自分に危害を加えるものっていうのは生来誰でも嫌いってモノだけど
怖いもの見たさっていうのは確かにあるじゃないか。
ましてや、気になっていた場所から
奇妙な音が聴こえてきたんじゃなおさら。
「・・・?」
牢の側を通りかかったとき、妙な音が響いてきた。
しゅるり しゅるり、と静かに鳴る摺り足。
時折リズムを踏むような、タンという乾いた音。
「・・・何の・・・音?」
この牢には、現在先日投降したコーディネーターが囚われているはずだ。
初めは怪我のため、医務室に放置されてたのだが
なんだか問題を起こしたとかで強制的に牢獄送りとなっていた。
一緒に入隊した元クラスメイト達と何かあったらしい。
・・・理由はまだ彼らは教えてくれていないけれど。
タン
考えているうちにも妙な音はやまない。
「・・・!まさか・・・!?」
フと嫌な考えに行き着く。
(・・・・脱走・・・!?)
人手不足がたたって、確か牢獄に見張りは一人もいないはず。
そういえば、前にキラが保護したコーディネーターの少女もよく部屋を抜け出していた。
(ヤツが脱走したらどうなるだろう)
ゴクリ、と生唾を飲み込む。
ちらりと姿は見たけれど、結構獰猛そうなヤツだったと思う。
好戦的な目線でミリィに絡んでいたし、身長なんか自分より20cmは高いだろう。
(でも)
そんなヤツが脱走して、艦内をウロついて…もし、仲間を殺しでもしたら。
それこそ、恐ろしい。
(俺だって、AAのクルーなんだから)
背に伝う汗を意識の外に出し
胸元にしまわれた、冷えた鉄の感触を確かめながら
俺はゆっくり牢への階段を下りた。
タンという軽い音と共に肢が弾かれる。
手が 指先が
まるで違う生き物のようにうねり、躍動する。
強い光の眼は今は伏せがちとなり、艶かしく遠くを見つめる。
意気込んで牢を覗き込んだ俺は、呆けてその光景を見ていた。
囚われの身のコーディネーターは、牢の中でおかしな動きをしていた。
いや
おかしな動き、というのは失礼だろう。
実際自分は、あのような『踊り』を見たことがある。
確か・・・
「・・・ニホン・・・舞踊?」
呟いた途端、コーディネーターの青年が振り返った。
「ひ!」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
さっきの決心はどこへ行ったのか。
脚がガクガクと震えた。
怖い。
そんな俺の様子に気付いてか、コーディネーターが薄く笑う。
「・・・なに?アンタ。ココのクルー?」
余裕綽々といった口調。対して俺は
「そ、そうだ・・・!お、お前、な、何してるんだ!?」
脚だけでなく、唇まで震えてしまった。
かっこ悪い。どうして俺はこうなんだろう。
でも止められたら苦労はしない。
相手はクスクスと楽しそうに笑って答えた。
「日本舞踊、だよ。アンタさっき自分で言ってたじゃん」
馬鹿にしたような笑み。
カッと頬が熱くなる。
畜生。
浅く息を吸って、頭を冷やそうと努力する。
やめろ自分・・・どうせ『こいつら』には勝てないんだから。
「・・・そうか・・・牢の前を通りかかったら、なんだか聴き慣れない音がしたから。それだけだよ」
そう、といって相手は肩をすくめる。
俺はその姿を盗み見た。
金色の燃え立つような髪と、褐色の肌。
白いアンダーウェアの上からも見て取れる引き締まった身体。
予想していた通り、このコーディネーターは自分より20cm位は背が高くて
今は包帯が巻かれて判別しにくいけど比較的整った顔立ち。
ついでにいうと脚も長い。
・・・いやになる。
確かにそれこそ遺伝子レヴェルで『造り』が違うって事くらい知っているけど
それにしたって、ここまで俺のコンプレックスを刺激しなくったていいじゃないか。
生まれ落ちた瞬間から、その人生が成功するよう約束されている人種 コーディネーター。
別に自分がコーディネーターに生まれたかったわけじゃないけれど
それでも、時たまに
強い嫉妬と・・・羨望に駆られることが有る。
(そういえばキラも、タイプは違えどまた俺に劣等感を抱かせるヤツだったな)
運動も勉強も苦手教科と豪語してるヤツでも、遥かに『俺達』なんかよりできて。
きっとこいつもそうなんだろうな、と思うと
いやになる。
「・・・アンタは日舞の『得意な』コーディネーター?」
沈黙がなんとなく重苦しかったからかも知れない。
きっとそうなんだろうな、と思って訊いてみた。
すると、コーディネーターは片眉を上げて答えた。
「さぁ?日舞の『好きな』コーディネーターじゃないの?」
俺は目を見開いた。
コーディネーターは続ける。
「最近踊ってなかったから。腕がなまるの嫌だし」
金の髪が、零れるのが見える。
「別に『得意』だから踊ってるわけじゃないよ。『あんたら』がどう思ってるかなんて知らないけどさ。
好きなもんやって、それを上手くなるよう努力して何が悪いの?
