大間と奥戸では言葉も微妙に違う。というのも、もともと、大間と奥戸は別々の二つの村であり、明治以前は良港に恵まれた奥戸の方が大間より繁栄していたという。両村が合併し、大奥村となった時代には奥戸に役場が置かれた時期もある。しかし、あわび輸出など大間の水産業の発展、明治維新前後の斗南藩士の定住などで大間が活況を呈し、農業中心の奥戸は相対的に地盤沈下する。役場も大間に移り、昭和17年11月3日の町制施行で大間町が誕生。時勢は大間中心となる。

  一方、入会権争いで大間が勝ち、漁業区域設定でも奥戸は大幅な譲歩を余儀なくされたため、両地区に確執が生まれ、その遺恨は近年に至るまで続くことになる。

 私が子供の頃は、両地区のいがみあいも色濃く残っており、同じ町とはいえ、白砂海岸を越え、大間のテリトリーに入ることは決死の思いだった。石を投げられることもよくあったのだ。小学校4年の時には、有名な白砂海岸の決闘があった。

 「大間の赤猫、奥戸のでんで」という言葉があり、これは両地区の気質をよく現している。つまり、大間は奥戸から見て、「赤猫」のように気性の激しい漁師気質であり、言葉を変えれば進取の精神に富んだ人々。奥戸は定住農耕型であり、土とともに生きる農民気質。奥戸の人々はおっとり、のんびり型が多かったのも、その自然依存の影響だろう。「でんで」というのは「代々」のことであり、伝統と格式を重んじたのが奥戸だった。隣りの材木地区は大間・奥戸より歴史が古いという。気質的にも奥戸よりもおっとりしているし、「材木時間」という言葉があるように、のんびりした村民気質。やはり歴史の違いか。

 今は大間と奥戸の交流も昔から見れば盛んになり、奥戸衆が大間に定住したり、大間衆と結婚したり、両地区の和解と協調は少しずつだが進んでいる。21世紀になった今も、大間だ奥戸だと騒ぐのも近隣の市町村から見たら不可解なことなのかもしれない。長年の遺恨を水に流し、これから手を取り合って21世紀を乗り切っていけるかは、若い世代の活躍にかかっているだろう。…なんて大ゲサな(苦笑)

 しかし……。世界の、日本の、青森の、下北の、北通りのと、世間から見れば、コップの中の出来事なんだろうけど。人間同士の争いなんてのも、電車の中でガンつけたとか、無視したとかで始まるんだから、しょうのないことなのかもしれん。でも、互いにリスペクトしつつ、大間・奥戸、そして材木は手を携えていかなければ、と思うぞ。

 あれま、こんなこと書くつもりじゃなかったのに。長くなっちまった。以下、消えつつある、忘れられつつある方言を中心に、音声を残しておこうかと思って、作って(テスト段階)みました。聞こえるかどうか試してくださいな。
 (2001年)
[白砂海岸の決闘]
 小学生の遊び場である奥戸幼稚園体育館で数人の奥戸小学生(私を含む)が遊んでいたとき、大間小学校の生徒数人がフラリと現れた。そういう場面はまず聞いたことがない。大間衆が奥戸に来るなんてことはまず考えられなかった。両者の間に険悪なムードが漂う。にやにや笑いの大間衆。リーダー格の片手にゴムボール。それを手のひらでもてあそんでいた彼がひょいとボールを天井に投げ上げる。それが運悪く体育館の組木に挟まってしまった。「しまった」という表情のリーダー。笑う奥戸衆。「やるが!」「なしたって!」
 
 緊張がはしる。互いの大将が前に進み、にらみ合い。「よし、へば、白砂さ来い」「わがった」

 こうして後日、大間VS奥戸小学生による白砂の決闘が決められた。次の日、学校に行くと、主だった連中が白砂の決闘の兵隊集めをしていた。
 決闘当日、白砂海岸に結集した大間・奥戸小学生軍団。しかし、その様子を見た大人が警察に通報。決戦前に両者は散り散りに逃げ帰った。その後、地区の教育委員たちが決闘に参加しようとした生徒の名前を聞き込みに来たが、私は「知らね」とだけ言ったのだった。

