さあ、これから宇宙旅行に旅立ちます。
 惑星線空港へ
 今日は以前から一度は行って見たかった太陽系の果ての海王星まで行く宇宙旅行の出発日だ。今日の宇宙の天気は太陽風の磁気嵐も無く穏やかだそうだ。
 朝から旅行先で着る肌着や靴下、Yシャツ、ネクタイ、スーツなどをスーツケースに入れて出かける準備をしている。あっそうそう少しオシャレ着も持って行かなくちゃ、船の中にはコインランドリーもあるそうだから一週間分持っていればいいのかな。

 宇宙旅行では大きな客船に搭乗する為には必ず3日以内に健康診断を受けることが義務付けられている。
 それは船内に強い感染症の菌をばら撒かれるとかなり深刻な事態が発生しかねないからだ。
 僕はおととい大きな病院で宇宙旅行健康チェックコースで検査を受けてきた。それはかなり厳しいもので、全身の皮膚、眼、鼻、口、耳の粘膜、検尿、検便、採血等で移り易い感染症が無いか、重度の病気が無いかなどを徹底的にチェックされるがもうチェックシステムが出来ているのでそんなに時間は掛からなかった。僕の結果はノープロブレムで健康診断証明書を発行して貰った。

 駅までタクシーで行き、駅前から出る群馬県の山の中に有る日本中央惑星線空港行きの高速バスに乗った。約1時間の旅だ。
 バスは空港ターミナルビルの正面入り口に着いた。これから惑星線乗り場で搭乗手続きしなければならないが、空港は各国から乗り入れてくる国際線UFOと宇宙に向かう惑星線UFOが乗り入れているのでけっこう混雑している。

 搭乗手続きは航空機に乗る時と全く同じで直ぐに済み、空港ターミナルビルからバスに乗って1Km離れた所に停めてある惑星線の円盤型UFOの発着場へ向かう。
 バスから降りて乗務員の案内で機体の中央にある円形のエレベーターに10人位ずつ乗り、ほんの10m位エレベーターで上がるとそこは機内の2階席で、女性の乗務員が自分の席まで案内してくれて、スーツケースを乗務員に預けた。
 この機は100人乗りで1階に60人2階に操縦室と40人搭乗できる。機体のエンジンの直径は約50mの大きさだが客席のキャビンの直径は約30m。ラッキーにも僕の席は右の窓側の外の景色が良く見える席だった。

 東アジアハブマザーシップへ
 「機長の寺尾勉でございます。皆様本日はご乗船大変有難うございます。本機はもう直ぐ定刻通り離陸し、東アジアハブマザーシップに向かいます、母船に到着までの途中、重力の変動や少しの揺れが有りますのでシートベルトを体の両側にキチンとロックするようお願いします。」と機内アナウンスが流れた。いよいよ離陸だ、ゴーというエンジン音が下の方から小さく聞こえて、座席がプルプルと少し振動したかと思うとふわふわと浮きあがったような感覚になった。これで地球とは一ヶ月くらいのお別れだ。
 
 ちょうどエレベーターに乗っているような感覚で、窓の外を見ると地面からどんどん離れていく。近くの景色も段々小さくなり雲の下に消えてしまった。暫くして機内アナウンスが流れた。「只今高度50Km成層圏、オゾン層を通過しました。」機内アナウンスが矢継ぎ早に流れる。「只今高度100Km、これから宇宙圏にはいります。」「只今高度400Km、スペースシャトルや宇宙ステーションミールの周回高度です。」
 余り意味が無いのだが、今でも簡単な実験の為と無重力の資料を集める為ににこの辺りの高度をシャトルやミールがグルグル回っているが、この辺りの高度の地球重力は地上の88%だからグルグル回って遠心力を発生させないと落っこちてしまうからだ。

 また機内アナウンスが流れた。「只今高度1,000Km、これより水平飛行に入り母船に向かいます。」
 地上1,000Kmの高度の地球重力は地上の75%だ。体重100Kgの人は75Kgに感じる。数年前はこの高度の辺りから2,000Kmの高度の辺りまではスペースデブリと呼ばれるいわゆる古く成って壊れた人工衛星のゴミが何億個もすごいスピードで回っていて危険極まりない状況だったが、来るべき宇宙時代に備え各国が協力して全て綺麗に掃除された。
 小さなゴミはそのまま大気中で燃え尽きたが、大きな物は燃え尽きず海に落とすと海が汚れるのでわざわざ砂漠に落として回収されたそうだ。

