ビオトープの生命2010(7)

12月20日 美しい木の実:ニシキギ科

秋は美しい木の実がいっぱい観られる季節ですが、今年は夏の猛暑が影響したのか、総じて木の実のつきが悪いようです。 野鳥たちも必死で取り合いを演じたようで、こちらが撮影するまで待ってくれません。 そんな中で、ツルウメモドキはたわわに実をつけてくれました。
ツルウメモドキはニシキギ科の落葉ツル性の樹木です。 実は美しいので、生け花などにも人気があります。
ニシキギ科の植物は、ほとんどのものが個性的で美しい実をつけます。 それに反して、花の方は小さくて地味なものが多いようです。


たわわに実をつけたツルウメモドキ。

果実はさく果と呼ばれる皮が乾燥したタイプです。 秋に黄色く熟すと3つに裂け、中から黄赤色の仮種皮に包まれた種子が現れます。美しいのは仮種皮の色ということになります。
花は5〜6月に、黄緑色の小さな花を10数個咲かせます。雌雄異株、つまり雄の木と雌の木があります。

  
ツルウメモドキの果実と花(雌花)。

ニシキギ科の代表的な実を紹介しておきましょう。
まずはマユミです。 これも花は雌雄異株。 種子が仮種皮に包まれていることも同じです。 
ツリバナの仲間は、雌雄の別はないようです。 種子はやはり仮種皮に包まれます。
どれも山地に自生する木ですが、実が美しいので、観賞用に庭木としてよく植えられます。

  
マユミの実とツリバナの実。


12月14日 クマ棚

今年は山にドングリの実が少ないので、里にクマが多く出没するというニュースを聞かされていました。 ここでいうクマとは本州に棲息するツキノワグマということになります。 絶滅が危惧されているホッキョクグマはアザラシを補食し、北海道に棲息するヒグマはサケを補食することで有名です。 これらの大型のクマは肉食傾向が強い雑食ですが、中緯度アジアに棲息するツキノワグマは植物食傾向の強い雑食です。 比較的寒い地域に棲むものは冬ごもりをすることでも知られています。 秋には冬眠に備えて栄養をたっぷり蓄えておかなければなりませんが、その主要な栄養源が、ドングリ・クリ・アケビ・ヤマブドウなどです。
かねてから不思議で仕方なかったのですが、クマの仲間は冬眠中に出産するものが多いのです。ツキノワグマも1〜2月に出産するようです。栄養補給も出来ず、自分の体力維持をするだけでも大変なこの時期に、もっとも体力を消耗する生命の営みをする必要が理解できません。子どもが外敵から狙われやすいことは理解できても、現在の日本の生態系からいうと、クマは別格の強さを誇っているように思われます。それで調べてみると、冬眠中の母体の栄養状態が悪いと着床せずに流産するようなシステムになっているということでした。生存競争を生き抜くということは、強者にとっても大変なことだと実感させられます。
ドングリの仲間は、子孫を残すために、ノネズミなどに実を運んで埋めてもらう必要があるのですが、あまりにノネズミの数が増えすぎてしまうと、実を食べ尽くされてしまいます。そこで周期的に不作の年を作り、ノネズミの数を調整しているといわれます。 今年山にドングリの実が少ないのは、記録的な猛暑の影響なのか、不作のサイクルのせいなのかは知りませんが、ドングリの実が少ないのは事実です。
そのせいか、我が山里の我が散歩道でも、クマが現れて、クリの実を食べていったという話を聞いたのは、一ヶ月以上前のことでした。 その内に観てみようと思いつつ、なんとなくそのままになっていたのですが、先日、クマ棚が出来ているのですぐに分かるという話を聞きました。 被写体に事欠く冬の一日、思い出して探してみました。
梢に注意しながら、いつも歩くよりも少し先に行くと、ありました!


まるで座布団のように敷かれた枝。 手前の枝も折られています。
  
地面には、折られた枝も散乱しています。

ツキノワグマは樹上に登り、枝をたぐり寄せて食べるので、折れた枝の塊が座布団のように棚状になります。これをクマ棚と呼んでいるそうです。こうやって観ると、クマのパワーの凄さを実感します。

