ビオトープの生命2010(5)
7月17日 夜に咲く
花といえば、一般的には昼間開いて、夜は閉じるものと相場が決まっています。 しかし、夜に咲く花もそれなりに多いものです。 たとえばサボテンの仲間の「月下美人」、江戸時代に渡来した「月見草」などは、花に興味のない人にも知られています。
花は子孫を残すためには、花粉を運んでもらわなければなりません。 多くの場合は、この役目は昆虫に依存しています。 夜中に活動する昆虫も少なくないので、夜中に咲く花があってもおかしくないのです。 しかし、昆虫は気温が低いと活動が鈍くなるので、熱帯地方の植物や暑い季節に、夜に咲く花が多くなるのは当然のことでしょう。
我が国の在来の植物でも、夜中に花を咲かせる植物がありますが、やはり暑い夏の時期に咲くものが多いようです。 梅雨明けして、本格的な夏が訪れた今回、夜に咲く代表的な花が咲き誇っていました。
ユウスゲ
このところ、ユリ科の花が続きましたが、これもユリ科の花で、ニッコウキスゲやノカンゾウに近い仲間です。 花はニッコウキスゲとよく似ており、これも一日花、いや一夜花です。 ニッコウキスゲやカンゾウの仲間には、花の根元付近にアブラムシのような虫が群れていることが多いのですが、この花も例外ではありません。
今年も溜め池の堤防にユウスゲが咲き乱れる季節になりました。
花は典型的なユリ科の特徴を持っています。
この花は日没が近づくと咲き始め、翌日、日が昇ると閉じてしまいます。 日没前といっても、午後3時を過ぎると、徐々に咲き始めるようです。 1枚目と2枚目は、17日の午後6時頃の様子です。 3枚目は18日の正午過ぎの様子です。 敢えて小さくしておきましたが、アブラムシが群れている様子が判ります。
カラスウリ
カラスウリはウリ科のツル性の多年草です。 ユウスゲはまだ明るい間から咲き始めますが、こちらは日没後に暗くなってからしか咲きません。 近い仲間のキカラスウリは、まれにまだ明るい時間から咲くこともあるのですが、こちらはほぼ暗くならないと咲かず、明るくなる頃には閉じてしまいます。
花の撮影をする人の多くがそうだと思いますが、我々もフラッシュ撮影や人工光の撮影は嫌いです。 そんなことも影響して、わりとありふれているこの花の咲いている姿を見たことがありませんでした。 去年、たか爺の畑のフェンスにいっぱい実が付いているのを見つけて、やっとその存在に気づいたというていたらくです。
雑草が生い茂った畑の草刈りを行っていて、閉じた花の存在に気づきました。 あっ、もう咲いているのだ! これから花も増えてくるはずですが、忘れてしまうといけないので、夜、9時になるのを待って、懐中電灯を片手に畑を訪れてみました。 9時過ぎにならないと完全には開ききらないと、たか爺から聞いていたのです。
花は数え切れないほどの回数を撮影してきたのですが、フラッシュ撮影や懐中電灯を使っての撮影は勝手が違います。 悪戦苦闘の甲斐もなく、不本意な結果に終わりました。
カラスウリは雌雄異株なのですが、その辺りは次回の課題にしておきます。
夜間撮影には、悦ちゃんのカメラの方が強いのですが、ホワイトバランスの設定までには頭が回らなかったようです。
翌朝、早く目が覚めたので、微かな期待を胸に、朝5時半に畑を訪れてみました。 しかし、見事に閉じています。 とはいえ、花の数が増えてくれば、明るくなりかけた頃にも微かな希望は残されているかも知れません。 今年、山小屋で泊まる時には、繰り返しチャレンジしてみたいと思います。
真っ暗闇の中でも、昆虫に目立つようにしなければならないので、夜に咲く花はわりと大きくて、色彩も白や黄色といった明るい色をしたものが多いようです。 カラスウリは、スズメガという大型の蛾が花粉を運ぶようです。 さすがにその撮影は無理だと思われますが、草食系の野生動物は夜行性のものが多いわけですから、フラッシュ撮影は練習しておく必要があると痛感しました。
7月10日 古代から蘇った蓮
