ビオトープの生命2010(2)

3月22日 続・春を告げる花

シュンラン

少し時間が余ったので、人工林下の笹を刈っていると、何かが視界に飛び込んできました。危ういところで草刈り機を止めました。見事なシュンランの株です。この周辺には、シュンランはわりと多いのですが、野草園でははじめての発見です。
蘭というと、派手な洋蘭を思い浮かべがちですが、清楚な感じの東洋蘭は人気が高く、シュンランはその代表格の花です。適度な大きさと緑色の花は、見飽きることがありません。
蘭はもっとも進化した花、つまりは新興勢力なのですが、その種類は2万種におよび、キク科と並ぶ一大勢力です。その躍進を支えた独創的な進化はいくつも挙げられるのですが、今回は花粉塊について紹介しましょう。
蘭は10数万個の花粉をパックにして、昆虫に運ばせるという芸当を発明したのです。しかし、そうなると1個の花粉はもの凄く小さくなります。とても自力で発芽するだけの栄養を種子に詰め込むことは出来ません。そこでラン菌の助けを借りて発芽するという芸当を編み出したのですが、それは別の機会に譲るとして、今回は花粉塊に絞ります。
下段右のアップの写真をご覧下さい。緑色の花弁のようなものが5枚ありますが、大きな外側の3枚は萼片ということになります。閉じ気味の2枚と下に垂れ下がっている白い1枚が本来の花弁です。白い花弁は唇弁と呼ばれ、蜜標と呼ばれる模様と毛や隆起があるものがほとんどです。要するに蜜を吸おうとする昆虫(シュンランではハナバチ)は、ここに足をかけ、模様に沿って奥へと進みます。唇弁の上側に、白いボールがあるのが分かるでしょうか? これが花粉塊です。蜜標に従って進もうとするハナバチは、花粉塊のついているずい柱を押し上げて進入します。蜜を吸い終わると、今度は後ずさりをして戻ります。この時に後頭部が花粉塊に当たり、花粉塊が外れるように押します。花粉塊の根元には粘着テープが貼ってあるので、花粉塊はハナバチの後頭部にくっついて運ばれる仕組みなのです。
さて、ずい柱というのは、実は雄しべと雌しべが合体したものなのです。花粉塊が運ばれてしまうと、今度は雌しべの柱頭から粘液を出して、別のハナバチが運んできた花粉塊を受け取るという巧妙な仕組みになっているのです。
進化というのは偶然の積み重ねなのですが、その巧妙さには、いつも驚かされます。


笹の下で咲いていたシュンラン。
  
上から見ると緑色をした清楚な東洋蘭。 しかし、正面から覗き込むと、まったく別の表情。

バイカオウレン

山小屋の野草園で、待望のバイカオウレンが咲きました。実はビオトープの野草園でも咲かせたくて、一部を移植したのですが、場所の選定を間違えたようで、これは見事に失敗しました。どうも湿地に植えてしまったというのが、結論のようです。
バイカオウレンは、先に紹介したセリバオウレンの近縁ですが、梅花黄連の名前が示すように白い萼片が丸く、花はセリバオウレンよりもずっと目立ちます。
わりと広い範囲で観られるのですが、セリバオウレンよりはいくらか寒冷な気候、わりと針葉樹林下を好むように感じています。ということで、もう一度ヒノキ林でチャレンジしてみようと草刈りをして、シュンランを見つけたということです。
セリバオウレンは、雄花・雌花・両性花を持つと書きましたが、バイカオウレンはどうやら両性花のみのようです。セツブンソウで観られた真の花弁、蜜弁を持つのがご覧戴けるでしょうか。


1本の茎に1つの花しかつけませんが、セリバオウレンよりもずいぶん目立ちます。


3月11日 樹木も忘れずに

しばらく野草が続いたので、久しぶりに樹木の花を採りあげてみたいと思います。まずは、2月13日に予告したネコヤナギの花が咲き揃いました。

バッコヤナギ・ネコヤナギ

先週あたりから、ネコヤナギの雄花が咲き始めました。今回調べてみると、雌花も咲き始めたようなので、早速撮影してきました。
雄花は黄色い花粉をつけるので、離れていても目立ちます。葯ははじめ紅色で、黄色の花粉を出したあと黒くなります。雌花の子房には白い軟毛が密生し、花柱は子房より長くなります。
バッコヤナギは、ヤマネコヤナギの別名があり、この周辺の山地でよく見られる高木です。花もネコヤナギとよく似ていますが、こちらも冬芽を脱ぎました。