 母船は日本海上空1,000Kmに停泊し、日本、中国、ロシア、韓国、東南アジア等、東アジア各国から乗り入れる子機の惑星線東アジアハブ母船と成っている。窓を覗くとかなり遠くにポツンと母船らしき黒い影が見えてきた。
 母船にだんだん近づいていくと話には聞いていたがトンデモナク巨大だ。こんなものが空に浮かんでいていいんだろうか。
 本体の長さ8Km、葉巻型の電磁アームの長さ2Kmを左右両側に伸ばし、合計長さ12Km、横幅4Km、厚さ2Km、まさに巨大な葉巻型UFOそのもの形だ。
 東アジアハブマザーシップ、この船の本名は「ザ、クイーン、オブ、シバ」かの有名な「シバの女王」だそうだ。

 母船の上には子機がたくさん集まり、一度に何機も次々と母船に吸い込まれるように着艦している。

 僕の乗ったこの機体も母船の真上に着いて停船した。1Km位上空のようだ。直ぐに機内アナウンスが流れた。「本機は母船上空1Kmに到着しました。只今より母船に着艦ドッキングします。その際、無重力や機体の少しの揺れなどが有りますのでご注意ください。」
 と同時に体がふわりと浮いて、うぁ〜無重力だ〜。と言う事はエンジンを切って母船に向かって落ちているのだ。機体の揺れは殆どない。これは数多くの子機を速く収容する為の荒技だ。
 10秒ほどで無重力は収まりズシリと体が重くなって、落ちる速度がだんだん緩んできて機体が少しガタガタと揺れた。これは正確なドッキング位置や機体姿勢の微調整をしているのだ。
 
 下を見ると母船は直ぐ下に有りその上にはこの機と同じ大きさの円盤型の子機がきれいにびっしりと並んでいる。この母船にはこの大きさの円盤型の旅客用子機を10,000機、この倍の大きさの円盤型の貨物用子機を5,000機搭載可能だそうだ。その他に非常用や緊急用、業務用、作業用の小さな子機も幾つか持って万全な備えをしているらしい。

 機体はさらにゆっくりと下に下がって機内アナウンスが流れた。「本機は正常に母船に着艦ドッキング致しました。シートベルトを外し手荷物等忘れものをなさらない様、エレベーター前にお並び下さい。」
 エレベーター前で乗務員から自分のスーツケースを渡されエレベーターに乗った。そしてエレベーターのドアが開くとそこは母船内だった。地上を出発して約20分間の旅だった。

 いよいよ月へ1G加速飛行
 階段を10段くらい降りるとそこは到着ロビーで、まっ白い制服制帽のカッコいいお兄さんのベルボーイが行き先を書いたプラカードを持ち横一線に並んで、自分の行き先のプラカードの前に2列に並ぶように乗客に呼び掛けていた。プラカードには月行き、火星行き、木星行き、土星行き、天王星海王星行きが書いてある。僕は月に寄る事に成っていたので月行きの前に並んだ。

 2か月前に高校の同級生から同級会の案内状のハガキが来て、今回の幹事をする幹事長の山岸武雄です、いつも地元のホテルで同級会をやっていますが、今回は思い切って趣向を変えて月のホテルでやりたいと思います。万障繰り合わせて大勢の方からご参加お願い致します。月で見る同級生の顔もまた乙な物かも知れません、なお担任の先生もご出席下さるそうです。と書いてあった。
 月かあ〜、それも面白そうだなあ〜、たまには宇宙旅行もいいかなと思い出席すると返信を出した。

 ベルボーイが「それではこれから出発ロビーにご案内致します。このプラカードを見失わない様に私の後ろに付いて来て下さい。」と言って歩き始めた。
 体やスーツケースがやけに軽い。少し歩くと動く歩道に乗ってどんどん進んで行く。他の子機から降りた人達も動く歩道の空いているスペースに団体でどんどん乗って来る。長さ8Km、横幅4Kmのこの到着ロビーのフロアでは今、100万人位の人が出発ロビーへと向かっているのだ。このフロア全体がまるで人の海に成っている。