一ヶ月ほど前、ビオトープの付近を歩いていると、里の住民のOさんが手招きをしています。 水槽に立派な蓮の株が植えられています。 知人から分けてもらったとのことですが、どういう蓮か知っているか? と訊かれました。 蓮はもともと熱帯産の植物で、作物や観賞用として持ち込まれたものですから、私の守備範囲外の植物です。 首を傾げながら根元を観ると、名札がつけられ、「大賀ハス」と記されています。
頭の片隅で、古い記憶が弾け、古代のハスという言葉が浮かんできました。 全くの見当違いかも知れないので、帰宅後にインターネットで調べてみると、珍しく大正解でした。 まさしく古代から蘇ったハスだったのです。
1949年に千葉市の亜炭の採掘をしていた場所から、丸木舟とともにハスの果託が発掘されました。この場所は「縄文時代の舟だまり」と推定され、落合遺跡と命名されました。 植物学者の大賀一朗博士はボランティアの協力などを受けて発掘調査を行い、三粒のハスの実を発掘し、この発芽・育成を試み、その内の一粒の花を咲かせることに、見事に成功したのです。 これが昭和26年(1951年)のことで、当時は世界中のマスコミに取り上げられ、話題になりました。 数えてみると、当時私は6歳ということになるので、覚えているのが不思議なのですが、それほど話題になったということでしょう。
大賀博士の名をもらったこのハスは、内外の各地に親善のシンボルとして贈られ、根分けをして増やされました。 現在では、一般にも販売されるまでに増えたということのようです。
2000年以上前の遺跡から発掘されたので、在来種と勘違いされそうですが、あくまでもインド原産で、中国経由で渡来したものです。 稲作などと共に持ち込まれ、レンコンが食用にされたと考えるべきでしょう。
ハスの種類について、詳しく調べたことはありませんが、見慣れたハスと特別違った印象も受けません。 綺麗なハスの花です。
前回、訪れた時に咲き始めていたのですが、先に付知川に立ち寄っていたので、到着が10時を過ぎてしまいました。 この時間になると、閉じ始めるのは知っていたのですが、間に合いませんでした。 今回は、逆に9時前に到着して、この花を撮影し、その後に木曽路に向かうという慌ただしいスケジュールが続いています。 左側が本日の9時前の姿、右側が5日の10時過ぎの姿です。
Oさんから、株分けしたら分けてやるという申し出を受けているので、ビオトープの池に古代のハスが咲く姿を見られるのも、それほど遠くないかも知れません。
6月28日 梅雨を彩る端正な美しさ
今年も山小屋の周辺やビオトープの一部でササユリの甘い香りが漂っています。 親父が分譲別荘地を買った頃、まだ我々は野草に大した興味もなかったのですが、それでも日本人の感性に訴える大柄な美しい花を咲かせるササユリは知っていました。 その頃、現在散歩道と称している周辺には、あちこちでササユリが咲いていました。 ところが最近では、これらの場所のササユリはほとんど姿を消し、逆に山小屋の周辺の限られた場所では、逆に増えているのです。 野草に興味を持ち始めた頃からの変化を見ていると、なんとなくその理由には思い当たるところがありました。 我々や住民が時々草刈りをしている場所では、総じて増えている傾向があるのです。
ササユリの衰退の原因は、笹の繁茂などによって、日照が確保できなくなったことではないか? 開発などによって、環境が変わってしまった場所では、生きていけなくなるのが当たり前だとしても、それ以外の場所では、かつて里山で行われていた手入れが行われなくなった結果ではないのか? これが私が想像していたことです。
調べてみると、私の想像はほぼ正解だったようです。 ササユリは立派な球根を作りますが、増えるのは種によるようです。 そして発芽してから5〜6年は、地表に一枚の葉を出すだけで、これで光合成を行って、根に養分を貯え、体力を養うわけです。 だからこの時期に日照を確保できないと、成長できないわけです。 体力を蓄えることが出来ると、やがて我々にお馴染みの複数の葉をつけた茎を伸ばすことが出来るのです。 同じユリ科のカタクリも、花を咲かせるまでには8年ほどかかるわけですが、ササユリもほぼ同等以上の時間を必要とするわけです。
