「…おおい、少佐。ちょっと来てくれや!」
太い声がAAの格納庫に響き渡る。
名を呼ばれて顔をあげると マードックが今の俺の愛機…ストライクから顔を覗かせている。
大仰に手を振る彼の元へ、強く床を蹴って跳び上がる。
まったく 無重力ってのは便利なもんだ。
「何だ?問題でもあったか?」
「問題も何も、見てくださいよコレ」
マードックが顎でコックピット内を見るよう促す。
覗き込んで、思わず俺は「は?」と声を上げる。
コックピットの画面と言う画面に表示されるERROR、ERROR、ERROR…
その横で、心底肩身狭そうにうなだれる若い整備士。
「…どうしちゃったの?コレ」
半ば見当はつきながらも尋ねれば、マードックは半眼で答えてくれた。
「何でもこの馬鹿がストライクの整備調整しようとして 弾みでどっか変なトコ押したらしいんでさぁ。
んで、慌てて直そうとしたらしいんですが表示されるのがこればっかでね」
「…そんなこと、俺に言われたって専門外よ?」
消え入りそうな声で「すみません…!」と呟く整備員。
可哀想に。もうきっとこってりマードックに絞られた後なんだろう。
そう考えて苦笑する。
しかし実際、これは困った状況だ。
毎度毎度、やたらめったら色んなトコに目の敵にされ易いAA。
それに応じて、当然各機の出撃頻度も物凄く高い。
今までたった2機で粘ってこれたが
最近では敵さんの方も機体の質を上げてくださったお陰で
やはり俺と、コーディネーター少年3人の4機がメインになって戦っている。
まあ年端の行かないガキ共を主戦力にしなきゃいけないってのは中々泣けてくる戦力状況でもあるが。
実際は、俺なんかよりあいつらの方が役に立ってるけど。
でもこのコンビネーションバランスが崩れると結構辛いものがある。
「…直すの、結構難しそうかい?」
やっぱり、と笑いを浮かべながら訊くと、マードックは申し訳なさそうに言う。
「やぁ、やっぱり坊主が…コーディネーターが調整しただけあって中々複雑に出来てんですよ、コレが。
しかも時々とんでもない繋ぎ方もしてて、その通りに複製するのは無理ですね。
かといって初めっから組み立てなおしたんじゃ、13時間はかかりますな」
13時間。なかなか不安な時間だ。
「じゃあ肝心のキラはどこにいるんだ?」
そういえば、ZAFTの最高権力者ご子息ともども姿が見えない。
首をめぐらせれば、マードックは苦笑いをした。
「どうやら坊主、もう3日貫徹らしくって…」
「……なるほど」
隈のできた顔で強がるキラを、過保護な幼馴染が鬼のような勢いで
寝室に引きずっていく光景が目に浮かんだ。
そうなると、今キラを起こして整備なんかに借り出そうなモンなら
自分が13時間後このポンコツストライクと共に、デブリにプカプカ浮かぶことになる。
想像して、俺は身震いした。
「…じゃあ、どうすっかねぇ…」
「うーん…」
「…なに大人が顔つき合わせて唸ってんの?」
急に頭上から降ってきた声。
俺とマードックと若い整備士が同時に顔をあげて、相手を認める。
そして同時に叫ぶ。
『…お前だ!!』
「…は?」
そこには、元捕虜にしてAAの守り手のガキが一人
片眉を寄せて浮かんでいた。
***
「つーわけで頼んだ、捕虜」
ポン、と肩を少年の叩けば、彼は嫌そうにその俺の手を払いのけた。
「何で俺なんだよ、アスランとかキラとかいるじゃん!つーかもう捕虜じゃないし」
「キラが絡んだアスランに、立ち向かう勇気はお前にはあるのか?」
「…とにかく嫌だね。俺だってもうバスターの整備で2日寝てないんだから」
「そんなこと言うなよ、俺とお前の仲だろうが」
「どんな仲だオッサン」
「こんな仲」
「あ!ケツさわんな、セクハラで訴えるよ!」
「訴える?俺たち反乱軍、今俺を処罰する上司はいないぜ?」
「あの美人の艦長さんは」
「…前言撤回、ごめんなさい」
「あー…おい、ディアッカ」
不毛かつ、どんどん横道にそれていく俺の説得に、見かねたようにマードックが口を挟む。
少年は険しい顔でそちらを見やる。
「元はといえばこっちの不手際だし、バスターの整備だって俺たちが力不足だから任せちまってるんだしな。
でも少佐の機体が動かなきゃ、戦闘中負担がかかるのはお前さんだぞ?
