ビオトープの生命2010(1)

昨年の夏から、「水と木のフィールド」のビオトープの、主に野草の管理を行っています。ビオトープはみんなのものなので、手を入れるのは我々だけではありません。これまでにすでに導入されている植物もありますし、周辺から入り込んできている野草も、多々あります。
あまりに繁殖力の高い帰化植物の一部には、抑制対策を実施しますが、あまり我々が手を加えないで、自然の管理に任せたいと思っています。
ここで、多様な植物が生きていくことが出来るようになれば、多様な小動物も増えていくはずです。このビオトープの規模では、大きな肉食動物を養うことは出来ないので、形成される生態系の多様さにも、自ずと限界があるのでしょうが、十年後の姿に想いを馳せると、夢も膨らんできます。
とりあえず最初の3年間で、ここで生きていけるものを洗い出し、次の3年間で、それらの背中を押して、増やしていくというのが、おぼろげなイメージです。色々な意味で、我々に出来るのはそこまででしょう。
今年はまずは調査と実験の年です。野草については、去年、すでにここにあるものを大まかに調査し、園芸種も含めて、少しばかりの導入実験を開始しました。今年はその結果を確認しながら、増やしていきたい植物の、環境整備なんかも考えていきたいと思います。
ということで、今年のこのコーナーでは、ビオトープに生きている小さな生命達を紹介していきたいと思います。目標は、毎週アップです。もちろん花だけではとても無理なので、動物も可能な限り取り上げていきます。こちらの方は、写真が撮れるかどうかが、最大の関門ですね。
厳冬期の1〜2月は、もっともテーマに困る時期なので、最初から苦難のスタートです。


2月13日 ネコヤナギの綿帽子

今年も、ネコヤナギの綿帽子が目立ち始めました。恥ずかしながら、私はこの綿帽子を、コブシのように冬芽だと思っていました。しかし観察してみると、綿帽子の上には、明らかに冬芽を被っています。従って、綿帽子は花であるということになりますが、これから綿帽子は伸びて、黄色い花粉をつけた蕊が伸びてきます。よって、綿毛の状態というのは、蕾の状態であるというのが正解になります。
3月になれば、花を咲かせると思うので、その時期に雄花と雌花を紹介したいと思います。


冬芽を脱ぎ捨てた、ネコヤナギの蕾。
  
冬芽のコートを、頂部に残した状態。こちらが越冬時の冬芽。

カエルの産卵

去年よりも半月ほど遅れましたが、今年もカエルの合唱が聴かれ、卵が産みつけられました。
水田に産卵する中型のカエルといえば、トノサマガエルしか知らないので、一昨年まではトノサマガエルが卵を産んだといっていたのですが、去年、苦労してカエルの写真を撮ると、どうも違うようです。ネットなどで調べて、ヤマアカガエルらしいということになりました。よく似た種類に、ニホンアカガエルというのもあります。
トノサマガエルの方は、産卵時期も4〜5月になりますから、アカガエルの方は、ずいぶん早い時期に繁殖することになります。


今年も産みつけられた、ヤマアカガエルの卵。
  
産卵の様子を撮りたかったのですが、警戒しているようで、なかなか撮れません。


2月7日 春の妖精

たか爺の庭で、フクジュソウが一輪だけですが、咲き始めました。フクジュソウは「スプリング・エフェメラル」(spring ephemeral)と呼ばれる早春の花のひとつです。直訳すれば「春の儚いもの」といった意味になりますが、「春の妖精」という呼び方をする人も多くいます。
冬に葉を落とす落葉樹の森では、早春には林床にも太陽の光が射し込みます。早春に花を咲かせ、日の光が豊富な間に、光合成を行って、実を結び、翌年の栄養を根に蓄える。そして、太陽の光が届かなくなる夏には、地上の茎を枯らして休眠状態にはいる。春に一瞬の生命を燃やして、夏には死んでしまうように見える。それが命名の由来です。
しかし、落葉樹林下という環境においては、これはもっとも合理的な生存戦略のひとつであることは間違いありません。起きて活動している時間は短いものの、もっとも成功した植物のひとつであるわけです。
代表的な花は、フクジュソウ・セツブンソウ・ニリンソウ・キクザキイチゲなどのキンポウゲ科の花と、ユリ科のカタクリ、そしてシソ科のエンゴサクの仲間などです。花は大きくありませんが、目立つ美しい花を咲かせ、見事な群落を作るものが多いのが特徴です。
早春にいち早く花を咲かせる野草でも、たとえばオウレンの仲間は、夏にも葉を茂らせているので、「スプリング・エフェメラル」とは呼びません。「スプリング・エフェメラル」はどれも、春の早い時期に花を咲かせますが、中でも旧正月の花と呼ばれるフクジュソウと節分の頃に咲くというセツブンソウは、トップグループの花です。在来種の野草では、一年の最初に花を咲かせると言っても、ほぼ間違いではないでしょう。
フクジュソウとセツブンソウについては、東濃地方で自生しているという情報はキャッチしていません。ですから、この野草園の本来の趣旨からいえば、あまり相応しいものとはいえないのですが、花のないこの時期に咲く美しい花なので、やはり欲しくなります。ということで、この二種については、園芸種を買い求めて、チャレンジすることにしました。セツブンソウは石灰岩の土壌を好む傾向が顕著なので、たぶん最終的には失敗しそうな感じが強いのですが、フクジュソウに関しては、あまり遠くない場所に群生地がいくつかあります。この付近でも、庭植で順調に増えている場所もあります。実は、近いうちにそういう場所から、少しまとめて移植しようということになっているのです。フクジュソウについては、その折りに、もう少し細かい説明をする予定です。
余談ですが、昆虫でも「春の妖精」と呼ばれるものがいます。代表的なものがギフチョウです。ちょうどカタクリの花が咲く頃に飛び回り、夏には蛹になって、そのまま越冬します。生活のサイクルまでカタクリと似ているのです。