実のところ、ササユリを増やすことを意識していたのではなく、山小屋の隣地が使われていないので、適当に使わせてもらおうということで、問題にならない程度の伐採と草刈りを、好意で(笑)行ってきたのです。 それが偶然、ササユリに幸いしたようです。 ビオトープも同様で、たか爺が時折草刈りをしていた場所ではササユリも進出できた。 でも、手が廻らない場所では笹が進出してしまったということのようです。 ということは、あと7〜8年もすれば、ササユリが咲くというシナリオになりますが、果たしてそれまで我々の体力が保つのでしょうか?(笑) 結果を出せば、後継者も現れるでしょう。
シライトソウの時に触れたユリ科の特徴を仕上げておきましょう。
まず単子葉植物だということです。 葉の形は細長くて、平行脈になるのが一般的です。ササユリは名前の通りに笹に似た葉をつけます。
花弁と萼は似ているので、区別するよりは花被片と呼ぶ方が一般的です。内花被片3枚、外花被片3枚といっても良いし、花被片6枚でも問題ありません。雄しべ6個、雌しべ1個です。
最後に重要な特徴は、子房上位です。雌しべの実になる部分、つまり根元の膨らんだ部分が、花被片の内側、下から見れば花被片の上にあります。
6月10日 昆虫の世界は女性上位?
まだ花の開花はやや遅れ気味のようで、ササユリはまだ咲いていません。 一方で、昆虫たちの動きは活発になってきました。 今週は久しぶりに、ビオトープのシンボルとも言える昆虫を扱ってみましょう。
ゲンジボタル
今年の春は寒かったので、ホタルの飛ぶ時期も遅れるのではないかと心配されたのですが、近所の人によると4日から光り始めました。ほぼ平年並みと言えそうです。 「水と木のフィールド」の先輩たちの予測では、6月の8日から25日までが見頃ということになっています。
この地域のホタルは大型で見栄えのするゲンジボタルで、オスの体長は約15mm、メスは一回り大型で約18mmになります。
光りながら飛び回るのはオスの方で、これはメスへのラブコールです。 メスの方は、気に入ったオスに地上で光って応えます。 数もオスはメスの約10倍だそうですから、完全に女性上位の社会といえそうです。
光る周期はフォッサマグナを挟んで、西日本と東日本では異なるそうです。東日本では4秒間に1回、西日本では2秒間に1回で、西日本型の方がテンポが速くなります。 ここは西日本型の筈ですが、実測したことはありません。
ホタルがよく飛ぶのは、一晩に3回あって、午後8時・0時・午前3時前後といわれていますが、これも実際には確認しておりません。(笑) 一般の人は、8時半から9時半くらいを狙うのが無難です。 午後8時を過ぎると、結構光り始めます。
良いアイデアも浮かばないので、今年も20秒間の光の軌跡で撮影してみました。ただし、真っ暗闇の中では訳の分からない写真になるので、空と民家の明かりを画面に取り入れ、ランタンランプを下に向けて点灯させ、手前の草の存在が判るようにしてみました。
オスとメスの目立った違いは、身体の大きさと発光部分です。 オスは第6腹節と第7腹節が光りますが、メスは第6腹節のみで、先端部は光りません。 自然状態で光っている姿を撮影しても、なかなかうまくいかないので、捕まえて帰って、ワイングラスに容れて撮影です。
ハッチョウトンボ
ゲンジボタルとほぼ時を同じくして、湿原にハッチョウトンボが飛び交い始めました。 ハッチョウトンボを有名にしているのは、「日本一小さなトンボ」という、その小ささです。 体長はオスで20mm、メスは18mm程度で、世界でも最小クラスのトンボです。 名前の由来は、最初に発見された場所が名古屋市の八丁畷だったので、その地名に因んだものです。 子どもの頃に慣れ親しんだ地名なだけに、なんとなくうれしくなります。
