ビオトープの生命2010(4)
5月29日 一日花
ビオトープ名物のアサザが下の池で満開になってきました。 アサザは池や沼などに生える多年草の水草です。水底の泥の中を地下茎が横に伸びて広がります。 そこから水中を伸び上がった茎に、長い柄を持った葉がついて水面に浮きます。 花は長さ3〜10cmの花茎によって空中で開きます。 鮮やかな黄色で縁は房のように細かく裂けて印象的です。 地下茎で広がるので、繁殖は早いのですが、構造的に浅い場所でしか繁殖できません。 浅いところに咲くので、アサザというわけです。 そんなところからも、ビオトープに適した水草になっています。
池面を埋め尽くすアサザ。
こんなにいっぱい咲いているのに、アサザの花は一日花だというから驚きです。 大群落を作ることで有名なニッコウキスゲも一日花ですから、1シーズンに咲く一日花の数はどれくらいになるのでしょう? これだけの数の花が、僅か一日分というのは、俄には信じがたいので、念のために確かめてみました。
左は、午前中の花です。 強烈な黄色が輝いて見えます。 右は午後3時過ぎのアサザです。 残っている花もずいぶん白くなって、色あせていますが、よく観ると白くなって閉じ、葉の上に倒れているものがあります。 さらに観ると、水中で溺れている花もあります。 そして水面から顔を出してきているのは、明日咲く花の蕾です。 時として、アサザの花を半日花と書いてある記事もあるのですが、これを観れば納得せざるを得ません。
このシリーズは、ビオトープの野草園づくりを始めたので、この際、ある花をすべてチェックしておこうという目的で始めたのですが、同時に、この際、勉強やら確認やらもしておきたいということで、自分に対するノルマの意味もあります。 花の少ない時期は、花探しに苦労していたのですが、いざ花が増えてくると、今度は選んで、ネタを探すのに四苦八苦です。 地味なのに、疲れることを始めてしまったものです。(笑)
5月22日 ヒメハギの花
ヒメハギは明るい草原に生える小さなヒメハギ科の多年草です。 ちょっと見には小さなハギのようにも見えるのでこの名がついたのですが、よく観ると不思議な形をしています。
淡紫色で花弁のように見えるのは、例によって萼です。萼片は5枚あり、左右の2片は特に大きくなっています。 まず最初に不思議に思ったのは、雄しべと雌しべがどこにあるのだろうということでした。 前に突き出しているビラビラは、色や形から見てシベではないように思われるのですが、どこにもシベが見あたりません。
図鑑を調べると、本当の花弁は3個あるが、合成して筒となり、下の弁の先は細かく裂けて房のようになるとあります。 やはりビラビラは付属体と呼ばれるもののようです。 判ったような、判らないような・・・。
どうやら、花弁の筒を開いてみるしかなさそうです。 針の先で押し開けようとしている内に、ポロリと花が取れてしまいました。 まあ、その方が好都合でしょう。 花弁の先を針でこじ開けて、地面に置いて撮影です。
中から出てきた黄色いものが、雄しべと雌しべのようです。 どうやら、こういう仕組みみたいです。 昆虫が飛んできて、付属体の上に留まります。すると重みで下の花弁が少し下がります。 蜜を吸おうと昆虫が頭を突っ込んで、上の花弁を持ち上げます。 これで雄しべの花粉がしっかりと昆虫の身体につくということみたいです。 自家受粉を避けるために、最初の頃は雌しべが下がっているのだと思いますが、小さすぎてよく判りません。 まあ、そういうことで・・・。
ツバメの子育て
ツバメは3月頃に渡来する、日本人にもっとも馴染みのある夏鳥でしょう。 この付近ならば、どこでも巣が観られるだろうから、子育てを撮影するのも楽だろうと思っていたのですが、結構探すのに苦労してしまいました。
知り合いの老人なんかに尋ねてみると、蛇が多いので、卵を食べられて可哀相だとか、糞で壁や床が汚れるといった理由で、巣を作らせない家が増えているようです。 それでもなんとか巣を作る家を見つけて、意気込んでいたのですが、しょっちゅうお邪魔するのも気が引けるし、暗い場所が多くて、せっかく撮影してもブレブレの画像になってしまうケースばかりです。 困っていたら、道の駅にたくさん巣を作っているのを見つけました。 コンビニとか道の駅というのは、狙い目です。