名詞 動詞 形容詞
「なずぎ」
ひたい
へんか(する)
殴る、叩く、懲らしめる
こさぶしね
薄気味が悪い。怖い
[用例]なんぼ盆だたて、こさぶしね話だけ、やめろじゃ(いくらお盆の時期だからといって、あんまり気味の悪い話をするもんじゃありませんよ)
「かぬげ」
眉毛
しと(する)
返事をする。応える
[用例]「なんぼよばてもしとしねんだして、このわらしだきゃ(いくら呼んでも返事しないんだから、この子ったら)
からばぐ(だ)
いやらしい。スケベっぽい
[用例]じぁいや、わらしのくせして、からばぐだ話して、このぉ(まあまあ、子供のクセしてヤらしい話して、もう…)
「へへなぎ」
どぶ
「ちょふぇ(する)」
もてなす。ほめる。
けね
体が弱い
[用例]すぐ風邪ひぐんだもの。けねヤヅだ(すぐ風邪をひいちゃって、なんて体が弱い人なんでしょう)
しゃ(ん)べちょ
おしゃべり
「しぴで」
手足が冷たく凍える。さび(寒い)は外気の体感。「しぴで」は部分的な凍えを指す。
[用例・変化]手袋はがねば、しぴでびど(手袋をしないと手がかじかむでしょう)
「なまずろい」
 ずるい。狡猾だ。
「そちぱり」
粗相。おねしょ。
[用例] 「このそちぱり!」
※相手をののしって言う言葉。
「ずんぶだ」
うんざりする。いい加減にして欲しい。
[用例]そっただ話ばし、きがさいで、ずんぶだじゃ(そんな話ばかり聞かせれてうんざりだ)
「やばちね」[やばち」
汚い。
「そんじゃ」
書き損じ。
[用例]せっっかく年賀状書いたのに、一枚そんじゃしてまった」
※「損じ」の訛言か。
すぐみっことる

寒さを感じる。
[[用例]
(冬の寒い日などに)「外さ行って来てすぐみっことったべさ、早ぐ家さ入せ」
=外に行って寒かったでしょう。早く家に入りなさい

[罪作り(だ)]
つらい思いをする。苦労する。[例]朝暗いうちから海に出ねばねって、罪作りだごと(朝早くから漁に出なければならないなんて、苦労なことだ)
「あんじょ」
紐。たこ糸。縄より細くて、かな(糸)より太い。
「かだる」

参加する。仲間に入る。
「えらしぐね」
 可愛げがない。
[用例]なんぼ、めんこがっても、なずがねもの。えらしぐねワラシだごと(いくらかわいがってもなつかないんだから、ほんとに可愛げのない子供だこと)
※おそらく、「愛らしくない」の訛言であろう。
「じんぐり」
独楽(こま)
「じぐなし」
意気地なし。
「雷ゴロゴロ、稲妻ピッカラレ、じぐなしオヤジ、寝床の隅で婆(ばば)来い婆来い」(明治期の俗謡)
「さっそぐだ」
 気が利いて心遣いがある。
「あの人だっけ、さっそぐだ人だもの」
「じんじょ」
絵。主に紙に書かれた絵のことを指す。
「やひね」
不安で気がかりだ。見ちゃいられない。
[用例]川の水、増水したどご、渡ってくるんだして、じゃいあ、やひねってば(水かさが増した川をわたってくるなんて、心配で見てられないよ)
「ぶす黒い」
打ち身なので、青く腫れあがった状態。
「もよ」
衣裳。
[用例]もよ解く(着物を脱ぐ)
もよる(着物を着る)
[まる]
そこを通ってくる。
[用例]
 川の方まって、本家さ行ってきせ(川のほうを通って本家に行ってきなさい)
「でんでご」
蟻地獄(ウスバカゲロウの幼虫)のこと。「デンデゴ デンデゴ ねのアッパコ死んだして 出で来い出で来い」(あなたのお母さんが死んだから出てきなさい)と歌いながら、蟻地獄の中に砂を落とすと、はさみを出すので、それを捕まえて引っ張り出した。
[うじゃね取る]
苦労する。
[[用例]]朝早くから畑さ行ってうじゃね取るのぉ……。
「クビ(ピ)コ乗り」
肩車のこと。
「父う(とう)、クピコ乗りしてけせ」(父さん、肩車して!)
[えなぎ出す
吐き出す。
[はばける](むせて吐き出す)のと違い、イヤなものを口に入れたために、それを口から押し出す……ようなニュアンス。
[じり]
霧雨。海上の霧。
[かっつく]
追いつく
[なンで]
~分。「イカ500円なンで売ってけせ」(イカを500円分売ってください)
[寝ほれる]
寝坊する。「寝ほれさな」(寝坊するな)
[よったり]
4人
[まがす]
(水などを)こぼすこと。
「ぐじら」
~ごと
「ゴミぐじら投げでしまえ」(ゴミごと一緒に捨ててしまえ)
[ばじぶ(する)]
自分の子供を贔屓する。
[うずける]
 甘える(子供が親におねだりしたり、せがんだときに使う)。「うずけるな!」(甘えるな)
[いやんべした]
ホッとした。安心した。「いい塩梅」からきている。
「しんぺしたたって、悪い病気じゃなくて、ほんとにいやんべした」(心配したけど悪い病気じゃなくて本当に安心した)
[はへる]
走る。「やっと、はへせ!」(速く走りなさい)
「とはず語る」
 (悪い)噂話をする。悪口を言う。
「からぐ」
 紐を結わえる。

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