12月24日。世間ではクリスマスイヴを迎えている。
 
 街には粉雪が舞い、ここ英国の倫敦ではホワイトクリスマスを迎えていた。

 恋人たちはイルミネーションで煌びやかに照らされたリージェントストリートを歩き、トラファルガー広場の巨大なクリスマスツリーの下で愛を語らっている。

 クリスマスイヴ。それは一年に一度しかない聖なる夜。

 そんな日の昼間。遠坂凛は唖然としていた。









〜聖夜にあなたと〜


 七人の魔術師と七騎のサーヴァントがペアを組み、聖杯を巡って命を賭した戦いを繰り広げる聖杯戦争が終わって早一年。この死闘の勝者である遠坂凛は愛する男『衛宮士郎』と元々士郎のサーヴァントで現在凛の使い魔となっている最強のサーヴァント『セイバー』と共に、魔術師の総本山とも言える英国・倫敦の『時計塔』に旅立った。

 来てからは正に苦労の連続だった。

 魔術師同士の駆け引き。魔術師にとって重要な『工房』を構えるのに適した住居の確保。生活費のやりくり。宝石魔術に必要な宝石を用意する費用。凛のうっかり。凛の不倶戴天の敵『ルヴィアゼリッタ・エーデルフィルト』の出現による士郎奪取の危機(士郎&セイバーにとってはどうでもいい)。大飯食らいのセイバー(死活問題)。エトセトラエトセトラ。

 波乱に満ちた毎日だがそれでも彼らは確かに充実した生活を送っていた。

 凛は隣に士郎がいてくれればなんでも乗り越えられるような気がしていた。

 士郎は最高のパートナーと聖杯戦争中に己のサーヴァントであった最高の英霊と共にいられることが何よりの幸せだった。

 セイバーは凛の剣となった今でも衛宮士郎の剣として何処までも共に往くことを心に誓っていた。



 そんな彼らが倫敦に住み着いて約10ヶ月が過ぎた頃、ちょうど12月24日、クリスマスイヴの時だった。








「何よこれ・・・・・・・・。」

 冒頭に戻ろう。遠坂凛は唖然としていた。

 そこかしこに飾られたモール。巨大なクリスマスツリー。派手にもほどがあるイルミネーション。いちゃつくカップル。それを見て血の涙を流す独り身の男共。

 これが市街なら自然な光景であっただろう。だが今彼女の目の前に広がってるのは自分から見ればあまりにも不自然な光景だった。










(何で時計塔の中がクリスマスムード一色なのよーー!!!!!!!!)
 
 至極当然な心の叫びであった。

 




 通常、魔術師同士は不干渉が暗黙の了解だ。まして魔術師だらけの『時計塔』となればなおのこと。魔術師の駆け引きとは腹のさぐり合い。互いの研究のために利用しあう関係なら兎も角、心を許しあえる友人関係を持つ者は少ないと言っても過言ではない。まして恋人関係になることなどあろうはずがないのだ。そう言う意味では士郎と凛のような関係は非常に珍しいのだ。

 だが目の前の光景を見よ。どう見てもハートマークを周辺に漂わせてるカップルの集まりではないか。利用しあううちに惹かれていったというなら説明が付くのだが凛の目の前にいる魔術師カップルの群はとても利用しあう関係には見えない。

(時計塔ってこんなとこだったかしら・・・・・?)

 頭を抱えながらそんなことを考える凛。そんな彼女がふと柱を見やると張り紙がしてあった。





『クリスマスイヴ、それは聖なる一夜。その日を恋人と過ごしたいと思っているそこのあなた。
クリスマスイヴの夜は時計塔で素敵な夜を過ごしませんか?
 時計塔クリスマス実行委員会は恋人達のためにいくつもの用意をしてあります。
趣向を凝らしたマジックイルミネーションの数々。由緒あるマジックアイテムを惜しみなく使用したイベント。
東洋の奇跡〈花火〉。あなたとその恋人だけのために用意されたプライベートルーム。
その下で告白すれば即結婚できる呪い付きクリスマスツリー。
 そのほかにも素敵なプランが目白押し!
 一年に一度の素敵なイベント。今宵恋人達に魔法をかけてあげましょう・・・・。
 クリスマスは是非時計塔でお過ごしを!!