 3分ほどで出発ロビー行きのエレベーターが何100機も横一線に並んで居る前に付いて、迷子に成らない様に行く先の団体ごとに乗り込み機体の中ほどに有る出発ロビーへと降りて行く。800m位の子機の着艦用の設備を通り過ぎないと客室用のフロアに行けないので4分位はエレベーターに乗って、客室エリアの最上階にある出発ロビーフロアに着いた。そこからまた動く歩道を乗り継いで月行きの出発エリアに着いた。

 出発エリアの脇に有るロッカールームに自分の手荷物を入れるよう指示が有り、ロッカールームの鍵をポケットに入れ自分の席に案内され座った。リクライニング式の椅子も絨毯もふかふかでチョットしたテーブルも突いていてパソコンも備え付けられている、けっこう快適な座り心地である。回りを見渡すと殆どの人がもう席に座り終えているようだが遠くは霞んで見えない。

 先程から船内にゴーという音が響いている。船長からアナウンスが流れた。「本船船長の上野光男でございます。皆様本日はご乗船大変有難うございます。旅客用子機9,635機、貨物用子機4,828機を予定通り無事搭載完了し、只今子機格納庫天井カバー閉鎖及び電磁アームを船内に格納中です。間もなく定刻通り本船は宇宙航路に向けて発進致します。座席シートベルトのロックをご確認ください。途中、月、火星、木星、土星、天王星、海王星ターミナルと停船して参ります。どうぞごゆっくりと宇宙の旅をご堪能下さい。」

 続いて副船長からのアナウンス「本船副船長の山本一雄でございます。本船は定刻通りに地球ターミナルを発進致しました。只今の船外温度−270℃、宇宙放射線量0.0042ミリシーベルトパーアワー、船内の放射線は0.00002ミリシーベルトパーアワー、本日は太陽のフレアー爆発も、磁気嵐も観測されず、地磁気も非常に安定した気象条件と成って居ります。また、2時間前にこの航路を通過した船からの連絡に寄りますと航路内及びその近傍100Km以内に、脅威となるスペースデブリは存在しないとの事ですのでご安心ください。」その後このアナウンスは各国語に通訳され女性乗務員からアナウンスされた。

 船内アナウンス「これより月に向かって1G加速飛行により運航して参ります。月までの距離 384,000Km、所要時間は4時間20分でございます。飛行の状況も安定して居りますので只今から2時間の間、自由行動と致します。シートベルトを外して船内にご自由にお出かけ下さい。但し2時間後には必ず現在のお席にご着席頂く事に成って居りますので、時間10分前にはお席の近くに居られます様お願い致します。」

 1G飛行とは高度1,000Kmの地球重力は地上の75%に成っているので、足りない25%の重力分をエンジンの加速度で補い、体重が地上と同じ重さに成る様にする事を言うのだ。人体には1Gを掛けない期間が長く続くと骨粗鬆症や筋力の低下、減少などを招き、地球へ帰った時に自分の体が重くて立っている事さえできず通常な生活が出来なくなるからだ。

 船内アナウンス「只今高度2,000Km、周回人工衛星の軌道を通過中です。」
 船内アナウンス
「只今高度15,000Km、ヴァン・アレン帯を通過中です。」
 船内アナウンス「只今高度36,000Km、静止人工衛星軌道面を通過中です。
 この高度の人工衛星は
地球と同じ24時間で1回転して地球重力と遠心力が釣り合っている。地球から見るとあたかも静止しているように見えるのだ。

 とても広い船内見物
 さて、僕も一人旅で詰まらないし船内でも見物して来ようかと席を立った。 地球上では世界最大のクルーズ船オアシス・オブ・ザ・シーズ排水量225,000トンが一番大きいが、船の全長は360m、幅60m、高さ72mで船員は2,000人、乗客は6,000人くらい収容できるらしい。
 この船の大きさはオアシス・オブ・ザ・シーズの約100倍で排水量2,000万トンと言われている。船の本体の全長は8,000m、幅4,000m、高さ2,000mで乗務員は100,000人、乗客は1,000,000人収容可能だそうだ。

 客室部分は200階建ての巨大ビルでその各フロアーがそれぞれ巨大な街を形成し
客室部分上層階の中央部は10階を突き抜けた巨大な吹き抜けがあり、緑あふれる公園をイメージした空間もある。その中のプール施設は、夜はシンクロナイズド・スイミング、水中バレエ、 アクロバットショー、噴水ショーなどが行われる。中層階の中央部には20階を突き抜けた巨大な吹き抜けがあり、遊園地が丸ごと一つ入っている。下層階の中央部には5階を突き抜けた吹き抜けがあり、陸上競技場を初め各種スポーツコートやスケートリンクなどが完備している。

