注:この物語は完全にフィクションです。登場人物や地名は実在するものとは一切関わりがありません。又、一部の表現はあくまで演出であり、他意はありません。ご了承下さい。
有明上陸作戦
作:たこぽんず
序章
戦争が起きる原因は、宗教、思想、経済など、様々なものである。時は西暦2045年、2回目の世界大戦と言われる戦争が終わってから、百年。人々が平和な世界を画策し、求めたこの時代に、新たな戦争の火種となるものが存在した。『同人誌』である。元々は、日本における、出版以外の方法で素人が作品を公開できる場として存在した同人誌で、当初は文芸作品を中心としたものが多かったが、時代と共に、漫画やイラスト、特に美少女キャラクターという、『萌え』の観点に見たジャンルが急成長し、平成初期には、いわゆるオタク文化として、社会的にも認識されるようになった。それがいつしか、全世界に広がり、日本の産業の項目にオタク産業というものが追加された。オタク産業といえば日本、日本といえばオタク産業、といわれるほどに成長したこの文化は、世界に真の娯楽や感動を与え、戦争があってはその文化を楽しむことがままならない、ということを認識した各国家は、次々に平和を目標とした政策を提示、世の中で、戦争というものは殆ど無くなった。
そうして国家間での戦争や紛争がなくなってから、人々はオタク文化を受け入れ、多くの優れた作品と技術を創り続けていった。しかし、今までのように、築かれた平和がすぐに崩されるのであった。
事の発端はある年の、ある国家でのイベントである。
コミックマーケット。それは、いまや世界中の誰もが知っていて、そこへの参加をすることを最大の目標とする人も多い、全世界最大規模の、同人誌即売会。日本で長年にわたって開催されてきたコミケで、事件は起こった。
様々な人が集まる会場で、ある男が大手サークルの列に並んでいた。男の名前は『ニダ豚』。その男が3時間にわたって並んでいたその列の、販売机に辿り着いたとき、その声は響いた。
『本日の新刊、完売いたしました』
この言葉は、古来より多くのオタクたちを苦しめた、魔の言葉である。その言葉を目の前で聞いたその男、ニダ豚は、後ろにいる男達と同じようにため息を漏らし、うなだれた。だがここで、ニダ豚にある変化が見られた。目撃者の話によると、彼の頭のあたりで、閃光のような輝きが見えたという。まさに『シュピーン』といわんばかりの光が輝いてから、彼は他の参加者達とは違う行動に出た。
「てめぇ!!俺の前で完売とはどういう事ニダ!!今すぐ前言撤回しるニダ!!」
あろうことか、サークルの売り子に詰め寄ったのである。
「これは陰謀ニダ。俺の前で売り切れるのはおかしいニダ。今すぐ俺に新刊を販売しるニダ!!」
突然のことに、周囲は静まり返る。しかし、すぐに我に返ったコミケットスタッフが、暴行をやめてすぐに移動するように指示する。だが、
「うるせぇ、てめぇには関係ないニダ!!」
と、思い切り突き飛ばす。
あたりは騒然となった。そもそも、自分の前で売り切れることは、誰にでも平等にある可能性であり、ましてやスタッフやサークルに責任など一欠けらもないのである。皆それを理解しているからこそ、完売したら落ち込むだけ落ち込んだら、次に向かっていくのだった。だが、遂にその常識を理解できないものが現れたのである。
「とにかく早く本を販売しるニダ!何?!もう売る本は無いだと?俺には本を売れないってのか!てめぇ、バカにしやがって!刺してやるニダ!!」
そういって爪楊枝を懐から取り出し、売り子の目に向かって向ける。
慌てて警備員に取り押さえられ、そのまま連行されていったが、この事件以来、ニダ豚のように、マナーを守らずに力ずくで物品を買いあさろうとする人間が急増した。そして遂には道具を使い、武器を使い、いつしか戦争のように、人の生死が掛かるイベントになってしまった。それらの人々は皆、ニダ豚と同じように、何かの輝きの後で、暴挙に出ていた。それに気付いたオタク学者が研究した結果、今の社会における、オタク文化に染まって、ある一定ラインの知識や経験、そして、欲望があれば、あとは何かをきっかけとして、そう、ニダ豚のように、覚醒するということが判明した。そしてそれは、全てのオタクに可能性があり、覚醒したらば並の人間を大きく上回るオタクとしての能力を持つということもわかった。更にその学者は、研究を重ねた結果として、覚醒したものは全てがニダ豚のようになるのではなく、日頃からマナーやルールを守って行動していれば、覚醒したまま、善なるオタクとして活動できるということを学会で報告した。
このように、覚醒して新たな力を得るものたちを、いつしか人々はニュータイプと呼ぶようになった。ニュータイプに覚醒したものは、そうでないものを自分の同胞として組織をつくり、時と共に各地に軍隊が出来上がっていった。そんな中、覚醒してもルールを守る者や、覚醒していないものたちがイベントで本を手に入れるために、彼らもまた軍隊を創設し、イベントの度に幾度となく戦闘を繰り返していく。
そんな現状に困り果てた即売会関係者達は、全世界のオタクにある提唱をする。
『決められたルールの下、同人誌即売会を開催する』
至極当たり前のことであるが、これすら守れていなかったオタクたちは、元来の習性の一つ『スタッフには逆らわない』という本能に従って、それを受け入れ、節度ある戦争に切り替えた。