山にドングリの実が少なかったというのは、里にクマが出没する要因のひとつでしょうが、近年、クマやイノシシが人間の生活ゾーンに出てくる傾向が強まっているのも事実です。
これには色々な要因が考えられています。 農村が衰退して、老齢化したために、人々が里山に入り込まなくなり、里山が荒れてしまった。その結果、里山がクマの棲息に適した条件になってきた。 かつては人間と野生のバッファーゾーンであった里山が衰退し、クッションがなくなってしまった。 野生動物にとっても、人間にとっても、かつてはお互いが恐ろしい存在であったのが、出逢う機会が減って、野生動物が人間を懼れなくなった。 野生動物が、人間社会のおいしい味を覚えてしまった。等々です。 またナラ枯れ病の流行などの要因を指摘する人もいます。
自然との共生という言葉は、甘くて魅力的ですが、実際には複雑で困難なジグソーパズルのようです。 不都合なものは取り除けばいいという、思い上がった発想で人間は繁栄してきました。 しかし、そのツケを払わなければならない段階に遂に到達してしまいました。 クマと人間は、どのように折り合いをつけ、どのように共生していけるのでしょうか?


11月27日 春と秋に咲く桜

ビオトープの四季桜が満開になりました。 四季桜は桜の園芸品種で、4月上旬頃と10月末頃の年2回開花することで有名です。 タイミングがよければ、桜と紅葉を同時に楽しめるということで、四季桜を植えて、観光資源にしているところもあります。



四季桜はエドヒガンとマメザクラの交雑種と考えられています。 実は年に2回咲く桜に十月桜というのがあります。 こちらを図鑑で調べると、コヒガンザクラの園芸品種と書かれています。
コヒガンザクラもエドヒガンとマメザクラの雑種と考えられており、長野県の高遠桜が有名です。ただしこちらは春にしか咲きません。 素直に考えれば、コヒガンザクラの園芸改良の段階で、二度咲きの品種が出現し、これが四季桜になったのでしょうか。 四季桜は一重咲きですが、十月桜は八重咲きです。 四季桜から生じた八重咲き品が十月桜になった。こう考えれば非常にすっきりするのですが、そういう書き方をしたものには、まだお目にかかっていません。

  
四季桜と十月桜。


11月11日 奇妙な木

落葉樹にとって、紅葉というのは光合成によって蓄えた養分を回収し、これから休眠に入るということなので、この時期を選んで花を咲かせる落葉樹はほとんどありません。 ところが、このマルバノキは違います。 紅葉する樹木の中でも、トップグループで紅葉し、落葉し始める頃に花を咲かせ始めるのです。 落葉しきってから花を咲かせるものもありますが、紅葉と花を同時に見ることも珍しくありません。


美しい紅葉を残したまま、花を咲かせ始めたマルバノキ。
  
マルバノキの紅葉と花。

マルバノキはマンサク科マルバノキ属の落葉低木で、山地の谷間などに生え、高さは2〜4mになります。 ベニマンサクの別名もあり、マンサクの花と似ているといえばいえます。
10〜11月に、葉の脇の短い柄の先に暗紅紫色の小さな花を2個背中合わせに咲かせます。 花の形もユニークですが、背中合わせに2個ワンセットというのも、ほとんど例がないと思います。
花を咲かせて実を結ぶというのは、植物にとっては大きなエネルギーの消費だと思われます。 たしかにこの時期は、夏の間の貯金によって、エネルギーが蓄積されている時期だと思いますが、冬を無事に乗り切るためには、なるべくジッとしているのが得策だと思われるのに、敢えてこの時期に繁殖活動を行う事情はなんなのでしょうか? 昔、江戸っ子は宵越しの金を持たねえと粋がっていたそうですが、花の世界の江戸っ子がマルバノキでしょうか。 それにしては、地味好みのような・・・。(笑)
温暖な地域の常緑樹の中には、冬場に咲く花もありますが、落葉樹林帯では、おそらく1年で最後に咲く花、渋くて綺麗な紅葉と一緒に観られる貴重な花です。


11月4日 野菊の季節

花の季節の最後を飾って、ビオトープ周辺でもノコンギクやユウガギクが野辺を彩っています。 野菊とかスミレというのは、このコーナーで扱うのには膨大すぎるテーマなのですが、このあたりでよく見かけて見栄えのするノコンギクとユウガギクに的を絞って、ざっと見てみましょう。


