ビオトープの生命2011(5)

12月30日 果実と種子:カザグルマ

ビオトープの草刈りをしていると、白いフワフワが逆光に煌めいているのが目に入りました。 カザグルマの実です。 ビオトープでは、数年前には2〜3株のカザグルマがあったのですが、一昨年あたりから1株に減っています。 ごく周辺でも、去年あたりから激減しています。 受精する相手がどこにあったのでしょう? せっかく種が出来たのだから、なんとか増やさなければなりません。


カザグルマの果実。

カザグルマはキンポウゲ科センニンソウ属のつる性の多年草です。 園芸品種のクレマチスは、19世紀に有名なシーボルトたちが、カザグルマをヨーロッパに持っていって、作り上げたものです。 命名の由来は、子供の玩具の風車に似ているからということは言うまでもないでしょう。
地上に現れた最初の花は、このような形をしていたのではないかと、多くの科学者が考えているようです。 キンポウゲ科の花の共通の特徴は、おしべとめしべの数が多数あること、花弁と萼の分化が進んでいないことです。 大抵の文献に「花弁に見えるのは萼である」と記されています。

  
カザグルマの花。

果実というと、フルーツを想像する人が多いと思われますが、生物学的には、被子植物の、その中に種子を含む構造を指します。 だから、フルーツ以外にドングリやイネの実も果実ですし、もちろんカザグルマの実も果実です。 しかし、実用上は、肉厚で汁気の多い果肉に包まれるもの、あるいは食べられるものを果実と呼ぶことが多いので、以後は実という呼び方をしたいと思います。
実の中にある、発芽して植物体になる部分を種子(単純に種でも良い)と呼びます。 これは殆どの人の感覚と同じでしょう。
実は大別して、乾果と液果に分類されます。 前者はドングリやイネなど、後者は果物などということになります。 さらに、色々と分類されて、カザグルマは、乾果のうちの痩果に分類されます。 痩果というのは、果皮と種皮が密着して分かれないもののグループです。
カザグルマの実は、羽毛状の白い毛が付いた痩果ということになります。 センニンソウ属には、ボタンヅル・ハンショウヅルといったツル性の植物が多いのですが、クサボタンのようにつる性ではないものもあります。 しかし大きさの差はあるものの、どれも羽毛状の白い毛に包まれ、似た形の実をつけます。
植物は基本的には移動能力がないので、子孫を残す種子の散布には、様々な工夫を凝らしています。 主には、風・水・海流・動物の力を借りて、種子を運び、勢力範囲を広げています。 綿毛を持った実というと、風に飛ばされて運ばれる姿を想像しますが、タンポポやガマと比べると、ずいぶん頑丈で重そうです。 むしろカエデのようにヒラヒラと舞い落ちるのでしょうか? 調査不足なのか、このあたりについて説明したものに出逢えません。
数年前、カザグルマの実を採取して、そのまま湿地の周辺に蒔いてみたのですが、発芽した様子もありません。 発芽しなかったのか? それとも雨で流されてしまったのか? それすら定かではないので、いい加減なものです。
インターネットなどで調べてみると、カザグルマの種子は、発芽するまでに1年半ほどかかるようです。 花が咲くまでには、最短で2年半、普通は4年半かかります。
多くの植物では、種子の中の植物体は休眠状態にあり、野生種の場合は、発芽せずに残るものもあります。 すべての種子が一斉に発芽してしまうと、全種子が死滅してしまう危険があるので、これを回避していると考えられています。
以前、蒔いた種子が生き残っている可能性も皆無ではありませんが、そろそろ失敗している余裕もなくなってきたので、ちょっぴり種子を観察してみようと思い、カッターナイフで分解してみました。

  
カザグルマの実と種子。

採取した実の塊を分解すると、ひとつひとつの実に分かれます。(左上) 根元に種子が入っていることは間違いないので、これをカッターナイフで削ってみました。 予想通りに、中に種子が入っています。(右上) 普通、種子は種皮に包まれていますが、痩果の定義通りでしょうから、中に見えるのは剥き出しの種子ということになります。 これを取りだして蒔くのが一番確実でしょうが、その作業は気が遠くなるので、根元の部分だけを切り取り、果皮に傷をつけておけば大丈夫でしょう。 蒔く場所に軽く肥料を蒔いて、浅く耕し、種を蒔いたら、薄く表土をかけておくということで、手を打つことにします。 果たして、良い結果が出るでしょうか?