話はまったく変わるのですが、先週、動物園で観たコジュケイ、実はこちらでも一度だけ道路を横断するのを目撃しました。でも、もちろん撮影する時間はありませんでした。ところが、今日、来る途中でベニマシコらしき鳥を見つけて、停車したら、なんとすぐ前で、群れで餌を漁っているではありませんか。フロントガラス越しに慌てて撮影できました。向こうもすぐに気づいて、飛び去ってしまいましたが(鶏並みの飛び方でした。)、やっと二枚だけ撮影できました。場所はビオトープからは外れますが、かなり近いので、その内に遊びに来てくれるかも知れません。




1月30日 キチョウの越冬

去年の1月は暖かだったので、この時期になるとカエルが産卵し、農家の庭のフクジュソウも芽を出していました。今年は寒かったので、色々探してみても、春らしい気配が見あたりません。ガッカリして山小屋に到着し、石垣を観ると、黄色いものが目に入りました。なんだろう? と近づいてみると、キチョウが枯れたヤクシソウの葉にぶら下がっています。
モンシロチョウが蛹で冬を越すことは知っていたので、てっきりキチョウも蛹で越冬すると思い込んでいたのですが、調べてみると、キチョウは成虫で越冬するということで間違いありません。キチョウの夏型は羽の縁に黒い模様がありますが、秋型や春型にはこれがありません。間違いなく、秋型がそのまま越冬している姿です。
それにしても、先週もここにいたのでしょうか? 目立つ場所なので、いれば気づいたと思うのですが・・・。暖かな日があったので、それにつられて飛び出したものの、やはり寒くて、ここで動けなくなったのでしょうか?
実は、ギフチョウの蛹が観たかったので、少し探してみたのですが、やはり見つかりません。モンシロチョウの蛹も含めて、運が良ければ、ここで紹介できるのですが・・・。



間違いなく、春は近づいているので、今回は肥料散布と野草店で仕入れた早春の花の苗を植え付けることにしました。春の気配が進んでいれば、泊まるつもりだったのですが、まだもう少し先のようです。明日の天気もパッとしないので、今回も日帰りで引き返します。


1月22日 カシラダカとミヤマホオジロ

この付近で、冬季にもっともよく観られる野鳥はカシラダカだと思われます。これに対して、ミヤマホオジロは数も時期もやや限られるようです。共にスズメ目ホオジロ科ホオジロ属38種中の1種とされ、ホオジロとよく似ています。しかしホオジロは一年中観られる留鳥であり、カシラダカやミヤマホオジロは、夏場はユーラシア大陸の寒冷な地域で繁殖し、冬場に冬鳥として日本に渡来・越冬します。外見上は、両種とも冠羽と呼ばれる頭頂の毛が目立ちます。
冬季は山麓の里山・草原に群生し、地面に降りて植物を食べることが多いようですが、昆虫も食べると書かれています。ルリビタキが肉食系の雑食であるのに対して、こちらは草食系の雑食ということになりそうです。ジョウビタキやルリビタキが単独で行動するのに対して、こちらは群れで行動する傾向が強いようです。



  
カシラダカ:2010.01.17
この付近にはホオジロもいて、時として一緒に行動しているように思われます。冠羽が目立つこと、胸が白いこと、背中の尾に近い部分が鱗状の模様になっていることなどが、見分けるポイントだと言われています。



  
ミヤマホオジロ:2009.12.21 2010.01.22
これまでミヤマホオジロは、なかなか近くで撮影できない鳥でした。桑畑の方で時々見かけたので、出かけてみたら、捨てられていた古い浴槽で、バチャバチャと音がするので、探してみたら、びしょ濡れになって震えている姿を発見しました。おどおどしている姿が幼く見えたので、その時点では雛だと思って撮影したのですが、考えてみれば、日本では繁殖しないので、雛の筈がありません。色や模様もオスの成鳥だと思われます。たぶん、我々の気配に驚いて潜り込み、水の溜まった浴槽に落ちたのでしょう。危うく溺れそうになって這い上がり、呆然としているところに出くわしたものと思われます。我々としては千載一遇の幸運、ミヤマホオジロ君には、とんでもない災難でした。