今ではそのシステムもある程度整備され、各地で安定したイベントが開催された。ただ、例えルールの下であるとはいえ、あくまでそれはイベント、即ち戦争なのである。人々が欲望のもとに集う、コミックマーケット。それに参加できるのはごく限られた勇者達だけだった。
第1章
コミックマーケット。人々はこの日のために各地で訓練を重ね、物資を集め、情報を手に入れ、ありとあらゆる手段でこの戦いに勝とうとしていた。『勝利』とは、即ち『販売物確保』のことである。人々の欲望に渦巻く戦場はまさに地獄。不動明王の様に列に並び、阿修羅の如く本を買い、千手観音の如く荷物を持つ。人が人でなくなる場所、それがコミケである。昔の、人々が宇宙に進出する前は、準備会の努力、参加者のモラルで大きな事故もなく行われていたが、宇宙に進出して、ニュータイプと呼ばれる人間が出現したことにより、大きく変わる。ニュータイプとは、重力から開放されたときに、その理性も吹き飛び、欲望のためなら、多少の常識を覆しても構わないと思う人々の総称である。人間が一度でも宇宙に出ると、殆どが覚醒し、今では人類の8割がニュータイプとなってしまった。そんな人間があつまるのであるから、当然コミケは行われる。それも今までより更に凶悪なものが。
人々はこれまで以上に物を求め、時には行く手を阻むものを自らの手で消し去ってでも、買い物をする。『既に買った商品には手を出さない』等の、最低限のルール以外は存在せず、毎回数千人の死者が出る。けが人など数える必要もなく、参加すれば無事では帰れないのが当たり前だった。
そして今、そのコミケが目前となって、銀河系各地は異様な熱気に包まれていた。
中でも、歴戦の勇者を多く生み出してきた、日本の千葉県に本部がある、西国防衛軍。ここはコミケで生き残る為のエリート教育をする学校をもととした、軍事組織で、その歴史の中でも類稀なる能力を持った部隊があった。
12月29日0130時、東京湾海上。
「いいか!お前達はまず上陸後、速やかに一般列最後尾を確保!陣形を張れ!」
暗闇の中、東京湾を1艘の揚陸艇が進んでいく。その上で、男が部下達に指示を出す。
安部大尉。西国軍有明上陸部隊の一員である。海上揚陸班の指揮官を務めていた。
「一般列最後尾を確保すれば空挺部隊の作戦が実行可能となる。そうすれば先に侵入してる徹夜版と合流できるので、その後進軍が楽になる。これが成功しなければ、他の作戦は一切進行しない。貴様らの行動は全てに影響するぞ。わかったか!!」
『了解!』
部下達が返事をする。
「よし、上陸予定時刻は0200時。それまでに各自装備の点検を済ませておけ。」
乗員が作業に取り掛かったとき、通信が入る。
「ゆりかもめ1より、水上1へ」
安部が応答する。
「こちら水上1、オーヴァー」
「ゆりかもめ1は配置に着いた。ゆりかもめ2も同じく。そちらはどうだ」
「現在海上、浦安沖だ。到着予定は0200時。到着しだい上陸する予定」
「了解。ではこちらは出発する」
「了解。健闘を祈る」
無線を切る。
「もうすぐだ。もうすぐで戦争が始まる・・・」
既にそこからは有明の明かりが見えていた。
新交通ゆりかもめ新橋駅。
「海上部隊は問題なく進んでいる。こちらも出るぞ」
陸上部隊の一つ、ゆりかもめ突撃ルートの指揮官、寺倉大佐が、支援部隊である第2班の指揮官、吉野少佐に言う。
「了解。既に兵は乗車済みです。いつでもいけます」
「よし、出発する!」
寺倉の指示のもと、兵士達が配置に着き、指揮官二人も乗車する。
隊長席に座ると、吉野少佐が無線をとる。
「ゆりかもめ2の兵たちに告ぐ。いいか、俺達はあくまで支援部隊だ。俺達はただゆりかもめ1を徹夜班の待機ポイントまで連れて行けばいい。他のことは考えるな!」
それを聞いた寺倉も又、無線を手に取る。
「ゆりかもめ1、聞いての通りだ。俺達のケツはゆりかもめ2がしっかりと栓を閉めていてくれるから、こっちは力む必要は無いぞ。ただひたすら走れ。それだけだ」
喋り終わると、2番線の車両にいる吉野に合図を送る。
「ゆりかもめ1が突撃したらゆりかもめ2は後方支援。国際展示場正門駅到着予定0210時。先に海上部隊が側面を進軍しているから前だけを見ろ。目標地点はやぐら橋。目標到達時刻0240時だ。それでは出発する。1番線、発射!」
ホームに発射のベルが鳴り響き、扉が閉まる。
「戦場が・・・戦場が俺を呼んでいる・・・」
防弾ガラスの窓から見える海を眺めながら、寺倉は呟いた。
りんかい線新木場駅。
「野郎共!!きびきび動け、このくそったれどもが!」
作戦開始を目前として、西側上陸部隊、りんかい1の指揮官、藤倉准尉の怒号が飛んでいた。
この部隊はとにかく敵という敵を倒し続けるという、まさに突撃隊で、指揮官である准尉が最上級、隊の指揮官も下士官、実働部隊は9割が兵卒という部隊だった。任務はりんかい線で新木場より上陸、戦場の西側から突貫し、あらゆる抵抗勢力を撃滅せよ、それだけだった。
「まもなく出撃する!各員乗車しろ!」
合図と共に、兵士達が装甲電車に乗り込む。
「海上部隊、ゆりかもめ部隊はもう動いている。先を越される訳にはいかない、行くぞ。出発!」
ホームから電車が出発する。
「このルートは俺達だけでなく、敵も多くが使うが、交戦許可エリアは国際展示場駅についてからだ、それまでは撃つなよ。その代わり、駅を出たらとにかく進め。いいか、予備マガジンも、弾倉の中にも弾を残すな!弾を残したまま死ぬことは俺が許さん。死ぬのは弾を使いきってからだ。いいな!」
『サー、イエッサー!!』
