「お前のことが好きだ」
そう言った彼は、真摯な眼差しでこちらを真っ直ぐに見つめている。
「結婚しよう…俺の妻になってくれ」
いつもの朴念仁っぷりもドコへやら、なんという感動的な台詞だろう。
そこらの女が相手だったら、嬉しさのあまりぶっ倒れるか泣き出すかしていたに違いない。
だが生憎、俺―――デュオ・マクスウェルはそんな精神の持ち主なんかじゃなく
とりあえず飲みかけのコーヒーを勢い良く噴き出したら
五飛は盛大に眉をしかめた。
「・・・お前だろ!カトル!!!」
翌日俺は元戦友であり今財閥社長殿である彼の仕事が終わる頃を見計らい、社長室のドアを蹴破った。
今では既に顔パスでこの部屋に入れるようになっている俺だったが、流石にこの奇行には一瞬彼のSP達が身構える気配があった。
だがそんなの今は気にしている場合じゃない。
俺は肩を怒らせて、部屋の最奥で無駄にどデカイ机に座っている金髪の美少年を目指す。
そんな俺を見て、色めきたつSPを片手で諌めてから カトル・ラバーバ・ウィナーはにっこりと微笑んだ。
「…………なんのこと?デュオ」
「多分絶対お前が今の一瞬の間に思い当たったことだよ!!」
ダン!と音を立てて立派な社長机をブッ叩く。カトルはわざとらしく肩をすくめた。
「いえいえ、そんな。何のコトだかさっぱりだよ?デュオ。落ち着いて、コーヒーでもどう?」
「…いや、コーヒーはいいや…」
…コーヒー…。あの後しっかり五飛に片付けさせられた。噴き出す原因を作ったのはあっちだってのに。
あのカーペットの沁みはきっともう取れないだろう。お気に入りだったのになぁ。
急に覇気のなくなった俺を、心配そうにカトルが覗き込む。
それから穏やかな口調で俺に語りかけた。
「そんな…落ち込まないで、デュオ。どっちが妻だっていいじゃないですか」
「やっぱ知ってんじゃねーか!!!!」
思わず意気消沈し 目的を忘れかけたところを、チャブ台を返しそうな勢いで復活する。
カトルは「しまった」という(しかし全然悪びれてない)表情で舌を出す。
そしてもう一度、惚れ惚れするような笑顔でのたまう。
「だって五飛が真剣な顔して相談にきたから、僕なりの助言をさせてもらっただけで…」
「んでよりにもよって、なんで結婚なんていう手段しか導き出してねぇんだよ!」
頭のいいカトルのことだ。
五飛がどんな相談を持ちかけたか詳しいことは知らないが、それがどんなものでも答えは複数提案できただろうに。
…多分この場合わざと一つしか五飛に答えを与えず、そして絶対にその結果を面白がってるに違いない。
「大体てめぇはいつもいつもニコニコニコニコしながら、そりゃもう素晴らしいことばっかり言ってくれやがって…!」
「ヤダなぁデュオ、そんなに褒めないでください♪」
「褒めてないしな!!」
憎たらしいほど完璧な笑顔に一喝する。が、我らがカトル様はそんなことでは動じずなおも続ける。
「僕、楽しみですよ」
「…何が」
「デュオの花嫁姿!きっとすごーく綺麗だと思うよ♪」
「うむ、俺もそう思う」
「ってトロワ!!?お前いつから居やがった!?」
突如視界に現れた元サーカス花形は 俺に向かって軽く会釈をし、疑問はものの見事に無視して言う。
「昨日の五飛の相談は俺もカトルと共に受けていたから、内容は知っている」
「・・・・止めろよ・・・・頼むから・・・・・」
「止めたってあの実直な五飛だよ?聴くと思う?」
「お・ま・え・の・こ・と・を・だ!!!」
泣きそうな気分を抑えつけ、一言一言呪詛を込めてカトルに投げかける。
その言葉に、カトルもトロワも可愛らしく首をかしげて顔を見合す。…バカっプルめ!