・Bプラン(お食事+倫敦が一望できるプライベートルーム)1000ポンド
・Aプラン(Bプラン+オプショナルツアー)1500ポンド
・Sプラン(Aプラン+VIPSTAR)2000ポンド
・Zプラン(ガメラ)3000ポンド
 
                                 主催:時計塔クリスマス実行委員会
                                 提供:魔術協会、ハロッズ
                                 実行委員長:キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』












(大師父ーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!!!!)



 凛は本気で寝込みたくなった。大師父『キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ』が一枚噛んでるなんて思いもしなかったからだ。
 
(何が「魔法をかけてあげましょう」よ・・・・・・。相手が相手だけに洒落にならないじゃない!絶対平行世界にとばされるって!!!あと「Zプラン」のガメラって何よガメラって。火を噴くカメと一緒に宇宙にとばす気なの!?)

 遠坂凛。特撮マニアでもあった。










 午後四時。日も沈みかけ空を闇が包み込もうとしてる中、凛はイルミネーションでライトアップされ、人がにぎわうリージェントストリートを一人歩いていた。時計塔がクリスマスムード一色となり、なんか居づらくなった凛は時計塔を出て、帰ることにしたのだ。
 
 空には雪が舞い、それがイルミネーションに照らされて幻想的な雰囲気を醸し出している。その通りを一人歩く凛は何か寂しさに包まれていた。

(ここ・・・・士郎と一緒に歩きたかったな・・・・・。)

 その脳裏に浮かぶのは恋人の顔。彼は最近いないことが多い。

 士郎も時計塔に行っているのだが、最近は一人で帰ってしまうことが多い。それどころか夜遅くに帰ることもあり、来た頃に比べると顔を合わせる回数や話す回数がめっきり減ってしまった。

(いつもだったら士郎と一緒に帰ってるのに・・・・・・。)

 普段日程が合うときは凛は士郎に寄り添い、腕を絡めながら恋人のように−実際恋人なのだが−歩いている。だが最近はそれさえもない。
 『時計塔』や市街の空気に即発されたせいか、それとも士郎と二人にいる時間が少ないせいなのか



 凛は今、とても士郎に会いたかった。

(なんでこんなに寒いんだろ・・・・・。)

 英国の気温が日本より低いのは知っている。その上で彼女はコートとマフラーを着用しているのに




 






 何故か英国の冬の寒さがより寒いものに感じられた。











 今、彼女は久しく感じていなかった寂しさに身を焦がされていた。前はこんなに弱くなかった。一人でもやっていけたはずなのに・・・・・・・。そんな感情を胸に抱きながら凛がぶらぶらしていると・・・・・・・








「あら、何しけた顔してこんな所を歩いてるんですの?ミス・トオサカ。」

「なんでこんな所で会うのかしらね?ミス・エーデルフィルト。」

 





 ぶらぶらしていると不倶戴天の敵に会ってしまった。

 ルヴィアゼリッタ・エーデルフィルト。金髪のカールが綺麗な『時計塔』に来てから出会った魔術師で、凛とは会ったときから折り合いが悪く衝突することが多い。ひょんなことから士郎を気に入ってしまい、凛の目を盗んでは士郎と二人きりになろうとする。魔術だけでなく恋愛においても凛とライバル関係にあるのだ。もっとも凛のほうに分があるのだが。
 士郎曰く「似たもの同士」だと言うが、一度彼は凛の前でそれを口にしてガンドの直撃を受けた。

「クリスマスイヴだというのにお一人なんですの?お寂しい方ね。」

「ご生憎さま。私にはパートナーがおりますから。」

「そのパートナーは今どちらにいらっしゃるのかしら?」

「少し席を外しておりますの。」

 笑顔で話を続ける二人。だがそれはとても談笑とは言い難い。不自然な敬語を使いながら話し、目がちっとも笑ってない笑顔の二人からは赤と金の強力なプレッシャーが発せられ拮抗している。周囲からは人が遠ざかり、舞い落ちる雪が溶けてゆく。
 後に通行人は語る。「アレは人の話し合いなんかじゃない。悪魔と鬼の駆け引きだ。」と。