車内で整列している兵たちが大声で返事をする。
「いいか!お前達は今日の為に訓練してきた。そして、今日戦場で多くの戦果を挙げ、生き残る為にこれまでの特訓をしてきた。今までのお前等は何も出来ないただのくそったれ新兵だった。だが、貴様等はたった今、ここでくそったれから、一流の戦士に変わる!」
古参の威厳を持つ藤倉が、更に語気を強めて叫ぶ。
「お前等の目的はなんだ!!」
『コミケ!コミケ!コミケ!』
「お前等の戦場はどこだ!!」
『コミケ!コミケ!コミケ!』
「お前等はコミケが好きか!!」
『ガンホー!!ガンホー!!ガンホー!!』
電車が国際展示場のホームに滑り込む。
「さあ、戦場だ!ここがお前等の待ちわびていた場所だ!今こそその力を見せてみろ!行くぞ!俺に続け!!!!」
『オオオオォォォーーーーーーッ!!!!!』
扉が開き、藤倉が飛び出す。屋根の上の機銃手は援護射撃を始め、敵兵はこちらの姿を確認すると撃って来る。
最後尾に並んだ人に攻撃をすることはコミケットルールで禁止されている。つまり、開場前に敵を阻止するのは駅を出た後に襲撃するしかない。だからこそ、駅は、開場時刻の8時間前であったとしても、既に前線と化しているのである。
「ぐああぁっ!」
味方の一人が倒れる。
「ええい、ひるむなっ!戦友が死んでも何があっても止まるな!」
藤倉が叫ぶ。
「准尉―――っ!!前方の街路樹に狙撃手が!」
「木ごとナパームで焼き払え!」
「RPG――――っ!!」
「伏せろっ!!」
爆音が響く。
「くそっ、戦争じゃあるまいに、人間にRPGまで使うとは・・・」
「准尉!!敵軍、戦車が出てきました。2両です!」
見ると遠方から90式戦車が姿を現す。
「旧世紀の骨董品じゃないか!!あんな物持ち出すなんて!くそったれ!自衛軍では新世紀00機動戦車が制式化されてるってのに・・・ええいっ、列車についているドラゴン改で叩き潰せ!射程はこちらのほうが有利だ!」
「了解!!」
藤倉の先を行っていた兵士が逆走してくる。
「貴様!!何をやっている!」
「戦車が出てきたんだ、やられちまいます!」
「逃げるな!こちらもRPGと手榴弾で応戦だ!」
「死にたくねえよっ!」
叫びながらその兵士は走り続ける。
「止まれ!くそ野郎が!敵前逃亡は禁じられているぞ!」
それでも逃げる。その頭を敵の流れ弾が掠めて、慌てて男は身を伏せる。そして、また走り出そうと起き上がる。
また走り出そうとした刹那。
パアンッ!!
兵士の足元を銃弾が掠める。藤倉の拳銃弾だった。
「いいか、もしお前が逃げたら全体の指揮に関わる。そうすれば我が軍の兵士の死傷者は膨大に増える。お前が逃げるせいでだ。だから指揮官である俺はそれを阻止しなければならない」
そういって拳銃の照準を兵士の頭に合わせる。
「ここで俺に殺されるのと、戦車に突っ込んで死ぬのと、どちらがいい?」
「・・・」
しばらくの逡巡ののち、兵士は姿勢を正し、敬礼をする。
「失礼しました准尉殿。どうかしていたようです」
「分かれば良い。行け」
礼の後、兵士は走り出す。
「・・・」
拳銃をしまい、アサルトライフルを構えなおす。
「羽深!!90を潰しに行く!援護しろっ!!」
「了解!!」
藤倉は走り出す。
(・・・俺だって兵士を無駄死にさせたい訳ではない)
幾度と無く感じてきた思いを内に秘めながら、戦車に向かっていった。
新交通ゆりかもめ国際展示場正門駅、改札。
「GO!GO!GO!GO!GO!」
指揮官の掛け声と共に、ゆりかもめの車両から男達が飛び出す。
「いけぇっ!目標はやぐら橋だ!!」
改札をでると、まだ日も出ていないというのに、そこは人で埋め尽くされていた。準備会によって定められた、共用野戦病院も兼ねる国際展示場駅は、この時間から既にフル稼働だった。
改札の前で監督をしている準備会スタッフが叫ぶ。
「そこ!!走らないで!!けが人がいる!!こら押すな!順番に進め!!おい貴様!会場での化学兵器は使用禁止だぞ!!」
昔からスタッフは必死の思いで、今は本当に死んでしまうこともあるが、コミケットを切り盛りしてきた。だから、どの部隊の人間でもスタッフの指示は必ず聞く。それがコミケに参戦する上での最低条件であるからだ。だが、中にはそれを守らずに好き勝手やろうとする者もいる。そういった連中を抑えるために、コミケット準備会はどの部隊よりも優れた兵器と、武装スタッフを用意している。
「こら!化学兵器は禁止だ!!やめないと命令違反で処分するぞ!!ええい、逃げる気かっ・・・やむを得ん、出動!!」
迷彩服に黒い覆面の格好をして、『コミケット準備会』と記された腕章をした男達が拳銃を構える。科学兵器を持った男は逃げて、既に500メートルは離れている。だが、その距離でも動かずに、狙いを定める。そして引き金を引いた。
「命中。違反分子除去」
そう呟くと、また所定の配置に戻る。
コミケット武装スタッフは独自の特殊訓練を受けており、各国の特殊部隊にも勝るといわれている実力を持つ。彼らにとって、1キロ以内の走る敵を拳銃で殺すことなど、朝飯前なのである。
「早くからご苦労様です」
寺倉がスタッフに声をかける。
「ああ、ご苦労様です。今日も一日頑張って下さい。怪我をしないように」
それに対して笑顔で挨拶を返すスタッフ。隣の人と挨拶、コミケットのマナーである。
「さて、吉野、俺達も行くか。そろそろ合流ポイントの確保が出来ているだろう」
「OK、行こうぜ」