疲れてるのは重々承知だ。…どうか見てやってくんねーか」
いつもより幾分か物腰柔らかなマードックの言葉に、少年は黙ったままだったが
渋々頷いた。
…なーんでかコイツ、マードックには素直なんだよなぁ。
「…解ったよ、でもコレ俺本職じゃないから時間はかかるよ?」
「おお、サンキュー坊主!」
「坊主でもない!」
俺の一言に、少年は牙を剥いて反論した。
***
ロックを解除し、再びストライクのハッチを開ける。
身を乗り出してコックピットを覗き込んだ少年は「う!」と声を漏らした。
「どうかしたか?」
口元を押さえる彼に尋ねれば、しかめっ面で少年は応える。
「…タバコ臭い…」
ああ、と俺は納得する。
「戦闘の後とSEXの後の一服は止められないからねぇ」
半ば本気で言ったのに、少年は半眼になって
「アンタ本当親父だよね…」と呟いた。
俺はその頭を小突いて中に入るよう促す。
少年は、またそれに悪態をつきながらコックピットに座った。
そして未だ真っ赤な文字をきらめかせるディスプレイに向き直り、パスワードを打ち込むと
データを一瞥してから、物凄い勢いでキーボードを叩き始めた。
その素晴らしい動きに
心配そうな顔で俺の背後からコックピットを覗き込んでいた整備員が、感嘆の声を上げる。
俺も思わず口笛を吹いた。
「はー、すげぇな坊主。よくそんな指が動くなぁ」
「別に、軍でもこういう訓練は受けるもんだし。すごかないよ」
そう言いながらも、照れくさそうに頬を赤らめる少年。
坊主と呼んだことも気づいてないようだ。
(おやおや、可愛いことで)
まったく、口ではなんと言っててもやっぱりまだ子供だよなあ。
…そんなこと思ってほくそ笑んだら、思いっきり足を蹴られた。
俺は咳払いをして
「どれ位で終わりそう?」
と尋ねる。
彼は視線は緑の画面を見つめたままで「…2時間くらい?」と呟く。
13時間と2時間。物凄い違いだ。
訓練って言ったって、AAのクルーたちだってそれなりに場数を踏んできた専門家のはず。
(これがコーディネーターとナチュラルの差か?)
