でかくて 煩くて 鬱陶しくって

いつでも私の後を追い回して

馬鹿みたいに元気だったから

思わず私は 忘れてしまっていた。



***



「…ディアッカ、ディアッカ?キラ・・・少佐!応答して!」

もう何度、同じ台詞を繰り返したろう。
震える手でマイクを口元に押し当て、無我夢中で叫ぶ。

突如として通信の途切れた3人のパイロット。
再び始まってしまった戦闘。

(…ほんの…数分前まで繋がってたのに…)

刻々と進む戦況に、焦燥感だけが募る。
目の前のディスプレイには不気味に吹き荒れる砂嵐。

…妙な、既視感。


ツ、と背筋を冷たいものが流れる。


慌ててそれを振り払うように首を振る。

(大丈夫…しっかりしなさいよ私…!)


いきなりドミニオンからあの三機が輩出されたから
キラの友達が一人で戦ってるから
だから不安になってるんだ。
そうに違いない。
大体 あの基地内はもともと、圏外と言って良いほど電波状況が悪いのだ。
通信が返ってこないのは、当然と言えば当然のこと。


(そもそも…あいつなら、絶対大丈夫に決まってるじゃない…)


(曲がりなりにも)ZAFTでのトップクラスだったのだと、自慢げに語っていた『アイツ』の声が甦る。

そうとも、大丈夫だ。

いつもいつも 人の後を引っ付いてきてちょっかい出して
やたら軽口で軟派男で
まるでデカイ犬みたいに、人懐っこくて

さっきの休憩中だって
いつの間にか私の前の席を陣取って、パルさんとかと仲良く喋ってるし。
馴染むの早すぎなのよ。
アンタ本当にエリート兵?とか訊きたくなってくる。

なんでったって私に付きまとうのか。
私に何をされたか覚えているのか。


あの図太さはそれこそ

『殺しても死なない』ってヤツで―――



そこまで考えて、今度こそ私は身を硬くした。




『死』という 単語に。


***


その単語と連動するように
呼び覚まされる 『あの人』の姿。


自分に微笑んで優しくて明るくて
「だいじょうぶ」だと言って

そして二度と帰ってこなかった


私の大好きだった
『あの人』。




***



喉がゴクリと鳴る。
目の前が真っ白になった。
胃の辺りが冷たい。

(トール)