ちょうど孵化したばかり。 今が狙い目です。 うれしくて笑っているように見えますね。
5月16日 ズミの季節
桜の季節が終わると、ズミの季節がやってきます。 ズミは日当たりのよい山野に自生し、亜高山から平地まで広く分布する桜に似た花です。
ズミの名は染料に使われたので、染みが転訛したとも、実が酸っぱいので酸味が転訛したとも言われます。 地方によって呼ばれ方も色々で、コナシ・コリンゴ・ミツバカイドウなどの別名が有名です。 有名な上高地の小梨平はズミが多いことから名付けられた地名です。
ズミはバラ科のリンゴ属に分類され、リンゴとは近縁です。 しかし我々が食べているリンゴは西洋リンゴなので、ズミを改良したものというわけではありません。しかし接ぎ木の台木としては使われることもあります。
ついでながら、果実のナシはヤマナシという自生種を改良して創り出したものです。 ナシは同じバラ科でもナシ属に分類され、花もリンゴとは印象を異にします。 比較のために、ズミとヤマナシの花を並べておきます。 果樹のリンゴとナシの花も、印象はよく似ています。
ズミとヤマナシの花。
ズミは10月頃に可愛いきれいな実をつけます。 この付近のものは黄色い実をつけるキミズミと呼ばれるものです。 我々の印象としては、気候の寒冷な高地のズミは赤い実をつけ、低地のズミは黄色い実をつける傾向が強いように思われます。
この付近のキミズミの実。 入笠山の真っ赤なズミの実。
5月8日 アヤメの雄しべと雌しべ
たか爺の庭でアヤメが咲き始め、休耕田でカキツバタが咲き始めました。あと一ヶ月ほどすると、湿地でノハナショウブが咲き乱れる姿が見られるはずです。 いよいよアヤメ科の花の季節到来です。 アヤメ・カキツバタ・ノハナショウブなどの進化したアヤメ科の花は、非常にユニークな構造をしていて、調べてみると面白い花です。
ところで、アヤメの雄しべと雌しべは何処にあるのでしょうか? まず全体の花を観察してみましょう。
垂れ下がっている豪華な3枚の花弁は、外側の花弁で外花被片と呼ばれます。アヤメの場合はここに網目模様が刻まれており、これがアヤメの名前の由来です。カキツバタは白い筋、ノハナショウブは黄色の筋で、これは昆虫を誘導する蜜標になっています。
花の中央付近に3枚の花弁が直立しており、これが内側の花弁(内花被片)です。
さて、よく観ると、外花被片に3枚の花弁のようなものが被さっています。これを持ち上げてみると、1本の雄しべが隠れています。
では雌しべは何処にあるのでしょう。 実は持ち上げた花弁のようなものが、雌しべの花柱そのものなのです。そして花粉のつく柱頭は先端の弁状の部分にあります。 右側の写真で、それがご覧戴けると思います。 雨が多い時期に咲く花なので、大事な花粉が雨で流されないように、雌しべは傘の役割も果たしているのでしょう。
以上は、かつてNHKで放映した「趣味悠々・草花ウオッチング」からの受け売りです。 なかなか面白いので、テキストの一読をお奨めしたいところですが、2003年に放映されたシリーズなので、手に入るかどうか・・・。
5月2日 桜の季節
今年は桜の開花は早いけれど、満開になるのは遅いという現象が話題になりました。ここでいう「桜の開花」とか「桜前線」という言葉は、現在ではソメイヨシノを基準にしています。 桜王国である我が国では、「花見」といえば、それは桜の花見を指し、現在では、ソメイヨシノの花見を指すと言っても過言ではないでしょう。しかしそれは明治以降の話なのです。
ソメイヨシノはエドヒガン(あるいはその品種)とオオシマザクラの雑種である園芸品種で、江戸時代の中期〜末期に江戸で生まれたものです。エドヒガンから葉が開く前に花が咲くという性質を受け継ぎ、オオシマザクラから大きくて整った花の形を引き継ぎました。満開の時期にも葉が出ていないので、派手で見栄えがすることが人気を呼び、桜の代表選手になったのです。
しかし、ソメイヨシノ同士の交配を嫌い、ソメイヨシノ自身の子孫を残すことは出来ません。従って、もっぱら接ぎ木とか挿し木といった園芸的手法によって増やされてきました。つまり現在全国に存在する無数のソメイヨシノは、たった1本の樹から生まれたクローンであるということになります。それ故、同じ場所では一気に咲いて、一気に散るという芸当も成り立っているのです。