 その他、劇場、映画館、複数のレストラン及びバー、ラウンジ、フィットネスクラブ、ジャグジースパ、美容室、ショップ、宴会場、カジノ、医務室、専門医院、総合病院、消防署、警察署、消防車、救急車、パトカー、各国の神社、教会、寺院、結婚式場など、最大規模のアクティビティやレストランの種類は常識を超え、多彩なエリアを備えた船内はまさに動く街並みと言え、人口110万人のニーズを長期間賄える施設が充実して話題となっている

 客室は主にスタンダード・プレミアム・スイートの三つに大別され、スイートは上層階の40階、プレミアムは中層階の60階、スタンダードは下層階の10階に其々割り当てられている。特にスイートは更に細かく分けられていて、プレジデント、ハイパー、ブテック、ラグジュアリーの4段階まであり、物凄く高額の豪華絢爛で階をぶち抜いて大富豪の別荘を想わせるほどの大きな部屋が幾つも有るらしい。どんな部屋なのか一度見てみたいものだ。

 道路はどの階もほぼ同じ構造で1Km毎に緊急車両がすれ違い出来る幅10mの大きな道路が縦横に走り、100m毎に幅2mの歩道があり、すぐ隣に簡単に乗り移れるように人間の歩行速度4Km/hの1.5倍のスピードの6Km/hで走る幅1.5m位の動く歩道が走り、またそのすぐ隣に独立して急ぐ場合は動く歩道の1.5倍のスピードの9Km/hで走る幅1.5m位の動く歩道が走っている。そして更に50m毎に幅2mの歩道があり、すぐ隣に6Km/hで走る幅1.5m位の動く歩道が走っている。逆方向へ行くにも対面側に全く同じ構造の道路と成っている。フロア中縦横無尽にそんな道路の構造に成っているので歩く距離は動く歩道に乗るまで最大25m歩けば良い。それと交差点を渡る時だけだ。

 動く歩道は立体交差は出来ないからそれらの交差点では必ず降りてまた自分の行きたい方向の動く歩道に乗り換えなければならない。その交差点の脇には必ずエスカレーターとエレベーターが設けられており、フロアー中央部の人出が混雑する所には4機、周辺部の余り混雑していない所には2機が備え付けられている。
 従って船内の何処に行くのも前後左右上下自由自在だ。しかし困った事にあんまり広すぎて同じ様な町並みなので、自分が今何処に居るのか分らなくなってしまう事だ。迷子になるのを防ぐために必ず見易い所にここは何階の何丁目何番地と書いて有り、あちこちに現在地を教える地図まで張ってある。

 僕はまず、興味の有った上層階の大富豪の別荘を想わせるほどの大きな部屋が幾つも有る、と言う所に行って見ようと思った。エレベーターに乗り190階で降りた。そこには確かに中央部の10階を突き抜けた巨大な吹き抜けがあり、大きなプールが有ってその周りには緑あふれる公園をイメージした空間も広がっていたが、水は何にも入って居なかった。不思議だなあと感じながら吹き抜けの周りをエスカレーターに乗ったり動く歩道に乗ったりしながら散策して見た。一番上から見下ろすと確かにこの船が誇るように見事な眺めだ。

 そしてその外周部に広がるプレジデントと言うランクの部屋の外側だけでも見て見ようかと歩いて行くと、街の角々にはモール付きのポールで道が塞がれていてSPのガードマンが2〜3人位立って居て警備をしていた。僕がそこを通りたそうな素振りをしていたのでガードマンの方から話し掛けてきた。「ここから先は通行証とお部屋のキーカードが無ければお通り出来ません。尚今のお時間はご自分のお部屋の位置を確認したい方だけをお通しして居りますが、キーカードが有ってもお部屋のキーは開かない様になっています。」確かに向こうの方の道路では何人かがガードマンと話をした後、中に入って行くのが見えた。僕はスタンダードのランクの部屋を予約しているのでまあ仕方が無いかと諦めた。