寺倉は西国で独自開発されたT4榴弾付き突撃銃を、吉野はT6機関砲を構えて、走り出す。
「こちら水上1、ゆりかもめ1応答せよ」
無線が入る。
「ゆりかもめ1、寺倉大佐だ」
「水上1、やぐら橋を確保。航空支援を要請する」
「了解、人員・物資の補給を行うように空挺に要請する。待機せよ」
「了解」
無線を切り、隣の吉野に合図をする。吉野はそれに頷いてから、自分の無線をとる。
「こちらゆりかもめ2。どろり濃厚1応答せよ」
「どろり濃厚1よりゆりかもめ2、送れ」
「やぐら橋の制圧に成功。空挺部隊による人員物資補給を要請する」
「了解、直ちに動かす」
千葉県、西国基地
無線でゆりかもめと話をしていた男、増子中将が声を上げる。
「お前等!いよいよ出発だ!俺達は前線の徹夜班の陣地を防衛する為の交代人員として出る。その後、0800時まで警戒態勢だ。それまでは一切気を抜けない。8時間以内にアルコールを摂取したものは名乗りでろ」
兵たちを見回す。
「誰もいないな。よし、さすがは俺の空挺部隊だ。へっぽこ自衛軍の習志野狂ってる団とは大違いだ。それじゃあいくぜ、各員搭乗しろ!」
号令と共に高速輸送機に乗り込む。
「離陸しろ!!」
ジェットエンジンが点火され、滑走路を進み、離陸した。
「今回の機体はこの日の為に開発された新型高速輸送機T18だ。最高速度はマッハを超えるバカみたいな輸送機だぜ。酔っ払うなよ!」
増子が部下達に話しかける。この機体は最高速度マッハ1強、航続距離23500キロ、最大搭載重量800トンという馬鹿げたスペックを持っていた。
「安心しろ、今回は近いからそんなに飛ばさないさ。ほんの5分で戦場だ。こうやって喋ってる間についちまうからな。気を抜くなよ」
「中将、戦場目視範囲に入りました」
「よっしゃ、降下用意!俺が最初に行く。付いて来い!」
『了解』
「降下可能です」
「よーし、いくぜ!!」
ハッチが開かれ、そこから増子が飛び出す。それを追うように部下達も降下する。
風を体で感じながら、戦場を見る。逆三角が時々起こる爆炎で照らされる。
「なかなか綺麗だな。あれがロケット砲じゃなければ尚良いんだが」
呟いたとき、何かが増子の頬を掠める。
「・・・ちっ、風以外のものまで飛んできやがったか。各員応戦しろ」
陸上の敵に向かって射撃する。
「俺だけ突出してるな・・・重すぎか。仕方ない、ちとブレーキをかけるか」
そういって増子はおもむろに新型LAW(Light Antitank Weapon)を取り出し肩に担ぐ。砲の後方を丁度パラシュートの中に向けて。
「発射!!」
引き金を引き、ロケット弾が発射されていく。それと同時に砲身からでたバックブラストだパラシュートを押す。
「なんとかなるもんだな・・・」
笑みを浮かべながら部下に合図をする。『着地後、速やかに突撃』と。
ここでもまたオタク達の戦いが始まった。
西側徹夜待機列
『全兵士に告ぐ。こちらは上陸作戦部隊吉野少佐だ。現時点0300時を以って徹夜部隊との合流に成功、野営地を確保した。各員速やかに戦闘を終了し、集合せよ。休戦状態に入る。繰り返す・・・』
無線で一通り話し終わってから、コーヒーを手に取り、指揮官用テントで一息つく。
「どうだ、調子は」
椅子に座ったところで、寺倉が声をかけてくる。
「まあ、悪くはない、といったところじゃないか?」
「・・・そうだな。これでとりあえずは陣地を確保できたし、暫くの間は休憩できる」
「そうは言っても7時からオーダー会議だし、8時半には列移動が始まるから、ゆっくり眠っているわけにはいかないぞ」
「それでも3時間以上ある。仮眠くらいは出来るさ。部下達に疲れを残してはいけない」
「そりゃそうだ。今の時点でへばられたら、後の任務どころじゃなくなるさ」
「本当は景気付けに酒でも振舞ってやりたいが、前線での飲酒は禁止だ。ジュースで我慢して貰うしかない」
「後3日もすれば好きなだけ飲めるさ」
「・・・生きて帰れればな」
ふっ、とため息をつき、コーヒーをすする。
「報告します。ゆりかもめ1・2、水上1・2、りんかい1から8、空挺部隊、全部隊合流しました!」
部下の一人がテントに入ってきて報告する。
「戦況は?」
寺倉の問いに、兵士はクリップボードの書類を読み上げる。
「ゆりかもめ1戦死0、負傷2。ゆりかもめ2戦死0、負傷4。水上1戦死2、負傷6。水上2戦死0、負傷1。りんかい1〜8総計で戦死20、負傷41。空挺部隊は戦死負傷ともに0です」
「空挺はさすがだな。増子中将が頭張っているだけある」
吉野の言葉に頷く寺倉。
「それから、りんかい1の藤倉准尉から報告があります。都合の良い時間に呼んで欲しい、との事です」
「分かった。さがって良い」
「失礼します」
敬礼をしてから、兵士が出て行く。
「藤倉が報告か。何だと思う?」
吉野が首を捻ってから、答える。
「何か情報を、それも重要なのを入手した、と考えるのが妥当だろうな。通常の報告なら文書か伝令で済ますだろう」
「どうした、何かあったか?」
テントに増子中将が入ってくる。
「おお、中将殿。お疲れ様です」
寺倉が挨拶する。
「いやいや、現時点での戦況を聞いた所です」
「そうか。それなら俺も聞いたが、悪くない状態だな」
「全くです」
寺倉からコーヒーを受け取ると、増子は反対側の椅子に腰掛ける。
「よっこいしょ、と。まあ、まだ前哨戦だしな。問題はこれからなんだよ」
「ええ。7時からオーダー会議ですし、それまでに敵戦力を把握しなければなりません」
寺倉の言葉に吉野が続ける。