畦を埋めるノコンギク。

キク科は双子葉合弁花類に属する、もっとも進化し、もっとも分化している植物といわれています。 世界中で約2万種、日本でも約360種が認められています。
キク科の花は、筒状花と舌状花と呼ばれる小さな花が集まり、それがひとつの花に見える(頭状花序)というのが特徴です。 タンポポなどは舌状花だけで構成されていますし、アザミは筒状花だけで構成されていますが、一般に我々がイメージする菊は中央部に筒状花が集まり、周囲を舌状花が取り囲んでいるものです。
野菊というのは、野生の菊という漠然とした概念で、厳密な定義はないと思われますが、誰もが思い浮かべるのは、リュウノウギクなどのキク属の一部と、ノコンギクやヨメナに代表されるシオン属の花です。
リュウノウギクは、花の形も葉の形も、いわゆる菊のイメージに近く、見分けも簡単だと思われるので、ここでは除外します。
面倒なのは膨大なシオン属の群れです。 シオン属については、ノコンギク・シロヨメナ・ゴマナ・サワシロギクなどをシオン属とし、ヨメナ・ユウガギクなどはヨメナ属という別グループにする見解もあります。 実は、私の愛用している野草図鑑は古いせいか、そちらの見解を採用しています。 しかしインターネットなどで調べてみると、両者をシオン属にまとめる見解の方が、現在では主流になっているようです。
今回取り上げたノコンギクとユウガギクは、旧ヨメナ属(?)をある程度意識して選んだものでもあるのです。

  
(左)ノコンギク。(右)ユウガギク。 花の付き方。

花の数は、栄養状態などにも大きく左右されるので、ノコンギクはどれでも写真のようにいっぱい花をつけるとは限りませんが、頭状花序が密集して重なり合うように咲きます。 花の付き方をよく観ると、茎から分かれた枝が、途中でさらに枝分かれし、その先に頭花をつけているのが解ります。 これに対して、ユウガギクでは、茎から分かれた枝は枝分かれせず、たったひとつの頭花をつけるだけです。 外観上、ヨメナではもっと密集した感じになりますが、基本的な構造はユウガギクと同じになります。
葉もノコンギクは両面に短毛があってザラザラしますが、ユウガギクは薄くてツルツルしています。

  
(左)ノコンギク。(右)ユウガギク。 冠毛の様子。

小花のひとつひとつの根元には、冠毛がついていますが、ノコンギクではこの冠毛は長くて目立ちます。 これに対して、ユウガギクやヨメナでは冠毛は非常に短くて、肉眼ではほとんど見えません。 図鑑では、頭花を割ってみれば確認できると書いてありますが、花の盛りを過ぎた頃に観察すれば、外からでもよく判ります。

ノコンギクやユウガギクは、今でもあちこちで群生を観ることが出来ます。 非常にありふれた花であるが故に、あまり注目を集めない存在のようです。 絶滅危惧種に指定されると、途端に価値が上がって「貴重な花」になってしまうという関心の持ち方にはウンザリさせられます。 本当に大事なものは、ありふれたものであるはずです。 かつて農村では、秋の風景の背景を、いつも野菊が埋めていたように思われます。 日本人の感性を形作った重要な要素の一つに野菊があったように思われます。 いつまでもありふれた花であり続けて欲しいものです。


10月23日 年に二度咲く花:センボンヤリ

色が地味なので、見落としてしまいそうですが、ビオトープ周辺でセンボンヤリの秋の花が咲いています。 これが花かと疑われそうですが、センボンヤリの花は年に二度咲き、こちらは秋型の閉鎖花です。
閉鎖花というのは、ちゃんと内部に雄しべと雌しべがあり、自家受粉する花です。 それほど珍しい存在でもなく、スミレの仲間はほとんどが春に通常の花を咲かせますが、それ以外の季節にも盛んに閉鎖花をつけて実を作っています。 またミゾソバというタデは流れの激しい沢や湿原では、地中に枝を伸ばして、先端に閉鎖花をつけるそうです。 キッコウハグマという小さなキク科の花は、秋に通常の花と閉鎖花の両方をつけます。どうも、その年の気象条件などにも左右されるようで、今年はまだ野草園のキッコウハグマの通常の花を見ておりません。
自家受粉するということは、親と子の遺伝子がまったく同じになるはずなので、これは無性生殖であるということになりそうです。


センボンヤリの秋の花。 筒状花ばかりの閉鎖花です。(2010.10.23)

迂闊にも、私はこの閉鎖花が立ち並ぶ姿を千本槍に見立てて、名前がついたと思い込んでいたのですが、どうも大名行列の毛槍に見立てたという説が有力なようです。 ということは、この後に実になって、綿毛をつけた状態が、命名の由来のようです。

  
命名の由来は実の姿。(2009.11.15) 春型の開放花。(2010.04.18)

春型の花は、小さくて地味ですが、中央に筒状花が集まり、外縁を舌状花が囲む、典型的なキク科の花です。 こちらは他花受粉になります。
スミレやセンボンヤリというのは、春には有性生殖を行って、遺伝子の多様性を図り、それ以外は無性生殖で、その場所の環境に適した遺伝子を拡大しているのでしょうか?