてください。
 ご参考までに研究班メンバーが経験した、中途半端な治療により集団感染が拡大してしまった事例3)を示します。
手掌に過角化があり、疥癬が疑われ、クロタミトン軟膏(商品名オイラックス)を塗っても治癒しなかったので、ステロイド外用剤とクロタミトン軟膏を交互に塗られていた患者が実は限局性の角化型疥癬で、この方を感染源として30名の集団感染につながった事例を経験しました。この事例は、疥癬治療薬を使う場合は中途半端に使用すべきでないことを示唆していると考えます。
 大規模な集団感染を起こすのはヒゼンダニ数が桁違いに多い角化型疥癬です。角化型疥癬はダニが多いが故に、検査でダニを検出するのはさほど困難ではないはずです。
 ヒゼンダニの検出が難しいような普通の疥癬は、雑魚寝(ざこね)するなどの親密な接触がなければ感染しません。診断がついてから治療を行っても、そうすぐには感染拡大しませんので、経過を見てください。本当に疥癬であれば典型的な疥癬トンネルが出現してくるはずです。
 ご指摘の通り、潜伏期の患者を診断することは事実上不可能です。
 当研究班は「院内感染症対策上重要なのは、角化型疥癬患者を早期診断治療すること、普通の疥癬患者を診断の遅れやステロイドの誤用により角化型疥癬にしてしまわないこと」であると考えています。この2つの重要ポイントを達成するためには、入院および入院中の患者の皮膚チェックが役立つでしょう。
 殺ダニ剤による治療を開始すれば虫体が速やかに死に、感染力が低下します。治療により感染力が低下するので、隔離は1から2週間(一通りの治療プロトコールが終わる期間)で落屑が飛び散らなくなった時点で隔離を解除してよいのです。
 発疹が消え、かゆみがなくなるのを待っていると、隔離が長くなりすぎます。なぜなら疥癬の皮膚症状はアレルギー性のものなので、虫体の死滅よりも遅れて消退するからです。とくに疥癬結節(約7%の患者さんでみられます)は、ダニの死滅後6ヶ月以上も痒みが続くことがあります。
 隔離が必要なのは、診断直後の角化型疥癬患者のみです。効果的な疥癬治療を行っていれば隔離期間も最長2週間ほどで十分です。用心するあまり、長期の隔離を行っていませんか?2週間ほどでしたらADL低下を防ぐ策も立てやすいのではないでしょうか?また隔離期間の見込みをきちんと説明すると、ご本人やご家族の協力が得やすくなるのではないでしょうか。
 患者さんの体表に寄生しているヒゼンダニを人体に使用可能な薬剤で駆除することが疥癬治療の基本です。普通の疥癬では衣類・リネン類等の殺虫は必要ありません。一人の患者さんにきわめて多数のヒゼンダニが寄生する角化型疥癬の場合にのみ、診断直後に隔離とあわせて殺虫が必要です。殺虫は一回で十分です。治療開始とともに患者さんの体表のヒゼンダニは激減しますし、人の体から離れたヒゼンダニは短命だからです。
 この点に関しては研究班メンバーが関わった文献1)に詳細な解説を書きましたので参照頂ければ幸いです。
 疥癬はヒゼンダニ虫体の検出を持って確定診断しますが、実際にはダニの検出が難しく診断を迷う症例も多いです。また治療の目的は宿主体表のダニを死滅させることですが、ダニが死滅しても、皮疹が消えるまでにはタイムラグがあります(虫体死滅後にも皮疹が出現することがあります)。
 治癒判定は、「新しいトンネルができていない」ことをもって行うことになると考えられますが、なかなか難しいです。実際には疥癬に慣れた皮膚科医の協力を得て、相談しながら行う必要があるでしょう。
疥癬の再発は、γ-BHC、ペリメトリン、イベルメクチンなどの効果の高い薬剤を使用していても稀ならず起こっているようです。感染源となる未発見の角化型疥癬患者がいることも考慮し、常に病棟の患者さんの皮膚チェックをされることをお勧めします。
 ご質問は「疥癬流行の見られていない時期に無症状の新規入院・入所者に予防的な疥癬治療を行うこと(以下、積極的予防治療と呼びます)の是非」についてと解釈し、お答えさせていただきます。
 研究班メンバーも以前は新規入院・入所者に対して予防的な治療を行ったほうがよいのではないかと考えていた時期がありましたが、現在は否定的なスタンスです。現在積極的予防的治療のプロトコールや、エビデンスは世界中どこにも存在していない状況です。
 積極的予防治療に否定的な理由は、第一に費用および手間がかかること、第二に疥癬の「持ち込み」が起こる頻度がさほど高くないこと、第三に疥癬持ち込みが起こっても早期発見・早期治療を行えば大規模な集団感染を防ぐことが可能なこと、第四に疥癬治療薬はいずれもかなり強い毒性があること、第五に頻回な使用により薬疹をおこしたり、ダニの薬剤耐性が生じるおそれがあること、です。
 牧上が継続的に観察を行った施設(積極的予防治療は行っていません)で、二年間に五回でした。職員に年一回の疥癬に関する研修を実施し、早期診断・早期治療できており、大規模な集団感染には至っていません。上記の第二と第三の点を支持する結果だと考えております(現在発表準備中)。

文献:

  1. 大滝倫子、牧上久仁子、関なおみ: 疥癬はこわくない. 医学書院,2002
  2. Mellanby, Kenneth: Scabies. E.W. Classy. Ltd.,1972
  3. 牧上久仁子, 大滝倫子, 佐藤康仁, 山口直人:精神科病院における疥癬集団発生対策−予防的治療実施と疫学的検討. 日本衛生学雑誌, 60(4), 450〜460. 2005