すると、心外という風に トロワが俺に問うてきた。
「しかし、今では同性間の結婚も認められてるではないか」
「…いや、それはそうだけど…」
俺は唸る。
全ての戦争が終わってから4年。
その安心感からか、ベビーラッシュが地球・コロニー共に訪れた。
それは微笑ましく且つ喜ばしいことなのだが、ただでさえ住むところや食物が戦後で不足しているというのにそんなブームが来て
人類の人口はとんでもなく膨れ上がってしまった。
そのため政府側は少しでも子供の数を抑えようと旧時代からの制度をどんどん投入した。
『一人っ子政策』と呼ばれるものや、結婚年齢の引き上げなど。
その中の一つに、同性間での結婚も含まれている。
因みに、トロワとカトルもカトルが『夫』ということで目下婚約中である。
「…でも、依然として周りの目は厳しいだろ〜?」
俺は嘆息する。
やっぱり政府がどう言おうと、昔からの慣習やモラルってやつは最大の権力なのだ。
ブチブチ言い訳じみた声をあげる俺に、トロワが怪訝な顔で尋ねる。
「ではお前は五飛が嫌いなのか?」
だから結婚したくないのか?と。
俺はその問いに少し詰まる。
「いや、むしろ大好きだけどさ…」
戦争が終わって、互いの家を行き来するようになって 傍に居て増えた、たくさんの大切なもの。
強い光の漆黒の眼
細いけれど筋肉が綺麗についた手足
白い首筋と、そこに零れた髪の毛のコントラスト
時々…本当に時々だけど見せる、柔らかい微笑
どれも大好きで凄く愛しい。
でも。
「でもどうして…どうして俺が『妻』なんだ!!!!」
再び机をバシバシ叩いて俺は叫ぶ。
突然、というのも確かに戸惑っている理由の一つだが それよりも重要なこと。
俺と五飛は(五飛は否定するけど)周りが羨むほどラブラブだ。
しかしながら、肉体関係は?と訊かれると実はまだ一度もヤったことはない。
キスは時々するけれど、絶対にその直後には鉄拳を頂くのが恒例で。
俺は普段から熱烈にラブコールを送っているが、五飛からの告白なんて昨日のが初めてだ。
勿論俺はSEXの面は五飛の方を『女』としていっちょ前に欲情してきたわけだから
もし五飛も俺のことを今まで『女』とみて付き合ってきたってんなら、それだけで立派な離婚理由だ。(まだ結婚もしてないけどさ)
(…しかし、なぁ…)
でもそれでも、俺だって五飛との結婚を夢見なかったわけじゃない。
だってあいつのこと、大好きなんだしさ。
愛してる奴と一緒に居たいってのは、万国共通未来永劫の願いのはずだ。
悶々と悩む俺に、呆れたようなカトルたちの声が降ってきた。
「…まあ、それは五飛に訊くしかないんじゃない?」
「そうだな。『俺たちは結婚したらどうだ』としか言っていない」
「だよね。それに夫婦間の問題は他人が口出すことじゃないですし」
「・・・・・お前ら、本気で覚えてろよ・・・・」
まるっきり他人事、といった口調の二人を、俺は恨みがましい目で睨んで立ち上がった。
(まあね、悩むより前進あるのみってーのが俺の信条でもあるし)
それにしてもあいつら、本当にどうしてくれよう と俺はやや乱暴にエレベーターのボタンを押した。
五飛は俺のマンションの前で待っていた。
さっき俺が携帯用電話から彼に「昨日のことについて答えを言いたいから来い」と連絡を入れたからだ。
でもまさかこっちの方が遅く着いてしまうなんて思ってなかったけど。
「よ、ウーちゃん」
俺が片手を挙げて笑いかけると、案の定不機嫌そうな顔で
「遅い」
とだけ返ってきた。
…これが本当に昨日プロポーズした相手への態度か?と俺は肩をヒョイとすくめてドアを開ける。
「ここじゃ何だろ?入れよ五飛」
五飛は小さく「謝謝」と呟いて門をくぐった。
(ま、いきなり態度が変わったら、それはそれで嫌だけどさ)
俺にちやほやしてくれる五飛を想像してしまって、苦笑いを浮かべながら彼の後に続いた。
「…でだ、本題に入ろう五飛。何で俺が『妻』なんだ?」
いつかカトルに貰った紅茶を淹れながら(もうコーヒーは懲り懲りだ)俺は切り出した。
五飛は一瞬怪訝そうな顔をして
「結婚するからだろう」
と、さも当然のように言う。
「・・・・・・・」
ちっとも答えになっていない返答に、俺は頭痛を覚えてこめかみを押さえる。
俺の反応が不服だったのか、五飛が憮然として続ける。
「貴様知らないのか?男同士といえど戸籍上は『夫』か『妻』かの明記は必要なのだぞ?」
「・・・俺時々、お前のそーゆー天然な所が本気で嫌だ・・・・」
半ば本心から呟くと、俺のどこが天然だ!と怒鳴り声が返ってきた。
「・・・いやな?ウーちゃん聞いて。俺は別にウーちゃんとの結婚自体については何の異議もないわけよ」
むしろ全然オッケーだし?と言うと、五飛は微かに目を輝かせる。
「ならば問題ないだろう」
しかし俺はその言葉に首を振ると、五飛を見つめる。
そしてゆっくりとした口調で語る。
「俺が『妻』ってことが問題なんだ」
「我儘を言うな。」
・・・・・・・・・・・・・この野郎・・・・・・・・0.5秒で切り返してきやがった…。
俺が項垂れると、頭上から「結婚できればいいんだろう、要は」というお声が被さってくる。