冬芽を脱いだ、ビオトープのバッコヤナギ。
  
ネコヤナギの雄花。黄色いのは花粉。
  
ネコヤナギの雌花。子房は軟毛に覆われ、柱頭が伸びる。

アセビ

早春を代表する常緑の躑躅です。白い花がたくさんぶら下がって咲くさまは壮観です。アセビは漢字では「馬酔木」と書きます。アセビの葉や茎にはアセボトキシンという有毒成分が含まれ、牛馬が食べると中枢神経が麻痺して、酔っぱらったような状態になるのが、語源です。




3月5日 春を告げる花

この周辺の、日当たりの良い池の土手や湿地では、春の訪れを待って、ハルリンドウが青い星をちりばめたように咲き乱れます。比較的乾燥した土手から咲き始め、4月になると湿地で咲くので、ずいぶん長い間、春の訪れを楽しませてくれます。今年もいつものように、道路沿いの高い斜面から咲き始めました。

ハルリンドウ

春に咲くリンドウの仲間には、ハルリンドウ・フデリンドウ・コケリンドウなどがありますが、どれも小型で、可愛らしい青色の花をつけます。その中では、ハルリンドウは最も大きく、色彩も鮮やかです。
ハルリンドウに限らず、花は有性生殖の方法なので、近親交配を避けるために色々な工夫を凝らしています。自分と血縁関係の近い花粉をもらっても、受精できないようにしているものが多いので、自分自身の花粉を雌しべにつけないように工夫を凝らしています。
その中でも、代表的な方法が、自分の花粉を運び終えてもらってから、雌しべが受粉できるようにする方法です。見方を変えれば、開花したらまず男性の役割を果たし、それが終わると女性の役割に徹するということになります。雄しべと雌しべの両方を持っている両性花は、男性でもあり、女性でもあるわけです。でも、最初のうちは男性であり、途中から女性に性転換するというわけです。
写真をご覧いただくと分かるように、咲き始めのハルリンドウの雄しべは、中央に集まって雌しべを覆い隠すようになっています。そして昆虫によって、自分の花粉を運び終えてもらうと、右側の写真のように、雄しべは外側に倒れ、雌しべが中央に現れます。そしてめしべの柱頭がご覧のように裂け、ここに花粉をつけてもらうわけです。非常に単純なことですが、これで自分自身の花粉をつけられる可能性が、ずいぶん小さくなるものと思われます。


春の訪れを告げる、青い星くず。
  
最初は雄しべが雌しべを覆い隠します。やがて雄しべが外側に倒れ、雌しべの柱頭が開いて、受粉できるようになります。

ミスミソウ

雪割草の名前で、園芸種が普及している春を告げる花です。話がややこしくなるのですが、カタカナでユキワリソウと書くと、高山に咲くサクラソウの仲間になります。
日本海側に咲く花は、形も色も変化に富み鮮やかで、オオミスミソウと呼ばれ、雪割草の多くは、オオミスミソウの園芸品種です。ところが、太平洋側のものは、ほとんど白に近い色になっており、ミスミソウとかスハマソウと呼ばれています。葉の先が尖っていればミスミソウ、丸ければスハマソウというわけですが、私は意味があるとは思えないので、ミスミソウで通すことにします。
この花もキンポウゲ科で、例によって花弁に見えるのは萼、萼の外側で3枚の緑色の萼に見える部分は、包葉という葉の部分です。
この花も、この付近で自生する情報はありませんが、ずいぶん以前に名古屋の自宅から移植した雪割草は、しぶとく生き残っており、特に白色のものは元気なようです。ビオトープ野草園でも、生き残ってくれるかも知れません。




3月1日 続・最初に咲く花

2月の後半は、暖かな日が続いたので、色々な花が咲き始めて、少しばかりうれしい悲鳴です。でも、一気に紹介してしまうと、どこかでスタミナ切れになりそうなので、今回は園芸品を試験的に導入した最初に咲く花の有力候補を紹介しておきます。フクジュソウとセツブンソウです。
以前にも書いたように、この二つは「春の妖精達」の中でもトップグループに咲く花で、共にキンポウゲ科の花です。

フクジュソウ

キンポウゲ科の花は、もっとも原始的な花といわれています。原始的というと、なんとなく劣った花というイメージを受けるのですが、これはあくまでも進化の系統から観た話です。種子植物では、進化するにつれて萼や花弁が分化して、数を減らし、雄しべや雌しべも整理されて、数を減らします。キンポウゲ科では、萼と花弁が分化していないものが多く、「花弁に見えるのは萼」などと解説されているものが多いのはご存じだと思います。雄しべや雌しべも数が多く、多くは数が一定していません。しかし、私の好みからいうと、豪華で花らしい花がキンポウゲ科だということになります。
さて、フクジュソウは外側に緑紫褐色をした数枚の萼があり、その内側に黄色の花弁20〜30枚があると書かれているので、萼と花弁は分化しているようです。雄しべと雌しべはまさに多数です。まだ雪が降りそうな早春にいち早く咲き、テカリのある鮮やかな黄色が鮮烈です。
先週、Hさんの庭から10株ほど貰い受けて、移植したのですが、予定していた場所が午後2時頃には日陰になっているので、いささか迷いました。理想をいえば、南向きの斜面で風があまり当たらない場所、夏場には木陰が出来る場所ということになりますが、野草園の予定場所は、多くは北向き斜面で、何よりも湿地が多いので、この時期でも凍結しやすくなります。いささか弱気になって、3カ所ほどに分散して植え付けました。来年が楽しみでもあり、不安でもあります。