ヤマザクラ
ヤマザクラは、北海道などの寒冷地を除く山地に自生する野生桜の代表です。寒冷地では、これに代わって、花も葉も大きく、赤味の強いオオヤマザクラが自生します。
桜は古くから日本人に愛され、園芸品種も色々生み出されていましたが、やはりもっとも一般的で広く愛されたのは、この桜だったと思われます。ちなみに、有名な吉野山や京都嵐山の桜のほとんどはヤマザクラです。
ヤマザクラは、花とほぼ同時に葉を開きます。葉はいくらか赤みがかったものが多いようです。個人的な好みからいえば、私はヤマザクラの系統の風情が好もしく感じられます。果実(さくらんぼ)は5〜6月頃に黒紫色に熟します。食用には向かないようです。
ビオトープには2本のヤマザクラの巨木があります。今年は少し花の付きが悪いようでした。
花と葉を、ほぼ同時に開きます。 萼筒や軸に毛がないことが、カスミザクラなどとの見分けのひとつの要素になります。
ウワミズザクラ
バラ科サクラ属の中で、一風変わった存在がイヌザクラの系統です。「イヌ」というのは、一般的に、「役に立たない」といった軽蔑の意味を込めた呼び名になっています。たぶん桜の中で見栄えがしないという意味が込められての命名でしょう。
この地域で、一般的なイヌザクラの仲間がウワミズザクラです。花の房は、まるで試験管を洗うブラシのようです。ひとつひとつの花も、桜というよりは、同じバラ科でもナナカマドなどに似ています。しかし、役に立たないということはなく、腹痛の薬になるそうです。
この桜は、他の桜に比べて、開花時期がやや遅れます。今年もこの桜が咲いたので、この地域の桜の季節は、そろそろ終わりになりそうです。
独特の形をした花をつけるウワミズザクラ。
桜とは思われない形をした花の房。 花弁が小さく、雄しべがはみ出すので、桜とは違った印象を与えます。
4月24日 装飾花
春まだ浅い山を歩くと、横に長く伸びた枝に白い花を広げるムシカリの姿は、目に焼き付く美しさです。この樹の葉は虫が好んで食べるようで、そこからこの名がついたといわれています。別名のオオカメノキも、葉の形が亀の甲羅に似ているところから命名されたようです。花も実も美しいのに、葉が名前の由来になっているのも不思議です。
ムシカリはスイカズラ科の樹で、他にもカンボクやヤブデマリなどの一見よく似た花があるし、ユキノシタ科のヤマアジサイなども花の形が似ているので、注目が葉に集まったのでしょうか。
これらの花は遠目にはひとつの花に見える散房花序が、実はたくさんの花の集まりになっています。外周を取り巻く目立つ花のように見えるものは装飾花と呼ばれるもので、本物の両性花は中央に集まった部分です。その様子は小サイズの写真でもお判りいただけると思います。
装飾花は、昆虫に目立つように作られた偽の花=客寄せの看板ということになります。ひとつひとつの花を大きくするよりも、全体で大きな花に見せた方が、全体としてはエネルギーの節約になるという、植物の知恵だと解釈されています。
外見は似ているムシカリとヤマアジサイは、合弁花のスイカズラ科と離弁花のユキノシタ科なので、近縁関係にはありません。全くの他人の空似ということになります。装飾花もスイカズラ科は花弁が変化したもの、ユキノシタ科は萼が変化したものです。ということで、ムシカリの装飾花を拡大してみると、たしかに蕊が退化した痕跡らしきものが見えます。(ここに注目して撮影していなかったので、不鮮明になって申し訳ありません。)
大空にいっぱい掌を拡げて咲き誇るムシカリ。
本物の花は中央に集まり、周りで目立つのは飾りの花。 装飾花を覗き込むと、雄しべと雌しべの退化したらしき痕跡が。
道しるべ
雑木林の付近の道路を歩いていると、歩く先へ先へと飛んで、まるで道案内をしているような美しい光沢のある虫がいます。ミチシルベとも呼ばれるこの甲虫はハンミョウ科のハンミョウで、仲間にはニワハンミョウ・ヒメハンミョウなどがいますが、いずれも少し小型で地味になります。
美しい色彩に似合わず、ハンミョウは獰猛な肉食で、突き出した下唇がそれを物語っているようです。ビオトープにはハンミョウが多く、4〜9月頃にはよく姿を見かけます。やっと暖かくなって、ハンミョウが動き回る季節がやってきたようです。