「現在情報部員が敵軍基地から、偵察部隊が現地の敵陣営から情報収集中です。後1時間もあれば十分な情報が得られるかと」
「よし。焦る必要は無い。時間はまだある。今は早い情報より、確実な情報だ」
「了解」
「次の作戦用の部隊編成を確認してくる」
増子がコーヒーを持って、テントの外へ向かう。
「分かりました。ではこちらで最新情報による突入パターンを纏めておきます」
「頼む」
増子が出た後、吉野がテント内にある端末に向かう。
「とりあえずは敵の配置の確認だ。現状は?」
寺倉の問いに、しばらく画面を眺めてから吉野が答える。
「・・・よし、来た。敵の配置及び戦力が分かった。想定していたのとさほど変わらないな」
寺倉が画面を覗き込む。
「ほう・・・これなら当初のパターンでいけるか。ただ、そこの・・・」
画面の一点を指差す。
「こりゃ北朝鮮コミケ専用特殊部隊キムチ1じゃないか。今回はこいつらまで来てるのか。厄介だな」
「ああ、しかもどこにそんなに金があるのか知らんが、戦車が40両に、その他砲・工兵多数と来たか。本気だな」
北朝鮮は旧世紀では日本と外交的にもめていたが、ある時金正日総書記がオタク業界に目覚めて、それ以来全国力を以って世界中のオタクグッズを集める国になった。
「こいつらはルールも守らないことが多いしな・・・一応警戒しておこう。吉野、AT部隊(対戦車部隊)は動けるか?」
「04AT中隊が。他は既に他の場所に配属中、又は基地の防衛に当たっている」
「04でいい。砲撃・支援・工作の3小隊に分け、作戦開始と共に砲弾を叩き込んで無力化しろ」
「了解」
吉野が外に出て行く。
「さて、編成の修正案を作成しますか・・・」
机の書類を手に取り、デスクに向かう。
「今回は思ったより派手になりそうだな」
西側待機列宿営地。
「以上で作戦会議を終了します。オーダーは配布された資料通りにお願いします」
士官用テントにいた、部隊の指揮官クラスの士官たちが腰を上げる。
「大佐殿」
藤倉が寺倉に声をかける。
「どうした」
「さっきの話か。分かった、来い」
自分の部隊の宿営地に連れて行く。
「で、敵部隊に戦車隊がいるんだったな。北朝鮮軍じゃないのか?」
北朝鮮軍の配置図を藤倉に見せる。
「いえ、キムチならば今回は新型機動特車『キムチスーパー』のみで編成されています。自分が見たのは90でした」
「90?」
「ええ。ただ、いまさらあのポンコツを持ってくるのは妙だと思い、調査してみたところ、敵軍は新型MSの試用が目的で、90はそのサポートです。人員を消耗しないように全て無人制御化され、能力も多少改良された改造機です」
「MSか。これまた厄介な。こちらは今回はMS隊を配備していないというのに」
MS(モビルスーツ)とは、旧世紀に存在した架空のロボットを実現させようと日本の技術者が開発し、一時は単なる夢物語であるともいわれた中、露助大帝国(旧ロシア連邦)の科学者、ロリプニスキー博士のロリプニスキー粒子発見により、MSを独立稼動させることに成功し、新型兵器として戦場に持ち出されるようになった兵器である。ただ、その開発・生産コストがあまりにも高く、一部の大国や、もともと開発技術がある日本系の軍のみで使用されている。開発の起源に従い、各軍部では暗黙のルールとして、可能な限り原作に存在したMSを開発し、もしほぼ全ての兵器を開発し終わったら、独自のMSを開発するというマナーがあった。
西国軍では、技術士官長である徳平少尉を初めとする優秀な技術者達が開発に当たっていて、世界中でもトップクラスのMS開発技術をもつが、それでも現在ではまだ、ザクU初期型が量産ラインに乗ったばかりという段階であった。
「敵のMS技術はわかるか?」
「調査しましたが、結果は残念ながら」
藤倉が調査結果がまとめられた書類を手渡す。
「部隊名は飯沼軍、その他は全てunknownか・・・。せめてMSが何なのか分かれば良いのだが」
その時兵士が一人入ってくる。
「失礼します。准尉、MSの種別確認に成功しました」
「報告しろ」
兵士の報告は二人にとって大きなものだった。ジムコマンドが15機、そして、ジムスナイパーが9機という編成で、MSのほかに、改良型90式戦車21両という大規模軍だった。
「まずいな。今のこちらの戦力では、もし交戦したらその他の作戦が一切遂行できなくなる。へたに手出しできないぞ」
「大佐殿、我が軍もMSを投入すべきでは?」
「ただ、今の一般MS大隊をぶつけても、敵を倒したはいいが、こちらの消耗もバカにならんぞ」
西国軍に配備されているのはMS一個大隊のみ。MSは3機1分隊で構成され、西国軍MS大隊は指揮官機を含めても62機しかMSがない。しかもその中身は、グフカスタムや通常型グフが指揮官機に、一般機はザクUがいいところだった。いくらMSといえども、大量の戦車隊相手では被害は免れられない。
「では、われわれが特別部隊を構成すべきです」
特別部隊。それは、技術の流出を防ぐために、一般開発とは別ルートで開発されている、特別なMSで構成されている部隊で、そのパイロットは吉野や藤倉たちのよぅに、指揮官の中でも特に優れた一部の兵士で極秘に構成されていた。ただ、特別扱いされているのは、機密保持という理由の他に、作られた機体は全て研究開発段階での実験機であり、言わば試製MSなのである。その為、扱いも非常に特異的で、しかも量産どころか同じものをもう一機作ることですら不可能という代物だった。