生息地は湿地・湿原・休耕田などのミズゴケやモウセンゴケが生育する浅い水域が拡がり、日当たりの良い場所に限られるようです。
最大の特徴は、その小ささだけに、出来ればその小ささを表現したいのですが、大きな花にとまる姿は、なかなかお目にかかれません。 今年は、ハッチョウトンボの小ささが実感できる写真を目標にしてみましょう。
ハッチョウトンボのオスは、目の覚めるような鮮やかな赤色をしています。 これに対して、メスは茶褐色で、黄色や黒の横縞が入ります。 ところが、この時期の湿原には、オスはずいぶんいるのに、またまたメスが見あたりません。 ずいぶん探したのですが、またまた見つからず、やむなく去年の7月の写真をアップしておきます。
てっきり、ゲンジボタル同様にメスはオスに比べて少ないのだろうと解釈していたのですが、調べてみてもそれらしき記載は見あたりません。 メスは成熟しても、草むらに残ると書かれています。 どうも探す場所を間違っていたようです。
メスのいる場所、小ささが判る写真、まだ撮影していない交尾シーン・・・宿題は増えるばかりです。
6月5日 これでもユリの仲間
シライトソウは、山の木陰に生える多年草で、この地域ではわりとよく観られる花です。 しかし、ビオトープの樹林下では、これまであまり見かけませんでした。 背が高くないので、草原では他の草に埋もれて、繁殖できないようです。 樹林下も、これまで笹が繁茂していたので、笹に負けていたのでしょうか?
山小屋周辺では、この程度の群落を2カ所ほど観ることが出来ます。
瓶を洗うブラシのような花の穂をつけていますが、これでもれっきとしたユリ科の花です。 ユリ科の花の共通的な特徴のひとつは、花弁が6枚、雄しべが6個、雌しべが1個なのですが、シライトソウの花弁はもともとは6枚なのですが、下の方の2枚は退化して小さくなり、時には消失していると書かれています。
小さいけれど、奥行きがあるこの手の花は、カメラマン泣かせの典型的な被写体です。 今回も没の写真の山を築いてしまいました。 なんとか、花弁4枚、雄しべ6個、雌しべ1個が判別できることにして下さい。
今回、樹林下を歩いていたら、シライトソウが何カ所かで咲いていました。 これまでも咲いていたのに気づかなかったのかも知れませんが、やはり笹を刈った成果だと本人は信じています。 来年はもっと増えることを信じて、今年も笹刈りを継続です。
柿の花
果物の柿は、山地に自生するヤマガキを改良して作り上げたもののようですが、我々はヤマガキそのものにも馴染みがないので、柿の花を観たことがありませんでした。 先日、何気なく柿の木を見ていて、花らしきものが咲いていることに気づきました。 見つけてしまえば、これならばこれまでにも何度か観ているというものだったのですが、雄花と雌花があるらしいということなので、今回、ビオトープで探してみました。
ビオトープは、もともと田圃だった場所なので、柿の木はいっぱい植えられています。 樹林下は日照も悪く、温度も低めなので、まだ花は見あたりません。 日照の良い、里の方ではいっぱい咲いています。
まず見つけた花は雌花のようです。 続いて雄花を探したのですが、どうもそれらしきものが見あたりません。 いささかムキになって、他の樹も探してみたのですが、やはり見つかりません。 どこかで思い違いをしていたのでしょうか?
帰宅後に色々調べてみると、富有には雌花しか咲かないことが判りました。 といっても他の柿の花粉を受粉しないと実が出来ないようなので、富有以外の柿の花粉をもらっているのでしょう。 いわゆる渋柿の花粉でも良いのでしょうか? たぶん、そうなのでしょうね。
人家付近に植えられているので、たぶん甘柿。 岐阜県では富有が多いので、確認したわけではありませんが、まあ間違いないでしょう。というわけで、富有の雌花です。