「あら、実はそのパートナーなんかいないのではなくて?」

「おほほほほほ。そのようなことはございませんわ。」

「ならそのパートナーとやらをお呼びになってはいかが?」

「そういうあなたはいらっしゃるのかしら?」

「ええ、おりますわ。素晴らしい殿方が一人。」

「あら、結構な事ですわ。どんな殿方なのかしら。」

「あなたも良く知っている方ですわ。もうすぐここで会う約束をしているんですの。」

「!!!そ・・・そうなんですの。顔を見るのが楽しみですわ。」

 ルヴィアゼリッタの言葉を聞いて何か嫌な予感がする凛。その予感が的中しないことを祈るばかり・・・・・














「ごめん!遅くなった!!!」

「!!!!!!!!!」


 





 聞こえてきたのは凛が一番聞きたかった声。でも今の状況では一番聞きたくない声。そんなバカな。彼は私を選んだはず。だから気のせい・・












「もう!シロウったら遅いですわ!!」

 そう思いたかった凛の希望はその言葉で一瞬にしてうち砕かれた。



 







 それから先の事なんて彼女は覚えていなかった。

 ただ、何も言わず、何も見ずに走った。

 自分以外の女と仲良くしてる士郎なんて見たくなかった。自分以外の女と会う士郎なんて知りたくなかった。

(よりにもよってなんでルヴィアゼリッタなの!!!!)

 家に帰ったら何も言わずに部屋に飛び込み、ベッドに身を投げ出した。セイバーが何かを言っているが彼女には聞こえない。今は何も聞きたくないから。

(バカっ・・・士郎のバカ・・・・・)

 ベッドにうつぶせになった彼女は今、誰にも顔を見せまいとしていた。







「ほんとごめん遅くなって・・・・あれ?そう言えばさっきそこに遠坂いなかったか?」

「いえ?知りませんわ。」

 凛が去る前、確かに士郎は彼女の姿を見たはずだった。しかもルヴィアゼリッタと対峙していたはず。でも彼女はしらを切った。

「でも確かルヴィアと」

「それより早く行きましょう。時間がありませんわ。」

 真相を確かめたい士郎に対し、あくまでもしらを切り、士郎に腕を絡めるルヴィアゼリッタ。

「ちょ・・・なにしてんだ!?」

「あら、倫敦で紳士が淑女を連れて歩くときはこうするものですよ?」

 突然のことに驚く士郎を後目にルヴィアゼリッタは平然としている。そして士郎を見てまた口を開く。

「少しだけこうさせてくださいな。シロウは私に頼んできたのでしょう。魔術師の基本は等価交換というのはお忘れかしら?」

「あーー・・・・わかった。降参だ。それじゃあいいとこ教えてくれよな。」

「はい、倫敦のことならお任せくださいシロウ。」

 恋人同士に見えてもおかしくない二人は倫敦の人混みに溶けていった。











(リンは一体どうしたのだろうか。)

 セイバーはマスターのただならぬ様子に気づいていた。「ただいま」も言わずに帰ってきたかと思えば部屋に閉じこもりずっと出てこない。何度か呼んでみたが無反応だし、鍵もかかっている。

(これでは夕飯が・・・・)

 さすがセイバー。こんな時でも夕飯の心配をしている。こんな彼女を見たらマーリンは、円卓の騎士達はどう思うだろうか。










 多分「ああ、やっぱり。」と思うのだろう。






(あの様子だとおそらく原因はシロウか・・・・・。)

 いい勘をしている。だてに約2年付き合っているわけではない。

(全く、我がマスターは手を焼かせてくれる・・・・・。)

 「まあ、そうでなければシロウではないか。」とセイバーは頭の中で付け加える。
 これまでもこんな事がなかったわけではない。二人が喧嘩したとき仲裁するときもあったし、お互いが籠城しているのを行ったり来たりするときもあった。セイバー、なにげに一番の苦労人なのかもしれない。

(リンが拗ねるのはそう珍しいことではないが今回は特に酷い。)

 凛は月に一度くらいの頻度で拗ね、今回のように籠城することがある。ただそれは士郎にかまってもらいたいからやってるだけのことなのだが。
 それを熟知しているセイバーは今回がただならぬ事だというのも分かっていたし、どうすればいいかも分かっていた。

(こういうときはそっとしておくのが一番いい。あとはシロウを行かせるだけ。)

 士郎と凛の関係も理解しているからこその選択だった。だが・・・・・

(リンみたいにすれば私のこともかまってもらえるのだろうか・・・・?)