ビオトープ付近の庭先では、今年も満開になっています。

セツブンソウ

セツブンソウの白い花弁のように見える5枚は萼片です。萼の内側にある黄色い棒状のものが花弁で、蜜を出すようになっています(蜜弁)。雄しべは多数、雌しべは2〜5個です。蜜弁は珍しいように思われるかも知れませんが、キンポウゲ科では比較的よく見られます。
石灰岩地帯の伊吹山や北鈴鹿では、か弱そうな姿に似合わず、あちこちに大群落を作っていますが、酸性土壌の花崗岩地帯ではどうでしょうか? 時が経つにつれて衰退することが心配です。


今年購入した株。山小屋では、この一週間がピークでした。

3月の後半に、ホタルの幼虫の放流を、今年も予定しています。現在、放流用の水路はガマが生い茂っていて、流れを阻害しています。植物の担当になったので、体調不良のたか爺に代わって、我々が伐採を行うことになりました。中学生になって、忙しくなり、近頃あまり逢っていなかったYちゃんも現れ、作業はスムーズに終わりました。
暇つぶしにYちゃんが見つけてくれたイモリとヤゴ(トンボの幼虫)。我々の節穴では、これまで見つけられなかった動物です。

  
水中の姿を撮影したのですが、どうも不明瞭なので、しばらく石の上で休憩して貰いました。(笑)


2月20日 最初に咲く花

2月の中旬になって、やっと花が咲き始めました。本当はハンノキのような地味な風媒花の仲間は、1月にも咲いていますが、ビオトープには見あたらないということでパスしました。また日だまりでは、オオイヌノフグリやヒメオドリコソウなども、少しは咲いていたのですが、多くは帰化植物なので、最初の花として取り上げるのは止めました。在来種で花らしい花、つまり虫媒花ということになると、東濃で最初に咲く花は、野草ではセリバオウレン、樹木ではマンサクということになると思います。

セリバオウレン

セリバオウレンは、早春に白い可憐な花をつけるキンポウゲ科の植物です。愛用の図鑑では、「山の木陰に生える小さな多年草」と書かれており、私自身も、明るい場所を好むとは思っていないのですが、裏山を伐採して明るくした結果、進出した、あるいは増えたという印象を受けています。去年は、3月寸前に咲き始めたので、今年もいつ咲くのかと楽しみにしていたのです。
裏山では、今年もまだ咲いていませんが、近くの用水路沿いの暗いヒノキの樹林下で、先週咲いているのを見つけました。暗いということは、一般的には寒いということになるので、不思議な感じもするのですが、風当たりなどの関係で、こちらの方が暖かなのでしょう。
花というと、雄しべと雌しべがひとつの花に揃っている両性花を思い浮かべがちですが、雄花と雌花を別々に咲かせる花も数多くあります。さて、セリバオウレンはというと、雄花と両性花を咲かせると書いている図鑑もあるのですが、どうやら雌花もあるようで、雄花と雌花と両性花を咲かせるというのが、正しいようです。
今回、探してみたのですが、雄花しか見あたりませんでした。もともと雄花が一番多いし、雄花が先行する傾向が一般的なので、咲き始めたばかりでは、当然のことでしょう。去年、裏山で雌花と両性花も見つけることが出来たので、参考までに、それもアップしておきます。
オウレンは黄連と書き、漢方の胃腸薬の代表格です。
キンポウゲ科の花は、花弁に見えるのは萼であると書かれているのが普通ですが、セリバオウレンの場合は、5〜6枚の先が尖った大きなものが萼、小型で先が丸く、数が多いのが花弁ということになります。


咲き始めた雄花。
  
雌花と両性花。(2009.03.01)

マンサク

早春、山で一番早く花をつけ、春の訪れを告げる花として親しまれている樹木です。名前の由来は、「黄色い花をいっぱいつけるので、豊年満作から来た」とする説と、「まず咲く」が訛ったとする説があります。
花の形は特徴的で、黄色く細長い花弁が4枚、雄しべ4個で、雌しべは1個。花柱は2つに分かれ、萼は4裂します。


ビオトープには、今のところマンサクはありませんが、市内の少し標高の低い場所では咲き始めました。
  
今年も豊年満作? 小さな花ですが、観察すると面白い形をしています。