個人情報保護法案成立の流れ(2003年)
 各界の反対を封じこめて、2003年5月23日に成立してしまった個人情報保護法。しかし、国民にとって害のみで、益の少ない天下の悪法は即刻廃止にすべきであろう。
 これから運用される上での問題点、それは法案段階とさして変わらないが、罰則規定の適用除外に出版社が外されたことが、この法律の意図するところを端的に表しているといえよう。
 義務規定とは以下のことを指す。

1、利用目的の特定
1、適正な取得
1、安全管理
1、第三者提供の制限
1、本人の請求に対する開示など

 この義務規定がメディア、研究団体に適用されれば、表現・報道の自由を完璧に封殺することになる。そこで法案再提出の過程で、当初の学術団体、宗教団体、政治団体などに加え、放送、新聞、著述業を適用除外としたわけだ。

 しかし、週刊誌、雑誌社など出版界は「適用除外に含まれない」とされた。
 日本雑誌協会が「巨悪の追及を阻止する天下の悪法」と全面対決するのも当然のこと。今まで政治家の汚職事件、スキャンダルを果敢に追及してきたのは新聞ではなく雑誌だったのだから。肝心なところでは権力に右顧左眄する新聞社はまったくアテにならない。

 最終的に、法案可決の附帯決議で「”報道の目的”なら適用除外とする」ということを明確にする、とされたが、これは、まさに絵に描いた餅。

「”報道”とは”事実を報じること”という政府の”報道”規定は、報道の何たるかを理解していないし、それ以前の問題として言葉の論理矛盾をはらんでいる。「真実」を追及するのが報道であり、そのための膨大な事実の傍証を積み重ねるのが、報道の側面だ。「事実」と「真実」は別ものなのだ。「事実」のみを報じるのが報道ならば、調査報道もできない、さまざまな汚職・金権キャンペーンも張ることもできない。事件発生の段階で容疑事実を報道することも「報道」ではない、と規制されかねない。つまるところ、政府の言う報道とは「死亡記事」だけとなる。

 これから予想される法律施行後の国民の利益と衝突する場面はこうだ。

 [23条 あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない]がNPOに適用されたら。

 県政監視の非営利団体(NPO)が県幹部による天下りの実態を調査し、実名記載の「天下り白書」を毎年公表してきたとしよう。しかし、個人情報保護法によって、県幹部からのクレームが予想される。いわく「個人情報を勝手に売買している」と。名簿出版は法の罰則適用対象となる。公人の天下り実態の調査が違法行為になるおそれがあるのだ。裁判で闘うにしても、活動資金のないNPOは早晩手詰まりになる。かくして、公人の天下り実態の告発は消失、役人の実態は国民の目から隠ぺいされることになる。
 週刊誌のライターによる政治家身辺調査に関しても同様。

 そもそも、個人情報の保護とは、名簿業者など、特定の民間業者を対象に法整備すればいいだけのこと。「個人情報取扱事業者」という規定を設けて、国民全体に網をかぶせるやり方は、角を矯めて牛を殺す類。「6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」では巨大なアングラ市場を持つ悪質業者には何の痛痒も与えない。結果、悪質業者の個人情報漏洩事件は後を絶たず、自由な報道・表現が規制される。まるでアベコベ。

 しかも、民間に厳しく、「官」に対しては罰則はあるものの、その規定はかなり限定されている。
 つまり、「職務意外の目的で個人情報を収集した場合」に限られているのだ。開いた口がふさがらない。「職務に関係していれば適法」というのだから。
 防衛庁による自衛隊員適格者調査事件も「職務上の収集」だから、違法にはならない! なんというナンセンス。
 自民・公明主導のこの法案成立に手を貸した民主党、および、わが身かわいさに妥協・手打ちをした放送・新聞社は国民への裏切り者として、後世の歴史に汚点を残すことになった。
「個人情報保護法案」「行政機関個人情報保護法案」閣議決定(03・07)

  大きな変更点は、「利用目的の制限」、「透明性の確保」など、5つの基本原則を削除し、新たに抽象的な基本理念を儲けたこと。しかし、次の大きな問題点が残った。

1、主務大臣制を温存し、「報道」かどうかを大臣が判断するという余地を残した。

2、「報道」の内容を法律が定義するという、まさに全体主義国家的法案であるということ。

3、メディアへの苦情処理の努力規定を残したことによって、表現の自由、報道の自由が制約される。また、営利目的や特定業種に限定していない。そのため、市民活動、ネットなども規制対象になる。 

 「行政機関個人情報保護法案」の問題点。

1、新たに設けた3つの罰則には抜け道が多い。

※たとえば、<罰則1>は個人の秘密(公にされておらず、知られることで権利権益が侵害されるおそれのある情報)が記録された「個人情報ファイル」の提供を禁じている。
→しかし、「秘密」とされない「病歴」「所属団体」は含まれないことになる。つまり、個人の病歴などセンシティブ情報は保護されないことになる。

 また、コンピューター処理された「個人情報ファイル」からの提供に限られ、プリントアウトした「紙」をコピーしても罰せられない。→役人が考えそうなあいまいな抜け道。

 <罰則2>は「業務に関して知りえた保有個人情報」の「保有」とは、「組織としての保有の意味」であって個人的な場合は対象外(罰せられない)。また、「利益を図る目的」も必要条件であるため、防衛庁リスト事件のように、「職務に必要だと思いこんで作成した」場合は罰せられない。アホか。

<罰則3>は対象を「秘密が記録された文書」と限定している。つまり、口頭での漏洩は罰則対象外となる。なんのこっちゃ?

 このように、今回の法案も問題だらけ。しかも、個人の思想、信条、犯歴、病歴といった「センシティブ情報」の収集禁止規定」は見送られた。その理由は「センシティブ」の意味があいまいというもの。6割の地方自治体が個人情報保護条例の中に盛り込んでいるにもかかわらずだ。

 この2法案が国会を通れば、戦前の暗黒時代に逆戻りするのは火を見るより明らか。(03・12)
「個人情報保護法案」2月中旬に再提出

 昨年の臨時国会で廃案になり、今国会に再提出される個人情報保護法案の概要が明らかになった。

 それによれば義務規定の適用除外の対象に報道機関ならびに「著述業」を付け加えた。
 報道機関には「個人を含む」とした。主務大臣の「配慮義務」は「メディアに対してはその権限を行使しない」と明記。行政機関の職員、元職員には盗用、漏洩、不正目的での情報の収集に罰則規定を設けた。(1月25日付毎日新聞)

※「アホ言いなさんな」というのがこの新法案に対する感想。主務大臣が権限を行使し、報道かどうかを政府が決めるという図式は旧法案と同じ。第一、「著述業」とは何かを主務大臣が決めるというナンセンス。「著述業」と「そうでない者」の線引きをどこでするのか? 机上の空論であり、表現の自由を政府が管理するという図式に変わりはない。
 「適用除外」を理由に新法案に賛成するかもしれない御用マスコミの動向に注目したい。
(2003・01・25)