ならばその感情をなんと呼ぶ?



<BLOWIN’>
揺れる心



「・・・あの、馬鹿者が・・・っ!」
シェンロンガンダム―――『ナタク』のコックピットの中で、五飛は一人うめいた。
今は憤りがこめられた 強い光を放つ瞳の見つめる先には、公共の電波を拝借して映し出されるブラウン管。
その四角い区切りの中で、OZの兵士に両腕を捕まれぐったりとする『残虐非道なガンダムパイロットの少年』。

紛れもなく、それは先日 共に地球に別れを告げた盟友の一人である。

(何故ここまできて奴らに捕まる・・・俺達はもっと強くなければならないのに!)
故郷は自分達を受け入れてはくれなかった。それは既に知っている。
しかし、宇宙に潜み機会を待てば 必ず好機は訪れる筈なのだ。
(俺達は、正義なのだぞ・・・!)

しかしここでガンダムの情報が漏れては元も子もない。
苛立ちに任せて拳を壁に叩きつける。
ジンジンと鈍い痛みを手が訴えるが、今はそんな事気にならない。
興奮した様子で今までのガンダムの所業、また それを捕えたOZの功績をまくし立てるニュースキャスターの声に再び耳を傾ける。
「・・・なお、この罪深い少年は今後バルジに一度留置された後軍事裁判にかけられる模様です。コレについて、コロニーの人々の見解は〜・・・」
すばやくこのコロニーからバルジまでの距離を調べる。
五飛のいる位置は、ガンダムたちの中で二番目にバルジに近い。

(一番近いのは・・・あの1号機のガンダムか・・・)
ヤツなら必ず、あの捕えられたパイロットの元へ行く。
そして間違いなく彼を殺すだろう。
自分の命を失うことさえ厭わなかった奴だ。
任務のために他のパイロットを殺すことくらい、何の造作もないことであろう。

けれど

(何故俺は、そのことをこんなにも苦く思っているのだ・・・?)

ヘマをしたあのパイロットが悪いのだ。
それは解っている。
頭では理解しているのだが、五飛は胸の奥で何かモヤモヤしたものが浮かんでくるのを止めることができなかった。
「・・・ッ馬鹿馬鹿しい・・・!数度しか会っていないような奴だぞ?・・・弱いものは死ぬしかないのだ」
そう、たった数度。何の義理もない。

それなのに五飛の手は

ガンダムのエンジンを始動させていた。



行き先をナタクにインプットし、後はオートモードに切り替える。
いつ敵が襲撃してきてもいいように、神経だけはレーダーに集中させる。
だが、今ひとつ五飛は、完全に自分の世界に入りきれずにいた。
理由は明白だ。
認めたくはないが、あのパイロットが心配なのだ。
瞑想しようとしても、すこしすればあの男の顔がちらつく。

「・・・何故、こんなに俺が心配せねばならないのだ?」
今日何度目かの『何故』。
そのたびに、自分は正義だから、弱い者を放って置けないのだ、と納得させようとする。
(・・・確かに弱そうな奴だった)
憮然とした表情で思い出す。

三つ編みにしても腰まで届く長過ぎる髪。
ヘラヘラとした態度。
妙に減らず口ばかり叩く喋り。
何を根拠にか、自信たっぷりに笑みを作る顔。

初対面の時も、何を勘違いしてか
明らかに仲間と思われる機体に殴りかかって行っていたし。(その相手だったトロワとかいう男は信用が置けそうな奴だったが)
二度目の再開のときは、他のガンダムと共にOZ相手に 完膚なきまでに叩きのめされていた。(自分が助けに行かなかったら絶対に二人とも殺されていた)

(・・・・・考えてみると・・・奴とはろくな場面に出会ってないのではないか?)

思わず眉間に皺が寄る。
そんな軟弱なガンダムパイロットに対してもだが
そいつが死ぬことを嫌がっている自分に対しても、だ。
保護心でも煽る奴だったか?と自分で思って鼻で笑う。
そんな感情には流されないことを、自分が一番良く知っている。
(1号機のパイロットもそうだろう)
任務のミスの責任の重大さは、きっと奴が身をもって知ってる筈だ。
だから殺される。
2号機のパイロットは
1号機のパイロットによって。

けれど五飛はとりあえず
奴が殺されることを必死に止めようと焦る、自分に気付いていた。



バルジに着くと、既に戦闘が始まっていた。
OZの無線を盗聴すると、あの1号機のパイロットが2号機のパイロットを連れて 目下逃走・戦闘中らしい。
それを聞いて、五飛はすこし驚いた。
どんな心境の変化か。はたまた、もともとあの少年を助け出す、というのが任務だったのか。
しかしどちらにしても、明らかに今はガンダム側のほうが分が悪い。
新型兵器である『モビルドール』がいくつも出撃されており、シャトルをことごとく撃ち落としている。
我知らず、五飛は嘆息する。
「・・・きっと逃げることの用意など考えていなかったのだろうな・・・」
きっと前者だったのだろう。彼を助け出した理由は。
あの1号機のパイロットも彼のことを死なせたくないと思って、急遽作戦を変更させたためこんな事態に陥ったのだと容易に推測できた。
どうやら何度かあの2人は、行動を共にしていたようだったから。

「・・・?」
そう考えた瞬間、胸の奥がチリッとした。
が、今はかまっている暇も余裕もない。
最新のモビルドール、約30機。
相手にとって不足はない。

五飛はレバーを握り締め
「行くぞ、ナタク」
と口の中で呟いた。



彼らを乗せたシャトルは、どうやら無事飛び立ったようだ。
1つ無傷で飛んでいく白い機体を横目で眺め、五飛は眼を細める。
下らないことをした、と思う。
奴らを逃がすというだけのために、妻が命がけで守った『ナタク』を、一部とはいえ自爆させてしまった。
これではきっと、待機していたコロニーまで辿り着くこともできないだろう。

(・・・そういえば、俺はあいつらの名前も知らないのだな・・・)
唐突に気がつき、皮肉に口元が歪む。
大して親しいわけではない。
顔だって見たのはたったの一度。
そんな名前も知らぬ相手のために、こんな事をしている自分。
(1号機のパイロットは知っているのだろうか)
奴の名を。
黒いガンダムを駆る、黒い服のパイロットの名を。
もう一度シャトルが消えた方向に視線を投げかける。
また胸がチリリと痛む。
この気持ちは何なのだろうか?

(・・・もう一度会えばわかるのかも知れんな)
そんな気楽なことを考えている自分に驚く。
『次』ということはおろか、生き残れるのかすらわからないようなこの状況下で。
でも別に、今度は苛立ちも不快もなかった。

あるのは、妙な安堵と
例の正体不明の、胸を焦がす痛み。


「名前はその時に訊けばいい」

満足げに呟かれた言葉は
無音の宇宙に溶けていった。


Fin





■なーんだか1×2←5風味。
おかしいな。私は五受けの筈なのに!(笑)
バジル強襲の時のお話。
突然突っ込んできた五飛の動向を探ってみました(大嘘)
すこし古いヤツなんで読みにくかったらすみませぬ・・!
いい加減Wのも出さなきゃなーとおもって引っ張り出してきました(笑)
かっこいい、超俺様な五飛ちゃんが好きです。
彼も好きすぎて受け攻めどっちでもいい(待ちなさい)
多分次は
五飛×ドロシーを!!(だからなんだってそんなマイナーチョイス!!)