出会いというものはいつだって唐突にやってくる。それがいつかなんてことは誰も知る由もない。
雨が降っていた。ちょうど梅雨の時期だった。
俺は雨が嫌いだ。外にでれないし、じめじめとしているし、雨に濡れるのもごめんだし。
そんな雨嫌いの俺、「鷲尾和也」は傘もささずに雨が降りしきる中を走っていた。
その日は新作のゲームが発売される日だった。朝は雨が降っていなかったので急いでいた俺は傘も持たずに家を出た。
長い列が出来ていた商店街のゲーム店の前に並んで、開店時間の11時になるまで2時間待って、さらに自分に回ってくるまでに1時間待ったのだ。
買えたときはもう12時をすぎていたので昼を近くの喫茶店で適当に済ませて、手に入れたゲームを片手に意気揚々と帰ろうとしたときだった。
いきなり雨に見舞われた。雨が降っていなかったからって油断していた・・・・・。
とりあえず今は商店街を走っているのだがこのままでは全身びしょぬれになりかねないし、抱えているゲームにも被害が及ぶかもしれない。おまけにここから家までは走ってもあと10分はかかるときた。仕方がないので近くのシャッターが降りている店で雨宿りをさせてもらうことにした。
「ったく・・・・・鬱陶しい雨だ・・・・・・。」
せっかく家に帰ったら1時から夜中の1時まで12時間ノンストップ新作トライアルという夢の計画を脳内に描いていたのにッ・・・・・・・。
そう考えていたその時だった。隣をふっと見ると女の子が立っていた。
歳は自分と同じくらいだろうか。蒼い髪がきれいな、白いワンピースを着た女の子だった。
思わず魅入ってしまっていると、その女の子は俺の顔を見ずに唐突に話しかけてきた。
「雨は・・・・好きですか・・・?」
「へっ?」
女の子のそんなぶしつけな問いに思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「いや・・・俺はあんまり好きじゃないけど・・・。」
「そうですか。何故です?」
「そりゃあじめじめとしてるし、外には出づらいし、濡れるし・・」
「私は好きです。」
「は?」
俺が言い終わる前に自分自身の答えを言ってきた女の子。
「雨はいろんな出会いが待ってるんです。」
「いろんな・・・・出会い・・・・・?」
「はい。」
「あんまり人が出歩かない中で出会いなんて」
「そんなことはありませんよ。」
「そりゃ何でまた・・・」
「だってほら。今日はあなたと出会えたじゃないですか。」
そう言いながら彼女はこちらを向き、微笑んだ。横顔もきれいだったがこんな顔を見せられると・・・・・・・いかん・・・・自分でも顔が少し赤くなってるのがわかる。
何せ本当に可憐な笑顔なのだ。それこそ今まで見たこともないような。
そんな俺を後目に彼女は続ける。
「出会いっていうのはとても素敵なものだと思うんです。人と人とをつないでゆける。もしかしたら素敵な関係が築けるかもしれない。私にとって、とっても大切な人になるのかもしれない。それを考えるととても素敵なことだと思いませんか?」
それに俺は答えることが出来なかった。なぜなら彼女の微笑みを見て未だに惚けていたからだ。そんな自分は話の内容をまともに聞けるわけもなく。
彼女はさらに続ける。
「そんな出会いが待っているから私は雨が好き。晴れの日ではないような素敵な出会いをくれるから好き。そして・・・」
彼女は一呼吸おき、言葉を紡ぐ。
「今日、あなたと出会えたのも私にとって素敵な出会いの一つ。素敵な運命の一つ。そんな素敵なものだから私はあなたとの出会いを大切にしたい。」
彼女が言葉を紡ぎ終わった後、一瞬辺りが静寂に包まれる。聞こえるはずの雨音さえも聞こえない。
「って・・・私ヘンなこと言い過ぎちゃいましたね。ごめんなさい、こんな話につきあわせてしまって。」
「い・・・・いや、別にいいんだ。雨が上がるまで無言で突っ立っているのもつまらないしね。俺も話せてよかったと思うよ。」
「いえ・・・こちらこそ・・・・。あ・・・・・・雨、上がりましたね・・。」
「そうだね・・・。」
でも上がるには上がったがまだ空は雲で覆い隠されている。この季節だとまた降り始めるのも時間の問題だろう。手遅れになる前に早く帰らないと・・・・。
「それじゃあ、私は帰りますね。」
「ああ、気をつけてね。」
「ありがとうございます。また今度会いましょうね♪」
そういって彼女はそのまま立ち去っていった。
本当に笑顔のきれいな女の子だったと思う。会えるのならもう一度会ってみたいものだ・・・・・・・・・・・・・・って・・・。
「あの娘・・・・・今度って言ってたけど・・・・・・会えるのか・・・・?」
確かに俺はこの耳で聞いた。「また今度会いましょう」と。しかもその声には絶対にまた会えるというような彼女の確信めいたものが含まれているような気がしたのだが・・・・。
俺の気のせいだろうか?
「まっ、何にせよ家に帰ってゲームゲーム♪」
そうして俺は今度こそ意気揚々と家路についたのだった。
このときはあの出会いが俺の日常に変化をもたらすなんてことは知る由もなかった。
〜Summer Triangle Lovers〜
あの初夏の出会いは
今まで止まっていた歯車を
少しずつ動かし始めた
その歯車の名は「物語」
動きは誰も止めることは出来ず
誰も抗うことは出来ない
もうただ仲がよかっただけの
楽しくもぬるい日常に戻ることもなく
「ただのともだち」から一歩進んでいくことになる
これは「出会い」が紡いでゆく一つの物語
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