その言葉にカチンときて、俺は反論する。
「そんならお前が『妻』になりゃいいだろ!?」
言ってから、これは中々いい考えかもしれない、と思った。
ウエディングドレス姿の五飛。きっと濡れ羽色の髪の毛が白に映えて、そりゃもう絶句モノの綺麗さだろう。
ちょっぴり化粧なんかしちゃえば、ヒイロにゃ悪いがリリーナお嬢さんなんか目じゃねーだろうな。
あ、そうか。ヒイロの故郷の『シロムク』とかいう『キモノ』でもいいな!あれは元々黒髪の東洋人の結婚衣裳だし、きっと五飛にも似あ
「俺は駄目だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういう奴だよね・・・・・お前は・・・・・」
俺の膨らみ始めた妄想に、いとも簡単にでっかい穴開けてくれやがって、とちょっと泣きそうになる。
ああ嫌だなぁ。結婚するのはいいけどこのままだと間違いなく、前に俺がヒルデが着ていたようなヒラヒラした奴を着ることになる。
相手に着せるのを創造するのはタノシーけど、自分が着るとなった瞬間に忌まわしいものに感じるのは何故だろう…。
そんなことを考えていると、五飛が再び口を開いた。
「俺は『夫』でなければならない。なぜならデュオ、貴様は経済能力がないだろう?」
「・・・へ?」
いきなりの言葉に意味が繋がらない。どうやらさっきの話から続いてはいるようだけど。
俺の困惑をよそに、五飛は続ける。
「お前はその日暮の何でも屋で食いつないでいるが、結婚して『夫』として所帯を持つのだったらそうはいかないだろう。
『夫』は『妻』の世話…生計を立てなければならん。実際、カトルとトロワではカトルのほうが経済力があるという理由で『夫』になっていると聞いた。
俺もそんなに稼いでいるわけではないが…とりあえずプリペンダーでの定職もあるのだし
この場合、俺が『夫』となって貴様を養っていくというのが妥当ではないか?」
淡々と語る五飛を、俺はぽかんと口を開けて見つめてしまった。
(…じゃあ何か…?五飛の言う『妻』ってのは経済力のない方のことなのか…?)
確か五飛のコロニーでは『夫』が『妻』を護ることは絶対の義務である、ということを聞いたことがあったような気がした。
と、いうことは 『妻』というのは本当に単なる名目上ってことで…。
「…俺はドレスを着なくってもいいってことですか…?五飛サン…」
恐る恐る俺が尋ねると、五飛は嫌そうに柳眉をしかめ応える。
「当たり前だ。華燭は確かに神聖なものだが、この場合籍を入れるだけでもかまわんだろう。…それともお前、ドレスを着たいのか?」
「滅相もございません!!」
勢い良く首を振る俺に、五飛は「だろう」と頷く。
ああ、そうだったのか。驚いた。
いや、結婚と聞いてすぐに式を思い浮かべる俺も俺だけどさ。
昨日のプロポーズだって、五飛なりに考え抜いた結果出された台詞だったんだろう。
「それにしたって…ちょっとドキっとしたぞ、俺は〜」
ソファーに沈没する俺を見て、五飛が例の貴重な表情で「何を悩んでいたのだ貴様」と笑いかける。
そして言う。
「一緒に暮らすということに、どちらが『夫』だ『妻』だとこだわることもないだろう?」
その言葉に俺は再び面食らって、同時にそうか と気づく。
いつか俺が酒の席かなんかで五飛に言っていたんだ。
「そろそろ一緒に暮らしたくない?」と本気と冗談、半々で。
(…もしかして、それを真に受けてこんな行動起こしてくれちゃったの?)
じわじわ来る、喜び。
ああやばい、顔のニヤケがとまらない。
「あっはは!ウーちゃん愛してる〜!」
「…暑苦しい、寄るな触るな、ウーちゃんと呼ぶな馬鹿者!」
「赤い顔で言われたって全然説得力ありません〜」
「う、五月蝿い!ニヤニヤするな!」
俺みたいに態度じゃないけど、十分俺のことを愛してくれてるというのを実感して。
やばいくらい幸せの絶頂です。
俺の手から逃れようと悶える五飛にベッタリ引っ付いて、幸福を噛み締める。
そのうち五飛は諦めたようにため息をついて、俺を見た。
俺の大好きな黒曜の瞳で。
「…では、俺との結婚は承諾してもらえるのか?」
眼差しに向かい、俺は自分の思う、一番いい笑顔で答える。
「勿論、お受け致しマス」
その言葉に満足そうに笑う五飛をみて、俺は彼の頬に唇を落としながら
とりあえず、最初の晩が今後の二人の夫婦のイトナミの要だと
肝に銘じておくことを忘れなかった。
お粗末。
■…これを25だというツワモノがいたら是非掲示板にてご一報!(死)
逆だよ…!絶対これじゃあ52だから!(涙)
少女漫画ですな!なんだこのすれ違いっぷり。
まるで役回りがイザ氏とディア嬢のようです。
それなのにラブラブ度に差が出るのは連載終了後の気安さでしょうか。や、好き勝手できるっていうのの(待ちなさい)
しかしながら私が受けにまわしたがる人は毎度毎度漢らしくてちっともナヨくなってくれません…
誰がって、五飛さんがですよ!(笑)
本当は『コーヒー』にしようかと思ってたんですがコーヒーはあの方いるので駄目です(笑)
乞う!ご期待!(しません)