 セイバーもやっぱり士郎にかまってもらいたかったようだ。

(まあ今回はまたいつものように早く元通りになることを祈るとしましょう。)

 自分を気にかけてもらうのならいつでも出来るはず。だが、彼らはここで収拾しておかなければ互いに意地を張り合って二度と元の中にもどれないかもしれないのだ。それを知ってるセイバーは今回は引き下がることにした。

(む。それそろテレビでも見ますか。)















「今日はありがとう、ルヴィア。助かったよ。」

「いえ、お役に立てたのなら光栄ですわ。」

 いくつもの袋を抱え、士郎はルヴィアゼリッタと別れ帰ろうとするところだった。

「私も楽しませていただきましたし。」

「それなら良かったけど・・・。」

「ええ、それじゃあ早くミス・トオサカの所へ行っておあげなさいな。今頃拗ねてるでしょうから。」

 ルヴィアゼリッタはそういたずらっぽく言いながら微笑んだ。












『俺達がいる限りエッフェル塔を貴様等の好きにはさせん!!!』

「うむ、やはりこれを作っている方々はスーパー戦隊とはいかなものかを理解している。まったく、これをバカに出来る人の気が知れませんね。」

 家の居間ではクッキーをかじりつつ、セイバーがまったりとテレビを見ていた。どうも特撮物を見ているらしく、その姿からは騎士王としての貫禄などとうに消えている。その代わり特撮の知識が増しており、オタクとしての貫禄は十分だ。サー・ベディウェールが見たら発狂しかねない。ちなみに一応働き口があるのでニート化は免れている。

(それにしてもシロウはいつ帰ってくるのやら・・・・・。)

 そう思っていた時、居間の扉が勢いよく開き士郎が入ってきた。

「お帰りなさいシロウ。」

「ただいまっ!!遠坂は帰ってきてるのか!?!?」

 そう叫びながら抱えている荷物を無造作にテーブルに並べる士郎。その中から大きな袋をひっつかんでセイバーに渡す。

「ええ、今部屋にいますが・・・・これは?」

「プレゼントってとこだ。メリークリスマス、セイバー。」

 袋の中身を見たセイバーは子供のように目を輝かせた。

「あ・・ありがとうございます、シロウ!!」

 中に入っていたのはセイバーがお気に入りのライオンのぬいぐるみだった。特大サイズというのもあってセイバーは早速、抱きかかえている。当分離すつもりはなさそうで、その周りにはハートマークやら♪マークやらが漂っているのが今にも見えそうなくらい喜んでいた。

「セイバーが好きかと思ったんだけど・・・喜んでもらえた?」

「は・・はい!もちろんですシロウ!!私は十分に満足しました。だから、早くリンの所に行ってあげてください。」

 それを言われ、士郎が少し、ぎょっとした顔つきになった。

「・・・・え・・・・セイバー・・?」

「私は元はあなたのサーヴァント。シロウの考えていることぐらいわかります。もっともあんなに慌てて帰ってきたのですからバレバレです。」

「そうか・・・・・・・。」

 士郎は思う。
 やはりかなわない。セイバーにはほとんど見透かされてしまっているのだ。騎士王の観察眼とかそんなのじゃない。聖杯戦争という死闘をくぐり抜けたパートナー。わかりやすい元マスターの事などお見通しだったのだ。

「はい、だから一刻も早くリンの所へ。」

「わかった。行ってくる。」

「手短に済ませてくださいね。私はお腹が減っていますから。早くシロウとリンの作った夕飯を食べたい。」

 セイバーがほほえみを浮かべながら言う。それを受け、士郎は階段を駆け上がり、凛の部屋へと向かった。








 あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。来たときはまだ明るさの残っていた空もすっかり闇に覆われてしまった。
 凛がベッドから立ち上がり、窓の外を見る。