『俺達』はただ、好きなものを上手くなれるよう頑張ってる。それだけだと思うんだけど」
まぁあんたらがどうかは知らないけどね、とコーディネーターはもう一度肩をすくめた。
ガンと強いショックを受けたようで、呆然と彼を見つめた。
なんだか目から鱗が落ちた、という気分だ。
一体自分は
『コーディネーター』と『自分』の差を盾に
どんな色眼鏡で
友人を見、自分を正当化してきたのだろう?
急に何かが開けた気がした。
「・・・んで?なに?もしかしてナチュラルの艦では捕虜は自分の趣味も堪能できないわけ?」
その瞳が意地悪く細められてハッとした。
「・・・いや・・・多分、それは無いと思う」
躊躇いながら言ってから
「あ、でも脱走は駄目だ!」
と付け加える。
途端にコーディネーターは吹き出した。
「あっはは!ばっかじゃない?脱走する気なら投降なんてしないってぇの!」
笑われてから、首の芯から火照った。
くそう。
なんで俺はこうやって間抜けなんだろう。
いまいち決まりきらないところが自分でも腹立たしい。
でもいつまでも青年が笑ってるもんだから、だんだんムカついてきて怒鳴る。
「・・・か、可能性を考えただけだ!コーディネーター!」
すると相手は笑いを引っ込めて、俺を見た。
俺を射る強い眼差しが
キラに似たアメジストのような紫暗だということに気付いた。
『コーディネーター』は 言った。
「『コーディネーター』じゃない。俺は『ディアッカ=エルスマン』 だ」
電流が身体に走った感じ。
それでも、ほぼ反射的に返事をしていた。
「俺は・・・カズイ=バスカーク・・・だよ」
俺の答えを聞いて、『ディアッカ=エルスマン』は笑った。
さっきまでの嫌な薄笑いじゃなく・・・綺麗な、笑顔で。
「別に野郎と宜しくする趣味はないけどネ。ま、ここにいる間くらいは仲良くしようぜ」
「・・・あ、う、うん」
「じゃ、手始めに捕虜の飯はもっと旨いもん用意するようコックに言ってくれない?」
「な、なんで俺がそんなこと!」
ひとしきりそんなことを話しているとクルーに集合の合図があった。
俺が戸惑っていると、『ディアッカ=エルスマン』は行けば?と言って手を振った。
俺は一度彼を振り返ってから、階段を一気に上った。
上る途中で、あの精錬された摺り足の音を聴いた。
脳裏にあの官能的な舞を思い浮かべながら
俺はもう一度
身体が鈍く痺れるのを感じた。
終
■ガンダムSEED、茨中の茨カプ。
その名も
カズイ×ディアッカ(大笑)
だって・・・なんでカズイさん33話でディアッカさんの本名知ってらっしゃるんですか?
むしろなんであんなに詳しいんですか?
っていうかそれは恋でしょう?(強引・・・!)
多分ミリーが牢に乱入する直前とかじゃないでしょうか。
まあ冗談は抜きにして私結構カズイ好きです。
あの劣等感まみれなところが(笑)
フレイもコーディネーター嫌いだけど
カズイはそれとはまた違って、劣っていることを意識させられるのが嫌いなんでしょうね。
彼はすごく人間味の有るヤツだとは思うんですが
いかんせん不平不満が多くて嫌われることがオオイですけれども(笑)
んでまぁ後言いたいことは
ディアッカを狙ってることは確実かなってことぐらい★
↑ソコから離れない
あ、余談ですが私サイディアも好きで(黙りなさい)