 それでも折角ここまで来たのだから、奥の方の見える範囲でも覗いて見ようとガードマンに「ちょっとここから覗くだけだから少し良いですか?」と言いながらモール越しに奥の方を覗いてみてビックリした。
 細かいきれいな色のタイル張りの塀がぐるりと回され、その上に金属製の芸術品の様な柵が張り巡らされ、塀と同じ色の高い門柱にこれもまた金属製の芸術品の様な豪華な門扉が取り付けられ、塀の内側には中が丸見えに成らない様にぐるりと背の高い樹木が植え廻されている。下の方には草花も植えられているようだ。
 その樹木の間からチラチラと奥の方に2階建てのさすがに屋根までは被せて無かったが、白亜の豪邸らしきものが見えている。これではまるで地上の豪華別荘と殆ど変わらないではないか、さすがプレジデントのランクと言うだけ有って凄いんだなあと驚いた。そしてその奥にも同じ様な創りの邸宅がずらーと並んでいるようだ。どんな人がこの部屋を借りて居るんだろうか、是非一度顔でも見て見たいものだと思った。
 だがしかし宇宙船の中にこんな物が有って飛行とか管理とかに問題は無いのだろうかと心配になった。

 さっき不思議だなあと感じた水が何にも入って居ないプールの謎を思い出し、その意味を聞いて見ようと思ってガードマンに質問すると「これから1時間後位に船の床と天井の方向を入れ替える為180°回転させる船体方向大反転が有ります。その時船内は無重力となり、また、回転するので遠心力が掛かり、総ての物が宙に舞ってメチャクチャになってしまいますので、それが終わるまでは水は別のタンクに収納されています。また船体方向大反転の時は人も物も総てのものが船体に固定され自由に動ける物は何一つ無い状態にしなければなりません。」
 な〜るほどそうだったのか、無重力か〜、それはトンデモナイ凄い事が起きるんだろうな〜、宇宙遊泳をした気分になるのかも、と思うとちょっと嬉しい様な怖い様な感覚が頭の中をよぎった。

 あと1時間位しかないと聞いたので少し急いで、層階の中央部にある10階を突き抜けた吹き抜けの、遊園地を見に行った。遠くまで見渡せない大きさで地上に有るのと同じ遊園地施設がズラリと並んでいるのが見える、確かに遊園地が丸ごと1つ入っているが今の時間はやはり営業して居なかった。
 そして下
層階の中央部の10階を突き抜けた吹き抜けのスポーツエリアを見に行った。ここも向こうが見えないほどの広さで陸上競技場や色々なスポーツコートやスケートリンクなどがあり、それぞれの入り口には必ずガードマンが2〜3人位立って警備をしていた。今の時間はやはり営業して居ないのは30分後位に起きる船体方向大反転が有るせいなんだなと理解した
 そしてどこを歩いても各店舗も準備中の札が貼られていた。
最後に自分の泊まる客室の有る所でも確認して見ようかと思ったら、僕は月で降りるから今日はこの船には泊まらない事に気がついた。

 宇宙旅行一番のビッグショー船体方向大反転
 突然船内アナウンスが流れた、船長からだ。
 「本船船長の上野光男でございます。皆様、本日はご乗船大変ご苦労様です。本船は間もなく地球と月の中間地点に差し掛かります、本船の只今の到達速度は、時速220,957キロメートル、マッハ180で御座います。今までエンジンを地球側に向けて1G加速して飛行して参りましたが、中間地点で船体の方向を半回転させ、今度は月側にエンジンを向けて1G減速飛行して参ります。半回転の際、無重力、回転遠心力などが発生し危険な状況が発生致しますので、係員の指示に従って行動して下さいます様お願い申し上げます。」

 船内アナウンスは船長と副船長以外は総て女性に声だ。
 船内アナウンス「お客様にご案内致します、用便が必要な方は只今からお済ませ下さい。」

 船内アナウンス「業務連絡、乗務員は各担当部署の物品の船体への固定確認作業に入って下さい。未固定部分の赤ランプ表示点灯します。」
 船内が急に慌ただしく成り出して、乗務員の姿がアチコチで動き回っている。

 船内アナウンス「お客様にご案内致します、回転開始まで15分前です、ご自分の席の近くまでお戻りください。」この放送を聞いて僕も早く戻らなければと思い、近くの動く歩道に乗った。

 船内アナウンス「お客様にご案内致します、回転開始まで10分前です、ご自分の席にご着席下さい。」ようやく僕も席まで戻ってきたので、やっと着席した。

 船内アナウンス「業務連絡、乗務員の各担当部署の物品の船体への固定確認作業が完了した事を本部にて確認致しました。赤ランプ表示点灯は有りません。客席係を除く乗務員は自分の席若しくは身体固定位置に戻って下さい。」