「だが、どんなに情報を抑えても、戦闘に出せば出すほどこちらの手の内が明かされてしまう。切り札は出来るだけ取っておきたい」
「それは正論です。しかし、この状態で万が一交戦状態になったら、MSを持ってきてない我々は、確実に壊滅します」
「報告します!!諜報員からの連絡です。飯沼軍は、攻撃目標として、第一目標が自衛軍MS試験部隊、第二目標が西国軍となっています。自衛軍との交戦データが取れ次第、我が軍に攻撃を仕掛けるようです」
「間違いないのか」
「は、敵軍基地内の資料及び、敵指揮官の会議の盗聴により、情報の信憑性は高いと思われます」
藤倉たちは顔を見合わせる。
「敵軍は決して弱くはない。我が軍も攻勢に出るべきです」
しばらく考えた後、寺倉が結論を出す。
「よし、習志野基地に通信を繋げ。技術開発部長徳平少尉だ」
「了解」
兵士が通信に取り掛かる。
「繋がりました」
兵士から通信端末を受け取る。
「こちら西国軍司令部大隊長寺倉大佐だ。徳平か」
「徳平です。何か」
「急で悪いが、MSを出して貰うことになった。通常MS大隊だ。T18をあるだけまわせ」
「了解。すぐにやります。ところで、特機(特別MS機動隊)は?」
「そっちは今すぐにはいらない。ただ、いつでも出せるように、暖めておいてくれ。アレもな」
「ああ、アレですかい。了解」
「交信終了」
端末を兵士に渡すと、寺倉が声を上げる。
「よし、増子中将を呼べ。緊急時のためにMS戦闘補助隊を構成する。それから、特機が出せるように、特機パイロットはいつでも任務から抜けられるように配備しなおせ」
「了解」
藤倉が外に出る。
「戦闘準備まで後1時間だぞ!急げ!」
0016年12月29日0710時 西国基地
基地の滑走路脇を兵士達が慌しく駆けていく。
「T18−004から009、出発準備完了です!」
兵士が管制室にいる徳平に報告をする。
「OK、いけるとこからいっちゃって」
「了解」
GOサインを送り、輸送機のエンジンに熱が入る。
「さてと・・・」
マイクをとって、基地に放送する。
「基地内の各員に告ぐ。ただいまより、特殊兵装0046を開始する。第3ランク機密保持者は至急第8整備場へ向かえ」
放送が終わってから、徳平は管制室を出て、地下に隠された第8整備場に向かう。
エレベーターを使い、地下に入ってから、セキュリティチェックを抜ける。
電動ドアが開き、中に入るとそこには広大な空間があった。鉄骨で頑丈に組み立てられ、まさに旧世紀のロボットアニメに出てくるような秘密ドックといったところだ。
「徳さん、コチは準備してアルよ」
入ってきた徳平に声をかけてきたのは兵器開発部長常見中尉だった。生粋の日本人であるはずなのに、何故かエセ中国人みたいな喋り方をする。
「了解、すぐにMSとアレの起動テストに取り掛かりましょ」
「ワカタ」
それぞれが担当の機体に歩み寄る。徳平がまず向かったのは、吉野少佐用のMS、試製ドワッジだった。コックピットに入り、電源を入れる。
「自己異常検知システムは・・・異常なしと。次にホバーの出力は・・・」
次々に稼動を確認していく。
「OK、ドワッジは完了。MS操作免許保持者はこれをアレの搬入口に持っていっておいてくれ」
指示を残して次に向かう。
その頃、常見が向かっていたのは、安部少佐用の試製量産型ギャンであった。
「ヤパリMSは白兵戦ダヨナ〜」
妙なことを呟きながら整備に取り掛かる。
「ビームソードよし、ビームソードよし、ビームソードよし・・・ってビームソードしか診てねえっ!!」
続いてシールドミサイルの確認に入る。シールドミサイルは、盾にミサイルが仕込まれていて、時には防御に、時には攻撃に使える便利な兵器だが、よくよく考えれば危険極まりないものである。弾頭が盾に仕込まれているなら、攻撃を受けたときに高い確率で誘爆を起こし、武器としても防具としても役に立たないものと化してしまう。その為、どんな機構を使っても役に立たない代物が出来てしまうので、殆どの軍で開発が見送られている。しかし、この西国軍では開発を見送るどころか、どちらかといえば高い優先度で開発を進めた。その理由は、多少リスクがあっても、白兵戦に特化した兵器があれば、砲撃支援がないところや乱戦になったときの対処ができるというものだったが、何より大きな理由は『男ならギャンは基本だろ!』という上層部の個人的要望だった。無論その非合理性は十分わかっていて、量産するつもりは全く無かったが、優れたパイロットなら盾の特徴を上手く生かして戦えるという結論の元、開発時のロールアウト機のみを指揮官クラスに配備するという計画が承認された。そのため、その第1機となる試製量産型ギャンが、白兵戦が得意な元歩兵大隊長安部大尉に回されたのだった。
一通り確認を終えて、MSが壁の前に並べられる。
「よし、じゃあアレの起動と行きますか」
徳平がドックのコンソールにキーを指し込み、パネルを開く。起動パスワードを解除して、システムをチェックする。
「異常は・・・なし。よっしゃ、起動っと」
徳平が操作をすると、突如としてドック内に重い音が鳴り出す。
「常見、搬入と搭乗の指揮宜しく」
「おk」
徳平がコンソールを操作すると、それの搬入口が開く。
常見の指示に従って、MSや物資が次々と搬入されていく。
「やべぇ、時間無い死。おい厨房共、早くしろ」
「誰が厨房よ、うぜぇ氏ね」
「おk」
一部の技術者たちの間で使われている、ChannelUとよばれる特殊言語が飛び交う中、着々と作業が進み、全ての搬入が完了する。