クサボタンなどの実は、カザグルマに比べるとずいぶん小さいので、チャッカマンで綿毛の部分を燃やし。根元だけを集めて蒔くことにします。 果皮も、それほど厚くはなさそうなので、発芽できるのではないかと思うのですが・・・。


12月22日 清流の宝石:カワセミ

カワセミを漢字で書くと「翡翠」ですが、翡翠はヒスイとも読みます。 てっきり、もともとは宝石のヒスイの意味だったと思い込んでいましたが、古来、中国では翡翠はカワセミを指していたと聞いて驚きました。 ヒスイのうち、白地に緑色と緋色が混じる石が、もっとも美しいとして珍重されているそうですが、これは主にミャンマーの方で産出されるものです。 これが入ってくるようになってから、その色をカワセミの羽の色に例えて「翡翠玉」と名付けられたという説が有力だそうです。
ここでまた意外な感じがします。 珍重されるヒスイの色は緑色の筈ですが、カワセミの色のイメージといえば、青だと思うのですが・・・。



調べてみると、カワセミの本来の色は青ではないと、はっきり書かれています。 我々は、太陽光の反射や透過を見て、色を認識しているのだから、見た色が本来じゃないと言われても、納得しかねるのですが、よく読むと、こういうことです。
カワセミの羽には、いわゆる青い色素は含まれていません。 そもそも青い色素というのは、生物界ではごく珍しい物で、一部の植物や藻類しか作れません。 たしかに青い花というのは、極めて珍しいですね。
カワセミの羽に青い色素は含まれないのに、ご覧のように青く見えるのは、羽の構造によって、青い光(波長の短い光)を反射させたり、屈折させたりしているからで、このように、光の波長の特性によって見える色のことを「構造色」といいます。
たとえば、シャボン玉が虹色に輝いて見えたり、CDの記録面が銀色に輝いて見えるのも、これと同じ原理だそうです。
マガモやコガモの頭部が、緑色にも青色にも見えたり、羽毛というのは、魔法のような不思議な魅力を秘めています。 カワセミを「清流の宝石」と呼ぶのも、納得できますね。

ご存じのように、カワセミは肉食です。 小魚や海老や水棲昆虫などが主な食糧ですが、その漁が、とてもユニークで魅力的です。 野鳥の写真を始めた人の多くが、まずカワセミに嵌るというのも、大いに納得できるところですし、私自身も、最初に憧れたのが、カワセミのダイビングやホバリングでした。



最初の写真のように、カワセミは水面が見渡せる場所に陣取って、獲物の動きを観察します。 木の枝でも、ガマの穂でも、あまり選り好みはしないようで、コンクリートの護岸の上でも、橋の欄干でも、どこでも良いようです。 水面からあまり高すぎず、出来れば人間や天敵から、目立たない場所であれば、色んな場所にとまります。
獲物を見つけると、近ければ、そこから獲物を目がけて、一気に水中に飛び込みます。 上の写真は、ガマの穂からダイビングする瞬間です。



獲物との距離が少し離れている場合は、獲物の真上まで、まず飛んでいき、そこで羽ばたきながら空中静止をします。 そして、狙いを定めて、真っ逆さまに飛び込みます。 空中静止を、我々はホバリングと呼んでいます。 ヘリコプター状態ですね。



見事に漁に成功すると、多くは見張り台に戻って食事になるのですが、捕らえた獲物が大きいと、これがまた大騒ぎになります。 鳥は、哺乳類のように歯が発達していません。 噛み砕いて食べるということは出来ないので、そのまま丸飲みにして、胃の中で消化できなかった物は、ペリットとして、後から吐き出すのです。
だから、食べる時は、頭から飲み込むことになります。 そのためには銜え直す必要があります。 獲物が魚の場合は、大きくても、目を白黒させながら、時間をかけて飲み込んでいるようですが、たとえばザリガニを捕まえた場合は、鋏や手足が邪魔になって飲み込めません。 こういう場合は、獲物を銜えたまま、石やコンクリートに叩きつけ、邪魔な部分を取り去って、飲み込むことになります。 こういう場合は、戻る先は、コンクリートの護岸やブロックの上などを選ぶことが多いようです。

曲がりなりにも、当初、目標としたシーンは撮影できたカワセミですが、ビオトープ周辺では、まだお気に入りの漁場すら見つけられない状況です。 ここに掲載した写真は、名古屋や安城で撮影したものばかりです。 ビオトープ方面で、もっと良い写真を撮ること、そして営巣の様子を撮影すること、このあたりをこの冬の目標にしたいと思います。 まだまだカワセミから卒業は出来そうにありません。