出会い

 17歳の美大受験生だった中尾幸世さんと初めて会った瞬間、カメラマンの葛城哲郎と顔を見合わせて「この人だ」と直感した。「彼女の目は放射能を放っている」葛城さんが感動の面持ちで言う。それでテスト撮影などせず、一気に撮影に入ったのです。
サヨコの謎

 「夢の島少女」の主人公はサヨコ(小夜子)という名前。これは「紅い花」の少女と同じ名前なんです。しかし、意識的につけたわけじゃない。「主人公の名前を何にしようか」と中尾さんと話しているとき、「サチヨ」じゃ本名そのままだしね……と言うと、中尾さんがサヨ……小夜子はどうですかと。紅い花の主人公と同じだと思ったけど、彼女はその頃、つげ義春の原作は読んでいなかったみたいですね。おばあちゃん役の本名が菊地なので、偶然「キクチサヨコ」になったんですが、あの名前はそういうわけで中尾さん自身がつけた名前なんです。若林(彰)さんはどうしようか、もう名前なしで行こう。「大人」という役名がいいということで……。



 中尾さんが血を唇でなめるシーン。あれは撮影中のケガによるホンモノの血です。狙ったわけではなく、偶然の産物。「大丈夫です」と中尾さんも言うので撮影を続行したのです。

空撮

 ラストシーン、サヨコをおぶった少年が歩いていくのを空撮しますが、ヘリの爆風で夢の島のゴミや板切れがはね飛ばされて、かなり危険でした。それが2人に当たったら、大ケガですから、この空撮はかなり気をつかいました。

白日夢

 私の作品の多くは実際に見た「夢」から発想する。「夢の島少女」もそうです。真っ赤な、肌に吸い付くようなワンピースの少女が夢の島15号埋立地からやってくる。彼女はにわか雨で全身びしょ濡れになり、花束を抱えている。その光景が目に焼きついて離れなかった。私は物語をノートに書き、誰にも見せなかった。そして、夢の続きは翌日の昼に見た。私は夢、そして白日夢を見るのが好きなのです。

「コメット・イケヤ」も私が見た彗星発見の少年の夢から企画した。翌日、浜松放送局の放送部長から今世紀最大の彗星の発見者が浜松にいるから会いに来いとの連絡。正夢になったわけです。
 母は私が白日夢を見るクセをよく知っていて、時々私に呼びかける。そのとき「えっ? 今何か言った?」というのが私の応え。それも忘れた頃に。「コメット・イケヤ」の中で、主人公が言う「エッ?今、何か言った?」というセリフは、私と母のやり取りを寺山に書いてもらったのです。「コメット」の中で一番好きな場面です。

カノン

 イタリアに行ったとき偶然聴いて、繰り返しの旋律に、これだと思って……。最初は「マザー」で使おうと思っていた。青年が思い巡らせるシーンで。でも、いざ音をかぶせたら、フランス映画みたいになってどうも具合が悪い。それで、「夢の島少女」で使うことにしたんです。

最も好きな作品

「マザー」「さすらい」「夢の島少女」−−初期の3作です。「マザー」の中には、その後の私の主題の萌芽となるものを徹底的に描き込んだ。それは生、死、老、性、芸術、詩、放浪、喪失、少年、少女、「川」、音楽、空間、世界、静、動といった相対する観念です。それが「さすらい」「夢の島少女」へと連鎖していく。私にとってひとつの作品を創るということは1回死ぬことと同じ。単発ドラマというのは生死の境界で創るものです。