俺は再び舌を巻く。
少年はキーボードを叩き続けた。
***
それから暫くは
リズミカルなカタカタという音しか聞こえなくなった。
時折、マードックの怒鳴る声が下から聞こえてくるのみ。
あの若い整備員はとっくに別の仕事を言いつけられて、慌ててそっちに飛んで行った。
俺は特にすることもなかったので、頬杖をついて彼を見詰めていた。
いつもの覇気のない表情とは一変した真剣な顔。
まるで楽器を奏でるみたいに滑らかに動く指。
目まぐるしく変わる文字を追う視線。
伏せられた長い睫毛。
打ち間違いでもしたのか、時折ひそめられる眉。
そんなものを
俺は飽きもせず ただじっと見詰めていた。
***
一時間が経過する頃
一段落着いたのか、少年は画面から仰け反り 大きく伸びをした。
コキコキと首を鳴らす彼に、俺は笑って「お疲れ」と声をかける。
少年は驚愕の表情で顔をあげた。
「…まだいたの?オッサン。暇だね」
「何度も言うようだがオッサンじゃないぞ。や、することもなくってな」
「シュミレーション機でちょっとは訓練すれば?MS初心者のなんだしさ」
「…お前、本当可愛くないねぇ」
苦笑して言った俺に
可愛くなくって結構、と少年は澄ました顔をする。
それを見て、俺は少し悪戯心が湧いた。
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、少年を見る。
「な、なんだよ」
俺の視線に、彼は腰を浮かせた。
俺は狭いハッチの入り口を、ズイっと身を乗り出して塞ぐ。
その様子に、ますます少年は動揺した。
それを認めて俺は笑顔を作る。
「いや、別に?口の悪い子にはお仕置きが必要かなって思っただけさ」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに俺は手を伸ばして、彼の両腕を一括りにした。
悲鳴を飲み込む彼の腕を、そのまま頭上に縫いとめる。
うーん、我ながら鮮やかな動きだ。
さっきの坊主の動きに勝らずとも劣らずってやつ?
「ば!何考えてんだよ!オッサン!!」
顔面を蒼白にして叫ぶ少年。
俺は至近距離でにっこり笑ってやる。
「そんなの、もう解ってんじゃない?」
そしてもう一度叫ばれようとした彼の悲鳴を
俺は自身の口で遮った。
***
「…っん…ぅ」
少年のくぐもった声が狭いコックピットに響く。
必死に俺の腕の中で抗う彼に、何度も何度も角度を変えて噛み付くように。
彼は顔を背けようと頑張っているが、形勢と身長の不利さか、ほとんど意味を成していない。
段々腕に力が入らなくなっていくのも解る。
口を離すと、銀色の糸が二人の間に伝った。
はぁはぁと肩で息をする少年。
俺は間髪いれずにもう一度唇を重ねる。
空気を求めて少年は喘いだ。
思えば不思議なもんだ、と考える。
この戦いに巻き込まれるまでは、俺は地球軍の『エンディミオンの鷹』の異称を持つエースパイロットで
お偉いさんの考え方に、反感を持ちながらも従ってて
それがAAにきて、いつの間にやら軍規違反が常習になって
ZAFTはおろか、地球軍も敵に回して
事実上たった3隻で
戦争を終わらせようとしてて
そしてなんでだかこうやって
コーディネーターのガキにキスしてるんだもんなぁ。
ちゅ、と音を立てて口を離す。
今度こそ少年はぐったり全身から力を抜き、ズルリとコックピットに座り込んだ。
(どーだ、まいったか)
俺は勝ち誇った笑みを浮かべる。
これで暫くはこの小生意気な元捕虜も大人しくなるだろう。
そう思って、俺は彼を見下ろした。
これで『お仕置き』は終わりのはずだった。
だが、その後がまずかったのだ。
頬をほんのり上気させて、浅い息を繰り返す少年。
金色の髪はほつれて、汗ばんだ額にかかっている。
トロンと恍惚とした眼つきで口は半開き。
ボタンの外れかけたオーブの制服は、妙に首元を艶かしく見せた。
その光景が、俺には
モロに、そのまぁ…キてしまったのである。
「…ディアッカ…」
初めて、俺はきちんと少年の名を呼ぶ。
彼は、俺の声に涙の滲んだ視線で顔をあげる。
その表情はまさに俺のツボにジャストミートで
(やばい…可愛いかも…!)