 船内アナウンス「お客様にご案内致します、回転開始まで7分前です、身体から外れ易いもの、例えば、帽子、メガネ、補聴器、入歯、ネックレス、タイピン、ポケット内の物、身の回り品など、総てテーブルの引き出しの中に備え付けのナイロン袋に一まとめにして入れて下さい。
 そしてテーブルの中に備え付けのヘッドマスクをご着用ください。その後テーブルの引き出しをロックして下さい。客席係はお客様が確実に作業されたかチェックしご指導して上げて下さい。」客席係のベルボーイが客席を一人一人丁寧に見て回って、手を貸して上げている。
 ヘッドマスクは頭からあごまですっぽりとかぶるもので、眼の部分は透明なビニール製だ。これは健康診断で合格した人でもその後感染や発病した人の体液やおう吐などが空中に舞う事を防ぐためだ。

 船内アナウンス「お客様にご案内致します、回転開始まで5分前です、座席のシートベルトを両側に確実にロックして下さい。」

 船内アナウンス「業務連絡、回転開始まで3分前、全席の引出しロック及びシートベルトロックを本部にて確認致しました。全乗務員は身体固定位置にて身体固定して下さい。」

 船内アナウンス「業務連絡、回転開始まで2分前、全乗務員のシートベルトロックを本部にて確認致しました。」

 船内アナウンス「本船副船長の山本一雄でございます。お客様にご案内致します、本船は定刻通りに地球と月の中間点を無事航行中です。これより船体の方向半回転を実行致します。」
 続けて副船長のアナウンスが流れる。11万人の命を預かる1大イベントだ、冗談抜きで本当の上や下への大騒ぎがこれから始まるのだから、お客さんを安心させる為のパフォーマンスなのだろうか、業務連絡を船内中に流している
 「業務連絡、エンジン出力システム問題無いか再確認せよ。方向舵出力システム問題無いか再確認せよ。本部双方問題なしを確認、・・・ヨーソロー。

 回転開始30秒前、・・・20秒前、・・・10秒前、8.7.6.5.4.3.2.1.エンジン出力停止。」その瞬間体がふわりと浮いて無重力に成った。

 「方向舵反時計回り作動開始、徐々に速度を上げるグラデーション操舵せよ・・ヨーソロー。」今度は体が左側に引っ張られている感じだ。

 「只今旋回角度45度、旋回速度船内最大地点で毎秒15m、」
 今度は体が左上側に引っ張られている。周りを見ると壁に立ったまんまシートベルトと同じ様な状態で固定されているベルボーイ達の足も宙に浮き、頭も少し斜めに片向いて居る様だ。

 「只今旋回角度90度、旋回速度船内最大地点で毎秒30m、徐々に速度を下げるグラデーション操舵せよ・・ヨーソロー。」

 「只今旋回角度135度、旋回速度船内最大地点で毎秒15m、」
 ずっと同じ様な状況が続いて居たが。

 「只今旋回角度180度、旋回停止、」その途端に左上側に引っ張られている感覚が無くなり、今は無重力の状態だ。

 「エンジン出力1G入力開始、・・・ヨーソロー。」その声と同時にみんなの体がドスンと座席に落ちた。

 「お客様にご案内致します、船体方向大反転は無事終了致しました。そして順調に月までの1G減速飛行に入りました。」
 客席からウワーともウオーともつかない大きなドヨメキがフロア中に広がって、後ろの遠くの席では若者たちの集団なんだろうか、修学旅行の高校生達なのだろうか、副船長に万歳三唱のエールを送って騒いでいる連中が居る。

 十数分間も体を固定され、それから解き放たれた反動の喜びなのだろうか、また何事も起らなかった安堵感からなのだろうか、副船長もそのまんま天地が引っ繰り返るこの宇宙旅行で一番のビッグショーでずい分名を挙げた様だ。

 再び月へ1G減速飛行

続く
            

天使銀河  天使の羽にあたる青い部分は高熱のガスが中心にある星から外に放出されているもの。天使は地球から2000光年は離れたところで発見され、天使の大きさ自体が数光年もあるのだそうです。写真はハッブル宇宙望遠鏡のWide Field Camera 3から今年の2月に撮影されたもの。