 窓から見えるのは倫敦の夜景。素晴らしい景色を一望できるというわけではないが、それなりいい景色が見れる。少し疲れたときにはこの景色を見れば気分が良くなるものなのだが・・・・・・・・・




 

 今は何を見ても彼女の心は癒されはしないだろう。






 あの光景が彼女の頭から離れない。
 
 

 まるでデートに遅れたかのように現れた士郎。

 そしてその待ち人だったルヴィアゼリッタ。

 その二人は絵に描いた恋人のような・・・・・・








「おい、遠坂!!」

「あ・・・・・・・。」

 突然聞こえた愛しい人の声。でも彼は自分を捨てて別の女性に・・・・

「遠坂!!いるのなら開けてくれ!!大事な話があるんだ!!!!」

 絶対開けない。開けてやるもんか。凛はそう思っていたはずだったのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







 気が付いたら自然と部屋の鍵を開けてしまっていた。








 鍵を開けられた瞬間、ノブが回り、扉が開かれた。

 その向こうにいたのは彼女が求めて病まなかったはずの赤毛の少年。でも今は一番見たくないヒト。

「出てって。」

 凛が突き放す。

「嫌だ。」

 だが士郎も引き下がらない。

「もう一度言うわ。出てって。」

 先ほどよりも強い口調で突き放す。

「断る。」

 やはり引き下がらない。

「出てってと言ってんのよ!!!あんたはルヴィアゼリッタとデートなんでしょう!?だったら早くあいつのとこにいけばいいじゃないのよ!!!!!私のことなんか放っておけばいいじゃないの!!!!!!!!」

「そのルヴィアに行けって言われた。」

「行けって言われたから来たの!?!?!?おおかた愛しい彼女の頼みだから断れなかったっていうことでしょ!!!!!!!!」

「違う。そんなんじゃない。」

「そんなんじゃないなら一体他になにがあるっていうのよ!!!!!!」

 すると士郎はポケットに手を突っ込んで黒い小箱を取り出した。












 そもそもの事の起こりは士郎がクリスマス一ヶ月を前にして凛とセイバーに贈るプレゼントを何にするか考え始めたことにあった。しかし、そこは住み始めてまだ一年も経たない異国の地。『主夫』としての能力で食料品や日用品の安売り先は覚えていたもののそれ以外のことには完全におっくうで倫敦での知り合いも少なかった士郎はプレゼントに最適な物を何処で買えばいいか全くわからなかったのだ。
 そこで案内役兼アドバイザーとしてルヴィアゼリッタに白羽の矢が立った。というかそもそも彼女しか親しいと言える間柄の知り合いがいなかったのだ。そして彼女に相談してみたところ

















「シロウ。私、大切な女性に贈るプレゼントを人に相談するというのは無粋だと思いますわ。」

「へ・・・・・?」





お説教をされてしまった。



「いいことシロウ?女性は好きな殿方から贈り物をもらって喜ぶのは何も中身を見て喜んでるわけではない。『好きな人から贈り物をもらえた』という事実が一番喜ばしいんですの。贈り物の価値が高いとか低いとかは大した問題ではではなく、本当に重要なのは『想い』がこもっているかいないかですの。見てくれなんていくらでも繕えますけど『想い』を繕うことなんて決してできはしませんわ。だから、好きな人からもらえばたとえガラス玉でも女性にとってはダイヤモンド以上の輝きに思えるものですわ。」