胸中に浮かび上がる、名前。
思い出せば一緒にたくさんの記憶もあふれ出る。
彼のシルエット、眠そうな顔、笑い声


でも、それも
随分久しぶりのことのように思えた。


忘れてたわけじゃない
忘れようとしていたわけでもない

それでも
私が彼を思い出す時間は確実に
以前より少なくなっていた。


なんでかは知ってる。

認めたくはないけど知ってる。


『アイツ』が いるからだ。


それはまるで
塵が窓枠に積もるように
傷口がクスリで治癒するように
摘まれた草花が また土を緑に埋め尽くすように

アイツは
私の中を 覆った。


初めはそれに酷く戸惑った。
気づいた瞬間、嫌で嫌で堪らなかった。
私はそんな軽い女だったのか、と
自分が許せなかった。

でも、そのうちそんなことすら思わなくなった。


アイツを、トールの身代わりに思ったことは一度もない。
そう思うには、アイツはトールと違いすぎていた。

確かに明るいところや、妙に前向きな所
能天気な態度は、似ていると感じるかもしれない。

私の一挙一動に豊かな表情を見せて
多々ある反応を返す。



それでも時々アイツは
ドキッとするほどの

『軍人』らしさを見せる。


遠くを見るしぐさやちょっとした動きに
私の知らない

『大人の男らしさ』を見せる。



トールには、なかったものを。




***


ガン と強く艦が揺れた。
高い声を上げてマリュー艦長が椅子からずり落ちそうになった。
背後でサイも歯を食いしばっている。

「ディアッカ…ディアッカ!」

ああなんでだろう私。
カレッジから一緒のキラより
頼りになる少佐より

ずっとずっとアイツの名前ばっかり言ってる。

そう頭の片隅で思いながらも
私は壊れたテープレコーダーのように、マイクに向かって呼びかけていた。



***



最後の言葉。

彼の最期の言葉。

それを思い出すと、今でも強い後悔の念が湧き上がる。

あの時もっと強く止めていれば
行かないで、と言えれば

トールは死ななかったのか と。


でも

でももし
そうしていたら
そうなっていたら


私と『アイツ』は
今、どんな状態だったんだろう。



「ディアッカ!」



『バスター、行くぜ!』

そういって私に軽く笑いかけたアイツを
いつもの通りの軽口を
照れも入って軽く流しちゃったけど

でも 私


「…ディアッカ!」



息も止まりそうなあの瞬間

あの人が死んだ時の
ディスプレイの無機質な字。

『SIGNAL LOST』の文字。



「…ディアッカ…っ」



人のために怒れるあの人が好きだった。
『中立国』ですら根底に息づいている差別意識をものともせず
キラと『普通』に振舞える彼に憧れ
自分も常にそういようと思えた。
私が『いい子だ』と言われる要因は、彼が作ってくれたのだ。

彼がいなかったら、きっと今の私はいない。


でも

でもね トール。



***


「…トール…」

不意に呟かれた言葉に、サイがギョッとする気配が伝わった。
私は唇を噛む。


でもね、トール
私は、アイツに死んで欲しくない
貴方のように
死んで欲しくない


でかくて煩くて鬱陶しくって
殺しても死ななそうな、しつこいヤツで
その上優秀なパイロットだって言ってて


だから、忘れていたけれど


アイツも、『死ぬ』ってこと。



「…トール」


貴方のことはまだ好き
きっと、ずっと 貴方は好き
裏切るわけじゃない
そんなつもりはない


それでもやっぱり
死んだら伝えられないの
死んでしまったら意味がないの

アイツにいつか言いたいの


この気持ちを。




「…トール」


だからお願い
そして、ごめんなさい
立派な貴方とは 似ても似つかないヤツだけど
お願い トール

どうかどうか



「…ディアッカを…守って…!」



私は、滲む視界の中で呟いた。




***



戦闘が終わってアイツは帰ってきて
そして いつもと変わらぬつかみ所のない明るさで私に声をかけて

私の苦悩なんか知らないで、そんな態度で

腹が立ったから叩いてやろうかと思ったけど
それはやめて、私は彼に向き直った。


まだ一度もアイツには言ったことのなかった言葉
彼にも…一度しか言ったことがなかった言葉

まだ表情は硬かったけど
声も小さかったけど

私は言った。



「…お帰り」


私の言葉に、アイツは虚を付かれた顔になった。
その表情が面白くて
そんな顔が出来るこの状況が嬉しくて
私は笑った。

笑いながら、泣いた。



これから先、すぐにアイツに素直になれるかなんて知らない。
多分なれないし、ならない。
彼のことをすぐに整理をつけるなんて
そんな器用なこと、私には無理だから。



でも、少しずつ進んでいきたい。


もう決して後悔はしたくなかったから。
帰ってきて、欲しいから。



だから

これからも私は彼に言おう。





「お帰り、ディアッカ」と。







END





■久しぶりのオナゴに満足です。むふー!

私は人を好きになる、好きじゃなくなる踏ん切りをつけるのが結構難しい性質なんでお悩みミリィを。(そんな一言で済ますんだ)
ミリィさんにもおもっくそ悩んで欲しいと思ってます。
トールをそう簡単に忘れられるのなんかミリィじゃないと思ってますので。
ディアミリも好きですが、SEEDのベストカップリング賞はトルミリだと信じてやみません。(そんな)
じっくりじっくり、戦争が終わってから少しずつ心を開き合えるといいなぁと思います。

でも…
最終回でいきなりくっついてたらどうしよう…!(笑)