「ところで、常見、現地まで誰が艦長やんの?」
戦場を航行する以上、誰かが艦長として指揮をとらなければならない。本来の艦長は司令部大隊長兼MS特殊部隊指揮官である寺倉大佐なのだが、寺倉が戦場に出ているので、誰かがそこまで指揮をとって引き継がなければならない。
「ドスル?これの指揮って、基本的には佐官以上しか出来ないはずアルヨ。マ、オレもオマエもぶっちゃけ出来るけど」
「お前はここの整備やら基地防衛やらの任務があるだろ」
「オマエモナー」
「ウトゥだ。氏のう」
「逝ってよし」
お互いニヤリと笑ってから、真面目な顔に戻る。
「さて、本当にどうするか。素人のせるって訳にもいかないし」
「そうだ、徳さん。新型のアレを使おう」
「アレって・・・また妙なものを・・・」
「じゃあ準備しておくヨ」
常見が自分のラボへ向かう。
「よし、各員へ。これより20分後に出撃する。目的地は有明は東京ビッグサイトの前線野営地だ。不特定多数の敵軍の妨害が予想される。兵装の確認をしっかりしておけ」
放送を終えて、最終稼動準備に入る徳平。
その折に、常見が戻ってくる。
「持ってきたアルよ」
常見が持ってきたのは人型をした怪しげな機械だった。
「人工知能マイク003。数学的思考回路と声の小ささは負けないアルよ」
「それは擬似艦長として役に立つのか・・・」
不安を抱きつつ、『どうせ乗るのは俺じゃないから死なないし』という理由であえて引きとめはしない。
「準備完了!マイク後は任せたアルよ!」
「・・・了解・・・発進」
マイク003がボソッと喋る。それがスピーカーを通じて艦内に響き、それのブースターに熱が入れられる。人工知能マイクシリーズは、初期型よりずっと何故か音声出力が異常なほどに小さくなるという問題点があった。原因は全く分からないが、何を喋っても普通の人には聞こえないので、仕方無しに拡声器を取り付けている。
「さて、これが上手く動けば、今後のMS部隊の構成にかなり役立つんだがな・・・」
「ま、何とかなるアル。今は2番艦を造る準備を進めることを考えるのがいいさ」
「確かに。じゃあ、予算申請書を書き上げちゃいましょ」
そういって、コンソールのそばにおいてあった書類を手に取る。
その書類の冒頭には『ホワイトベース開発要綱』と書かれていた。
0800時 ビッグサイト宿営地
「以上で作戦要綱の会議を終了する」
増子中将の号令と共に指揮官が席を立つ。
「寺倉、吉野」
増子中将が声をかける。
「何でしょう」
「例の飯沼軍だが、あそこを徹底的に叩いてほしい」
吉野たちは顔を見合わせる。
「実はだな、調査した結果、司令官の飯沼という男だが、うちの学校の元教員だ」
増子が資料を手渡す。
「・・・西国基地内教養指導部ヤンキー言語講師。0005年に生徒のIBM社PCを破壊したことが露見して解雇・・・ですか。良く分からん人ですな」
増子が顔をしかめる。
「悪い奴じゃないんだが、IBMのこととなると妙な癖を持っていてな。まあ、そのことでクビにされたことを逆恨みしてウチの軍を潰す為にこれまで私設軍隊を作り上げたようだ。だから状況によっては我が軍に猛襲かけてくるかもしれない。そうなる前に叩いておかねばならん」
「なるほど。で、どれだけの戦力で行けと?先ほどの会議では我々は陣営防御兼予備部隊として確保されていましたが・・・」
吉野の問いに対して、声を潜めて答える。
「特機隊を使え」
「?!」
特機隊、即ち特別MS機動部隊のことである。
「いくら危険要素だとはいえ、いきなり特機ですか?」
「ああ、その通りだ。こちらの虎の子を削ってしまうのは惜しいが、一般MSを消耗するわけにはいかない。何せ敵の数が多すぎる」
「・・・一般機を消耗できない・・・って、まさか、特機だけで立ち向かえと?」
驚きの表情を隠せない寺倉。
「まあ、お前達なら何とかなるだろう。頼むぞ」
二人の肩に手をおいて、軽く叩いてから、外に出て行く増子。
「なあ、吉野どうする?」
「どうするってなぁ・・・いくしかないだろ。まあ、そろそろ戦闘に出ておけば、また特機用の予算を多めに組んで貰えるさ」
「死んじまったら元も子もないけどな」
「まあ、根性入れて頑張りましょう」
「よし、帰ったら中将に呑み代おごって貰うってことで、一丁やりますか」
決まったら動きは早い。寺倉は特機パイロットの招集を、吉野は兵力の調整を開始する。
ものの十数分で作業は済み、パイロットが宿営地のテントのひとつに集められる。
「気をつけ!!」
吉野の号令で整列される。一列に並んだパイロット達、端から順に吉野少佐、安部大尉、那須少尉、藤倉准尉、菅沢曹長と並んでいるこのメンバーが特別機動MS小隊である。
「敬礼!!」
隊員の敬礼に合わせて、前にいる寺倉大佐が答礼する。
「直れ」
「早速だが、特機隊に作戦指令が下った。内容は、今回の会戦における敵軍のひとつ、飯沼軍の侵攻の阻止及び、敵MSの破壊である」
貼ってある資料を使いながら、飯沼軍の構成や行動予測などの情報を伝えていく。
「よって、我が西国軍の一般部隊が敵主力部隊と交戦することだけは避けなければならない。そのために特機を配備する」
「大佐殿」
藤倉が手を挙げて発言を求める。
「許可する」
「我が軍は今現在MS部隊は前線には配備されていません。消耗を抑える為に一般部隊の交戦を避ける場合、我々の支援はどの部隊が?」
「支援は一切無い。また、補給は現在基地よりMSを輸送している木馬のみであり、野営地その他基地に帰還することは禁じる」