「そういうものなのか・・・?」

「当然です。全く、鈍い御方ですのね。どおりであのミス・トオサカが苦労するわけですわ・・・・・・。」

 はぁ、と呆れたように溜息をつきながらルヴィアゼリッタはそう言った。

「とにかく、ミス・トオサカへの贈り物は自分で選びなさい。」

「だが何処に何が売ってるかわからないんだが。」

「それなら私がいい場所をいくつか案内して差し上げますわ。そこで大いに悩みなさいな。で、あんな話しておいて言うのもなんですが予算はいくらなんですの?」















「考えてなかったーーーーーーッ!!!!!!!!」

「このおバカーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 











 結局その後、ルヴィアゼリッタが士郎が前からやっていたエーデルフィルト家でのバイト時間をさらに増やし働くことを条件に給料の増額を提案。ここ一ヶ月いつも以上に身を粉にして働いていたのだ。もっともこれはルヴィアゼリッタが士郎といる時間を増やしたいがための大義名分でもあったのだが。そして目標としていた金額まで達し、クリスマス当日に倫敦の街で買い物と相成った。もちろん案内役のはずのルヴィアゼリッタはこれ幸いとばかりに街をつれ回し、デート同然にする算段だった。

 しかしそこで誤算が入った。赤と金の遭遇だ。

 ルヴィアゼリッタが士郎を待っているところ偶然にも凛を見つけ、目に見えない激しい戦いを繰り広げてた所にタイミング悪く士郎が現れたのだ。それを見た凛は士郎が浮気をしたと勘違いし、その場から去ったというわけだ。

 その場で顔には出さなかったがこれにはさすがにルヴィアゼリッタも拙いと思い、当初は長引かせるつもりだった予定を変更し、買い物をなるべく手短に済ませて士郎を凛の所に帰すことにした。ルヴィアゼリッタ自身は士郎と凛の関係については知っており、後から入った自分が今日という日に彼をかっさらうのは無粋と考えたからだ。もちろんその彼女が士郎を狙うのはこの二人の関係をふまえた上でのことである。ちなみに彼女も士郎からプレゼントをもらい大喜びしたのはまた別の話である。