1月18日 ルリビタキ

ルリビタキは亜寒帯で繁殖する鳥です。中部地方だと、亜高山帯で夏に繁殖をし、冬になると平地に降りてきて、越冬します。オスの身体上面は鮮やかなルリ色をしているので、非常に人気のある野鳥ということになります。それほど珍しい鳥ではないのですが、冬は単独でテリトリーを持つので、個体数は多くありません。
食性は雑食で、昆虫・節足動物・果実などを食べます。テリトリーを持って、単独行動するので、ジョウビタキとよくケンカするようです。この場合、勝敗はジョウビタキに分があるようです。メスは上面がオリーブがかった褐色で目立ちません。鳥の場合は、よくあることなのですが、若いオスはメスと似た色をしています。
山小屋付近でも、ルリビタキを見つけたいということで、探していたのですが、去年の春先になって、やっと見つけました。最初はメスだと思って、ガッカリしたのですが、一部がルリ色になっていたので、「若」(オスの雛)であることが分かりました。無事に成長して、1年後に戻ってきてくれることを期待していたのですが、願いが叶ったようです。ただしジョウビタキのオスと見事にテリトリーが重なっているようです。怪我などしないで、頑張って貰いたいものです。



  
ルリビタキ:ヒタキ科ツグミ亜科:2010.01.18


1月9日 ミズバショウの芽だし

はじめたは良いけれど、1〜2月をどう乗り切るのか? これが最初からの不安材料です。どうしようもない時の逃げ道は、それなりに考えてはいるのですが、なんとか面白いネタを探そうと、二人で目を皿のようにして探し回りました。そろそろ諦めかけた頃に、悦ちゃんの呼び声がします。
駆けつけてみると、湿地で何かが芽出しをしています。場所からいっても、形からいっても、間違いなくミズバショウのようです。でも、ミズバショウって、こんなに早い時期に芽出しするのでしょうか?
図鑑などを観ても、ミズバショウの花が咲くのは4〜5月です。発芽するとすぐに白い仏炎苞を広げて、花を咲かせるのです。もともと雪解けを待って、第一番に花を咲かせるタイプの花なのです。
ミズバショウは、ある程度寒冷な場所の湿地に咲く花です。ミズバショウが自生する場所は、冬季は根雪に覆われる場所です。根雪が融けると、真っ先に花を咲かせ、それから葉を伸ばす植物です。ここのミズバショウは、会長のたか爺たちが苗を買い求めて、数年前に植え付けたものです。本来の自生地よりは温暖な場所ですから、早く発芽しても不思議とはいえませんが、それにしても早すぎます。去年や一昨年は、一体いつ花を咲かせたのでしょう?
アルバムを調べてみると、ここのミズバショウは3月の後半に花を咲かせています。去年までは、花の写真は撮っていますが、発芽の時期は調べていません。毎年、これくらいの時期に発芽していたのか、それとも教科書通りに、花の咲く直前の時期に発芽していたのかは、定かではありません。正月に積雪があったので、それが溶けたのを春が来たのと勘違いしたという可能性もゼロではないでしょう。
今年は早く咲くのか? それとも例年の時期まで、このままじっとしているのか? 楽しみがひとつ増えました。


ミズバショウ発芽。2010.01.08

1月2日 シモバシラ

植物を観て楽しむとなると、まずは花、そして実や紅葉ということになるのが普通ですが、この野草は、厳冬期に枯れた茎の根元に、氷の華を咲かせます。どうやら、この花の根は、冬になって地上の茎が枯れても活動し続け、地中の水分を吸い上げ続けるようです。その水が茎の割れ目からしみ出し、外気が零下になると凍るのです。その結果、このような形になるのです。
シモバシラはシソ科の多年草で、シソ科の植物の中には、同じような氷を作る植物が多いようです。我々も、乙女渓谷で、カメバヒキオコシという野草のシモバシラを見たことがあります。ナギナタコウジュという野草でも、出来るようです。
これらの野草は、かなりありふれたものなので、ビオトープや山小屋の野草園にもあります。しかし、残念ながらシモバシラが出来た姿を見たことはありません。地中の水分の量などが影響しているのでしょう。
シモバシラは、気温が暖かくなると、融けてしまいますから、観るためには、朝早く行くことが出来る場所が有利です。裏返せば、何もない厳冬期のアイテムとして、野草園には是非とも欲しい野草です。運良く野草店で安く売っていたので、秋に買い求めて、野草園に植えておいたものです。
ここに来て、寒い日が続いたので、期待通りにシモバシラを作ってくれました。何といっても株が小さいので、今年は大きなものを作りませんが、来年はもっと立派なシモバシラが見られることを期待しています。今年は、ビオトープにヒキオコシの仲間を増やしておいたのですが、こちらの方はどうも上手くいきません。


雪に中で咲く(?)シモバシラ。2010.01.02
  
シモバシラの拡大写真。2009.12.20 シモバシラの花。2009.10.11