「緊急の場合でもそれは適用されるのでしょうか?」
今度は菅沢曹長が質問する。
「その通りだ。万が一、戦闘不能に陥った場合、機密情報を消去の上、手動で自爆装置を使うように」
酷な話だが、特機隊で使われているMSの情報が漏れると、手痛い損失になる。そのため、遠隔ではなく、パイロットが乗ったまま自爆させて、確実に破壊しなければならない。また、通常基地などに入った場合、その出入に合わせて攻撃が来る可能性は非常に高く、必然的に一般兵が巻き込まれることになる。兵力が不足している今、可能な限り効率的な戦闘を検討しなければならないのである。
「他に質問が無ければ、各員は速やかにMS戦闘用意をして、木馬との合流地点に移動せよ。移動用の装甲車は5分後に出発するぞ」
『了解!!』
敬礼の後、慌しく動き出す。
「吉野、木馬の状況は?」
寺倉の問いに、吉野はコンソールを確認しながら答える。
「現在は大きな問題はありませんが、まもなく敵制圧エリアに入ります。恐らく交戦状態になるのではないかと」
「・・・そうか。まあ、最大戦速でぶち抜いていけば、そうやすやすと落ちるものでもないな。到着は?」
「順調に行けば後12分で」
「よし、俺達も支度をするぞ」
「了解」
資料などの荷をまとめ、車に向かう。
「全員乗車したか?!」
「揃っています!」
「では発車しろ」
「了解!」
寺倉の指示ですぐに装甲車が出発する。
「目的地まで4分」
車長が告げる。
「木馬より電信、敵攻撃を受けるが撃退。予定通りにランディングゾーンへ到達」
「よし、あそこはコミケット指定非戦闘区域だから、落ち着いて乗艦できるぞ」
「まもなく到着です」
「木馬に繋げ」
「了解」
通信士が端末を寺倉に手渡す。
「こちらは特機小隊長寺倉大佐だ。ホワイトベース応答せよ」
「こちらホワイトベース通信士澤田伍長です」
「まもなくそちらに着く。規定のポイントでハッチを開けて待機していろ」
「了解」
のぞき窓から外を眺めると、丁度少し先の広場にホワイトベースが着陸するところだった。
「確認する」
吉野が口を開く。
「このまま車ごとホワイトベースに乗艦、離陸後速やかに自らの機体のチェックを済ませてから、第一種戦闘配備だ」
「了解」
まもなく広場のホワイトベースがハッチを開き、装甲車を迎え入れる。
車両がとまり、中からパイロット達が出てくる。
「さて、じゃあ、戦闘指揮は頼むぞ吉野」
「了解」
特機隊の指揮官は寺倉大佐であるのだが、特機隊にはホワイトベースも含まれていて、その艦長を務めているのが寺倉大佐であり、戦艦出撃時は基本的にMSの戦闘指揮は吉野少佐が担っている。寺倉の機体も存在するが、基本的に使用されることは滅多にない。
寺倉は部下達に指示を出すと、艦橋に向かう。
艦橋の艦長席へ着くと、艦内放送をかける。
「こちらは特機小隊長寺倉大佐だ。これより、この艦の指揮は私が執る。これまでは試験機動だけだったが、本日が初の実戦となる。処女航海の最初から艦長不在というのは申し訳なかったが、先ほどの戦闘データを見させて貰った。私が居なくとも十分な戦績を挙げてくれた。これだけ優秀なクルーが揃っていることを誇りに思う」
実際、先の戦闘では、データの限り、こちらの被害はほぼ無傷で、襲撃してきた部隊の戦闘機5機を大破、6機を戦闘不能にさせることに成功している。
「間もなく、コミックマーケット開場となる。我々の任務は、コミックマーケットにおける敵対組織のMS部隊を壊滅させることだ。我々だけで、MSと戦車隊の大隊規模の敵を相手にしなければならないが、諸君らの実力を以ってすれば十分に可能であると確信している。諸君らの健闘を祈る」
艦内放送を切り、今度は通常通信に切り替える。
「こちらブリッジ。MS格納庫内、MSの仕上がりはどうだ?」
寺倉の問いに、暫く間があってから返答が来る。
「えー、こちら吉野です。MSは異常なし、いつでもいけます。常見たちが良くやってくれたようです」
「そのまま出撃体制で待機しろ」
「了解」
通信を終了して、コンソールのデータを参照する。
戦力分布を確認してから、席を立つ。
「将校を艦長室へ。作戦会議を始める」
命令を残してブリッジを出て行く。
(0900時。後一時間だ・・・)
『只今より、コミックマーケットを開催します』
放送が流れると共に、各所で大きな声が上がる。
「野郎共!!パーティーの時間だ!!飯沼軍とやらは特機隊が抑えててくれるから、俺達歩兵は歩兵にしか出来ないこと、すなわち本の確保をなんとしても成功させろ!!いいな」
怒声が響く。
『サーイエッサー!!』
兵たちの前で声高々に叫んでいるのは今会戦の前線における最高司令官、増子中将である。
「は既に作戦を展開している。我々はスタッフの指示に従って入場後、各自の担当サークルの販売物確保。いつもどおりやれ!」
『サーイエッサー!!』
丁度スタッフより、まもなく移動するとの指示が出る。
「Hey You!!ROCK ‘N’ ROLL!!」
『サーイエッサー!!』
こうして、今年もコミックマーケットが開会された。
あとがき
えー始めまして、たこぽんずと申すものです。とりあえず、身内にしか分からない
ネタを書き綴ったものを纏めただけなので、一般の方にはいまいち(というか全く)
分からなくて、面白くないかも知れません・・・。すみません。まあ、怪しげな駄文
だと思って読み流してくだされ。一応、頑張って続き・・・書くかなぁ・・・?