 今、士郎の手にはその時に買った小箱が握られていた。










「今日はお前にこれを渡すために来た。」

「え・・・・・・。」

 どくん、と凛に心臓の鼓動が高鳴る。あれを渡すために?でも・・・・

「あんたルヴィアゼリッタと・・・」

「ルヴィアには買い物の手伝いをしてもらっただけだ。別に何もしていない。」

「今までいなかったときだってルヴィアと一緒にいたんじゃ」

「確かにルヴィアの屋敷にはいた。前よりバイト時間が延びただけだ。疑うのならルヴィアの執事さんにでも聞けばいい。」

「何で延ばしたのよ。」

「これを買うためだよ。」

 そう言って士郎は手に持っていた小箱を開けた。その中身を見た瞬間、凛の表情に驚愕の色が現れた。

「これって・・・・・・。」

 中に入っていたのは小さいながらも宝石があしらわれた指輪だった。決して豪華なものとは言えないが凛にはその指輪がとても綺麗なものに思えた。

「お前へのクリスマスプレゼント。お前に受け取って欲しいんだ。」

 その言葉を聞いた後、凛が少しうつむいた。

 何とも言えない静寂が流れていたがだんだん凛の体が小刻みに震え始める。

「遠坂をしばらくほったらかしにしすぎたこともわかってるし、それで少し寂しい思いさせちゃったから許してくれないかもしれな「・・か・・・。」・・え?」

 突然うつむいていた凛がすこしつぶやいたかと思うときっと士郎の方を向いて









ばかばかばかばかばかばかばかおおばかーー!!!!!!!!!こぉのばかしろーーーーーーーー!!!!!!!!!」






 一気にまくし立てた。



「なっ!いきなりバカはないだろ!」

「うるさいばか!!!!あんたなんかばかで充分よバカ士郎!!!!!!」

 ため込んでいた感情が決壊し涙を目に浮かべながらなおもまくし立てる。

「人をいつも一人にさせて!!それなのにこんなものを私に寄越して!!!!」

「遠坂・・・・・・。」

「受け取れないわけないじゃないのよばかぁ・・・・・・。」

 いつだって自分を見て欲しかった。

 いつだって自分の傍にいて欲しかった。

 いつだって自分がふれられる所にいて欲しかった。

 いつだって抱きしめて欲しかった。

 凛の想いが大粒の涙となってあふれ出す。そんな凛を士郎は何も言わずに抱き寄せる。

「ごめんな・・・・・・。」

「謝るのが遅いわよばかしろぉ・・・・・・・。」

 凛も細い腕で抱き返す。ひとしきり抱き合った後、二人は一度離れた。

「士郎・・・指輪つけて・・。」

「わかった。」

 小箱から指輪を取り出し、凛の細い左手をとり













「え・・・・?」










 何も言わずに左腕の薬指に指輪をはめた。








「ちょ・・・士郎!これって・・・。」

 左腕の薬指にはめた指輪。それの意味する物は















「遠坂。衛宮の名字を名乗ってくれないか?」




 当然それしかないわけで。


「!!!!!!!!!!」

 ボン!とでも音を立てそうな勢いで凛の顔が真っ赤になる。まさかクリスマスプレゼントと同時にプロポーズまでされるなんて思いもしなかったからだ。

「えええ・・あ・・と・・・その・・・・。」

 しかも何を言おうとしてもしどろもどろとしてしまい言葉にならない。

「いや、そんなに返事を急いでるわけじゃないんだ。余りに唐突すぎるってのもわかるし、こっちの方は遠坂が落ち着いてからで・・・」

 その瞬間、凛が固まった。今こいつはなんと言った?『遠坂』と。確かにそう呼んだ。

(私にここまで言っておいて未だに名字で呼ぶなんて・・・・・・・・・。)









(絶対に許さない!!!!)








 なすがままの猫のような状態になっていた凛の目に再び「炎」が宿る。



「だから別に返事はな「いやよ」・・え?」

 返事を待っていた士郎に返ってきたのは拒絶。

「何で私が『衛宮凛』にならなきゃいけないのよ。そんなのお断りよ。」

 さらに不適な笑みを浮かべながら凛は続ける。

「私は遠坂家の現当主。遠坂の血筋を消すわけにはいかないの。それにあんたは私のサーヴァントなの!!つまり私のもの!忘れたとは言わせないわよ。だからあんたの名字なんか名乗るわけにはいかないの。だいたい何よ!!私にプロポーズしておいて名字で他人行儀な呼び方続けるなんてどういうことなのよ!!ふざけんじゃないわよ!!!」

 そこでまた一気にまくし立て





「だから遠坂士郎になんなさい。」

 ものすごい真っ赤な顔をして言った。


「遠坂・・・・・言ってる意味が途中からわからないんだが・・・・・・。」

「ああーーーっ!!!!!また名字で呼んだ!!!!名前で呼んでくれなきゃいや!!!でなきゃ口聞いてあげないっ!!!」

 もうただのだだっ娘状態だ。それに士郎は観念し

「凛・・・。」

 名前で呼んだ。

「もう一回。」

「凛。」

「もう一回。」

「凛。」

「もっと。」

「凛!」

「あーーーもーーー!!!しろー大好きっ!!!!!!」

 そんで士郎に抱きついた。また甘えん坊モードに入っているようだ。

「それじゃあ士郎。私と一緒になりたいのなら誓って。あなたの誓いを私に聞かせて。」

 凛は士郎から離れ、目を見ながら言う。士郎もそれに応える。

「わかった。我、衛宮士郎はこの魂が砕け散り塵と化そうとも遠坂凛と共に在り、遠坂凛の傍に寄り添い、この身全てを遠坂凛に捧げることをここに誓う・・・。これでいいか?」

 魔力まで乗せ、言霊として放った言葉。それだけに強制力もあり、それを口にした士郎の誓いが強いものだということは十分に分かるのだが・・・・・

「ダメよ。」

 彼女はそれだけでは満足しなかった。

「言葉なんていくらでも言い繕えるもの。そんなんじゃ私は満足しないわ。」

「お前さっき聞かせてって言ったろ・・・・。じゃあどうすりゃいいんだよ。」

「こうするのよ。」

 そう言って凛はつま先立ちし、自分の顔を士郎に近づけ











 士郎の唇に自分のそれを重ねた。











「んむっ!?」

 突然のことに驚く士郎。しかし、凛は手をゆるめずなおも続ける。華奢な腕の何処にそんな力があるのか、士郎はしっかりとホールドされていて身動きがとれない。

 一体どのくらいの時間が過ぎたのか。二人はどちらともなく離れた。

「ぷはっ・・・。いきなり驚かすなよ・・・・。」

「んふふふふ〜、もう逃がさないわよしろー♪」

 凛が妖艶に微笑む。その時士郎は理解した。
 
 ああ、やっぱりこいつは「あかいあくま」なんだ。と。

 凛を驚かせるつもりが最終的には逆の結果になってしまうとは。

(やっぱりこいつには勝てないな・・・・・・・。)