グッと来るものを押さえきれず、俺はもう一度彼に顔を寄せる。
そして大きく開いた襟元を舐め挙げた。
「ふ、ぁっ!」
声を上げて少年は背をピンと伸ばす。
そのまま鎖骨をきつく吸い上げれば、苦しげに彼は身をよじらせる。
もう一度唇を塞ぎ、手はゆるゆると薄手のアンダーの下に滑らせる。
耳朶を弄び、舌を入れる。
「ひ!ぃ…や!」
身を硬くする彼の反応に、俺はどんどん熱を持った。
どうしよう、本当にコイツ可愛いかもしれない…。
ガクガクと快楽に脚を震わせる彼をコックピットに横たえ、見下ろす。
涙の溜まった目が俺を見上げた。
いつもとのギャップが、より一層心臓を跳ね上がらせた。
もっと声が聞きたい。
そんな欲求が胸を熱くする。
ああ本当やばい。嵌りそうだ。
彼と目線を絡めたまま身を屈ませる。
ほとんど力の入っていない様子のディアッカの服を掴む。
彼は怯えたように嫌々と首を振ったが、俺はかまわず圧し掛かった。
「ディアッカ…」
もう一度俺は囁いて、優しく頬を撫でた。
そして、次の瞬間
「何してんですか少佐!!!!!」
鬼のような怒鳴り声がハッチに響いた。
「ぅおわ!!!」
俺は心の底から驚いて間抜けな声を上げる。
振り返れば、コックピットの入り口に、ベテラン整備士が仁王立ちしていた。
「ま、マードック…!」
俺は不規則にバクバク言う心臓を静まらせるように、片手で胸を押さえた。
俺の下敷きになっているディアッカも吃驚した顔をしている。
「『マードック』じゃないでしょう!アンタガキ相手に何やってんですか!」
「あ、いや…その…」
気まずさから俺は口籠もる。
すると、小動物のような素早い動きでディアッカが俺の下から抜け出した。
そして
「マードックさん!」
年配の整備士に涙を目に浮かべて駆け寄る。
マードックは、優しい手つきで少年の頭を抱きかかえた。
「こら、泣くんじゃねぇぞ坊主。もう大丈夫だから」
「で、でも…俺…っ!」
「あーはいはい、解ったから」
ポンポンと泣きじゃくる彼の頭を撫でるマードック。
他のクルーたちも、興味深げに盗み見している。
傍から見れば、とても微笑ましいこの状況なのだが
(…ま、まさか…)
俺の中で、フと冷たい考えがよぎる。
ひとしきりディアッカを慰めた整備主任は、突然キッと俺を睨んだ。
そして憤然と言い放つ。
「少佐、面白半分にコイツに手ぇ出さんでください。生意気なのは解りますが、俺からよく言って聞かせますから」
彼の気迫に、俺はただコクコクと首を振るしかなかった。
その俺の様子にマードックは目で頷くと、優しくディアッカの肩を抱いて鉄筋の橋の上を歩き始めた。
そして途中、思い出したように振り返り叫んだ。
「少佐、ちゃんと自分で整備は終わらせといてくださいよ!自業自得ですから!」
「え!?」
言葉を詰まらせた俺に、マードックは見向きもせず進んでいく。
曲がり角で、ディアッカが彼の肩に身をもたれさせたのが見えた。
それを呆然と見送って、活気を取り戻した格納庫の騒音の中
俺は二つの意味で呟いた。
「…嘘…だろぉ…?」
***
後日
ディアッカが異様に俺を警戒するようになったり
泣く泣く調整をする俺を見かねてキラが手伝ってくれたり
それが彼の幼馴染にばれて、綺麗な右ストレートを腹に頂戴した というのは
ただの余談である。
合掌。(フラガさんに)
■フラディアだと騙された人、素直に掲示板にて自首するように(笑顔)
わー、ムウラさんカワイソー。(お前が言うか)
ディア受けチャットとか参加していると、意外とマーディア派がいらっしゃるので勇気を持って。
そして私なんだか少佐を勘違いしてるかもしれません。
ついでにマードックさんも。
突っ込まれる前に自分で言います。
だ・れ・だこ・れ!(あーあ)
結構楽しかったです、マーディア。
でも多分もうやりません!!(言い逃げ)