昔々

あるところにそれはそれは可愛らしい男の子が居りました。
その男の子が普段被っているずきんの色は赤でしたが、男の子が色黒だったために
皆から愛を込めて『黒ずきんちゃん』と呼ばれていました。

ある日、黒ずきんちゃんはお母様に用事を言いつけられました。

「ふむ。黒ずきん。
君の祖母に当たる男性が、どうやら最近具合があまり良く無い様だ。
この見舞いセットを持って彼のところに向かうがいい。
きっと彼の体調も回復するだろう」
「は!隊長」
「ふふ・・・今は『お母様』だよ」

黒ずきんちゃんは可笑しな日本語を問うでもなくクル・・・、お母様の言いつけに従いました。
そしてバスケットにワインと焼きたてのパンと機械いじりよう工具一式と某少年の生写真をいれてお家を後にしました。

黒ずきんちゃんがしばらく歩いていくと、森の狼に出会いました。
狼は黒ずきんちゃんを見ると、朗らかに挨拶をしました。

「こんにちわv黒ずきんさん」
「ん、ああ コンニチワ。」

しかしながらこの狼は外面はものすごく良いのですが、いつでも腹ペコで老若男女かまわず食べてしまうという噂の持ち主でした。
もちろんそんなこと黒ずきんちゃんは知りません。

「黒ずきんさん、いいお天気ですね。どっかに遊びに行くんですか?」
「いや、遊びにいけたらいいんだけどさ。オバーサンのトコまで御遣いの任務なの」
「そうなんですか」

それを聞いて、狼は小さく微笑みました。
そして一瞬思案をめぐらせた後言いました。

「では黒ずきんさん。この先にお花畑があるんですけれどソコのお花を摘んでって差し上げたらどうですか?
お祖母様もきっとお喜びになられますよ」

笑顔で提案する狼に、黒ずきんちゃんは首をかしげながら答えました。

「うーん・・・アイツがんなもんで喜ぶとは考えられないんだけど・・・」
「いえいえ、いくら毎日機械漬けの人間でも具合が悪いときくらいは植物を見たくなりますよ。癒し効果ってヤツです」
「そうだな。あの引きこもりに花渡すのも面白いかもね。サンキュー狼」

散々におばあさんをけなしながら黒ずきんちゃんは(すごく嫌な表現ですが)、お花畑に向かって歩いていきました。
狼はしばらく笑顔で彼の後姿に手を振った後、急に体の向きを変え、ものすごい速さで駆け出しました。
向かう先は、もちろん黒ずきんちゃんのおばあさんのお家でした。


狼はおばあさんのお家のドアをトントンと優しく叩きました。
そしてなるべくセクシーな声色をだして呼びかけました。

「オバーさん?お見舞いに来たんだけど〜」

するとおばあさんがお家から顔を出しました。

「ん?ディアッカか?見舞いなんてすまな・・・」
「いいえ、違いますよvおばあさんv」

そこには満面の笑みを浮かべた狼が立っていました。
「に、ニコル・・・?」
おばあさんは驚いて後ずさりました。
しかし素早く狼は家の中に滑り込むと、後ろ手にドアを閉め鍵をかけてしまいました。
そしておばあさんに向かって極上の笑みを浮かべました。

「ふふ、アスラン。メインディッシュの前の前菜になっていただきますよv」
「何をするんだニコ・・・や、やめ・・・キラー!」

哀れ、おばあさんは狼に食べられてしまいました。



「やれやれ、すっかり遅くなっちまったなぁ・・・」
何も知らない黒ずきんちゃんは、おばあさんの御家に向かって少し急いで歩いていました。
おばあさんのお家に着くと、黒ずきんちゃんは花を持ち替えながらドアを叩きました。

「オバーサン?俺だけど。具合大丈夫なの?」
するとお家の中からくぐもった声が答えました。
「ああディアッカ。悪いが中に入って来てくれませんか?」
そんなに具合が悪かったのか?と黒ずきんちゃんは内心驚きながら、素直にお家の中に入りました。
そしてこんもりと山を作っているベッドの側に座りました。
「大丈夫?なんか欲しいものある?」
「ええ、大丈夫ですよ」
ふと、なんだか黒ずきんちゃんは違和感を感じて尋ねました。

「・・・オバーサン、なんでそんなにいつもより口調が丁寧なんだ?」
おばあさんは布団の中から答えました。
「それはですね、病気で気が何だか弱くなっているんですよ」
「なんでそんなにいつもより小さいんだ?」
「覇気がなくてそう見えるだけですよ」
「・・・そうなの」
首をかしげながら黒ずきんちゃんはとりあえず頷きましたが
ふと、毛布の間からキラキラとコチラを見つめる目に気付いてもう一度尋ねました。