 可愛い彼女を見ながらそう思う士郎。そんな彼女の腰に手を回し、窓側の方に行く。凛もそれに抵抗することなく寄り添い、歩く。そしてふと外を見てみると・・・・

「おお・・・・。」

「やっぱり・・・・・綺麗ね・・・・・・。」

 見るのは倫敦の夜景。そう広くは見えないが雪の降る街をイルミネーションが照らす、凛が一人で歩いていたときよりも幻想的な光景が見える。その街を背景に二人は向き合い、見つめ合う。

「言うのわすれてたな。」

「そうね。」

 そしておきまりの言葉を口にする。

「メリークリスマス、士郎。」

「メリークリスマス、凛。」



 雪の降る街を背景に、二つの影は再び一つに重なった。















『必殺!大日本富士山返し!!!!!!』

「シロウ、ご飯はまだですか。」

 そのころ居間では特撮を見ながらはらぺこ騎士王が一人ひざを抱えて座っていた。



 
〜Fin〜


後書きのようなもの
どもっ。実は自分の小説更新が8ヶ月ぶりな浅禾です。


ごめんなさい。マジで。しかも二次創作です。オリ早くやります。落ち着いたら。

まあ今回は電波の赴くままにFate書いてみたんですがいかがでしたでしょうか?

俺は書いててマジでこっぱずかしい思いしてました。

途中何度死にそうになったことか・・・・・・・・・。これもベイダー郷のマスクの人工呼吸装置のおかげでしょう。

こういう時期ネタはまた書くかもしれませんのでそのときはまた!!!

ちなみに配置したネタ。わかりました?多分すぐ分かると思いますけど・・・・・・・


↓回答編

※1:Zプラン・・・・・劇中で明かしているとおり、松竹映画「大怪獣ガメラ」にて、ガメラの被害を食い止めるための起死回生の策として打ち出されたもの。その全貌は巨大なカプセル「Zプラン」にガメラを入れて宇宙に打ち上げるというもので作戦は成功した。けど次の作品で冷凍怪獣バルゴンが現れたため呼び戻すことになった。

※2:「俺達がいる限り〜」・・・・・フランスの特撮好きな有志団体が作った「銃士戦隊フランスファイブ」が元ネタ。作者は本編を見たことがないので台詞は勝手に作りました。ごめんなさい。ちなみに現在第4話まで制作されており、あの串田アキラ氏自ら歌を挿入歌を制作したらしい。主題歌は「超電子バイオマン」の替え歌。

※3:「大日本富士山返し」・・・・・ガイナックスの前身たる「ダイコンフィルム」が作った特撮ヒーロー物「愛國戦隊大日本」の劇中に搭乗する「大日本ロボ(うろ覚え)」が使う必殺技。本編「愛國戦隊大日本」は当時の冷戦の状況下を皮肉ったかなんかでつくったらしい。主題歌は「太陽戦隊サンバルカン」の替え歌。敵がロ○ア帝国で1〜26話までサブタイトルと登場怪人が設定されているが実際に作られたのは3話「びっくり!君の教科書も真っ赤っか」のみ。アイ・カミカゼの中の人がジョギングをして本屋に立ち寄ったら本の中身が全て真っ赤だという凄い内容だった。今じゃつくれない。ちなみに大日本を指揮する「富士山長官」なる人物がいるがOP映像の本人映像、キャスト名が緑色の物で塗りつぶされており誰か分からない。どうやら高名な作家らしいが詳細はいっさい不明。岡田斗司夫とか庵野秀明じゃなきゃわからない。




ネタは思いついたらちりばめていきますので。今後もやり続けます。



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