その時

シャ、と軽い音が背後でした。


それはまさしく、個室のカーテンが開かれる音。

ギョッとして、俺は振り返る。
予想通り、そこにはイザークが立っていて
やっぱり予想通り 満面の笑み。


「…なんか御用ですか、イザークさん」


ものすごーくイヤンな予感はしているんだけど、あえて尋ねてみる。
イザークは綺麗な笑顔で…嫌になるくらい綺麗な笑顔で微笑んだ。

「いや、貴様に言い忘れたことがあってな」

そう言いながらズンズンイザークは個室に入ってくる。
俺は思わず彼が一歩踏み出す度に後ろに下がった。

待ってください…ここはその名の通り『個人用室』なんですけれども。

そんな俺の心の叫びが彼に聞こえるはずもないが。

そしていつの間にか俺は、さして広くもない部屋の壁際に追い詰められる。
白いタイルが背にひんやりと感じた。


「知ってるか?」


イザークが顔を寄せる。
右手がさりげなく、俺の腕を壁に縫いつけた。
吐息がかかるほどの距離。
1cmの身長は、こういう場合ほとんど意味をなさないことを知る。

アイスブルーが俺を映す。
形のいい唇が言葉を紡いだ。



「…水は、SEXの象徴でもあるんだぞ?」



それこそ水面みたいな美しさで、イザークは囁いた。

そのまま、妙にやわらかい唇が俺のそれと合わさる。


母なる水
万物が生まれいずる
生き物たちの 誕生の象徴



触れるだけのキスの後、俺は溜息をついてぼやいた。

「…随分、非生産的な『水』ですこと…」
「気にするな。それから水は愛情も意味してた、確か」


こじ付けみたいな台詞に、俺は苦笑を漏らした。

それはもう一度ふさがれる。


舌が唇を割って、歯並びを探る。
互いに絡まって咥内を犯す。
唾液が、ツゥと口の端から溢れた。

「……ふ、」


鼻にかかる声を上げて、俺は壁にもたれた。
自分の甘い声に、瞬く間に頬に熱が集まる。
腰がジンと痺れ 立っていられなくて、ズルズルへたり込んだ。
身をかがめたイザークに、両手を力なく突っぱねて
荒い息の下、俺は「誰か来るかも」と呟く。

イザークは熱を持った俺の頬を包み込んで微笑む。
柔らかく俺の抵抗を一まとめにすると
回答の変わりに、もう一度キス。

俺は目を閉じる。

シャワーの床を叩く音が、湯気で煙ったライトの中で響いた。



香るのは、むせ返るほどの

塩素の臭い。








強制終了。





■駄文で蛇足(笑)
実はコレが書きたくてプール編にしたなんて、口が避けてもいえません(言ってます)
終わり方は明らかに逃げ腰です。
浴場、いや欲情イザークさん。
だから『ムッツリ』だって言ったじゃない!(逆切れか)