「もうこんなこと、止めにしない?」
小生意気に妖艶に
まだ少年の域を出ない彼は、そう言って笑んだ。
褐色の肌に引っ掛けただけの白いシャツが、ゾッとするほどよく栄える。
俺はタバコの紫煙を燻らせながら
彼の喉元を さっき自分で咲かせたばかりの花を見詰めていた。
一息ついて尋ねる。
「何でそんなこと言うんだ?」
今更、という言葉は飲み込んで。
少年は笑みを深くし髪を掻き揚げた。
いつもはきっちり固められた髪。
今は…俺といる時はそれは梳かれて、本来の猫っ毛が露わになる。
俺はそっちのが好きだ、なんて前言ったら
「そういう風に見られんのが嫌なの」と言われた。
本気なんだか冗談なんだか知らないが。
「アンタ、俺の代わりに誰見てるの?」
見詰める。
タバコの灰がシーツに落ちた。
少年の眼だけが、ほの暗い部屋の中で輝きを放っている。
あの子と、同じ色の眼が。
「何のことだ?」
そらっとぼけると、可笑しそうに少年は片目を細める。
「そりゃね、俺だってSEXは嫌いじゃないよ」
もちろんアンタのことも、と付けたしみたいに言って彼は哂った。
つられて俺も声を立てる。
でもね、と彼は続ける。
「でも、俺は身代わりにされても愉しめるほど 大人じゃないの」
「…そうか」
かろうじて、そう応える。
少年も「そう」と言ったまま、黙々と服を整えた。
暫くの沈黙。
タバコの煙だけがユラユラ動く。
(わかっては、いたけどなぁ…)
今までずっと俺は『あの子』を見てきた。
手出しこそしなかったけど、ずっとずっと大切で
あの子が泣けば慰め、あの子が落ち込めば励ました。
気がついたときには
自分でも馬鹿馬鹿しいくらい、純情な恋をしていた。
そして、あの子もずっと 俺に信頼を寄せていてくれた。
それなのに、急に現れた彼の『幼馴染』は
いとも容易く彼の隣に滑り込んで
ブランクなんてなかったかのように、当然のように
彼の心を自分だけで占めた。
俺に向けられていた笑顔は彼のものとなり
俺にされていた相談も会話も
また、彼のものになった。
見ていることが辛かった。
こんなことなら、とっとと自分のものにしてしまえばよかった と思った。
時間はあったのに、妙な怯えが多々あるチャンスを潰したのだ。
とんだ道化だったのだ。
俺は後悔した。
誰かに慰めて欲しかった。
手近なヤツでよかった。
あまり親しくないヤツだともっとよかった。
ちょうどいい位置に、『彼』がいた。
初めこそ戸惑っていたけれど、驚いたことに“こういう行為”に慣れていた彼は
思いのほか簡単に俺の『遊び』に付き合ってくれるようになった。
面白おかしく時間を共にして、俺はあの子を忘れようとしていた。
二人ともこれが一時の『遊び』だと、割り切っていた。
そう そして
それが終わるだけ。
それなのに、何故
俺は感傷に浸ってるんだろう。
「…オッサン」
間近に聞こえた声に、驚いて顔をあげる。
すっかり身支度の整った彼が、至近距離で俺を見詰めていた。
二人の間は10cm。
それはほとんど
キスでも出来そうな距離。
でも、そんなあまやかなことは全然なくて
「これで終わり。じゃあね、少尉殿」
少年は口の端をあげて言い放つ。
手を伸ばしかけた俺は、動きが止まった。
その俺を見届けて、彼は何の未練もないようにくるりと身体の向きを変える。
そのまま部屋を出ようとする彼を
「…なあ、おい!」
俺は思わず呼び止めていた。
少年は少し驚いたように振り向く。
菫の視線にさらされて
俺は息を呑んでから、言葉を紡いだ。
「もう一度、やり直したいって言ったら…お前はどうする?」
静寂。
馬鹿なことを言っているとわかっている。
でも、言わずにはいられなかった。
驚いた顔のまま、少年は俺を凝視していたが
暫くして フ、と音がしそうなほど
あでやかに微笑んだ。
「戻らないよ」
やっぱり
そんな声が自分の中に響いた。
落胆じゃなく、予感的中 という気持ちだったけれど。
「言ったでしょう?俺は身代わりなんか我慢できないガキなの」
「…そうか」
それに、と少年はおどけて続ける。
「俺オンナノコのほうが好きだもん。男しかいない艦じゃあるまいし、何が哀しくて女役しなきゃいけないのさ」
大げさに肩をすくめる彼に、俺は笑む。
「そりゃそうだな…悪かった。気にすんな」
「げ、させてた張本人がそれ言うし」
ひとしきり二人で笑った後、急に彼は真顔になった。
そんな顔を見たのは初めてで
俺は彼に見入った。
ゆっくり、口を開く少年。
「…アンタのこと、嫌いじゃないって言ったのは ホントだよ」
目を見開く。
でも、その瞬間には
彼はいつもの笑みに戻っていて
「じゃあね、そっちも艦長サンによろしく〜」
そう言って、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
パシュン、と軽いドアの閉まる音だけ残し、また静かになる部屋。
俺はズルリとベッドに倒れこむ。
ほとんど火の消えかけたタバコを口に含む。
途端にむせて、俺は咳き込んだ。
息苦しさに涙が滲んだ。
「…俺って、馬鹿なのかもねぇ…」
息を整えてからそう呟く。
どうあがいても、どうやら自分は後手に回って
そして後悔する性癖らしい。
いつもいつも 何が大切か、気づくのが遅い。
…馬鹿のようだ。
独りごちて、タバコをぎゅっと灰皿に押し付ける。
最後に見た彼の表情を 瞼の裏に反芻させた。
そして、結局彼が自分の名を呼んだことがなく
自分も、一回すら呼んだことがない事実に気づいて
思わず笑ってしまった。
『じゃあね、少尉殿』
甦る声。
あの瞬間
俺と彼の距離は確かに10cmだったけれども
二人の心の距離は
一体どれくらいだったのか。
了
■いろんな意味でいてぇや!(死)
アスキラ←フラガ前提のフラディア。(ややこしい)
つーかリク以外で初でいきなり別れ話かよ!(笑)
淫乱ディアッカです。
世の中の人々は甘かったり鬼畜だったり書けたりするのに、何で私のとこのはこんな痛いのか…(頭抱え)
明らかにディア受けで一番人気のものなのに、こんなんで申し訳ないです…(ブルブル)
リハビリのつもりで書いたんで所々可笑しいです。
笑って見てやって下さいな…