「オバーサン、なんでそんなにいつもより目が大きいんだ?」

すると、おばあさんは嬉しそうに応えました。
「痩せてしまったからそう見えるんですよ。僕はもうおなかがペコペコなんです」
「そ、そうなの?少しなら食べ物持ってきたんだけど・・・」
慌ててバスケットを取り出そうとする黒ずきんちゃんを、おばあさんはやんわりと引き止めました。
「いいんですよ、黒ずきんさん。そんなことよりよく貴方の顔を見せてください」
「ああ、OK」

黒ずきんちゃんはおばあさんを覗き込むように身を乗り出しました。
しかしその瞬間

「!?うわ!」

黒ずきんちゃんはおばあさんに勢い良く布団へ引きずり込まれました。
そしてその布団の中には

「・・・!?ニコル!?」
「また逢いましたね、黒ずきんさん♪」

なんと森の狼が居たのです。
黒ずきんちゃんは驚いて叫びました。
「な、なんでお前がこんなところに居るんだ!?アスランはどうした!!」
「ふふ、美味しく食べさせていただきました★」
「笑顔でものすごい台詞吐くなーっ!!!」

変わらず可愛らしい笑顔を作る狼に恐れおののき、黒ずきんちゃんは彼の腕の中で身をよじりました。
しかしその小さな体のどこにそんな力があるのか、ちっとも黒ずきんちゃんは抜け出せません。

「く、くそ!放せニコル!!コレじゃ『戦争』とノリが一緒じゃねぇか!」
「安心して下さいディアッカ。こんどこそ未遂じゃ終わらせませんからv」
「ココは表ページなんだっつーの!!!;」

黒ずきんちゃんの必死の抵抗も空しく、狼の魔の手がのびます。
黒ずきんちゃん・絶体絶命!

その瞬間

「お、狼ニコル=アマルフィー!!痴漢現行犯、連続老若男女暴行罪の疑いで逮捕する!!」
「!!?」
どかどかとおばあさんのお家に、オレンジ色の眼鏡をかけたきこりが踏み込んできました。
そして目を白黒させてベットでもつれあっていた2人を引っぺがし、狼にガチャンと手錠をかけました。

「く!僕としたことが一生の不覚・・!」
「何言ってるんだ!じゃあフラガ少佐よろしくお願いします」
「おう!任せておけ」

元気な声で返事をしたきこりのお供は、狼をお家から連れ出しました。
残ったきこりは、黒ずきんちゃんの着衣の乱れを直しながら優しく尋ねました。

「だ、大丈夫か?怪我はない?」
「あ、ああ・・・サンキュー・・・」

黒ずきんちゃんはやや呆然としながら答えました。
きこりは微笑んで、もう一度優しい声をかけました。
「大変だよな、君も・・・女の子2人に殺されかけたり男に襲われたり」
「・・・・・・・ああ・・・うん・・・まぁね・・・」
その儚げな物言いに、きこりは激しく胸を打たれました。
そして彼は黒ずきんちゃんに向かって顔を赤らめながら言いました。

「本当に大変だったんだね・・・あ、あの・・・俺の名前・・・サイって言うんだ」
「・・・?」
黒ずきんちゃんはキョトンと顔を上げました。
サイ、と名乗ったきこりは続けます。
「そ、その・・・俺でよかったら君を守ろうか?」
「え・・・」
「俺、とりあえず森の警備員もやってるし・・・君さえ良かったら一緒に暮らさない?」
「・・・アンタ・・・」

2人はそう言ったっきり見つめあい、互いに頬を赤らめました。



こうして、黒ずきんちゃんは素敵なきこりのお兄さんと
いつまでもいつまでも
幸せに暮らしましたとさ。


おしまい



■ああ、皆さんの突込みが聴こえます。ずばりこう。
きこり、イザークじゃないのかよ!!!!
そうです、違います(笑)
なんてったって私の生きがいは人の予想を裏切ることですから♪
イザークさんは『肌』のお題で出張るので良いのです(爽)
前のお題でサイディア宣言もしたことだし。
っていうか、
ディアッカの少年時代のお話を期待した人ご愁傷様でした★
はじめの一行しか『昔』入ってないしな!
もちろん赤ずきんちゃんが元ネタですが、普通にキャスト決めるときっと
赤ずきん→キラ
お母さん→ラクス
狼→フラガ
おばあさん→クルーゼ
きこり→アスラン

とかになるんでしょうね(おばあさんのトコに何か・・・!)
オチが甘いのはいつものことです。