湿った風が雲を呼び、木々が不安げに揺らぎ始めて
蒸し暑い空気を切り裂くかのように、精錬された雨粒たちが落ちてくる。
始めは小さく だんだん大きく。
雫たちは火照ったアスファルトを冷ましてゆく。
人口の土が、ムッと濃い香りをたてる。


「ディアッカ」
名前を呼ばれて振り向く。
イザークがクッションを抱いたままこちらを見ていた。
一見して睨んでいるように見えるのは、長年刻まれた眉間の皺のせいか。
「何?」
振り向いた手前返事をする。
きっとまた可笑しな事を言い出すんだろうな、とは予想しているが。
「雨は嫌いだ」
案の定、いきなり核心をついた話に飛ぶ。
…なんでこんなにこいつは自己完結して話すんだ。もう慣れた事だけど。
「それで?」
まだ何か言い足りなさそうだから促してやる。そうすれば理由を話すから。
「地面はぐちゃぐちゃになるし、湿気の多さのせいで髪は広がる。なにより頭が痛くなる」
憮然とした表情で「そりゃ雨が大切なのはわかるがな」と付け足す。
その仕種があまりに子供じみていて苦笑する。その俺を一睨みしてから、イザークはぽつりと言う。
「・・・でも」
「でもお前は好きなんだな。」

驚く。
自分で雨が好きだなんて考えたことが無かった。
むしろ
「ううん、嫌いだよ」

その答えにイザークは怪訝な顔をする。そして
「いつも降り始めると必ず窓の外を眺めるじゃないか」
と言った。
純粋な疑問の眼差しにもう一度苦笑。
向う脛を思いっきり蹴られたので笑いは引っ込めたが。


いつもプラントは同じ時間に雨が降る。
環境と生活のためにシェルターから人口の雨が。
ツクリモノの雨は地球みたいに酸性雨とかじゃ全然無くて、至って安全なもんだけど
でも管理しなければ、自然には決して降る事は無い。

(『自然の恵み』は全部ナチュラルが持ってっちまった)

ツクラレタモノのコーディネーターには
ツクリモノの自然がお似合いだろう、と。

17年も生きているって言うのに
土も風も水さえも、未だ俺達は『ホンモノ』を知らない。
どんなに地球の環境を真似してみたって、所詮は『ホンモノ』じゃあない。

そのことを思い知らす『雨』が

どうしようもなく憎らしい。


「イザーク」
黙り込んだ俺を不安げに見つめていた銀髪の青年に声をかける。
急に名を呼ばれ、驚く彼の頭を静かに抱き寄せる。
そして
「絶対、戦争勝とうね」
低い声で囁く。

イザークが腕の中で頷くのが解った。
反応を心地よく思いながら、額に唇を落とす。

いつか絶対に

ホンモノを『俺達』の手に、と誓って。


雨はまだ降り続いていた。







■相変わらず夢見たディアッカで!(それを言うならイザークも)
前から考えてたネタだったんですが、34話でラクス嬢が「雨の時間です」とか言ってたので自信を持ってアップ。
作り物しか与えられていないコーディネーター達の気持ち。
ホンモノに憧れる気持ちも戦争の理由のひとつなんじゃなかろうか。
とかいってディアさん、まさか地球(砂漠)が
あんなすっごい辛いトコなんて夢にも思ってなかっただろうけど!!(笑)